中村勘九郎にインタビュー!「蓬莱竜太は天才だ!」「赤坂大歌舞伎」新作歌舞伎『夢幻恋双紙 赤目の転生』
中村勘九郎
2008年9月に、十八代目中村勘三郎の「芸能の街・赤坂で歌舞伎を!」という一言から始まった「赤坂大歌舞伎」。TBS赤坂ACTシアターの名物シリーズとも呼べる本企画が2017年4月、5回目の上演を迎えることになった。今回の上演作品は劇団「モダンスイマーズ」の座付き作家で、第20回鶴屋南北戯曲賞を受賞、劇団の作品に留まらず外部舞台の脚本・演出など幅広く活躍する蓬莱竜太が手掛けた『夢幻恋双紙』(ゆめまぼろしかこいぞうし あかめのてんせい 以下『赤目の転生』)。本作に出演する中村勘九郎は以前より蓬莱と親交を深めていたが、なぜ蓬莱に歌舞伎作品を書いてもらいたかったのか? 『夢幻恋双紙』の魅力は? など、今話せるギリギリのところまで伺ってきた。
――5回目となる「赤坂大歌舞伎」ですが、ここで新作に挑戦しようと思ったきっかけは?
昨年の「赤坂大歌舞伎」の打ち上げのとき。父が亡くなって2度目の「赤坂大歌舞伎」ということでまだ不安もありました。長く携わってくださっているスタッフが、芝居を観にきてくださったお客様の声を劇場のロビーで聴いてくれていて。「みんなが喜んでくれた」「こんなところがよかったと言っていた」などなど、お客様の生の声を教えてくれたんです。それを聴いて(中村)七之助も喜んだし、僕も嬉しかった。そんなお客様に今度どんなものをお見せしようかと考えたとき、新作しか思い浮かばなかったんです。
――そこで蓬莱さんの登場です。以前からお付き合いがあったと伺っていますが。
蓬莱さんは歌舞伎を観にきてくださったり、こちらも蓬莱さんの舞台を観に行ったりして、一緒にご飯を食べたりしていたのですが、前々から蓬莱さんに歌舞伎を書いていただきたいと思っていたので、無理を承知で話をもっていったところ、なんとやってくださることとなりまして。
歌舞伎の新作といえば例えば野田秀樹さんの『研辰の討たれ』『鼠小僧』『愛陀姫』、最近では『スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース』があったりして、歌舞伎というのは本当に懐が深いなあと感じています……やっている僕が言うのもなんですが(笑)。
蓬莱さんは家族の物語や、日常を描くのが上手ですよね。傍から見たら普通に見えていると思っていたが、実は変な人だった!ってこと、あるじゃないですか。そういうのを描くのが上手なんです。あと女性を描くのが素晴らしいんです。
舞台『まほろば』……あれも家族の話で、栗山民也さんが演出でしたが、それを観たときに、いつか蓬莱さんに歌舞伎の本を書いてほしいと思ったのです。
――新作を蓬莱さんに書いていただく際に勘九郎さんから「こんな作品を書いてほしい」など、リクエストはされたんですか?
最初にお話ししたときに「長屋もの」を希望しました。歌舞伎というのは江戸時代の新聞、今でいうネットニュース的な存在で、歌舞伎を観て最近の事件を知ったりするところがあったんです。そんな中で日常に潜む「何か」を描いてほしいと思って。そういうのが起こるのは「長屋」なんじゃないかな。今でいう「団地」?ですかね、現代とリンクするところがあるなって。近所に変人がいたり、そいつは悪人じゃないか?という話があったり。そこから『夢幻恋双紙』が生まれました。
中村勘九郎
――さて、今回の『夢幻恋双紙』はテーマが「転生」ということで、勘九郎さんが演じる「太郎」が別の人格に生まれ変わるというお話だそうですが。転生ものをやりたいというのも勘九郎さんからのリクエストだったんでしょうか?
いえ、僕からは全く出してないんです。蓬莱さんから出てきたアイディア。昨年、別の舞台中にシノプシスを受け取って。その帰り、マネージャーが運転する車の助手席で読んで、すぐ(蓬莱さんに)電話しました。「天才だ!」って。そうしたら「そぉ? ありがとう」って言ってました(笑)。これ、主要な登場人物は「太郎」「歌」っていうんです。「太郎」がどう転生していくのか、なぜ「赤目」なのか、がそこに書いてあって。ミステリーでありつつ、喜劇のように見えて、笑いながら深い闇に落とされるような話でした……。
――何回くらい転生しそうですか?
(この取材を受けている)今は3回目の転生の前半までしか本をもらってないんですが、3、4回は転生しそうですね。「太郎」が転生しながらどう変わっていくのか、いろいろな人生を経ることになるので、他人がやるものだと思って読むとめちゃくちゃおもしろくて! 誰か違う人にやってもらいたいなあ。でも、これを自分がやると思うと(一人で何役も演じる大変さが想像できて)不安です(笑)。
「太郎」だけが別の人格に変わっていくのではなく、彼の周りの人も変わるんですよ。「太郎」が変わることで、彼に対する周りの人の接し方や環境も変わってくるし、ともすると、その人たちの人生すらも変わってくる。
――何パターンかいる「太郎」の中に、勘九郎さんご自身に近いキャラクターはいらっしゃいますか?
それが、全てのキャラクターの中に自分がいるんです。面白いなあって思いますね。観ているお客様もそう思うんじゃないかな。
――太郎は何度か「転生」しますが、「歌」はどうなんでしょう?
「歌」は「太郎」含め、周りの人々や環境がどんどん変わる中、唯一ブレない存在なんです。だから、「太郎」が転生をしていく中でも「歌」は変わらない。何故彼女だけ変わらないのか? という理由が最後に出てきますよ。
――どの段階の「太郎」で「歌」はOKと言ってくれるんでしょう? もしくはどの「太郎」でも満足できない……とか?
いいところに目を付けましたね(笑)。一応「太郎」と「歌」は結婚するんですけど……どうなるかは本番でぜひ!
中村勘九郎
――「赤坂大歌舞伎」で上演する「新作」の「歌舞伎」だからこそ、工夫している点があれば教えてください。
今来ている本の段階では歌舞伎より少しだけ会話部分が現代っぽくなっています。蓬莱さんの「言葉」はおもしろいから変えたくないんですが、語尾をどの程度「歌舞伎」にするのか。また、歌舞伎には「俺」っていう一人称があまりないので、ではそこをどう変えるか、とか。さじ加減が難しいですね。でも、なるべく蓬莱さんの言葉のまま残したいです。
また、しゃべるテンポは重要ですね。先入観だと思うんですが、歌舞伎ってゆっくりとしたテンポでしゃべるもの、というイメージがあると思いますが、全然そんなことはないんですよ。昔の映像を観ると、意外と時代物のセリフでさえ速いんですよ。
今はいろんな新しいことをやらせていただいています。それは歌舞伎じゃない!と怒る人も少なくなりました。でもこれって先代の(市川)猿之助さん=現・二代目猿翁さんたちが戦ってくださったからこそ。そこには感謝と尊敬、そしてジェラシーを感じています。だから僕らも新作に心して臨まないと。
――3月から本格的に稽古が始まるそうですが、今期待していることは?
蓬莱さんの演出を受けるのが初めてですから、どういう風にするんだろうっていうところが楽しみですね。一緒に仕事ができるということだけでも楽しみだし、今後につながっていけばもっと楽しみ。「最初は『赤坂大歌舞伎』だったけど今じゃこういうのも書いていて」という展開になればいいですね。
今回はずっと歌舞伎を観てくださっているお客様だけでなく、赤坂の街を愛してくださる方々、「赤坂大歌舞伎」を愛してくださる方々にとって、さらには演劇界全体にとって、事件になるような公演になれば……と思っています。
中村勘九郎
スタイリスト:寺田邦子
ヘアメイク:宮藤 誠(Feliz Hair)
ネクタイ(¥10,000)
スーツ(¥69,000)
シャツ(¥18,000)
いずれもTAKEO KIKUCHI(電話:03-6324-2642)
■日程:2017/4/6(木)~2017/4/25(火)
■作・演出:蓬莱竜太
■出演:中村勘九郎、中村七之助、市川猿弥、中村鶴松、中村亀鶴、片岡亀蔵 ほか
■主催:TBS/松竹/TBSラジオ/BS-TBS
■企画協力:ファーンウッド/ファーンウッド21
■製作:松竹
■問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(10:00-18:00)
■公式サイト:http://www.tbs.co.jp/act/event/ookabuki/