ルツェルン祝祭管音楽監督にリッカルド・シャイー!
先輩たちのあとを継ぐイタリアのマエストロ
8月14日に開幕するスイスのルツェルン音楽祭からビッグ・ニュースが発表された。クラウディオ・アバド亡き後空席だったルツェルン祝祭管弦楽団の音楽監督に、2016年からリッカルド・シャイーが就任するという。アルトゥーロ・トスカニーニが創設し、クラウディオ・アバドが「復活」させたオーケストラは、またしてもアルプスの向こう側から来たイタリア人マエストロが率いていくことになった格好だ。
Lucerne Festival公式PV
ルツェルン音楽祭は1938年に戦火を避けて世界から最高の音楽家たちが集まり連日演奏会を開いたことに始まる。そして戦後にはドイツ国内での活動を禁じられたヴィルヘルム・フルトヴェングラーの活躍の舞台となり、と往時の音楽祭はもはや伝説だ。
2003年に芸術監督に就任したクラウディオ・アバドが再編成したオーケストラは、かつてのようなスイスの音楽家によるアンサンブルではなく、マーラー・チェンバー・オーケストラをベースに数多くのソリスト、オーケストラのメンバーたちを迎えた、この音楽祭のためだけの特別な団体だ。圧倒的な技量をもつメンバーたちによる、アバドへの共感のこもった数々の名演は彼の生涯をその最期まで輝かしいものとしたことは忘れがたい。
アバド亡き後オーケストラを受け継ぐのが、去年今年と連続して指揮するアンドリス・ネルソンスではなくリッカルド・シャイーで、しかも彼はまだ肝心のオーケストラとは共演していない、となればこの人選を意外に思われる方もいるだろう。
しかしアバドとシャイーのつながりはともにミラノ出身だ、というだけにとどまらない。アバドがミラノ・スカラ座の芸術監督を務めていた頃に当時まだ10代のシャイーをアシスタントに起用したときからの縁であり(彼は1978年にはスカラ座にデビューする)、シャイーはアバドを指揮者の先達として尊敬し、なにより人間として敬愛していた。ルツェルンでの最初の仕事に、マーラーに積極的に取り組みながらアバドがルツェルンでは演奏できなかった交響曲第八番を選んだことからも、シャイーが先輩の仕事にどれだけ敬意をもって引き継ごうとしているかが伺えよう。
これでリッカルド・シャイーは好調のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターに加え、2017年からは音楽監督に就任するミラノ・スカラ座、そして2016年からルツェルン音楽祭の音楽監督をも務めることで欧州の重要なポストを占めることになり、これまで以上に巨匠として存在感を示していくことになるだろう。
なお、東日本大震災復興支援としてはじめられたプロジェクト「ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ」は、今年も福島を舞台に開催される。また、2016年にはルツェルン祝祭管弦楽団の、2006年以来10年ぶりとなる待望の来日公演も予定されているという。これから迎えるシャイー時代には、日本とルツェルン音楽祭との縁が深まることにも期待したいところだ。