『スプリット』M.ナイト・シャマラン監督インタビュー オリジナルにこだわる‟奇才”が舞台とテレビ、アメコミ映画を語る
『スプリット』M.ナイト・シャマラン監督
『シックス・センス』『ヴィジット』のM.ナイト・シャマラン監督による最新作『スプリット』が5月12日より公開される。同作はジェームズ・マカヴォイ演じる23人の人格を持つ男と、彼が誘拐・監禁した3人の女子高校生がスリリングな駆け引きを繰り広げるサスペンス・スリラーだ。本国アメリカでは3,038館で公開され、オープニング3日間(1月20日から22日)で全米興行収入4,019万ドル(約45.7億円=1ドル113.7円計算)を売り上げ、初登場1位を記録。公開2週目も首位に輝き、シャマラン監督にとっても、ここ7年で最高興行収入を上げた作品となった。「驚きのある結末を毎回用意する」「オリジナル脚本の映画にこだわる」など非常に個性の強い作風で知られるシャマラン監督だが、ここ数年はテレビシリーズへの進出や、続編企画など、その活動に新たな展開も。今回のインタビューでは、”新たなシャマラン”の象徴ともいえる『スプリット』を通して、彼の演出のルーツや俳優に求める資質、今後の展望について語ってもらった。
『スプリット』とシャマラン監督のルーツは‟妻”?
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――『スプリット』は解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder=DID)が大きなテーマになっています。いわゆる“多重人格”として映画化しやすいモチーフですが、今作のように前向きな捉え方をしたものは初めて観ました。
DIDを描いた映画はいろいろあるとは思いますが、この障害を正面からはっきりと捉えた作品はあまりないと思います。『イブの三つの顔』(57年)が最後だと思いますが、それもだいぶん昔の映画なので。もともとDIDにはとても興味がありました。幼少期に壮絶な体験をして、そのせいで超常現象的なことが出来るようになる、というのはすごいことだと思っていたんです。
――DIDについては、ニューヨーク大学(NYU)時代から興味があったそうですが。
ええ。映画学科に通っていたのですが、NYUではどの教科も採ることができたんです。ちょうど好きだった女性が心理学専攻だったので、ぼくも同じクラスを選んだんですよ(笑)。でも、それが正解でした。そのコースを採ったから、今、自分の作品を心理学の視点から撮ることも出来ていますし、なによりその女性と結婚できたので(笑)。
――素晴らしい選択ですね(笑)。主人公・ケビンに23の人格があるいう設定から、実在した解離性同一性障害の犯罪者ビリー・ミリガンを思い浮かべる方も多いと思います。モチーフはビリー・ミリガンなのでしょうか?
3人の女子高生の中心人物・ケイシーを演じたアニャ・テイラー=ジョイは21歳の若き女優 (C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
ものすごく影響を受けていますよ。日本に来て、みなさんがビリー・ミリガンについて知っていたのがすごく嬉しかったです。以前日本に来たときも、「え!?ビリー・ミリガンを知ってるの?」とすごく驚きました。というのも、日本以外だとビリー・ミリガンはほとんど知られていないので(笑)。日本のみなさんがビリー・ミリガンをよく知っていてくれているのは、『スプリット』という作品にとって、マーケットがあっているという意味でもいいことだと思います。
――23人の人格それぞれが物語の中で重要な役割を果たしているのが印象的でした。どういった観点からキャラクターを考えられたのでしょうか?
人格を、受け入れられる良いグループと、受け入れられない悪いグループに分けています。その悪いほうのグループが全面に出てきてしまって、彼の中でクーデターを起こして女の子たちを誘拐してしまうのですが、中でも3人の人格に焦点を絞るようにしました。
”舞台の演技”とテレビドラマ、アメコミ映画について
M.ナイト・シャマラン監督(左)とジェームズ・マカヴォイ(右) (C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
――23人を演じ分けたマカヴォイさんの演技は凄まじかったです。彼を最初に認識した作品と、起用しようとした理由を教えてください。
『ラストキング・オブ・スコットランド』のドクター役の、すごく地に足の着いた演技がすごく良かったですね。『スプリット』には、すごくいいものを持っているのに、なかなかそれを発揮できる作品に出ていない、そういう機会に巡り合っていない俳優を探していました。スーパースターに、今までやったことのない役をやらせたいというところもあったのですが。あとは、これだけダークな映画を善意を持ってやってくれる俳優。ジェームズはその要素を全て兼ね備えていたんです。彼は最初から、「殺されるかもしれない」と思わせるほどの素晴らしい演技をしてくれました。もちろん、今までもすごくエレガントに見せる演技をしていたので、それもリスペクトしています。
――マカヴォイさんは、日本では『X-MEN』などの映画の俳優としてよく知られていますが、もともとは舞台の俳優さんですね。本作では、そのスキルが存分に発揮されていると思いました。彼が舞台出身だということも、魅力の一つだったのでは?
それはすごく重要な要素でしたね。これは偏見なのですが、わたしは、舞台、映画、テレビの順で俳優の技術的なレベルが優れていると思っています。もともと、わたしの映画の撮り方はどちらかと言えば舞台的なので、一つのテイクが長いことが多いんです。そういったとき、例えばひとつのセリフにも1000通りの言い方があると思うんです。言葉は変える必要はないんですが、1000通りのリアクションが欲しい。あるカットでは怒りを感じる言い方だったら、次のカットではシンパシーを感じる言い方をする、という演技はとても素晴らしい。「どんどん色んなものをくれ」と思わせてくれるので、やっぱり舞台俳優のほうが技術的に優れていると思います。
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――本作では、1ショットでマカヴォイさんの顔が次々と変化するシーンに驚かされました。
あのシーンは技術的にすごく難しくて、2回撮ったんです。初日に1回撮り終えたんですが、撮影が終わってから追加で撮り直しています。舞台の演技についてはもう少しお話したいことがあるんですが。
――それはぜひ聞かせてください。
これまで一緒に仕事をしてきたある女優さんがブロードウェイに出演するというので、観に行ったときのことです。彼女は最高で、本当に素晴らしい演技をしていたんですが……最後の重要なセリフを、相手役の俳優がいつもとは違う言い方でパスしてきたんです。ところが、それを受けた女優さんは、いつもと同じような返しをしてしまった。
――アドリブに反応できなかったんですね。
舞台が終わったあと、その女優さんと食事に行って、「どうだった?」と訊かれたんです。わたしは、「素晴らしかったよ。だけど、最後の一行で君が言ったセリフは、映画的な演技だったね。映画なら編集でなんとかできるけど、舞台ではそれはできない。あのパスを受けたら対応しなきゃいけないのに、君はそれを聞いていなかったね」と言ったんです。
――ハッキリ言いましたね(笑)。
彼女はその時じわっと涙を浮かべていました……でも、その後その舞台で賞を獲りましたけど(笑)。
――俳優さんの瞬発力を重要視されているんですね。
そう、とても重要なことです。他のことを考えていちゃいけない。その瞬間の全てを受け止めていて欲しいです。
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――舞台と映画のお話をされましたが、ここ最近は『ウェイワード・パインズ』でテレビの仕事をされたり、原作のある『Tales from the Cript』のような作品も手掛けられています。今後もテレビや原作のあるものをやる意欲はありますか?
テレビがどんな形で自分の人生に関わってくるのか、ということにはまだ折り合いをつけていないんです。というのは、やっぱり、わたしが一番情熱を持っているもの、愛しているのは“オリジナルの映画”なので。とはいってもテレビも好きで、色んな監督や脚本家と一緒に一つの作品を作っていくのは楽しいです。それに、長い時間を使って作品を構成できるという魅力もある。ただ、自分の人生の中で、それがどのくらいの割合を占めるものになるか?というのは、まだちょっとわからないですね。
――なるほど。もう一つ、『アンブレイカブル』と『スプリット』については、続編を作る予定がある、と発表されていますね。これまで続編を作られたことはないと思いますが、なぜ?
この2作品については、ネタバレになるのであまり詳しくお話できないですが……もともと、『アンブレイカブル』は3部作の構成で考えていた作品なんです。このお話はもう少し長い時間を使って伝えたいと思っていたので。ただ、そう思ったのは、この作品(『アンブレイカブル』)が初めてですね。
――『アンブレイカブル』と『スプリット』からは、シャマラン監督がアメリカン・コミックがすごくお好きだということが伝わってきました。例えば、他にもアメコミ的要素のある作品を撮るご予定はありますか?
完全にあり得ない、ということはないです。今までも、スタジオとコミックのタイトルについて話をしたことはありますよ。アプローチの仕方さえよければ、アリかな、とは思っています。『LOGAN/ローガン』を観て、「こういう感じだったらわたしが撮ってもいいな」と思えたので。
――逆に言えば、ストレートなアメコミの映画化にはあまり興味がない?
興味が全くないわけではないですが……わたしは今の自分の強みが何かを理解しているつもりです。例えば、ウェス・アンダーソンだったり、クエンティン・タランティーノだったり、ウディ・アレンなんかには、彼ららしい作品しか作ってほしくないと思っています。いわゆるスタジオ映画を彼らに撮らせても、面白いとは思えないんです。わたしも、2分ほど見せて、「これは誰の作品かわかる」と言われるような作品を作りたい。だけど、2分ほど見せて、「これはだれでも作れるでしょ」と言われたら、それはわたしの判断が間違っていたんだな、と思います。
――あくまでも自分のカラーが出るものである、という条件付きということですね。
そうですね。作品のテーマが、自分の“声色”にあうものであれば撮りたいです。
映画『スプリット』は5月12日(金)全国公開。
作品情報
映画『スプリット』
監督・製作・脚本:M・ナイト・シャマラン
製作:ジェイソン・ブラムほか
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アニヤ・テイラー=ジョイ、ベティ・バックリー、
ジェシカ・スーラ、ヘイリー・ルー・リチャードソンほか
字幕翻訳:風間綾平
配給:東宝東和
公式サイト:http://split-movie.jp/
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