クリスマスと味のないガムみたいな日々と豚汁みたいな色のセーターについて
拝啓
メリークリスマス!
……ちょっと気が早いかもしれませんね。でも今年のクリスマスは残念ながら仕事が入っていて、あなたと過ごすことができなさそうなので先に言わせてもらいました。
ああ、どうかそんなに悲しい顔をしないでください。あなたと過ごすクリスマスを僕だって本当に楽しみにしていたんですよ。デートのプランだって、一兆通りくらいたくさん考えたんです。一兆通りのデートプランをひとつずつ書き出したカードを並べたテーブルと丸三日間にらめっこして、最高のデートプランを練り上げたのに。まさかあなたを一目見ることすらできないとは!クリスマスは誰にもやってくるなんて嘘っぱちです。
それもこれもみんなバチが当たったのかもしれません。というのも僕は昔、クリスマスとか誕生日とかのイベントごとがインフルエンザの注射と同じくらい大嫌いだったんです。今では甘ぐりと同じくらい大好きなんですけど、かつてはめんどうくさいものとしてずいぶんないがしろにしてきました。
あまりにもめんどうくさすぎて、学生の頃付き合っていた女性には「お祝いの相殺」を持ちかけたこともあります。つまりクリスマスプレゼントを贈り合うとか、お互いの誕生日をお祝いするとか、プラスマイナスゼロで意味がないから全部なくしちゃおうという提案ですね。僕はあなたをお祝いしないけど、あなたも僕をお祝いしなくてもいいと。
そういう提案を真顔で恋人にするとどうなるかというと、もちろん怒られます。「カニにいたずらすると挟まれる」くらい当たり前の話ですね。
僕は当時の彼女に「なんのイベントもない日々を淡々と過ごすなんて、付き合っている意味がない」とすごい剣幕で怒られ、ついには僕と過ごしている時間について「味のないガムを噛み続けているよう」であると、なんとなく文学的に批判されました(彼女は文学部でした)。しかし、当時の僕には小説を読む習慣がなかったため彼女の気持ちを汲むことができず、さらに間が悪いことに味のないガムを嬉々として延々と噛み続ける習慣はあったので、「それって最高じゃん」などと批判に対してとんちんかんな反論をし、彼女の怒りにせっせと薪をくべていました。
悪いことをしたなあと今では反省しています。
最近ではさすがにそういうことはあまりなくなりましたが(たぶん)、今でも油断するとたまに女性に向かって無神経な発言をしてしまいます。
僕は特に服装について褒めるのは得意ではないようですね。こちらはすごく褒めているつもりでも、言われた相手がムッとしていることがしばしばあります。
先日、仕事をしていて知り合った方の着ていた茶色いセーターがとても素敵で、それに見ているだけでもポカポカしてくるくらいすごく暖かそうだったので「豚汁みたいなセーターですね」と褒めたら彼女は一見してだまし絵みたいなとても複雑な表情を浮かべて首を傾げていました。
また、別の友人が巻いていた灰色のマフラーの質感が樹皮みたいだったので、「樹皮巻いてるみたいでいいね」と褒めたら「ジュヒってなんですか」と聞かれ、(その時には少しまずいなと思い始めていたのですが)「木の皮です」と答えたら、彼女はこちらを無表情で睨みつけながらそれこそ木みたいに押し黙ってしまいました。
うまくいかないものですね。ちゃんと今では反省しています。
気をつけてはいるつもりなんですが、こればっかりは性質的なもので仕方がないのかもしれません。大目に見てください。あなたのバッグもひっくり返ったかぶとむしみたいだとか言って怒られないように注意しますね。
それでは。
よいクリスマスをお過ごしください。
いつかまた宇宙のどこかで。
敬具
チープアーティスト・しおひがりによる連載『メッセージ・イン・ア・ペットボトル』。毎回、この世にいる"だれか"へ向けた恋文のような、そうでないような手紙を綴っていきます。添えられるイラストは、しおひがり本人による描き下ろし作品です。