劇団鹿殺しが『電車は血で走る』『無休電車』2作品を同時上演、丸尾丸一郎が大阪で意気込みを語る!
『電車は血で走る』『無休電車』合同取材会より(撮影/石橋法子)
昨年活動15周年を迎えた劇団鹿殺しが、20周年に向けた”前哨戦”として、2つの代表作『電車は血で走る』『無休電車』を一挙大放出! 同じセットとキャストで2作品を期間中ランダムに上演する。2008年初演の『電車は血で走る』は青山円形劇場初進出作。2010年の再演では、本多劇場で初の3週間ロングラン公演を果たした記念碑的作品だ。続編となる『無休電車』は2013年初演、劇団が1年間の活動休止前に上演した最後の作品で過去最大の動員数を記録した。ともに「劇団の半ドキュメンタリー」という2作品について、丸尾丸一郎が大阪の合同取材会で意気込みを語った。
「自分をさらけ出し作家としての核を見つけた、記念碑的2作品です!」
ーー半ドキュメンタリーの要素もある2作品ということで、思い入れの強さも代表作たる所以でしょうか。
丸尾丸一郎
今の劇団鹿殺しのすべてが詰まっている、記念碑的な2作品ですね。特に『電車は血で走る』は、この作品の以前と以後ではまったく作風が変わりました。それまでは何か面白いことを追求していて、劇団☆新感線さん、つかこうへいさん、唐十郎さんぽいことをしてみたり。色んな表現に挑戦しつつも、自分の核となる作品が何かは分かっていなかった。そんな書くことに悩んでいた時期に「ひたすら自分のことを書いてやろう!」と思って書いたのが『電車は血で走る』。自分をさらけ出すことで、核となる作品になるんじゃないかなと。例えば、僕が小中高、大学までずっと通学に使っていた阪急電車が出て来たり、実家の工務店を継げなかったことへの思いも入っています。また、初演の青山円形劇場では観客動員数2000人、再演では4000人を突破し、今の株式会社オフィス鹿を興せたのもこの作品のお陰でもあるので。活動16年目に上演することで、また新たなステージに行けたら良いなと思います。
ーー劇中に楽隊が出て来る今の演出スタイルも、『電車は血で走る』から始まったそうですね。
初演の際にオーディションをしたのですが、そこで特技披露としてトランペット、トロンボーンなどの楽器を演奏する人が4、5人いて。それを見たときに、青山円形劇場のステージを楽隊が行進してるイメージが浮かんできました。そこから演出の(菜月)チョビが、アナログなラッパの音と芝居との相性の良さを感じて、以降の作品にも取り入れ始めて。今では劇団員は必ず何かの楽器を演奏できないと作品に出演できないので、みんな入団と同時に好きな楽器を買って練習しています。むしろ、僕とか昔からの古いメンバーのほうが、何も出来ない(笑)。
丸尾丸一郎
ーー本作では、楽隊を電車に見立てているんですね。
僕の大好きな阪急電車がモチーフなので、車体のあずき色の衣装を着た楽隊が出てきます。シートのオリーブグリーンやつり革はどこに入れるのか。「全然違う!」とか言いながらシートの座り具合を確認していると、阪急電車を知らない関東出身のメンバーとかは、「何してはるんやろ?」って顔で見てますね(笑)。僕は電車というより阪急電車が好きなので、じつは、過去に就職試験を受けたことがあるんです。最終面接で「日本の電車を全部阪急電車にしたい!」と主張したら、「それ独占禁止法にひっかかるよ~」っていわれて落ちたんですけど。多分、熱量がスゴすぎて気持ち悪かったんだと思います。でも、受かってたら劇団は続けていないと思うので、結果的に良かったです(笑)。僕には頑張って走る阪急電車が人間に見えてるんですよね。だからこそ線路は人生のようであり、あれだけ正確に発着してても事故が起こる、それが人生の岐路にも思えてくる。電車は日本のドラマに寄り添いやすいモチーフだと思います。
丸尾丸一郎
ーー物語りには実体験を参考にしたエピソードも盛り込まれたそうですね。
『電車は血で走る』には、ちょっとしたことで人生が変わってしまう少年が出てくるんですけど、それは僕が小学2年生の時に、じつは追突事故を起こした電車に叔母が乗るはずだったというエピソードがもとになっています。その日、反抗期のいとこが暴れたことで叔母はその電車に乗らずに済んだんですけど、本当にちょっとしたことで人生が変わるんだなと。『無休電車』は人身事故の場面から始まりますが、それも子どもの頃に最寄り駅で見た事故現場のブルーシートの光景が強烈に印象に残っていて。そういう小さい頃の記憶や、自分の思い出から物語が始まっている。そこでふと思うのが、僕が夢を追いかけて芝居を続けられているのも、大きく考えるとやっぱり亡くなった方々のお陰だなと。彼らのお陰で僕は今生かされていて、幸いにも芝居を作って観てもらえる立場にある。亡くなった方々の思いを背負いながら、夢を追いかける人間たちの姿を描きたかったという思いもありました。
丸尾丸一郎
ーー『電車は血で走る』は約10年前に書かれた作品です。読み返してみていかがですか?
恥ずかしいですね。今の僕は少し自分のことから離れて、違う人生を描くことの楽しさを見つけようとしている段階なので。ここまで自分たちの気持ちや状況を不器用なままに書いている作品は他にない。読み合わせでも、劇団員の顔が見られずにいます(笑)。でも脚本にはあまり手を加えていません。すごく切羽詰まったなかで、自分のことをさらけ出して書いた作品なので、そこは変えずにいきたかった。
丸尾丸一郎
「お客さんが芝居を観る一歩目の劇団でいたい。僕らから演劇の沼にハマって!」
ーー『電車は血で走る』の続編として書かれたのが、『無休電車』です。
チョビが文化庁の海外派遣制度で、劇団を休む前に上演した作品です。最後に何を上演するのかを話し合う中で、僕が電車をモチーフにした作品にしたいと伝えて。『電車は血で走る』が人生というレールは誰が敷いてくれて、その道を自分たちは今どういう気持ちで進んでいるのかという話だったので。その後の世界を描いたら面白いのではないかと。『無休電車』は「宝塚奇人歌劇団」という半アマチュアの劇団が上京はしたものの、色んなトラブルに見舞われて、このままやめるのか、続けるのかというような物語になっています。
丸尾丸一郎
ーー2作品それぞれの見所は?
『電車は血で走る』は途中で「何の芝居だったっけ?」と忘れるくらい、良くも悪くも劇中劇のボリュームがすごい(笑)。『無休電車』は、飛び道具的に劇中劇の出し物が繰り広げられていくので、面白さとしてはこちらの方が見やすいかもしれません。でも「宝塚奇人歌劇団」のパフォーマンス的にはそんなに差はありません。僕らを客観的に見たらこんな感じなんだろうなってところで書いているので。歌舞伎やロックが好きで、ちょっと劇団☆新感線の要素が入ってチャンバラをやってしまったり。かっこいいと思ってるけど、客観的にはどっちもダサいです(笑)。劇中劇の作品も「蒲田行進曲」「熱海殺人事件」「ロッキー・ホラー・ショー」の要素が入ったり、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をやたらとエンターテインメントな味付けで上演してみたり。本当にバカバカしい僕らの等身大の姿が入っているので、そこは笑って貰えると嬉しいです。
丸尾丸一郎
ーー前作のオフィス鹿プロデュース公演『親愛ならざる人へ』では、元宝塚歌劇団トップスターの久世星佳さんがご出演されました。「宝塚奇人歌劇団」の参考になるようなことはありましたか?
そうですね。久世さんとは森山未來くん主演『変身』という作品で共演させて頂き、そこからのご縁です。当時、久世さんを見て思ったのは「自分では届かない世界があるんだな」と。僕は小劇場から芝居を始めて、今でも東京でずっと頑張っているんですが、どうしても舞台上では何かしていないと間が持たない、貧乏性な所がある。でも久世さんたちは、自分がいることで間が持つということを知っている。それがなんか、腹立ちます(笑)。やっぱり、最初から多くの観客に見られている環境で、演劇と触れ合ってきた人たちの自信というか。もちろん、それだけのスキルがあって、僕らよりもずっと高い次元で昔から戦って来られた人たちだからこそなんですけど。僕らもスキルを身に付けることは必要だし、同時に小劇場から這い上がって来た泥臭さをどう商業演劇を好むお客さんにも通用するように、消化していくのか。その2点は、今もずっと取り組んでいるところです。
丸尾丸一郎
ーー昨年15周年の節目を迎えられました。劇団のあり方にも変化はありましたか。
上京してきた当時は、メンバーも僕もみんなが同じ目線に立っていたけど、今は並走ではなく僕やチョビが引っ張っていく感じなので、劇団としては同じ方向を見やすいです。同じ電車に乗ってくれる人たちに、もっと遠くの景色を見せたいし、一緒に旅をして行きたいなと、この2作品の稽古をしながら強く思いました。逆に当時のほとばしる感じや勢いみたいなものは、弱くなっている部分かもしれません。ただ、若いメンバーたちも自分たちで集まって公演を発表するようになったりしていて、そこはすごく期待しているところ。やっぱり興行を打つというのは、僕たちの気持ちにも近づいてくることだと思うし、そこは責任を持って色んな事に取り組んでくれたら良いなと思います。
丸尾丸一郎
ーー最後に、20周年へ向けての夢や目標とは?
僕らはお客さんが芝居を観る第一歩目の劇団になれたら良いなと思っていて、いい意味で庶民感覚を失わずにいたい。自分たちのスタイルは崩さないまま間口は広く、僕らを観た上でもっと深いお芝居の沼にハマって頂けたら良いのかなと。商業演劇を見慣れているお客さんたちもどんどん取り込んで、広くは観劇人口を増やしていくことに取り組んでいきたい。夢は新橋演舞場と武道館での公演です。20周年にやろうと思うと、そろそろ会場を押さえてないといけないんですけど(笑)。まずは、今回の2作品から。僕らも代表作だと胸を張って言える作品なので、どうぞご期待ください!
丸尾丸一郎
取材・文・撮影=石橋法子
■演出:菜月チョビ
■音楽:オレノグラフィティ、入交星士
■出演:丸尾丸一郎、菜月チョビ、オレノグラフィティ、橘 輝、鷺沼恵美子、浅野康之、近藤茶、峰ゆとり、有田杏子、椙山さと美、メガマスミ、木村さそり(以上、劇団鹿殺し)、オクイシュージ、川本成(時速246億)、小澤亮太、今奈良孝行、美津乃あわ 他
■日程:2017年6月2日(金)~18日(日)
■会場:本多劇場