深沢潮の10CMライブレポート ~言葉で紡ぐ自然体エロ?~ 

レポート
音楽
2017.5.16
 (PHOTO:AKIYOSHI YOKO)

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 シプセンチのライブは初めてだった。

 小説を書く事を生業としている私は、その頃スランプに陥っており、言葉を紡ぐことの難しさを実感していた。だから、気分転換という心持ちでライブを気軽に楽しむつもりだった。

 シプセンチ? 10CM? あ、知ってる知ってる、よく見る音楽番組にも出てたし、確かドラマのOSTも……。これが、ライブの誘いを受けたときの私の反応だ。ちなみに私はKARAからK‐POPに浸かり始めたありがちな愛好家で、大好きなアーティストは2PMで、K‐POPは全般的に追っているという、実にわかりやすい、言い換えれば、よくいるタイプである。

 ライブに行く前に、少し彼らについて調べてみた。歌詞がきわどい、という記事をネットで見つけ、二~三曲、翻訳を見ては、ほほう、なるほどーとニンマリしつつ、あえてそれ以上詳しい情報を入れていかなかった。ライブでは、先入観なしに彼ら二人をありのままに感じようと思ったのだ。

 4月22日土曜日、重く雲が立ち込め、今にも雨が降りだしそうな空の下、私は埼玉芸術劇場に足を踏み入れた。さまざまな舞台演劇が催されたこのホールは、普段私が行き慣れているK-POPのライブ会場とは趣が異なり、なんだかちょっと敷居が高いような感じがした。それぐらい建物の外観も、内装も、シックで洒落ていたのだ。

 ともあれ、興奮というよりはじゃっかんの緊張気味にシプセンチの二人が出てくるのを待っていた。会場が暗くなり、静寂のなか、ライブが始まる。ユン・チョルジョン君の生ギターとともに、クォン・ジョンヨル君の歌声が響きわたる。このホールはなんと音響のすばらしいことか。

 なんだ、この涼しい顔をした二人のデュオは。想像以上に爽やかではないか! エロい歌詞とは結びつかないけど、好きだなあ、この感じ。

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 三曲続いたところで、MCが入る。ステージの上部に設置されたスクリーンに同時通訳の日本語が超高速で表示される。しかし、最初から、甘い言葉は見られない。

 「みなさん、美しいですね~」とか「愛してますよ~」といったようなアイドルグループの予定調和的なリップサービスはそこにはない。ものすごく等身大な言葉が並ぶ。そして、それを受ける300人近い観客も、とてもリラックスしている。

 ああ、自然体なんだな、と思う。

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 続けて披露された曲のなかには、私も予習済みの、ネ・ヌネマン・ポヨ(ドラマ鬼のOST)があった。恋に落ち、その人のことばかり考えてしまう男の心理が素直に描写されている。そして、アナジョヨ(抱きしめてよ)という曲。この曲は歌詞がすごい。

 「ちょうだいよ」とか、「くださいよ、だきしめてよ」と懇願のあとに、「腰がくだけるくらいに、鎖骨が粉々になるくらいに、後ろの首が凝るように、全身が赤くなるように、抱きしめてってば」だって!

 この歌詞、いやらしすぎるではないか。だけど、メロディがねっとりしていないから、聴いていてこっちが小っ恥ずかしくて居心地が悪くなるということはない。いやあ、新鮮な体験。

 私の好きな2PMもエロいんです。なにがって、肉体が。いや、そんなことはみんな知っていますね。ライブでの2PMは女性ダンサーとのセクシーな絡みや、ほれ見ろ、と言わんばかりの上半身の裸体披露もあるわけです。もちろん、ちょっとエロい曲もあるんです。そしてそれも彼らの魅力のひとつなのです。

 だけど、シプセンチのエロさってまたちょっと違うんだよなあ。自分の体験に置き換えてエロを体験出来る感じ。それは、視覚的エロでなく、言葉による感情的エロとでも言うべきか。

 どっちのエロも必要なのだ。

 肉汁したたるステーキもいいけど、生ハムだって美味しいよね、っていう。

 甘味もいいけど、塩味もいいよねっていう。

 私は、K‐POPボーイズグループの過剰さといじらしさの同居するところがとても好きだ。だけど、シプセンチみたいなエッジの効いたそれでいて肩の力が抜けている(ように見える)アーティストもいいな、とライブが進むに連れ、彼らの魅力に取り込まれていった。

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 その後も、大ヒット曲「春が好き??」など、軽妙なトークを挟みながらライブは続いていく。「春が好き」は、春にいちゃつくカップルがムカつく、春そのものが嫌い、みたいな本音炸裂の歌。わかるよ、わかる、そうだよね、まわりの幸せを妬みたくなるよね、リア充死ねだよね、と頷く人がたくさんいるだろう。皮肉と恨みがたっぷりの毒っぽさがたまらない。気がつくと、20曲近い曲を聴き、ライブは終わっていた。

 作りこまれていないデュオ、シプセンチのライブ体験は、私に言葉の大切さ、奥深さ、を再認識させてくれた。ときにストレートに、あるいはときに周縁から物語る彼らの歌詞は、とても刺激的だった。そして、彼らの奏でる心地良いメロディに癒された。シプセンチには独特の世界観があり、それは唯一無二のものだ。

 私も頑張って小説を描いて、自分の世界を作りたい、強くそう思ったのでした。

 あれからCDを繰り返し聴いている。それにしても、なぜ韓国のアーティストにはここまで中毒性があるのだろう。大手事務所がマーケティング調査して研究しまくって作った曲ならまだしも、シプセンチみたいに気負いのないシンガーソングライターも例外ではない。

 シプセンチって、弘大の路上とかにいそうだよねーと思ったら、本当に弘大のストリート出身だった。

 そういえば、昨年の夏、19歳の息子と16歳の娘と弘大に行った。息子のパチモンブランドモノ探しと娘の洋服コスメ探しに付き合うのに疲れて、私は一人で子供たちの買い物が終わるのを待つためにカフェに入った。あそこのアイスアメリカーノがすごく美味しかったなあと、シプセンチのCDを聴きながら、思い出している。

 「アメリカーノ」という曲は、歌詞にほとんど説明がない。コーヒーのアメリカーノを連呼するのだが、そこには聴き手の想像する余地がある。それぞれがコーヒーを前に自分の物語を思い返すことができる。

 私はスランプから抜け出せるような気がしてきた。コーヒーを淹れて、シプセンチのCDを流しながら、さっそく新しい小説を書き始めよう。

 シプセンチ、ありがとう!

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公演記録
10CM NIGHT ~ オヌルパメ Vol.4(公演終了)
■日時:2017年4月22日(土)
会場:埼玉芸術劇場
出演:10CM
■公式サイト:http://www.10cm-kjmusic.com/
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