宙組新トップコンビお披露目『王家に捧ぐ歌』レビューと囲みインタビュー

インタビュー
舞台
2015.8.15
 舞台撮影/岩村美佳

舞台撮影/岩村美佳

新宙組トップスター朝夏まなとと、引き続きトップ娘役として相手役を務める実咲凜音コンビの大劇場お披露目公演である、宝塚宙組公演、三井住友VISAカードシアター グランド・ロマンス『王家に捧ぐ歌』~オペラ「アイーダ」より~が、日比谷の東京宝塚劇場で上演中だ(30日まで)。

ヴェルディの円熟期のオペラとして名高い「アイーダ」が、木村信司の新たな脚本・演出、甲斐正人の新たな音楽により宝塚版『王家に捧ぐ歌』として初演されたのは2003年のこと。当時の星組トップスター湖月わたる、二番手男役スター安蘭けい、トップ娘役檀れいのトリオ以下の上演は大好評を博し、第58回芸術祭優秀賞を受賞。宝塚オリジナルのミュージカルとして、高い評価を得て来た。今回はそんな作品の12年ぶりとなる再演で、宙組新トップスター朝夏まなとを擁し、満を持しての上演となった。

4500年前のエジプト。若くして将軍に任命されたラダメス(朝夏まなと)は、度重なる戦を続ける敵国エチオピアとの新たな戦いに勝利し、その暁にエチオピア人を解放することを心に期していた。と言うのもラダメスは、エチオピアの王女であり、今はエジプトの虜囚となっているアイーダ(実咲凜音)を密かに愛し、互いの幸福な未来と両国の和平を願っていたからだ。一方アイーダもラダメスに心惹かれていたが、遠い祖国を思いながらエジプトに囚われの身となっている彼女が、その想いを口にすることは決してなかった。だが、ラダメスを愛するエジプト王ファラオ(箙かおる)の娘アムネリス(伶美うらら)は、二人が交わす瞳に宿る恋心を見抜き、王女のプライドと激しい嫉妬の間で揺れ動く。やがてラダメスの働きで、エジプトはエチオピアに大勝。アイーダの父エチオピア王アモナスロ(一樹千尋)も囚われの身となるが、先勝の褒美に王族のみをエジプトに留め置き、エチオピア人の開放を訴えたラダメスの願いをファラオは聞き届ける。両国の間に束の間平和が訪れたかに見え、アイーダは遂にラダメスの想いを受け入れ、二人は共にエジプトを遠く離れる決意をする。だが、狂気を装いつつファラオの命を狙っていたアモナスロは、アイーダから聞きだした情報を頼りに息子ウバルト(真風涼帆)に命じファラオ暗殺を企てて…

舞台撮影/岩村美佳

舞台撮影/岩村美佳


12年ぶりの再演で改めて気づかされるのは、この作品が持つ大きなスケールと楽曲の美しさだ。「エジプトは領地を広げている」「アイーダの信念(私に見えたもの)」「月の満ちるころ」等々、ミュージカルナンバーのいずれもが佳曲揃いで、雄大に物語世界を紡いでいく。原作となっているものが、世界的名作オペラであることを考えると、新しい音楽を書き下ろすというのは相当な勇気を必要とする行為だと思うが、甲斐正人がその木村信司の挑戦によく応えて、見事なナンバーを揃えたのはやはり幾重にもの賞賛に値することだった。特に1幕の最後に歌われる「世界に求む~王家に捧げる歌~」の「例え今は夢のように思えても」「人皆等しく認め合ってお互いを許せるような」「そんな世界を、私は求めていく」という骨子を持った、世界の平和を願うストレートなテーマは、初演から12年の時を経て、この世の中が、そんな世界に一歩でも近づけたのか、いや、むしろ世界は悪い方に向かってはいないか、という思いと共に激しく胸を打たずにはおかない。ここまで直裁なメッセージの歌詞というのは、逆においそれと書けるものではなく、木村信司という劇作家の持つ真っ直ぐな心根がこの壮大な作品を生み出す原動力と、発露になっただろうことが思われた。
 
そんな作品で宙組新トップスターとしてのデビューを飾った朝夏まなとのラダメスが実に真摯で爽やかだ。初演の湖月わたるにあった精悍なイメージが、朝夏の個性によってやや繊細に倒れたことで、恋する若者としての面が強調され、アイーダに対してひたすらに誠実なラダメスとなっている。元々はダンスに秀でた人として台頭してきたスターだが、前任の凰稀かなめを支えた時代から、日増しに歌唱力も身につけてきたことが、このオペラを題材としたミュージカルの主演という機会で一気に花開いた格好だ。フィナーレナンバーの優れたダンスを待つまでもなく、ラダメスとして大きな魅力を放ち、包容力と優しさに溢れた主演ぶりだった。トップスターとして盤石の歩みをはじめたことが頼もしい。

舞台撮影/岩村美佳

舞台撮影/岩村美佳


対するアイーダに扮したのはトップ娘役の実咲凜音。初演では二番手男役の安蘭けいが意志の強い王女の力感を示していたが、今回純娘役の実咲が演じることで、健気さがぐっと前に出て「戦いは新たな戦いを生むだけ」と訴え続けたアイーダが、新たな戦いを呼ぶことがわかっている情報を父親に流してしまう展開に、ただ愛にのみ生きる1人の女性への自然な変化が見て取れた。凰稀時代には辛抱役が続いた印象があるが、大役を得て持ち前の歌唱力も活き、朝夏との新コンビに更なる期待が高まった。

エジプト王女アムネリスには伶美うららが登板。初演ではトップ娘役の檀れいの持ち役だったから、逆に当然に見えていた面もあったが、今回改めてその役柄の比重の大きさに驚かされた。ラダメスを一途に恋し、アイーダに嫉妬しながら王女の威厳を保とうとし、最後は自らがファラオとして国を率いていく。恋に殉じた二人をも支える、ある意味物語の真の主役とも言える側面があり、伶美の光り輝くばかりの美貌が際立った。芝居の確かさは申し分なく、課題とされる歌唱も低音域から中音域はよく出ているので、オリジナル楽曲でもあり少し伶美の音域に合わせる工夫があっても良かったと思うほど。この美貌はやはり宝塚の財産に他ならないから、大切にして欲しい。

舞台撮影/岩村美佳

舞台撮影/岩村美佳


この公演から宙組生となったウバルトの真風涼帆は、テロリスト的なほの暗さの中に、アイーダの兄=エチオピア王子であるという出自をしっかりと表現したスター性が群を抜いている。黒塗りの化粧もよく似合い、長身も映えて、申し分のない宙組デビューとなった。二番手男役としての今後の活躍が楽しみだ。また、12年前の初演から同じ役を引き続いて演じたエジプト王ファラオの箙かおる、エチオピア王アモナスロの一樹千尋は、両者共に歌唱力の健在ぶりはもちろん、箙の超然とした神々しさ、一転して一樹の禍々しいまでのアクの強さが役柄の対比を見事に描き出している。宝塚としては最も難しいこうした役どころに確かな助演者が再び揃ってくれたことが嬉しい。

そして、トップスターの代替わりに伴って、宙組の若手男役たちのポジションもそれぞれ上がったのが新鮮で、愛月ひかるを筆頭に、澄輝さやと、蒼羽りく、桜木みなとが大きな役柄を好演している。他にも若手が演じる役の数としては1本立ての大作なこともあり多くはないが、フィナーレのエトワールで美声を響かせた純矢ちとせはじめ、迫力ある歌唱で全員が「コーラスの宙組」を体現。朝夏率いる新たな宙組の時代が動き出したことが印象的な公演となっていた。
 
舞台撮影/岩村美佳

舞台撮影/岩村美佳


初日を控えた7月31日通し舞台稽古が行われ、朝夏まなとと実咲凛音を囲んでインタビューが行われた。
 
会見撮影/橘涼香

会見撮影/橘涼香


まず朝夏が「本日はお忙しい中通し舞台稽古にお越しくださいまして誠にありがとうございます。宙組の朝夏まなとでございます。本日から千秋楽までどうぞよろしくお願い致します」実咲が「本日はお忙しい中お越しくださいまして本当にありがとうございました。暑い日が続きますが千秋楽まで健康で務めたいと思います。どうぞよろしくお願い致します」とそれぞれ挨拶。記者の質問に答えた。

その中で、朝夏がトップコンビの二人がラダメスとアイーダを演じることで、ロマンティックな面が出せるようにと語れば、実咲が娘役の自分がアイーダを演じることから、女性の脆さがより表現できればと語り、初演以上に「愛」を強調したいと述べていた演出の木村信司の意図的確に表わした方向性が示された。
 
会見撮影/橘涼香

会見撮影/橘涼香


またトップスターとして初めて背負う大羽根を、とても重いが大階段では神聖な気持ちがして不思議に重さを感じないという心情を述べた朝夏に「どんなトップスターになっていきたいですか?」との質問が出て、「私は自分が組を引っ張っていくという強い意志を持って進んでいきたいと思います」という決意が表明された。更に外国人記者から「宝塚を知らない人に、宝塚の魅力をどう紹介しますか?」と問われた朝夏は「全員が女性で男役と女役に分かれて演じている夢の世界ですが、人間として心を大切にやっているので、非現実の世界に皆さんが入り込むことができる空間ではないでしょうか?」と答えたが、ちょっと難しいという反応に、大きく「ハッピーになれる舞台芸術だと思います!」と言い切り、見つめる実咲から拍手が贈られていた。
 
会見撮影/橘涼香

会見撮影/橘涼香


全体に、トップコンビ二人が互いの信頼関係を役柄に反映していこうとする姿勢が、見交わす目と目からよく伝わり、新トップコンビが順調な歩みを進めていることが感じられる時間となった。
 
会見撮影/橘涼香

会見撮影/橘涼香


尚、囲みインタビューの詳細は9月9日発売の演劇ぶっく10月号にも掲載致します。どうぞお楽しみに!

【取材・文・会見撮影/橘涼香 舞台撮影/岩村美佳】
 
イベント情報
三井住友VISAカードシアター 宝塚歌劇宙組公演
グランド・ロマンス『王家に捧ぐ歌』~オペラ「アイーダ」より~


脚本・演出:木村信司三井住友VISAカードシアター
音楽・編曲:甲斐正人
出演:朝夏まなと 実咲凜音 ほか宙組
期間:7/31~8/30
会場:東京宝塚劇場 
お問い合わせ:03-5251-2001
公式サイト:
https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2015/aida/index.html

  
演劇キック - 宝塚ジャーナル
シェア / 保存先を選択