全国的に人気急上昇中!「劇団壱劇屋」大熊隆太郎にインタビュー

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2017.5.22
大熊隆太郎(劇団壱劇屋) [撮影]吉永美和子

大熊隆太郎(劇団壱劇屋) [撮影]吉永美和子


「壱劇屋というパイプを通って、どんどん演劇の沼に落ちる人が出て欲しい」

パントマイムを駆使したスタイリッシュな世界から、ギャグ満載のアクションものまで。高い身体性を武器に、幅広いスタイルの芝居を繰り広げている大阪・枚方の劇団「劇団壱劇屋」。最近は東京や名古屋でも公演を行い、前回公演の『SQUARE AREA』は「CoRich舞台芸術アワード! 2016」で全国第一位を獲得するなど、活動範囲の広がりとともに注目度も急上昇している。現在の劇団の方向性を決定づけた『新しい生活の提案』再演を前に、主宰の大熊隆太郎に話を聞いた。


■「パクリ」にこだわらず、面白いと思うことを素直にやっていく。

──壱劇屋は高校演劇の仲間で結成したそうですね。

僕は2004年度卒業なんですけど、僕らの代で高校演劇コンクール近畿大会で最優秀賞を取って、全国大会の切符を手にしたんです。だけどその前に僕らは卒業して、全国大会は後輩が行ってくださいということに(笑)。そういうシステムになってるのは最初からわかってたんですけど、それでも「もうちょっとやりたいよね」という話になったのが始まりです。最初は遊びの延長だったんですけど、2008年に僕が座長になってから「芝居で頑張ろう」という話になって、そこから正式に劇団としてスタートしました。

──最初から、今のようなフィジカル性の強い芝居を作ってたんですか?

いや、もともと僕はお笑いが好きだったので、最初は純粋に笑いがやりたかったんですよ。でも演劇をやっていくうちに、変な物を見せて驚かせるとか、笑い以外でも楽しませるということが面白くなってきました。パントマイムもその一つです。最初はコメディのネタとしてやってたんですけど、我ながら意外と巧くて(笑)、普通に「すごい」と言われるようになったんです。それで(マイム俳優の)いいむろなおきさんの所で1年かけてマイムを学んで、さらにデラシネラの小野寺修二さんのマイム公演にも出演しました。そこで2人の技術とか考え方を吸収…というよりも盗んで、自分の劇団に還元していったんです。

──具体的にどんなものを盗んだんでしょう?

いいむろさんからは、パントマイムそのものの技術です。「身体をこう動かすにはどうすればいいか」とか「こういう風にすれば無言でも情報を伝えられる」とか、技術的な所をかなり盗みました。小野寺さんの方は、作品作りの方法。こんな空間構図を使えば、こういう面白い風景ができるとか、役者にはどういう意識を持って演じてもらうのかとか。自分が求めるものを作っていくには、どういうアプローチをすればいいかを実際の現場で体験できたのは、すごく大きかったです。

──その一方で、旗揚げメンバーの竹村(晋太朗)さんは、本格的なアクションを学んでたそうですね。

東京の学校まで武者修行に行ったんです。本人あまり言いたがらないんですけど、その学校は主席で卒業したんですよ。そんなに有望だったら、もう東京の事務所に入って、スタントマンとしてやって行くんだろうなあ…と勝手に思ってたら、帰ってきた(笑)。彼は殺陣ができるだけでなく、稽古でも中心になって「こういうのはどう?」というアイディアをくれるし、しかも僕よりもベタな物が好きだから、違うニュアンスのものを出してくるんですよ。「絶対僕やったらこうせえへん」っていうようなものを。

『SQUARE AREA』(2016年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)

『SQUARE AREA』(2016年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)

──壱劇屋さんがたまに、劇団☆新感線のネタものを思わせるベタなギャグ芝居をするのって、竹村さんの影響が大きかったんですか?

それは絶対ありますね。竹村経由で、新感線のネタものに影響を受けました。でもそれに限らず、いろんなモノに影響されていることをあまり恥じないようにしてから、昔より気持ちを楽にして創作ができるようになったと思います。昔は「誰も観たことがない物を作らなきゃ」という気負いが強かったけど、今は「それパクリやん」と言われても「ええよ、そう思われても」って感じですね。

──昔観た芝居とちょっとかぶって見えても、それはまあいいかと。

この前の(ダンサーの)山下残さんのバリダンスの公演を観ても思ったんですけど、やっぱりダンスの振付って無限にあり過ぎるし、まったく観たことがない振付なんて、もはや無理ちゃうかって思うんです。たとえ「これは観たことない」と思っても、それは自分が知らんだけで、きっと世界のどこかで誰かがやってるだろうと。というのを考えると「パクった」「パクってない」にこだわるのって、ホンマに小っちゃいなあと思うんです。それだったら、その時自分が一番面白いとか、適切だと思うことを素直にやる方がいいなって。

──とはいえ一昨年の「MASHUP PROJECT(※関西小劇場界の名作戯曲を上演する連続企画)」でも思いましたけど、たとえ他の劇団の芝居を再現……ある意味では「パクった」としても、ちゃんとオリジナル性を感じさせる芝居にできる劇団員がそろってるのが、壱劇屋の強みじゃないかと思います。

弱気なことを言うようですけど、僕らは本職のダンサーには勝てないし、俳優に特価した人にも太刀打ちできないし、お笑いだって芸人さんには勝てない。何か本当に微妙に、専門職じゃないんです。でも逆に言うと「壱劇屋」の専門職人であり、生粋の専門職にはできないことができる、という風になっていけばいいのかなあと。内容的には…MASHUPがまさにそうだったんですけど、僕の新作がやりたいとか、僕の信念を表現したいというこだわりはないんです。一番は「何か面白い芝居がやりたい」ということ。そのためにはいろいろな所から面白い本を見つけて、それを劇団員たちと組み合わせたらどうなるか。あるいは、その本に適切な場所でやってみるとか。そんな風に、いろいろな素材をどう料理するかみたいな所から、やりたい方向にシフトしていけたらなあと思っています。

劇団壱劇屋MASHUP PROJECT VOL.1『GOLD BANG BANG!!』(原作:末満健一)(2015年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)

劇団壱劇屋MASHUP PROJECT VOL.1『GOLD BANG BANG!!』(原作:末満健一)(2015年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)

■どんどん過剰になっていく人生ゲームを観てるみたいな感じです。

──あと壱劇屋さんは大阪じゃなくて「枚方が拠点」とアピールしていますけど、枚方を拠点にした利点みたいなことってあるんでしょうか。

大阪と京都の中間地点にあるから、純粋に表現をしているという京都の感じと、お客さんに何とかアクセスしようという大阪の感じから、均等に影響を受けることができたなと思います。あと単純に、地元と言える場所があるのは強いですね。今の枚方って「ひらパー」(ひらかたパーク)で全国的に名前が知られたりと、割と街自体に勢いがあるので、うまくその波に一緒に乗れたらなあと。

──『新しい生活の提案』を再演しようと思った理由は。

これを作った20代前半の頃は、作りたいものがあり過ぎて困るぐらいの時期やったんです。やりたいことがやれたらいいから、クオリティは置いといてとにかく詰め込んでいこう、みたいな感じで。だから練習不足のために台詞を噛むしトチるし、制作面もボロボロだしと、まだプロ意識がなかったんですね。でも内容としては「身体表現と物語と普通の台詞のシーンが全部組み合わさって、一個の作品になるというのはこういうことか」という手応えというか、配分の調合の仕方がつかめてきた作品でもある。だから昔の完成度と、今の僕らの完成度とで一番振り幅がでかくなるのはこの作品かな、と思いました。

劇団壱劇屋『新しい生活の提案』(初演/2012年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)

劇団壱劇屋『新しい生活の提案』(初演/2012年) [撮影]河西沙織(劇団壱劇屋)

──一人のサラリーマンが、役所の「生活課」でいろいろ手続きをするうちに、どんどん生活が変わっていくという内容は、ちょっと不条理SFっぽいですね。

僕が作ってる芝居は、星新一のショートショートとか『笑ゥせぇるすまん』みたいな、日常がちょっと変な視点で描かれたり、不気味な所に突っ込んでいくみたいな雰囲気のものが多いです。この話はすごくシンプルで…たとえば嫁との仲が冷えてるので、それを相談したら行政が動いて、家に帰ったら違う嫁がいるという。それに気をよくして、生活を自分に合わせてどんどん変更していくうちに、どんどん何かが狂っていく。本当にわかりやすい、何かの昔話のようなストーリーです。

──『笑ゥせぇるすまん』の、喪黒福造の「ドーン!!!!」の後をマイムで見せる、みたいな。

そうですそうです。どんどん過剰になっていく人生ゲームを観てるみたいな感じ。でもこの物語はもともと、不条理コントのワンシーンから発展したものなので、全体的にはダークな雰囲気でも、やってる内容は割と不条理コントの連続なんですよ。ストーリーだけ説明すると「怖い話なんですか?」って聞かれますけど、笑える話ですよと。それで笑っているうちに、最後にちょっとえらい所まで来ちゃったなあ…となるような感じです。

──今後の野望みたいなものってありますか?

先日海外のフェスティバルディレクターの人たちに、自分たちのプレゼンをするという企画があったんですけど、上手いこと伝えられなくて結果はボロボロで(苦笑)。でもその中で一個だけ、共通で「これはいいね」って言われたのが「パブリックとマニアックの間」という言葉でした。大衆性とマニアックな所をつなぐパイプというか…その2つの間に立って、初めて小劇場を観る人に「演劇ってすげえな」って思ってもらうのが僕らの役目じゃないかって、勝手に自負しています。

大熊隆太郎(劇団壱劇屋)。ちなみに彼の十八番である江頭2:50のモノマネ。 [撮影]吉永美和子

大熊隆太郎(劇団壱劇屋)。ちなみに彼の十八番である江頭2:50のモノマネ。 [撮影]吉永美和子

──確かに壱劇屋さんの世界は間口が広い上に、演劇のいろんな表現を使っているから、初心者が入るにはピッタリですね。

演劇ってたとえばダンスがすごいとか、ドラマが優れてるとかいろいろなものがありますけど、そういう何かに特化した演劇でも、多分初めて観る人は「すげえ」ってなると思うんです。でも僕らは、その辺のいい所を全部盗んで出してるので、そういうのを全部含めて「舞台すげえ」って思ってもらえるんじゃないかなと。そこから枝分かれ的に、もっと表現だけを抽出したような作品や、もっと竹を割ったようなエンターテインメントに行ってもらったらいい。その本当に中間の地点にいて、いろんな舞台に中継していけたらなと。

──そのためには踏み台になっても構わない?

全然いいです。どんどん踏み台にしていってください(笑)。そしてうちはうちで他所とはちょっと違うことをやってるので、また来てくださいねと。そして観れば観るほど、演劇にはもっと沼があるよというのに気づくと思います。壱劇屋というパイプを通って、演劇のいろいろな沼にはまる人が増えてほしいというのが、僕らの野望です。あとは枚方を拠点にしている以上、やっぱりひらパー兄さんになりたいですよね(笑)。

──岡田准一の後釜は俺たちだ! と(笑)。

来年うち10周年なんで、ひらパーで何かできないかって考えてるんですよ。あそこにはステージもあるし、まずはひらパー劇団になる所から始めようかなと思っています。

劇団壱劇屋『新しい生活の提案』公演チラシ

劇団壱劇屋『新しい生活の提案』公演チラシ

公演情報
劇団壱劇屋『新しい生活の提案』
 
《大阪公演》
■日程:2017年5月26日(金)~31日(水)
■会場:HEP HALL
※全公演日替わりゲストあり。スペシャルステージやイベントのある回もあり。詳細は公式サイトでご確認を。
 
《愛知公演》
■日程:2017年6月3日(土)・4日(日)
■会場:千種文化小劇場
※6月3日はボールペン(非売品)プレゼントあり。
《東京公演》
■日程:2017年6月22日(木)~27日(火)
■会場:萬劇場
※6月22・23日はボールペン(非売品)プレゼントあり。スペシャルステージやイベントのある回もあり。詳細は公式サイトでご確認を。
 
■料金(三都市共通):前売=一般3,800円、学生(U-22)2,000円、高校生以下(U-18)1,000円 当日=各500円増
■作・演出:大熊隆太郎
■出演:竹村晋太朗、安達綾子、西分綾香、丸山真輝、藤島望、岡村圭輔、小林嵩平/高安智美(劇団SOLA)
■公式サイト:http://ichigekiyaoffice.wixsite.com/ichigekiya
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