須藤千晴が『サンデー・ブランチ・クラシック』で繊細かつ大胆な演奏を披露

レポート
クラシック
2016.12.20
須藤千晴(ピアノ)

須藤千晴(ピアノ)

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国内外で活躍するピアニスト・須藤千晴が登場! “サンデー・ブランチ・クラシック” 2016.12.4レポート

年の瀬も迫る12月4日の日曜日、渋谷にあるeplus LIVING ROOM CAFE&DININGにて毎週日曜日恒例の『サンデー・ブランチ・クラシック』が開催された。「ライブ音楽」と「飲食」と「アート」の融合をコンセプトにしたこのイベントでは、今を輝くアーティストの迫力ある生演奏を、食事をしながら気軽に楽しむことができる。

この日は12月には珍しく晴天に恵まれ、気温も高く絶好のお出かけ日和ならぬ、演奏会日和であった。休日のお昼時とあってカフェにも多くのお客様が来店し、アーティストの登場を今か今かと待ち望んでいるといった様子だ。

須藤千晴

須藤千晴

今回、演奏してくれるのは東京藝術大学を卒業後、ドイツ国立ベルリン音楽大学へ留学、卒業(ディプロマ取得)し、現在は日本を拠点にピアニストとして活躍している須藤千晴。彼女は様々な国際コンクールで上位入賞はもちろんのこと、国内外でソロ及び室内楽の演奏会を重ねる実力派だ。また、これまでにソロを含む3枚のCDをリリース、2015年には自身初となるオリジナル作品も発表するなど、演奏から作曲まで活躍の場を広げている。

定刻である13:00を回ると、白と黒のドレスに身を包んだ須藤が舞台袖から登場した。一礼をして最初の楽曲、シューマン作曲/リスト編「献呈」 を弾き始めると、それまでざわついていた客席が一気に須藤の演奏に引き込まれて行くのがわかった。この曲は元はシューマンの歌曲をリストがピアノ独奏用に編曲したもので、愛らしい旋律とは裏腹に難しい技術も多く要求される。しかし須藤はそんなことは微塵も感じさせず、女性らしい優しい音色で旋律を紡ぎ、繊細さと大胆さを合わせ持つスケールの大きな演奏を披露してくれた。

須藤千晴

須藤千晴

1曲目を弾き終えマイクを手に取ると、須藤は今回のコンサートの曲目について語り始めた。大枠は自身が好きな曲中心のプログラムにしたと述べつつ、その中にも「皆が知っている有名曲」、「あまり知られていないが素晴らしい曲」、「自作の曲」を選曲する事でお客様に様々な視点から演奏を楽しんで頂けたら、と話してくれた。

続いて2曲目には、ショパン作曲「幻想即興曲」。誰しも一度は聞いたことのあるこの名曲を華麗なテクニックで弾きこなしていく。歌心のある演奏でまさに“幻想”的な印象を受けた。

須藤千晴

須藤千晴

2曲目の演奏が終わり、再びマイクを手に取ると「いつものコンサートとは雰囲気が違うので、今日はお客様との距離がとても近くて新鮮です」と話し始める須藤。普段クラシックのコンサートといえば静まり返るホールの中で演奏するのが当たり前のため、お客さんとの距離が近く、反応もダイレクトにわかるカフェのステージは非常に新鮮な体験だったそうだ。

ここまでトークを挟みつつ2曲を演奏した須藤だが続く3曲目と4曲目は続けて演奏された。3曲目のグルック作曲「精霊の踊り」 では、弾き始めてすぐに須藤の音楽性の高さが伺えた。

グルックはクラシックの時代区分で言えば、いわゆる古典派に属する作曲家であり、現代の楽器と当時の楽器では音色や響きが大きく異なる。須藤はそういった時代背景も感じさせるかのように、ペダルや弾き方で響きをコントロールし、それまでに演奏したシューマンやショパンとはまた異なる上品さで観客を魅了してくれた。ちなみにこの曲は元はオーケストラの曲だが、現在は有名なピアニストによるピアノ編曲が2つ残されている。今回はその2つを須藤なりに組み合わせ、再編成したものを披露してくれた。

続く4曲目は須藤自身が作曲した楽曲 「Camellia」(カメリア) が披露された。Camelliaとは「椿」のことで、椿オイルを扱う会社からの依頼の下に作曲された自身初のオリジナル曲とのことだ。作曲に当たり、須藤は実際に生産工場のある、東京都伊豆七島の1つ、利島(としま)を訪れ、そこで一面椿で覆われた椿畑を見てイメージを膨らませたという。

作曲活動も初めての経験だったそうで、「クラシックというジャンルは誰かが作り出した楽曲を演奏し皆さんに伝える再現芸術です。しかし作曲は再現ではなく、自分で何かを新しく生み出すという点で、私にとって非常に貴重な体験となりました。」と語ってくれた。

曲は幻想的な導入からの繊細なメロディーと響きの美しい作品で、とても初めての作品とは思えない出来であった。ピアノという楽器を生かした立体的な構築で、後半には盛り上がりも用意されている。椿の花がポロっと落ちる様子を描写したのだろうか、問いかけるように終わるラストも秀逸だ。もう一度聴きたくなる作品であった。

コンサートはあっという間に進行し、残すところあと2曲となった。最後はフランスの作曲家ドビュッシー の作品から 「花火」 と 「喜びの島」 が演奏された。この2曲を選曲したのには理由があるらしく、どちらもドビュッシーらしさを持ちながら彼の異なる面を表しているからだそうだ。

「花火」 は独特な雰囲気の作品であり、空(空間)を思わせる細かい音符とそこに打ち上がる単音の花火の対比が見事に表現されていた。花火には元々死者の供養、鎮魂の意味があるらしく、美しい響きながら、どこか影のある響きが会場全体を包み込んでいった。

続く 「喜びの島」は「花火」とは異なり、幸せで明るい響きが印象的であった。ドビュッシーにしては派手に作られた作品とのことで、須藤自身の持つ繊細さと大胆さ、更に徐々に登り詰めていく曲想が興奮を高めていく。最後は華やかに全曲を締めくくり、興奮冷めやらぬ中コンサートは無事終演を迎えた。

インタビュー中

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終演後、楽屋に須藤を訪ねると、非常におしゃれな空間でとても楽しかったと語ってくれた。お客様が楽しんでくれているのも肌で感じる事ができたという。

「作曲家が作った曲に真摯に向き合い、そこから自然と出てくる個性や音色を今後もお客さんに届けていくことができたら嬉しい」と微笑みながら話してくれた。

来年2017年も様々な事にチャレンジしていきたいと述べる須藤。「自分らしいレパートリーで、新しいアルバムのレコーディングにも取り組みたいと思っています。演奏ももちろんですが、もうあと2曲ほど、オリジナル曲も作曲できたら……(笑)」とも語ってくれた。

ソロに室内楽、作曲と幅広く活躍する須藤千晴から、来年もますます目が離せない。

須藤千晴(ピアノ)

須藤千晴(ピアノ)

日曜の午後、渋谷の人混みを掻き分けeplus LIVING ROOM CAFE&DININGを訪れると、そこには最高の空間が広がっていた。たまの休日、疲れた身体を美味しい料理と素敵な音楽でのんびりと癒してみるのはいかがだろうか?


取材・文=清水弘治 撮影=岩間辰徳
 
プロフィール
須藤千晴 (Sudou Chiharu) ピアノ・作曲

ドイツ政府給費留学生としてドイツ国立ベルリン音楽大学に留学、ミヒャエル・エンドレスのもとで研鑽を積み、最高点を得て卒業、ディプロマを取得。2001年東京藝術大学在学中に伊達純メモリアル基金より「アリアドネ・ムジカ賞」と奨学金を授与され、奏楽堂モーニングコンサートにて芸大フィルハーモニアと協演。第4回ジーナバックアウワー国際ピアノコンペティション(アメリカ)入賞。2000年以降3年間に渡りクールシュベール夏期国際音楽アカデミー(フランス)にてパスカル・ドヴァイヨン氏のマスタークラスを受講し毎年ファイナルコンサートに出演。第4回ザイラー国際ピアノコンクール(ドイツ)、第3回ベルリンピアノコンクール(ドイツ)、ASTI国際音楽コンクール(イタリア)など多くの国際コンクールにて上位入賞。
ドイツ・ライプツィヒにおいてリサイタル、ベルリンにおいて「フランス音楽の夕べ」、「20世紀ソナタシリーズ」に出演するなど、ソロそして室内楽に国内外で積極的な演奏活動を展開している。2007年CHANEL銀座/シャネル・ネクサス・ホールにおけるPygmalion Daysのアーティストとして1年間定期的にソロコンサートを行い注目を集めた。

これまで、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭、室内楽奏者として宮崎国際音楽祭などに出演。ヴァイオリ二ストの徳永二男氏、ホルン奏者の松崎裕氏、チェリスト古川展生氏他多くの演奏家と共演を重ねている。
2008年ビクターエンタテインメントよりデビューCD「Preludes」をリリース。2011年チェロとのデュオCDをオクタヴィア・レコードよりリリース。2014年日本アコースティックレコーズよりソロCD「Gems」をリリース。また、2014年〜2015年ベーゼンドルファー東京サロンにて自身のプロデュースによるシェーンベルクピアノソロ作品全曲シリーズ全4回を開催し好評を博した。
2015年1月より、月に1度自身のUstream番組「須藤千晴のちはるデート」を配信しており、毎回音楽家をゲストに迎えてトークと生演奏を放送している。

公式ホームページ:http://www.chiharu-sudo.com/index.html
Officialブログ:http://ameblo.jp/chiharu-sudo

 

須藤千晴 公演情報
須藤千晴(ピアノ)&清水のりこ(エレクトーン)
クラシックコンサート “クラシック界の革命!2人だけで奏でるオーケストラサウンド”


 日時:2016年12月22日 19:30開演
 会場:ヤマハ銀座ビル地下2階 ヤマハ銀座スタジオ
 出演者:須藤千晴(ピアノ)、清水のりこ(エレクトーン)

 <曲目>
 チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番より 第1楽章
 ストラヴィンスキー:ペトルーシュカ、ニューシネマパラダイス 
 ほか
 ※曲目は変更になる場合がございます。

 問い合わせ先:下記URLページ「peatix」よりをお求めください
 http://otonaart.peatix.com

 

サンデー・ブランチ・クラシック情報
会場:eplus LIVING ROOM CAFE&DINING
住所:東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F

12月18日
正戸里佳/ヴァイオリン&福原彰美/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
12月25日
小野明子/ヴァイオリン
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円

公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html​

 

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