きっと"誰かのおかげじゃないぜ" 念願叶ったLOST IN TIME、the pillowsとのガチタイマン
LOST IN TIME 撮影=高田真希子
LOST IN TIME presents 『1:1 SPECIAL』 2016.11.21 渋谷CLUB QUATTRO
今年はデビュー15周年となる2017年に向けて、これまでのアルバムを時系列に沿って振り返り、今のLOST IN TIMEとして表現するライブ・シリーズ『その奇跡とその偶然・足跡は続く2016』を開催。そして海北大輔(Vo、Ba、Key)は恒例となった弾き語りツアーでも全国を縦断してきた。前向きな意志を持って過去を振り返るという、バンドの気持ちの上での意義はもちろん、彼らの曲や海北の歌の強さや普遍性を再認識する1年でもあったのだと思う。そしてこの日は、久しぶりに尊敬するバンドとのガチなタイマン、そしてもちろん、そこにはオーディエンスも含まれるという意味でのシリーズ『1:1 SPECIAL』の相手に、オルタナティヴ・ロックバンドの大先輩・the pillowsを迎えた念願の2マンライブを敢行した
the pillows 撮影=高田真希子
一週間が始まったばかりの平日にも関わらず、クアトロはゲストのthe pillowsのTシャツを着たファンも目立ち、満員の盛況だ。大人のファンがこの日の2マンの貴重さと意味を知って駆けつけた印象が強い。大声援に迎えられた4人は「Dance with God」でスタート。無駄に爆音じゃない、山中さわお(Vo、Gt)と真鍋吉明(Gt)の繊細なアンサンブルも、山中の若干アイロニックな歌もしっかり聴こえる心地いい出音だ。ずっとある種の青臭さを鳴らし続けてきたようなthe pillowsだが、音は深みがあり、まさに色褪せないオルタナティヴ・ギターサウンド。平たく言えば、こういうのがいいライブっていうものだろう。
the pillows 撮影=高田真希子
the pillows 撮影=高田真希子
さらっと演奏しているようで、実は内側で渦巻くエモーション。ヘッドをフロアに向けギターをマシンガンのように掲げる山中、身体全体でリズムをとりながら丁寧なリフでthe pillowsのカラーを決定していく真鍋、そしてシンプルでありながら要所を決めていく佐藤シンイチロウ(Dr)のドラミング。そして今やバンドに欠かせない存在になった有江嘉典(Ba)が、メロディアスなフレーズで曲にしなやかさを与えているのも印象的だ。「I know you」のシャッフルビートで男性ファンの両手が高く挙がり、エンディングからそのままタフなキックが聴こえると歓声が上がる。早くも名曲「Funny Bunny」が演奏される。<キミの夢が叶うのは 誰かのおかげじゃないぜ>、このヴァースはいかにもthe pillows節だが、曲折を経てきたLOST IN TIMEへの、山中さわおらしい共感の表明なのかもしれない。
the pillows 撮影=高田真希子
the pillows 撮影=高田真希子
フロアに向かってLOST IN TIMEを初期から見ている人に挙手させ、「てことは、有江くんをLOST IN TIMEでも見てるってことだよね」と、そこから様々なバンドをサポートする有江いじりが始まったのだが、海北と山中を繋いだ存在である有江のことをオーディエンスも周知しているわけで、山中の毒舌が安心して加速する。そして「このSNSの時代に、わざわざ直筆の手紙をくれた」海北のアプローチに感謝していること、でも自分は直筆の年賀状は一枚も書きません!と言い放って新曲「王様になれ」へ。有江のよく歌うベースが効いた、このメンバーならではの強みを感じさせ、目下レコーディング中の新作への期待値も上がる。そして終盤はタイトルコールで大歓声が上がった「TRIP DANCER」から、立て続けに4曲演奏。ラストはハードにグルーヴする「White Ash」で全身全霊をさらけ出してフィニッシュ。1時間1本勝負に賭けた彼らにベテランという言葉は全く似合わなかった。
the pillows 撮影=高田真希子
すっかり上気した空気はそのまま保たれて、LOST IN TIMEにバトンが渡される。笑顔で登場したメンバーは各々、楽器を鳴らして海北の「LOST IN TIMEです。「30」!」の一声と、大岡源一郎(Dr、Cho)の力強いビートと三井律郎(Gt、Cho)の煌めきを添えるタッピングで、クアトロの壁のその先に届くような海北の歌をぐいぐい称揚していく。そしてシームレスに海北がピアノのコードに繋ぎ、まさにこの『1:1』のコンセプトにも符号する一人のあなたへ届く歌、「366」が力強くオーディエンスを鼓舞する。ベースがメインと言えど、ごく自然にピアノも弾くスタイルで、3ピースと思えない、ある種シンフォニックな空間を拡張していく。もちろん三井の変幻自在のギターも、コーラスで美声も聴かせる大岡のミュージシャンとしての引き出しの多さによるところも大きく、改めてLOST IN TIMEというバンドの大きさとユニークさを再認識してしまった。また、音の隙間で行間を読ませる「教会通り」や「グレープフルーツ」が対照的にシンプルな美しさを描いて、ライブの流れにフックをつけていく。
LOST IN TIME 撮影=高田真希子
そして海北が「新しい歌を。知ってたら歌ったり踊ったりしてください」と、切れ味のいい16ビートのカッティングが冴える、彼らの新しいモードを感じる「太陽のカフス」が披露される。10月から会場限定で発売したCD収録曲なのだが、今、LOST IN TIMEから新たなアイディアやグルーヴが生まれていることを実感した。そのまま既発曲の「No caster」「26」と、彼ら流のダンサブルな楽曲を続けてプレイしたこともグルーヴに重きを置いたブロックを強く印象付けた。それにしても「26」のサビで起こるシンガロングの力強いこと! リリース当時は随分ストレートになった音楽性に賛否両論だった、有江も在籍していた5人編成時代の楽曲だが、バンドがなんとかして前進しようともがいていた頃のこの曲はベスト盤にも収録され、今は3ピースでも厚いグルーヴをまとって迫る1曲になっていた。ドラムソロ的なエンディングもまさに迫真。
LOST IN TIME 撮影=高田真希子
「対バンをお願いしたくて直筆の手紙をことあるごとに渡そうと計画しまして。それがまさかの一回で、『いいよ〜』と(笑)。それからも節目節目に飲んで話を聞いてもらったりして」と、山中との関係性を話す海北。これは余談というか予備知識なのだが、そもそもbloodthirsty butchersの曲名からバンド名をつけたり、eastern youthも好きだったり、北海道のアラフィフ世代の不器用だけど芯の通った佇まいを尊敬する海北。ブッチャーズの吉村が急逝した際、一人でいるのがいたたまれず、馴染みのライブハウスに出かけたら休みで、もう一軒のぞいたら山中もいて、その際に吉村の過去のインタビューに度々登場する「山中」と「さわおさん」が同一人物であることがようやく繋がって、その後の付き合いのきっかけになったらしい。
LOST IN TIME 撮影=高田真希子
後半はこの先ももし挫折があったとしても何度でも立ち上がると歌う「Synthese」で、アップデートされた“ザ・ギターロック”をタフに打ち鳴らす。続いて1stアルバム『冬空と君の手』収録の、青臭さをそのまま背負って生きてきたような「手紙」を歌うことで、近作との対照を描きながらも変わらない核心を浮かび上がらせてみせた。そして本編ラストはタイトなリフとビートがヒートアップしながらも、どこか背筋を伸ばしたくなる「希望」。みずみずしいアルペジオとベースが息を合わせ、堂々とした8ビートのサビに開けていく様は相変わらず、毎回のライブごとに決意を新たにしているような、3人の思いと重なっていった。音楽的なレンジは広がっているものの、やはりLOST IN TIMEというバンドの魅力は愚直なまでの、3人での正面突破なんだなと思う。多くを語らなくても、すでに曲の中にある思いに、海北の14年に渡る逡巡や覚悟は見て取れるのだから。
LOST IN TIME 撮影=高田真希子
あっという間の本編を終えて、当然止まないアンコールの中、再び3人が登場。「アンコールありがとうございます」の一言を噛んで自らツッコミを入れる海北は、改めてこの日のライブをバンド対バンドであり、自分と観客一人一人という意味で『1:1』と銘打っていることを語る。来年、デビュー15周年を迎える前にどうしてもやっておきたかったthe pillowsとの2マンが行えたこと、そしてバスターズ(the pillowsのファン)に「捧げます」と、「Please Mr.Lostman」のカバーを00年代のバンドであるLOST IN TIMEならではのアレンジで届けてくれたのである。そこまでのライブの反応でもファン層が一部重なっていることは見て取れたが、カバーを演奏することでさらにフロアの空気も親密になったように感じた。どちらも誠実なソングライターを擁し、音楽の中で物を言っていくバンド。そんな二組に寄せられる信頼の厚さの証だ。最後はこのバンドの根っこにあるポップネスが素直に表現された「ライラック」で締めくくられた。海北が戦友とも思える同世代のバンドが活動休止する知らせを聞いて書いた曲だという、それは、彼らが再び広いフィールドというリングに上がる切符のような曲に聴こえた。
時としてどんなトレンドより強く、いつまでも付き合いたいバンドサウンドのいいライブ、その究極を教えてくれたこの日の2マン。美しい夜だった。
取材・文=石角友香 撮影=高田真希子
the pillows / LOST IN TIME 撮影=高田真希子
the pillows
1. Dance with God
2. ビスケットハンマー
3. バビロン 天使の詩
4. I know you
5. Funny Bunny
6. 王様になれ
7. 確かめに行こう
8. サードアイ
9. TRIP DANCER
10. この世の果てまで
11. Locomotion, more! more!
12. White Ash
1. 30
2. 366
3. 教会通り
4. グレープフルーツ
5. 太陽のカフス
6. No caster
7. 26
8. Synthese
9. 線路の上
10. 手紙
11. 希望
[ENCORE]
12. Please Mr.Lostman(the pillowsカバー)
13. ライラック
■開場17:30 / 開演18:00
■前売3,500円 / 当日4,000円
(税込・1D別・整理番号付)
イープラス発売中 http://eplus.jp/
■問合せ:FEVER03-6304-7899
http://www.fever-popo.com
■開場 17:30 / 開演18:00
■前売 3,500円 / 当日4,000円
(税込・1D別・整理番号付)
■一般発売:12月3日(土)
・イープラス http://www.eplus.jp/
■問合せ:JAILHOUSE 052-936-6041
www.jailhouse.jp
■開場 17:30 / 開演18:00
■前売 3,500円 / 当日4,000円
(税込・1D別・整理番号付)
■先行販売:11/4(金)大阪十三公演時
■一般発売:12月3日(土)
・イープラス http://eplus.jp/
■問合せ:清水音泉 06-6357-3666(平日12:00-17:00)
http://www.shimizuonsen.com
2016.12.31(土)下北沢 CLUB Que
出演:LOST IN TIME、セカイイチ、ドミンゴス、鶴、RETO
■開場 19:30 / 開演 20:00
■料金 3,300円(税込ドリンク代別途500円)
問合せ:CLUB Que 03-3412-9979
the pillows主催ライブ情報
“君と夏フェスでランナーズ ハイ”
・12月01日(木)福岡 DRUM LOGOS
open 18:15 / start 19:00 With/ SHISHAMO 一般発売中
“世界の始まりをワイルドサイドで確かめにいこう”
・12月03日(土)大阪 なんば Hatch
open 17:00 / start 18:00 With/ GLIM SPANKY、ドラマチックアラスカ 一般発売中
“テキーラテキーラとファニーバニー”
・12月18日(日)長野 CLUB JUNK BOX NAGANO CLUB JUNK BOX 17th Anniversary
open 17:30 / start 18:00 With/ 髭 一般発売中
the pillows presents COUNTDOWN BUMP SHOW!! 2016→2017
2016年12月31日(土)Shibuya TSUTAYA O-EAST
OPEN 18:15 / START 19:00
【出演】
the pillows / TOMOVSKY / noodles / THE BOHEMIANS / BUGY CRAXONE / シュリスペイロフ
/ POP CHOCOLAT
前売 4,000円 / 当日4,500円 オールスタンディング/整理番号付き(ドリンク代別途500円)
the pillows presents “Shoegazer speaker in swanky street”
2017年1月26日(木)Zepp DiverCity
Open 18:00 / start 19:00
共演:UNISON SQUARE GARDEN
:12月17日(土)一般発売 前売 4,000円(税込)/ 当日 4,500円 ※ドリンク代別
※オフィシャルHP先行受付期間:11月25日(金)昼12:00~12月1日(木)昼12:00