【THE MUSICAL LOVERS】 ミュージカル『アニー』 [連載第6回] アニーの情報戦略

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【THE MUSICAL LOVERS】
 Season 2 ミュージカル『アニー』
 【第6回】アニーの情報戦略

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突然だが、豊臣秀吉が天下人になれたのはなぜか。答えはいろいろあるが、大きなきっかけとなったのは「中国大返し」だろう。秀吉による備中高松城攻めの最中に、主君信長が本能寺で討たれた。明智から毛利に送られた密書を入手すると、情報漏えいを完全遮断。すぐに毛利と和議を結ぶなり、強行軍で岡山から京にとって返し、明智軍を撃破した。織田家の諸将たちも各地で戦中にあったが、誰も秀吉のような行動はとれなかった。秀吉は他の誰よりも「情報」の扱い方に長けていた。

かつてカトリック教会が独占していたキリスト教の「情報」。しかしグーテンベルクが活版印刷を発明し聖書の大量複製が可能となると、それを活かしてルターが宗教改革をおこなった。「情報」を古い権力から民衆に解放し、自らに寄せ込むことで、プロテスタントの勢力拡大に成功させたのである。

さて、アニーが大恐慌時代を生き抜くことができたのも「情報戦略」が巧みだったからではないか。芸術作品をお説教の道具にすることは趣味ではないが、アニーから学ぶことがあるならば、それは「情報」の扱い方・活かし方だ。今回は、大恐慌時代を生き抜いたアニーの、戦国武将さながらの手腕を見てみよう。

■目くらまし戦術

孤児院に住むアニーは、11年間ずっと父さんと母さんが迎えに来てくれるのを待っていた。しかしある日決意する。「こんなに待っても来ないなら、自分で探しに行こう!」

一人での脱走に失敗したアニーは、孤児たちの協力を得て、シーツの入った洗濯屋のかごに入り込み、孤児院を出ることに成功する。

アニーが孤児院の鬼院長ミス・ハニガンを出し抜いたことに孤児たちは喜ぶが、すぐに気づく。「代わりにみんながお仕置きされる」

アニーが出て行ったことで、孤児たちはミス・ハニガンに何をされたのだろうか……。

■他の孤児たちと会わせない戦略

アニーの脱走は警官に保護され、孤児院に連れ戻されることで終わった。しかしアニーが戻って来たその時、ちょうど孤児院には、大富豪ウォーバックスの秘書グレースが来ていた。クリスマス休暇を一緒に過ごす孤児を探しに来たと言う。

グレースには当初「どういった子を連れて帰るか」という明確なビジョンはなかった。しかし、たまたまその場にいたアニーが愛嬌を振りまいたことでグレースの目に留まる。

「その子はどうなんです?」とミス・ハニガンに尋ねるグレース。ミス・ハニガンはアニーを嫌っており「アニー以外の子から選んでください」と言うが、選ばれたのはアニーだった。アニーはその場で自分をアピールし、自分に決めさせたのだ。

お気づきだろうか。グレースはアニー以外の孤児たち(別室)に会っていない。他の孤児たちはグレースが来ていることや、クリスマス休暇を大富豪の家で過ごせるチャンスがあるという情報すら知らない。グレースは他の孤児情報に接触せず、アニーだけを見て決めてしまったのだ。もちろんアニー自身に一目で気に入らせる魅力があればこそだが、その「タイミングの良さ」「運の良さ」「要領の良さ」を凌駕する「情報独占力」は見逃せないポイントだ。

その後アニーが「私はラッキーだった」「私は世界一幸せな子どもだよ」というセリフを口にするが、来たチャンスを絶対にモノにするには、多少強引な情報操作能力も必要なのだ。

■自分の意思に合わせてもらう

アニーは大富豪ウォーバックスの家で2週間過ごすことになる。その初日、ウォーバックスが長期出張から帰って来た。疲れている上に仕事もたまっているウォーバックスは、アニーに「劇場に行って、アイスクリームソーダでも飲んできたら」と提案する。グレースに同行させようと思っているわけだが、アニーは微妙に浮かない顔。それは「ウォーバックスさん(初対面)も一緒に行ってくれると思っていた」から。

もちろん事情を理解している賢いアニーは、ウォーバックスに断られても「うん、そうだよね……わかる」と精いっぱいの笑顔で返す。この、あえて自分の意思を言葉に出さず、表情から情報を読み取らせる戦略! 結局、ウォーバックスはついてきてくれるのだ。

11歳の少女のかわいらしさを前面に押し出しているようでいて、肝心な情報は相手に読み取らせる。その卓越した技法に、筆者は感心してしまうのであった。

■第一目的を見失わない

ウォーバックスはアニーを気に入り、養子にしたいと考えるようになる。そこで、いつもボロボロのロケット(ペンダント)をしているアニーに、新しいものをプレゼントしようとする。しかもティファニーで、名前も彫らせて!

しかしアニーはそれを拒否する。このロケットは、両親が引き取りに来たとき、他の子と間違えないようにかけてくれたもの。自分の願いはたったひとつ、「父さんと母さんを探し出すこと」なのだと。

手に入れたいのは高級なティファニーのペンダントではなく、父さんと母さんだ。筆者だったら、ティファニーのペンダントは、それはそれでいただいておきたいが、目先の高級品にとらわれず、一番重要な情報を知ってもらうことが大事なのだと気づかされる。

■大戦の足音が迫る中、FBIに私的な探し物をさせる

アニーに拒否されたウォーバックスは傷ついていないわけがない。しかし彼はアニーに協力する。手始めにFBIのジョン・エドガー・フーバー長官に電話。翌日から無期限で、FBIの優秀な捜査官を50人、自費で雇ってくれると言う。

【第5回】 のとおり1933年は、ナチスのアドルフ・ヒトラーが首相に就任し、独裁政権を固めた年。アメリカ合衆国も、「いつドイツと戦争になってもおかしくない」という警戒心に満ちていた。それなのに、一人の孤児のためにFBIの優秀な捜査官50人を?! 「ドイツに負けるんじゃないか……」と心配になる筆者だ。

さらに舞台ではカットされているが、ウォーバックスは「エリオット・ネスも連れてきてくれ」と所望している。映画『アンタッチャブル』でも有名なネスは、シカゴのギャング アル・カポネを摘発した財務省酒類取締局捜査官である。

1933年12月、ローズベルトが禁酒法を解くまで、禁酒で儲けたのはギャングだった(酒類取締局捜査官でありながら、ネスはアル中だったという説もあるけれど……)。「ネスは現在、強盗・ディリンジャーの件で忙しいから」と断られているが、実際のところフーバーは「FBIすら捕まえられなかったカポネを捕らえた財務省のネスに嫉妬していた」という説がある。そのことも頭に入れておくと、ウォーバックスが舞台で「うん」「ああ?!」と言っているだけの電話シーンに爆笑できること請け合いである。

あすなろ書房『アニー』P197に「エリオット・ネス」と「ディリンジャー」の名前が出てくる

あすなろ書房『アニー』P197に「エリオット・ネス」と「ディリンジャー」の名前が出てくる

アニーが両親の情報を収集するためFBIに渡すのは、ロケットと、孤児院に置き去りにされたときに添えられていた手紙。アニーの両親は公開捜査が行なわれ、ウォーバックスが5万ドルの賞金を用意したことで、多数のにせものが押し寄せた。

彼らの面接にあたり、手紙に書かれていたアニーの生年月日とロケットという重要情報は隠されていた。それを知っているかどうかで「本物かどうか」を判断しようとしたのである。結局、アニーの両親を探す決め手となるのは、その手紙の重要情報である「筆跡」だった。かくも情報は、重要な力なのだ。

■情報を操る力+たくましい行動力=無敵!

アニーの両親を探すことに5万ドルの賞金がかかっていたことで、それをだまし取ろうとした人物がいた。その人物は情報を操り、一見成功するのだが……その人物に「大富豪をたぶらかして!」と唾を吐かれるアニー。しかしアニーは言い返す「嘘をついてはいけないよ!」

これはその人物の口癖をアニーがまねたわけだが、なるほど、確かにアニーは「嘘」はついていない。「情報」を味方につけ、臨機応変に生き延びていただけなのだ。「情報」は、大富豪と秘書、時の大統領、優秀なFBI捜査官が受け取った。

大恐慌時代、大人だって生きるのが難しかっただろう。何も持たない11歳の孤児が生きていくには、情報を上手く操ること。そして自ら行動して、大人たちに「この子を助けたいな」と思わせることだ。お調子者で、愛嬌があって、知恵と勇気と茶目っ気に満ちている。そしてちょっぴり図々しい。筆者はそんなアニーを応援してしまう。従順だったらなんにも面白くないではないか。

「人生で大事なことは、タイミングにC調に無責任」なんていう歌がある。脱走時、アニーに責任感があって、他の孤児たちをお仕置きから守るために戻って来ていたならば? 孤児院に連れ戻されたとき、グレースに調子よくアピールできなかったら? 他の孤児たちのことを考えて、選ばれる機会を平等にしようなんて思っていたら? アニーの運命は動かず、いまも孤児院で両親の迎えを待ったままかもしれなかったのだ。

昨今のディズニーアニメだって、待っているだけのお姫様なんぞ流行らない。待っているだけでは、チャンスなんて一生回ってこない(最近は「待つの」と説く女芸人もいるが……)。ミュージカル『アニー』は1977年からずっと、何があっても明日まで食らいついていくサバイバル精神と痛快な情報戦略で、逞しく生きる少女を描いてきたのだ。

どの時代だって、誰もが孤児になってしまう可能性がある。大恐慌時代が来るかもしれない、大災害が起こるかもしれない。そんな時、どう生き抜けばいいのか。

大人もバッチリ楽しめる『アニー』であるが、子ども向けミュージカルとして言うならば、「お子さまをサバイバルさせたい方、おススメですよ」と申し上げたい。

子どもたちよ、厳しい時代を生き抜いておくれ! 今日がダメでも、明日があるから!

次回につづく

参考文献:
トーマス・ミーハン著 三辺律子訳『アニー』(2014年、あすなろ書房)

 
公演情報
丸美屋食品ミュージカル『アニー』
 
<東京公演>
■日程:2017年4月22日(土)~5月8日(月)
■会場:新国立劇場 中劇場
 
<大阪公演>
■日程:2017年8月10日(木)~15日(火)
■会場:シアター・ドラマシティ
 
<仙台公演>
■日程:2017年8月19日(土)~20日(日)
■会場:東京エレクトロンホール宮城
 
<名古屋公演>
■日程:2017年8月25日(金)~27日(日)
■会場:愛知県芸術劇場 大ホール
 
<上田公演>
■日程:2017年9月3日(日)
■会場:サントミューゼ大ホール
 
■料金:全席指定8,500円
[スマイルDAY]
4月24日(月)17:00公演
4月25日(火)17:00公演
全席指定:特別料金6,500円(税込)
[わくわくDAY]
4月26日(水)13:00公演 / 17:00公演
来場者全員にオリジナルグッズプレゼント
(「犬ぬいぐるみ」「ハート型ロケットペンダント」「アニーのくるくるウィッグ」「非売品Tシャツ(Sサイズ)」4点のうちいずれか1点をもれなくプレゼント)
(入場チケット持参で当日のみ引き換え。グッズによっては数に限りがあり、先着順となります。)
※ 4歳未満のお子様のご入場はできません。
※ チケットはお一人様1枚必要です。
■チケット一般発売開始:2017年1月14日(土)10:00~
 
■脚本:トーマス・ミーハン
■作曲:チャールズ・ストラウス
■作詞:マーティン・チャーニン
■翻訳:平田綾子
■演出:山田和也
■音楽監督:佐橋俊彦
■振付・ステージング:広崎うらん
■美術:二村周作
■照明:高見和義
■音響:山本浩一
■衣裳:朝月真次郎
■ヘアメイク:川端富生
■舞台監督:小林清隆・やまだてるお
 
■出演:
野村 里桜、会 百花(アニー役2名)
藤本 隆宏(ウォーバックス役)
マルシア(ハニガン役)
彩乃 かなみ(グレース役)
青柳 塁斗(ルースター役)
山本 紗也加(リリー役)
ほか
 
■主催・製作:日本テレビ放送網株式会社
■協賛:丸美屋食品工業株式会社
■公式サイト:http://www.ntv.co.jp/annie/​


 
■子供キャスト

<チーム・バケツ>
アニー役:野村 里桜(ノムラ リオ)
モリー役:小金 花奈(コガネ ハナ)
ケイト役:林 咲樂(ハヤシ サクラ)
テシー役:井上 碧(イノウエ アオイ)
ペパー役:小池 佑奈(コイケ ユウナ)
ジュライ役:笠井 日向(カサイ ヒナタ)
ダフィ役:宍野 凜々子(シシノ リリコ)
<チーム・モップ>
アニー役:会 百花(カイ モモカ)
モリー役:今村 貴空(イマムラ キア)
ケイト役:年友 紗良(トシトモ サラ)
テシー役:久慈 愛(クジ アイ)
ペパー役:吉田 天音(ヨシダ アマネ)
ジュライ役:相澤 絵里菜(アイザワ エリナ)
ダフィ役:野村 愛梨(ノムラ アイリ)

ダンスキッズ

<男性6名>

大川 正翔(オオカワ マサト)
大場 啓博(オオバ タカヒロ)
木下 湧仁(キノシタ ユウジン)
庄野 顕央(ショウノ アキヒサ)
菅井 理久(スガイ リク)
吉田 陽紀(ヨシダ ハルキ)

<女性10名>
今枝 桜(イマエダ サクラ)
笠原 希々花(カサハラ ノノカ)
加藤 希果(カトウ ノノカ)
久保田 遥(クボタ ハルカ)
永利優妃(ナガトシ ユメ)
筒井 ちひろ(ツツイ チヒロ)
生田目 麗(ナマタメ レイ)
古井 彩楽(フルイ サラ)
宮﨑 友海(ミヤザキ ユミ)
涌井 伶(ワクイ レイ)
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