中村七之助「歌舞伎の“敷居”を必死に削っています」初心者大歓迎!『錦秋特別公演2016』
中村七之助(撮影: 山下ヒデヨ)
2016年11月7日(月)から25日(金)まで全国14カ所にて、中村勘九郎、中村七之助が出演する『錦秋特別公演2016』が始まる。本作は、全国の方々に歌舞伎をお届けしたい、歌舞伎の魅力を伝えたい、と勘九郎・七之助兄弟が続けている企画。スタートは2005年、11年目となる今年は、さらに歌舞伎に親しんでいただく新たな企画も始まるとのこと。どんな内容になるのか、歌舞伎座の楽屋にお邪魔し、七之助に話を聞いてきた。
中村七之助(撮影: 山下ヒデヨ)
――「錦秋」も10年一区切り、新たな年目を迎えました。これまでを振り返りつつ、今回はどんなことをしたいと思っているかお聞かせください。
2005年から始めて10年、毎回新しいことをやってきたつもりです。「芸談」があり「踊り」があり……地方のお客様の中には、僕らがスーツ姿で出てくるだけで「おー!」って驚くんですよ。歌舞伎を観たことがない方もたくさんいらっしゃるので「歌舞伎役者も洋服を着るんだ!」ってそこから驚かれますね。本当ですよこれ。あと「顔をしている(歌舞伎の化粧をしている)とよくわからないが、顔を取るとただの若造じゃないか」と思ってくださったりして。それでお客様も気が楽になるみたいです。そのためにも「芸談」をやってました。
今回は「歌舞伎塾」ということで、もっとわかりやすく「歌舞伎とはどういうものか?」をやりたいと思います。初心者向けですね。「顔をする」過程もリアルで見せて、頭を被って衣装を着るところまでやりますから。(中村)鶴松がやりますよ。そして、顔を作ったらそのままひとさし踊るんですよ。こんなことはなかなかないです。スクリーンも使ってできるだけ見やすくしたいと思います。昔、こういった企画を(長野県)松本市でやってみたら、非常に好評だったんです。まずお客様の前で顔をすることなんてないですし、どういう風にするのか、皆さんワクワクしてご覧くださることかと思います。
また、僕が踊る『汐汲(しおくみ)』でいうなら、太鼓で波の音を表現する様などをお聴かせしたいです。初めてのお客様はわからないと思うので「想像してください。波がきて、沖に引いて……」という言葉にあわせて太鼓がドドドドンと入る……このような歌舞伎音楽の基礎もやることで、歌舞伎に入りやすくしたいですね。雪がしんしんと降る様を鳴り物でやると「ああ、昔の人は良く考えたなあ」と、そんな楽しみ方もできると思います。
中村七之助(撮影: 山下ヒデヨ)
――この企画で全国各地に歌舞伎ファンを増やしていきたい、という狙いもありますか?
歌舞伎ファンを増やすことは結果的にそうなればありがたいですけど、それ自体が目的ではありません。ただ、歌舞伎って入り口がすごく厳しいようで……演目は全部漢字ですしね。歌舞伎座で笑福亭鶴瓶さんの新作落語を歌舞伎にしましたが、中身は全然難しくないのにタイトルが『廓噺山名屋浦里(さとのうわさやまなやうらざと)』だと、とんでもなく難しいように見えるでしょ? そんなこともあって、初めての方はどこで何の演目から見ればいいかとても悩むと思うんです。
そういうときに、この兄弟が、まあまあお手頃の入場代で、各地を回って舞踊公演をやる……比較的軽い気持ちで観ていただけるものになることで、「おもしろいじゃん」「そんなに難しくないね」などと感じていただき、僕らの大好きな歌舞伎に触れていただければと思うのです。そのためには機会をこちらから提供していかなければならないと思っています。お客様が気軽に中に入っていただくためにも、僕らがそこの敷居を必死に削っている、そんな公演だと思っていただきたいです。
生きている人間がやっている「ライブ」を楽しんでいただく。それを観て「もういいや」と思ってくれてもいいですし、もしハマってくださる人がいたら、それはすごく嬉しいですね。
――これまでの地方公演のお客様の反応はいかがでしたか?
質問コーナーで「何か聴きたいことがある人!」と言ったのに、全く手が挙がらないシャイな県もあれば、バンバン手が挙がる県もあって、各地様々です。中には「彼女はいますか?」「結婚はいつですか?」とかツッコんだ質問をしてくるところもありますね。まあそんな質問が来たらこっちもうまいこと言ってかわしますけどね(笑)。
顔をしたり、音の説明をした後なら、何を聞いてくれてもいいと思っています。逆に僕らが質問をするかもしれないですよ。いつもする質問は「美味しいお店、知らないですか?」 教えてもらった店に後で本当に行ったりします。今回14カ所、劇場に入ってすぐ公演をしてすぐ次の地域に移動するという慌ただしい場合もありますが、それでも地元の方と触れ合える機会はとても大切だと思ってます。
今までやったことはないですが、僕らが舞台を降りてマイクを手に客席に入っていってもいいですね!
――お客さんの中には、自分も顔をしてほしい、太鼓を鳴らしてみたい、とおっしゃる方もいるんじゃないですか?(笑)
それ、考えています。さすがに顔をするのは大変だろうけど、おしろいを手につけてみたい人はいるかもしれない。匂いを嗅いでみたいとかね。……鶴松のファンは鶴松が使った紅の筆を使ってみたいとか……たぶんやると思います。よし、やりましょう!(笑)
もちろん、歌舞伎塾のあとに僕がやる『汐汲』、兄がやる『女伊達(おんなだて)』は、ウケを取ったりはせず、ちゃんとマジメにやります。
中村七之助(撮影: 山下ヒデヨ)
――その『汐汲』について。この演目を選ばれた理由は?
日本舞踊をなさる方にとって『汐汲』は基礎中の基礎なんです。在原行平と、松風と村雨という二人の海女の姉妹の伝説を踊りで表現したものなんですが、汐を汲む所作や扇を持って踊るという、女形の踊りの中でもシンプルな踊りという点で選ばせていただきました。
先日(坂東)玉三郎のおじさまと『二人汐汲』で初めて踊らせていただきました。もちろんお稽古では踊ったことがありましたが、お客様の前で踊るのは初めてでした。今回は一人なので、玉三郎のおじさまを想いながらその情景を思い出しつつやろうと思います。玉三郎のおじさまからは、踊りに関しては「形と形の間が踊りになるんだよ」 と教わりました。その「流れ」が「踊り」である、と。あのときは『二人汐汲』『二人藤娘』を一緒に踊らせていただきましたが、自分のような若造が同じ土俵で踊らせていただけるなんて、と感無量でした。とても思い入れのある演目です。
――勘九郎さんがなさる『女伊達』は?
『女伊達』は派手やかで、スキッとした演目です。兄はおもしろいのを選んだなあ(笑)。そういえば、兄の女形……最近観てないですね。兄は最初、女形だったんですよ。まあ、この演目は強い女を描くので、兄ならではの雰囲気がある、きびきび、すっきりとした江戸っ子の女形になると思います。詳しくは兄に聞いてください(笑)。
中村七之助(撮影: 山下ヒデヨ)
この日地方の新聞社の記者も同席しての取材だったが、「あの劇場のお母さんは、紙吹雪をハサミでたくさん切って作ってくださった」「あの町のうどん屋がおいしかったんだよね。普段はあまり食べないんだけどあのうどんは本当に美味しかった」など、取材が終わってからもその土地ごとの記憶を思い出しては、記者たちと楽しく語る七之助が印象的だった。
(取材・文:こむらさき)
一、歌舞伎塾
(立役、女形のできるまで)
司会&解説:中村勘九郎 中村七之助 澤村國久 中村小三郎
曽我五郎時致(立役):中村いてう
小林妹舞鶴(女方):中村鶴松
音の演出効果:中村仲四郎
二、汐汲(しおくみ)
蜑女苅藻(あまみるめ):中村七之助
後見:澤村國久
三、女伊達(おんなだて)
女伊達:中村勘九郎
男伊達:中村仲助 土橋慶一
後見:中村小三郎
■日時・場所:
【東京】2016年11月7日(月)オリンパスホール八王子
【愛知】2016年11月8日(火)日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【静岡】2016年11月9日(水)アクトシティ浜松 大ホール
【東京】2016年11月10日(木)文京シビックホール 大ホール
【香川】2016年11月12日(土)レクザムホール(香川県県民会館) 大ホール
【大阪】2016年11月13日(日)NHK大阪ホール
【京都】2016年11月14日(月)ロームシアター京都 メインホール
【長野】2016年11月16日(水)まつもと市民芸術館 主ホール
【石川】2016年11月17日(木)金沢歌劇座
【秋田】2016年11月19日(土)秋田県民会館
【岩手】2016年11月20日(日)盛岡市民文化ホール 大ホール
【宮城】2016年11月21日(月)東京エレクトロンホール宮城
【愛媛】2016年11月23日(水・祝)松山市民会館 大ホール
【福岡】2016年11月25日(金)福岡サンパレス