アンダーワールド3ヵ月ぶりの来日公演は、それでも、やはりすばらしい時間だった
アンダーワールド photo by Masanori Naruse
2016.11.9(wed) 日本武道館
2015年11月に、7thアルバム『Barbara Barbara,we face a shining future』リリース時にプロモーション来日して渋谷でライブを行い、その後2016年8月にサマーソニックのトリで来日し、幕張・大阪でライブ、それに続く単独来日・1回のみの公演が、この11月9日(水)・日本武道館。
アンダーワールド photo by Masanori Naruse
つまり、6年ぶりのニューアルバムのあと、1年間で3回の来日しているわけで、当然いずれも『Barbara Barbara,we face a shining future』期のライブということになるわけで、最初の渋谷でのライブは別にしても、少なくともサマソニと同じようなライブなんだろうなあ。下手するとセットリストほとんど一緒でもおかしくないなあ。観たいけど、行こうかなあ、どうしようかなあ。と、正直、迷ったのだが、結論から書く。
行ってよかった!
予想どおり、演出や見せ方等の大枠は、サマソニの時と基本的に同じだったが、まず、セットリスト、まったく同じではなかった。って、サマソニはフェス、今回はワンマンで尺が違うんだから同じじゃないのは当たり前であって(サマソニは11曲でこの武道館は18曲)、行く前に気づけよそんなの、って話なのだが、「同じ感じで尺を伸ばしました」だけではない感動があった。
そして、アリーナ部分はスタンディング、スタンド1Fと2Fは座席だけど大会場としては異例なくらいステージからの距離が近く一体感が生まれやすい、日本武道館という(考えてみれば)特殊な会場であることによって、独特の幸福な空気がステージの上にも下にもできあがっていた――というのもあったと思う。いずれにしても、「いやあ、やっぱ来てよかったあ」とつくづく思った。
アンダーワールド photo by Masanori Naruse
アンダーワールドのすべての来日を観ているわけではないが、そこそこの回数は観ている、本国イギリスでも2回観ている(まだダレン・エマーソンがいた頃1回、彼がやめて最初にふたりで行ったライブ1回)身としても、そう思うくらいの満足感だった。
後半、「Rez」「Cowgirl」「Born Slippy」と90年代テクノ・アンセム3連打でしめくくったあたりはサマソニと同じだったし、1曲ごとにステージ後方のビジョンに曲名が出る演出や照明の感じなんかもサマソニと同じ形式だったが、「Eight Ball」「Dirty Club」「Rowla」などのサマソニでは披露しなかった曲も堪能できた。特に個人的に大好きな「Push Upstairs」にはしびれた。
そして、やはり、『Barbara Barbara,we face a shining future』の曲たちを、このキャパでじっくり堪能できたことが最高だった。
カール・ハイド曰く「ふたりで終始スタジオで一緒に顔を突き合わせながら作った初めてのレコード」であるこのアルバムは、「今回は『アンダーワールド』をいったん忘れてやってみよう、というところから制作が始まった」作品だそうだ。
「アンダーワールドであることをやめてみる」というのはどういうことか。僕の勝手な解釈だが、それは「クラブのフロア対応を考えない、つまり踊れるかどうかを考えない」ことであり、「世界のトップであることを考えない」ことである。で、確かにそのようなアルバムになっている。どの曲もなんにも囚われていないし、「アンダーワールドであること」の重責から解き放たれて、「そもそも俺らって何がやりたかったんだっけ」「というか、俺らって何だったんだっけ」というところまで立ち返って作られている。でありながら、すごくアンダーワールドな、アンダーワールドらしい、アンダーワールドでしかない、彼らにしか出せない音が鳴っている。
アンダーワールド photo by Masanori Naruse
踊れる踊れないでいうと後者寄りだと思うし、華やかか地味かというとやはり後者寄りに感じるかもしれないが、アンダーワールドを聴き続けてきたファンからすると「そう、これ!」と言いたくなる、言わばアンダーワールドのコアだけが鳴っているようなアルバム。そこが、そここそがすばらしいアルバム。それらを、この距離で、この音で、この空気感で堪能するのは、本当に幸せな時間だった。
途中でも何度も何度も集まったファンへの感謝と愛を言葉や動作に表していたカール・ハイドは、最後にリック・スミスとステージ前に出て、肩を組んで一礼し、本当にいい笑顔でステージを下りた。その笑顔、90年代でも00年代でも現在でも、ほんとに変わらないな、と改めて思った。
あとボーダー長袖Tシャツも変わらないですね、そういえば。ステージ上の彼の両耳をがっちり覆っていたヘッドホンは、とうにイヤモニに変わりましたが。
取材・文=兵庫慎司
アンダーワールド photo by Masanori Naruse
1. I Exhale
2. If Rah
3. Juanita: Kiteless: To Dream of Love
4. Ova Nova
5. Nylon Strung
6. Two Months Off
7. Eight Ball
8. Jumbo
9. Ring Road
10. Push Upstairs
11. King of Snake
12. Faxed Invitation
13. Dirty Club
14. Low Burn
15. Rowla
16. Rez
17. Cowgirl
18. Born Slippy .NUXX