鈴木聡作品に初挑戦する演出・中屋敷法仁が、競馬場を舞台にした傑作コメディ『サクラパパオー』を語る

2017.3.7
インタビュー
舞台

中屋敷法仁


酸いも甘いも噛み分けた大人の心の隙間を絶妙にくすぐる、喜劇の名手・鈴木聡。彼の率いる劇団・ラッパ屋が1993年に初演し、1995年に再演、2001年にはパルコ・プロデュース公演としても上演している傑作コメディ『サクラパパオー』が2017年春、新たな息吹を吹きこまれることになった。今回、新たに演出を手がけるのは、新進気鋭の演出家として注目を集めている柿喰う客・代表の中屋敷法仁。キャスト陣もA.B.C-Zの塚田僚一を始め、中島亜梨沙黒川智花伊藤正之広岡由里子木村靖司市川しんぺー片桐仁という、実に個性的かつ実力派の面々が揃った。果たして新生『サクラパパオー』はいかなる走りを見せてくれるのか、演出の中屋敷に語ってもらった。


――中屋敷さんが鈴木作品を演出されるというのは、ちょっと意外な感じがしました。

そうですね。僕、これまでも「この作品は演出するの、すごく大変だな」と思う脚本にことごとく縁があるんです。鈴木聡さんの脚本も、とてもとても難しい台本だなと思っていて。お客様にとっては親切だし丁寧なので、何も考えずに楽しめるはずなんですが、作る側はきっととても緻密な計算や馬力が必要な台本だと思うんですよね。ですからラッパ屋を観に行くたびに「これは作り手側になるのはすごく怖いな」と昔からずっと思っていました。ですから今回のお話をいただいた時も、この作り手側の大変さに耐えうる魅力的な俳優さん、僕と一緒に苦しんでくださる俳優さんがいるならばやらせていただきたいな、そういう出会いがあるといいなと思いました。

――ということは、今回のキャストは。

今回はまず、塚田さんですよね。もう、塚田さんがやってくれるのならぜひ!という気持ちになりましたから。だって本当に大変だと思うんですよ。しかもその大変さがお客様に絶対にバレてはいけないので。ですから根っから、腹の底からエンターテイナーであり、お客様を楽しませるという覚悟と美学に溢れている人がいいなと思ったんです。とにかくもともとの台本がすごく面白いので、これをやりきるにはよほどの俳優さんを揃えないとと思っていたんですが、今回は一緒にやったことのある方が多いし、知っている方ばかりで本当に一緒に苦しんでくれそうというか、苦しむことと楽しむことを同時にやってくれる人がうまく揃ったなと思っています。

中屋敷法仁

――その手強い鈴木作品のなかでも、『サクラパパオー』という作品を選んだのは。

鈴木聡さんの作品の中でも『サクラパパオー』だけ、すごい失礼な言い方ですが、夢があるんですよね。聡さんの作品ってほとんどがリアルな現実の中で描かれる人間の悲喜劇みたいなものだと思うんですけど、『サクラパパオー』だけものすごく夢と希望とエネルギーに満ちた作品なので、相当異質なものだなと思っていました。ちょっとラッパ屋らしからぬところ、聡さんらしからぬ筆の手触りがあるんです。だからある意味、僕でも少し触りやすい部分があるように感じたんです。

――上演する劇場が比較的大きめですが、どういう風に演出しようと思われていますか?

大きいですよねえ。まだスタッフとのミーティングが今日の時点では終わっていないんですが、俳優さんを馬のようにこきつかって動かしていくしかないんだろうなという気はしています(笑)。決して緻密な会話劇ではなく、身体と心を使ってバタバタと舞台をひっかきまわしていくような作品なので、少し手綱をゆるめて俳優さんが好きに暴れられるようにしないといけないなと。お客様も、観戦気分で観られたらいいですよね。

――本当にレースを観ているような。

舞台セットも、パドックみたいにしたいな(笑)。馬自体は出て来ないですけど、ともすると舞台上にいる俳優さんが競馬馬のようにイキイキと走り回る姿をぜひ観せたいですね。

――では、前回上演された時とはだいぶ毛色の違うものが生まれそうですね。

そうですね。今回は『サクラパパオー』の二世、三世くらいの馬が走るようなものですから、ちょっと若返っていなければいけないし。それは別にキャストが若返るわけではなく、作り方というか、手触りが変わってなきゃいけないなと思っているんです。もう一度ゼロから、まさに初レースに出るような緊張感で挑みたい。まだ、この『サクラパパオー』は勝つか負けるかわからない、名前だけはお借りしていて血統はいいんだけど、走ってみないとわからない、みたいな。だからお客さんも「どうせ面白いんでしょ」みたいに思わないでほしいですね(笑)。

中屋敷法仁

――それこそ、これがギャンブルになるくらいの気持ちで。

そう、僕自身が大穴を狙っていく気分でね。いろいろな方が鈴木さんの脚本を演出されていますけど、その中でも特に僕が異質だと思う『サクラパパオー』を、さらに異質な形で演出できればと企んでいます。できれば『サクラパパオー』という作品で僕もぜひジョッキーとしての名を上げたいし、「おっ、こんな乗りこなし方もあるんだ」と思われたいですから。

――ただ、手堅くやるだけではつまらない。

もう落馬するくらいのチャレンジ精神でやらないと(笑)。年配の俳優さんからは「あまり走らないようにしてくれ」とも言われているんですけどね、「どうせ中屋敷のことだから、高低差のあるセットとか坂道を作る気なんだろう?」って(笑)。だけど、塚田さんはとにかく体力がありますからね。ただ椅子に座って会話するだけではおさまらない気がするので。

――そこは使わないともったいない(笑)。

しかも舞台が広いらしいので、ぜひ走り回れるようにしたいですよね。これからセットの打ち合わせをするので、楽しみですよ。どんなセットを組んでやろうかなあ(笑)。いや~、それにしても塚田くんはどう演じてくれるでしょうね。なにしろ、この田原という役は結構ヘンな役なので。

――でも魅力がなくちゃいけない役でもありますよね。舞台役者としての塚田さんは、中屋敷さんの目にはどう映っているんですか。

僕もたくさん観ているわけではないですけど、舞台上ではものすごい勢いで細胞分裂を繰り返していて、いつ見ても赤ちゃんみたいにイキイキした感じがあるなと。いろんなエサを放り込みたくなるような気持ちになりますね。俳優としてとても魅力があるので、僕自身もワクワクしているところです(笑)。

中屋敷法仁

――ちなみに、台本は変えずに上演されるんですか?

基本的には変えずにやろうと思っています。年代も90年代のままで。古き良き時代のお話です。

――今後の稽古と本番に向けて、一番の楽しみは。

僕、実は演出業を始めて10年近くになるんですけど、その間、ほぼ毎日俳優さんを見ているんですね。俳優を見るのが楽しくてこの仕事をやっているようなところもあるので。それもただ見ているだけではなくて、きっとその俳優さんに自分の人生とか、いろいろなものを賭けながら見ている気がするんです。僕はギャンブルの才能がまるでないので馬にお金を賭ける気はまったくないですが、俳優さんにならなんでも賭けられるなと思っていて。今回は特に、別に僕が大枚をはたくわけじゃないですけど(笑)、自分がいかにいろいろなものを託して祈れるかということも問われている気がするんです。稽古が始まったら、もちろん演出なのでどうしても調教師のようになってしまいがちですが、その自分をどこまで切り離して、本気で応援する気分になれるか。「塚田、イケーッ!」みたいなね(笑)。まあ、本番になれば僕も手出しはできないわけですから。今回は自分が作るという意識ではなく、この俳優さんたちを馬に見立てて、自分の人生を賭けるみたいなことをやってみたいなとも思っています。

中屋敷法仁

取材・文:田中里津子 撮影:荒川潤

公演情報
パルコ・プロデュース公演『サクラパパオー』
 
■作:鈴木聡
■演出:中屋敷法仁
■出演:
塚田僚一(A.B.C-Z)
中島亜梨沙
黒川智花
伊藤正之
広岡由里子
木村靖司
市川しんぺー
永島敬三
片桐仁
<埼玉公演>
■日程:2017年4月26日 (水) ~2017年4月30日 (日) 
■会場:彩の国さいたま芸術劇場
■問合せ:パルコステージ 03-3477-5858
(月~土 11:00~19:00/日・祝 11:00~15:00)

 
<東京公演>
■日程:2017年5月10日 (水) ~2017年5月14日 (日) 
■会場:東京国際フォーラム ホールC
■問合せ:パルコステージ 03-3477-5858
(月~土 11:00~19:00/日・祝 11:00~15:00)

 
<仙台公演>
■日程:2017年5月16日(火) 19:00開演
■会場:電力ホール
■主催=仙台放送/ぴあ
■問合せ=仙台放送 022-268-2174(平日9:30-17:30)
 
<愛知公演>
■日程:2017年5月19日(金) 16:00開演
■会場:穂の国とよはし芸術劇場 PLAT
■主催=キョードー東海
■問合せ=キョードー東海 052-972-7466

 
<大阪公演>
■日程:2017年5月25日 (木) ~2017年5月26日 (金) 
■会場:サンケイホールブリーゼ
■主催=サンライズプロモーション大阪
■問合せ=キョードーインフォメーション0570-200-888(10:00~18:00)


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