原サチコが木内みどり・古舘寛治・安藤玉恵を迎えポレシュ戯曲をリーディング
木内みどり・古舘寛治・安藤玉恵・原サチコ
東京ドイツ文化センターが、同時代を生きるドイツ語圏の劇作家たちの戯曲をリアルタイムで発信する「ドイツ同時代演劇リーディング・シリーズ」。そのシリーズ6回目として、7月30日(土)・31日(日)、ドイツ文化会館ホールにおいて、ルネ・ポレシュの『ロッコ・ダーソウ』が紹介される。なお、この戯曲リーデョング・シリーズでポレシュの作品が取り上げられるのは『あなたの瞳の奥を見抜きたい ─ 人間社会にありがちな目くらましの関係』(2011年)に続き2度目だ。
今回リーディングを企画し、翻訳・朗読演出を手掛け、出演もするのは、現在ハンブルク・ドイツ劇場専属女優の原サチコだ。1964年神奈川県生まれ、上智大学外国語学部ドイツ語学科卒の彼女は、演劇舎蟷螂やロマンチカで活躍した後、2001年渡独し、鬼才と呼ばれる演出家たちに見いだされ、東洋人どころか外国人もほぼ皆無のドイツ公立劇場で12年に渡り唯一の日本人俳優として居場所を確保し続けている。とくに、ルネ・ポレシュの作品創作には長年にわたり参加し、ドイツでの『ロッコ・ダーソウ』本公演にも出演している。
『Rocco Darsow』初演:2014年、ハンブルク・ドイツ劇場(上演時間:65分) 出演:原サチコ、クリストフ・ルーザー、ベッティーナ・シュテュッキー、マルティン・ヴトケ
そんな原に加え、今回、木内みどり、古舘寛治(青年団・サンプル)、安藤玉恵という実力派俳優陣が集結、終演後には彼らによるアフタートークも行われるという。
なお、今月ドイツより一時帰国する原サチコは、このリーディング以外に、国際演劇協会日本センター「海外で活躍するプロフェッショナル」シリーズの一環で『原サチコのぶっちゃけドイツ演劇話4~ハンブルク・ドイツ劇場の今シーズン・難民との取り組みを中心に~』というトーク・イベントも、2016年7月26日(火)19時~東京芸術劇場シンフォニースペース5階にて行なうので、併せて足を運ぶも一興だ。
■原サチコからのコメント
ドイツ現代演劇の革命者の一人、「ポスト・モダン」演劇の旗手の一人、今ドイツで最も重要な劇作家兼演出家の一人であるルネ・ポレシュ。その類を見ない、全く彼独自の劇作と演出手法は、あまりに独自であるがゆえに、他言語への翻訳も他の演出家での演出も難しいとされています。
日本では2006年TPTでポレシュ自身の演出、日本人俳優による『皆に伝えよ!ソイレント・グリーンは人肉だと』が実現し、2011年のフェスティバル/トーキョーでは『無防備映画都市-ルール地方三部作・第二部』がドイツから招聘され上演されました。それらを観て、舞台や映像の独特なセンスに惹かれた方もいるでしょう。内容はよく分からなかったけど面白かった、と思われた方も多いでしょう。しかしポレシュ自身にとって、その劇作の中身、内容が重要であることは言うまでもありません。私自身ポレシュ作品に4本出演し、その都度作品から大きな影響を受け、生きるのが楽になったと言っても過言ではありません。そんな私だからこそのポレシュ作品の紹介の仕方があると思い、2011年に行った朗読『あなたの瞳の奥を見抜きたい、人間社会にありがちな目くらましの関係』に続き2回目となる今回のリーディングを企画しました。
今回扱う作品『ロッコ・ダーソウ』は、2014年ハンブルク・ドイツ劇場制作作品で、長年ポレシュを見ている方からも「最近の作品の中では特に分かりやすい」と言われています。私も4人の出演者の一人として5年ぶりにポレシュと仕事をし、その面白さを再発見しました。そしてこの作品こそ日本でもポレシュをより理解し楽しめる作品に違いないと確信しました。現代思想、社会学、哲学の理論をベースにしながらも、決して堅苦しい作品ではなく、分かりやすくユーモアに満ちあふれています。それは決して考えを押し付けるものではなく、観客一人一人が自分の生きていく上での問題に向き合うために役立つ、様々な理論の宝庫です。また、現代ドイツ演劇に興味がある方なら、ポレシュを知っておくとその見方が変わるでしょう。ルネ・ポレシュが起こした革命をどんな演出家も無視出来ないのは事実だからです。そしてポレシュ以降、ドイツ演劇界に多様なクリエーターが産まれたことも無関係ではありません。
「ポスト・モダン」演劇の旗手の一人でありながら、それさえも飄々と飛び越えて、独自の作品を発展させているポレシュ。このような劇作家はドイツでも全世界でも唯一無二であり、これを知らない事は絶対に損です。どのような演劇クリエーターにとっても、刺激となることは間違いありません。
■あらすじ
ロッコ・ダーソウ録音スタジオに朗読の録音をしに俳優がやって来る。彼は朗読には灰色の何もない空間が必要と思っているが、プロデューサーらしき女性は朗読には大きな花瓶のフラワーアレンジメントが必要と説く。だが実はそこにはスタジオを前日使用した日本人歌手のステージセットが置きっぱなしになっている。それは巨大なケーキの上に巨大なターミネーターの頭が乗っている奇抜なセット。スタジオの持ち主ロッコをはじめ4人はそのセットの中、「突然の愛の告白の凶暴性」「友情を保つための無意味な仕草」「現実界、想像界、象徴界をどう渡り歩いて生きるか」「いつからソファーは人生に現れるか」など、考えをぶつけあう。……自分にとって生きにくい世の中を少しでも生きやすくするため、現代思想も社会学も生物学も利用して、出演者全員で一つの脳になったかのように、とっ散らかりながらもスパイラル状に考察を高めていく、ルネ・ポレシュ独自の作劇術。物語らない演劇、架空の人物のでなく自分自身の問題について考える演劇。答えは一つじゃない演劇。
■作者プロフィール
ルネ・ポレシュ
1962年生まれ。ドイツのギーセン大学応用演劇学科で学ぶ。1992年フランクフルトのTAT劇場で活動を開始。以来、ドイツ語圏各地の劇場で劇作家・演出家として精力的に活動している。2001年と2006年にミュールハイム劇作家賞を受賞。2001年~2007年はベルリン・フォルクスビューネに付属する小スペース、プラーター劇場の芸術監督を務める。2002年『テアターホイテ』誌の最優秀劇作家に選ばれる。日本では2006年にtptのプロデュース公演『皆に伝えよ!ソイレント・グリーンは人肉だと』を演出したほか、2011年のフェスティバル/トーキョーでは『無防備映画都市 ─ ルール地方第三部作・第二部』(製作:ベルリン・フォルクスビューネ)が招聘され、鮮烈な印象を残した。
ルネ・ポレシュ
■出演者プロフィール
木内みどり
16歳で劇団四季に入り数多くのテレビドラマやバラエティー番組に出演。主な舞台に『三人姉妹』(蜷川幸雄)、『子供の領分-金属バット殺人事件』(山崎哲)、『ガラスの動物園』(I・ブルック)、『皆に伝えよ!ソイレントグリーンは人肉だと』(ルネ・ポレシュ)、『ママが私に言ったこと』(鈴木勝秀)など。映画では『死の棘』(小栗康平)、『大病人』(伊丹十三)、『幻の光』(是枝裕和)、『長い散歩』(奥田瑛二)、『0.5ミリ』(安藤モモコ)、最新作はラトビア映画「The Magic Kimono」(日本未公開)。マガジン9でコラム「木内みどりの発熱中!」を連載中。
古舘寛治
ニューヨーク、HB STUDIO(ハーバート・バーコフ・スタジオ)で演技を学ぶ。劇団青年団、劇団サンプルに所属し、他にはハイバイ、城山羊の会、などの舞台に出演。最近は映画等の映像作品に出演する機会が多く。今春は映画『セーラー服と機関銃・卒業』前田弘二監督、『下衆の愛』内田英治監督、『太陽』入江悠監督、『Too Young To Die』宮藤官九郎監督と出演作が次々を上映される。主演作の『淵に立つ』深田晃司監督が2016年度カンヌ映画祭「ある視点」部門に選ばれた。今秋には静岡県舞台芸術センター(SPAC)にて演出する。
安藤玉恵
1976年生まれ。東京都出身。早稲田大学第二文学部卒業。劇団ポツドール出身。『夢売るふたり』(12/西川美和監督)で第27回高崎映画祭最優秀助演女優賞受賞。最近の主な舞台に『結びの庭』(15/作・演出岩松了)、映画に『恋人たち』(15/橋口亮輔監督)、テレビに『あまちゃん』(13/NHK)等。公開待機映画に『バースデーカード』(吉田康弘監督)『オーバーフェンス』(山下敦弘監督)(共に本年9月公開予定)。
原サチコ
1964年生まれ。1984年より東京の小劇場にて演劇を始める。1999年ドイツでクリストフ・シュリンゲンジーフ作品に参加、それをきっかけに2001年ベルリンへ正式に移住、『三文オペラ』等の舞台作品に出演。2004年東洋人として初めてオーストリア国立ブルク劇場の専属俳優となり、5年間で16本の作品に出演。2009年からハノーファー州立劇場、2011年からケルン市立劇場、2013年8月からはハンブルク・ドイツ劇場と、ドイツ全土においても唯一の日本人の公立劇場専属俳優として活躍中。シュリンゲンジーフ、ニコラス・シュテーマン、ルネ・ポレシュなどドイツ演劇界の鬼才前衛演出家らの多くの作品に出演。
ドイツ同時代演劇リーディング・シリーズ『ロッコ・ダーソウ』
“Rocco Darsow” by René Pollesch
■作:ルネ・ポレシュ
■翻訳・朗読演出:原サチコ(ハンブルク・ドイツ劇場 専属女優)
■出演:木内みどり、古舘寛治(青年団・サンプル)、安藤玉恵、原サチコ
■日程:2016年7月30日(土)・31日(日) 各日16時開演
※終演後出演者によるアフタートークあり
■会場:ドイツ文化会館ホール
■主催:東京ドイツ文化センター http://www.goethe.de/ins/jp/ja/tok.html
■ドラマトゥルク:横堀応彦
■制作協力:有限会社マッシュ http://mash-info.com/others/news-1437.html
■問合せ:03-3584-3201(ドイツ文化会館) http://goethe.peatix.com/