キエフ・バレエ 3年ぶりの来日公演は全幕バレエをたずさえての豪華4演目! 名門バレエ団の“いま”とは
2017年新春、正統派のクラシック・バレエの醍醐味を存分に楽しめる機会がやってくる。旧ソ連圏の三大劇場と称されるウクライナ国立アカデミー・オペラ・バレエ劇場を拠点とするキエフ・バレエが冬に全幕バレエをたずさえて来日するのは3年ぶりだ。
『白鳥の湖』『眠りの森の美女』『バヤデルカ』そして古典人気作品の名場面集「新春特別バレエ」という豪華4演目を連続上演するので、名門バレエ団の“いま”を知ることができるし、お祭りのような高揚感を感じられるだろう。ウクライナ国立歌劇場管弦楽団(指揮:オレクシィ・バクラン)が帯同する本格的な引っ越し公演であることも見落とせない。
「時の人」サラファーノフに注目!
『バヤデルカ』サラファーノフ
みどころ満載の今回の公演を一段と盛り上げてくれるのが『眠りの森の美女』『バヤデルカ』「新春特別バレエ」に客演するレオニード・サラファーノフ(ミハイロフスキー劇場バレエ)である。世界各地から招聘され、2006年には“バレエ界のアカデミー賞”と称されるブノワ賞を受賞した。日本のバレエ・フリークにはおなじみだが、今年(2016年)に入って新春のミハイロフスキー劇場バレエの来日だけでなく9月にはミラノ・スカラ座バレエ団の来日公演に客演し、さらに夏に売れっ子の男性ダンサーが集ったガラ公演でも存在感を示した。いまみておきたい「時の人」だといっても差し支えないだろう。
サラファーノフといえば純真な眼差しが印象的だ。いかにも貴公子然としたプリンスとも偉丈夫な勇者風とも違うし、キャラクター色豊かな超個性派という訳でもない。キャリアを積み脂がのっている現在でも、踊りの端々から初々しくピュアな雰囲気を漂わせる不思議な魅力の持ち主なのだ。でも、ひとたび踊ると、たちまち観るものの心を鷲づかみにする。胸のすくような高々とした跳躍や精緻で狂いのない回転の切れ味と滑らかさは天下一品で、難技を連続してこなすことも苦もなく披露しているように感じられる。
いわゆる超絶技巧の持ち主であるが、これ見よがしな誇示ではない。『海賊』のアリ役や『ドン・キホーテ』のバジル役では、大技を小気味よく爽快に踊ってエネルギッシュに舞台を活気づかせる。『ラ・シルフィード』の青年ジェイムズ役では、キルト姿がお似合いで、両脚を細かく打ち合わせるステップを軽快にこなし、森の妖精に魅入られた若者の心情を巧みに表す。役柄をしっかりと解釈し、音楽と自在にたわむれ、躍動感が全身からあふれ出すからこそ、彼の踊りに接するたびに清新な印象を抱くのではあるまいか。
サラファーノフ
サラファーノフは1982年、キエフ生まれ。2000年にキエフ国立バレエ学校を卒業しキエフ・バレエに入団した。2002年にロシア・サンクトペテルブルクのマリインスキー・バレエに移籍し、2011年には同地のミハイロフスキー劇場バレエに移ったが、キャリアのスタートはキエフ・バレエなのだ。「キエフ・バレエは、僕にとって初恋のようなもの」と本人も語る。そして、彼の初めての海外公演が、なんと16年前にキエフ・バレエが来日公演を行ったときだった。再び東京の地で古巣に客演するのは感慨深いと話している。
3演目でサラファーノフの魅力を味わい尽くそう!
『眠りの森の美女』サラファーノフ
今回の来日公演でサラファーノフは『眠れる森の美女』『バヤデルカ』そして「新春特別バレエ」の『パキータ』に出演。いろいろな役を踊るサラファーノフを一気に堪能できる絶好のチャンス到来である。なかでもインドを舞台にドラマティックな愛憎ドラマが繰り広げられる『バヤデルカ』の主役・戦士ソロルを日本で披露するのは初めて。『海賊』や『ドン・キホーテ』で陽気に軽やかに踊るサラファーノフの印象が強いかもしれないが、互いに愛を交わした舞姫ニキヤと領主の娘ガムザッティとの間で板挟みとなり苦悩する様子をどのように演じるのか見ものだ。またナポレオン帝政時代のスペインを舞台に華やかな踊りが展開される『パキータ』の主役を日本で踊るのも初めてという贅沢尽くしである。むろんクラシック・バレエの最高峰で絢爛豪華な『眠りの森の美女』においてもアカデミックな規範に基づいた気品のある王子を練達の腕をもって演じるだろう。
日本でも抜群の人気バレリーナ、ペレンと共演!
サラファーノフ&ペレン
さらに見逃せないのが今回組むイリーナ・ペレンとのパートナーシップだ。ペレンは圧倒的な美貌と年々いや増す豊かな表現力を武器とする、ミハイロフスキー劇場バレエの看板プリマで、その成長と飛躍を日本のバレエ・ファンはずっと見守ってきた。サラファーノフとは本拠地で共に踊るパートナーだけに気心も知れているであろうし、スター性も十分。2015年新春のミハイロフスキー劇場バレエの来日公演でサラファーノフとペレンが踊った『ジゼル』の演技は大きな話題となっただけに待ち望まれた共演となる。
旬で必見といえる存在ながら日本では限られた一面しか知られていなかったサラファーノフ。その多面的な魅力を名門キエフ・バレエの王道をゆく舞台とともに味わうことによって、古典名作をいつもと違った角度から楽しめそうだ。心ゆくまで満喫したい。
文=高橋森彦
<出演(予定)>
カテリーナ・カザチェンコ、オレシア・シャイターノワ、デニス・ニェダク、ミキタ・スホルコフ ほか
指揮:ミコラ・ジャジューラ、オレクシィ・バクラン
■東京国際フォーラム ホールA
●2017年1月3日(火) 13:00
第2部:「白鳥の湖」より第1幕2場
第3部:「眠りの森の美女」より第3幕
カテリーナ・カザチェンコ&デニス・ニェダク
エレーナ・フィリピエワ&ミキタ・スホルコフ
■東京文化会館大ホール (東京都)
<2017年1月4日(水)~2017年1月7日(土) >
●1月5日(木)18:30 「眠りの森の美女 」
イリーナ・ペレン&レオニード・サラファーノフ
エレーナ・フィリピエワ&デニス・ニェダク&イリーナ・ペレン(ガムザッティ)
●1月7日(土)14:00 「バヤデルカ」
イリーナ・ペレン&レオニード・サラファーノフ&オレシア・シャイターノワ(ガムザッティ)
<2017年1月8日(日)~2017年1月13日(金) >
●1月9日(月・祝)14:00「白鳥の湖 」
エレーナ・フィリピエワ&ミキタ・スホルコフ
●1月13日(金)18:30「眠りの森の美女 」
エレーナ・フィリピエワ&ミキタ・スホルコフ
●1月14日(土)15:00 「白鳥の湖」