Kバレエカンパニー『海賊』 男共がダンスバトルを繰り広げるドラマティックな舞台「ウチの海賊たちはジャック・スパロウよりカッコイイ」

レポート
クラシック
舞台
2017.5.26
熊川哲也芸術監督 撮影=西原朋未

熊川哲也芸術監督 撮影=西原朋未

画像を全て表示(7件)


5月24日から東京Bunkamuraオーチャードホールで幕を開けるKバレエカンパニー『海賊』のゲネプロがこのほど行われた。初演から10年を経てバレエ団の“鉄板作品”となったこの舞台、この日はコンラッドに遅沢佑介、メドーラにゲストプリンシパルの中村祥子、アリには伊坂文月が登場。熊川哲也芸術監督が「ウチの海賊たちはジャック・スパロウよりカッコイイ」と語る男共と美女たちの、熱気あふれるドラマチックな冒険世界が繰り広げられた。幕間に行われた熊川監督のインタビューも交えながら、ゲネプロの様子をご紹介しよう。

『海賊』は自分を育ててくれた作品

熊川監督が『海賊』を演出・振付し初演したのは2007年。「自分を育てて、引き立ててくれた、しかし闇に埋もれたこの作品を世に出したいと思った」という。

そもそもこのバレエ『海賊』は、1856年初演の原典はほとんど不明と言われる作品だ。長い歴史のなかで振付やストーリー、登場人物など様々な要素が加えられ、音楽も初演時のレオ・ドリーブにリカルド・ドリゴ、チェザーレ・プーニ、オルデンブルク等々、いろいろな曲が付け足されて今に至っている。現在一般的に古典作品として上演されるプロダクションは1899年、マリウス・プティパによる改訂版をもととしたものが多い。メドーラとアリのグラン・パ・ド・ドゥはガラ公演でよく上演され非常に有名でだが、『海賊』そのものは『白鳥の湖』をはじめとする三大バレエや『ジゼル』などの上演回数に比べると、全幕公演を目にする機会は確かに少ないだろう。

『海賊』パ・ド・トロワ (C)Shunki Ogawa

『海賊』パ・ド・トロワ (C)Shunki Ogawa

Kバレエカンパニーの、いわゆる『熊川版・海賊』は、プティパの振付をベースに、音楽を見直し組み換え、ストーリーも海賊の首領コンラッド、絶対的な忠誠心を持つ奴隷アリなど、キャラクターの立ち位置に一層明確さを持たせている。物語に筋が通っているので、観る者もすんなりと舞台上の世界に入っていくことができるのだ。

メドーラの登場 (C)Shunki Ogawa

メドーラの登場 (C)Shunki Ogawa

そしてストーリー展開もまた実にドラマティック。そこに生き生きと踊るダンサー達がさらに物語に深みを与える。初演から10年を経た作品は、細かい修正が加えられより洗練され疾走感を増し、豪華な舞台セットと共々、そして圧巻のクライマックスで観客を魅了する。Kバレエカンパニーでしか見られない世界だ。
 

アリをよく知る熊川だからこそのキャラクター

この作品の見どころは熊川監督が「男共のギラギラとしたダンスバトル」というように、男性の見せ場が実に多く、男性舞踊の好きな方には一層楽しい舞台となっている。なかでも海賊の頭領コンラッドと、その「絶対的な忠誠心」を加味した奴隷アリのそれぞれの存在感は要のひとつだ。

物語は冒頭、海賊の頭領コンラッドを先頭に、荒海に乗り出す男達が登場する。堂々とした体躯の遅沢の存在感が、実にボスらしく貫禄が感じられる。

コンラッドと海賊たち (C)Shunki Ogawa

コンラッドと海賊たち (C)Shunki Ogawa

海賊船の難破、コンラッドとメドーラとの出会いと恋。そして奴隷商人に連れ去られるメドーラと仲間の娘たちを追って、奴隷市場に乗り込むコンラッド一味。アリが奴隷市場の兵士たちを翻弄し撹乱するなど、随所に活躍の場があるのも熊川版ならではだ。

『海賊』1幕 グルナーラとランケデム 撮影=西原朋未

『海賊』1幕 グルナーラとランケデム 撮影=西原朋未

2幕はまんまとメドーラと奴隷市場の娘たちを救出した海賊たちが集まる洞窟シーンから始まる。有名なグラン・パ・ド・ドゥ――もとい、ここではコンラッドを加えたパ・ド・トロワをはじめ、海賊たちの踊り、フォルパン、本来3幕で踊られるオダリスクなど、見応えある踊りが次々と繰り広げられ、まさしく饗宴という雰囲気に。

メドーラに懇願され、娘たちに宝を持たせて家に帰すコンラッドに怒りをあらわにするビルバント。コンラッド、アリ、ビルバントの三者の様々な思惑が絡み合い、物語はクライマックスへ向けて疾走感を増す。

そしてクライマックスにアリ最大の見せ場が訪れるのだが、これを言ってしまうとネタバレになるので、これはぜひ劇場で見ていただきたい。アリを踊り「育ててもらった」という熊川監督ならではの思いが、そこには込められている。

『海賊』コンラッド、メドーラ、アリ 撮影=西原朋未

『海賊』コンラッド、メドーラ、アリ 撮影=西原朋未


『ジゼル』は中村祥子が初挑戦。新制作『クレオパトラ』も順調

Kバレエカンパニーでは『海賊』に引き続き6月には『ジゼル』を上演予定。この公演ではゲストプリンシパル中村祥子が『ジゼル』に初主演するほか、2013年にローザンヌバレエ国際コンクールで3位を獲得し、『海賊』でもアリ役を踊る山本雅也がアルブレヒトとして主演デビューすることになっている。

熊川哲也芸術監督 撮影=西原朋未

熊川哲也芸術監督 撮影=西原朋未

また、秋に公演予定の新作『クレオパトラ』は「現在1幕半まで終わったところ。舞台ならではの、紀元前のスペクタクルとしたい」ということで、こちらも楽しみだ。

『海賊』は5月24日からの東京公演を皮切りに、大阪、香川で上演される。さらに『ジゼル』、『クレオパトラ』の上演が続き、目が離せない。

公演情報
Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY Spring Tour2017
『海賊』

日程:2017年5月24日~6月17日

【東京公演】
Bunkamura オーチャードホール
5月24日(水)・25日(木)14:00~、26日(金)18:30~
メドーラ:中村祥子/コンラッド:遅沢佑介/アリ:伊坂文月、グルナーラ:小林美奈
5月27日(土)12:30~
メドーラ:矢内千夏/コンラッド:杉野慧/アリ:益子倭/グルナーラ:浅野真由香
5月27日(土)16:30~、28日(日)13:00~
メドーラ:浅川紫織/コンラッド:宮尾俊太郎/アリ:山本雅也/グルナーラ:白石あゆ美

【大阪公演】
フェスティバルホール
6月10日(土)14:00~
メドーラ:浅川紫織/コンラッド:宮尾俊太郎/アリ:山本雅也/グルナーラ:白石あゆ美

【香川公演】
レクザムホール(香川県県民ホール)
6月17日(土)14:00~
メドーラ:中村祥子/コンラッド:遅沢佑介/アリ:伊坂文月、グルナーラ:浅川紫織

 
 
公演情報
Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY Spring Tour2017
『ジゼル』

 
日程:2017年6月23日(金)~25日(日)
会場:東京文化会館

<出演>
6月23日(金)14:00~、24日(土)16:30~
ジゼル:中村祥子/アルブレヒト:遅沢佑介/ミルタ:山田蘭/ヒラリオン:杉野慧
6月24日(土)12:30~
ジゼル:荒井祐子/アルブレヒト:山本雅也/ミルタ:小林美奈/ヒラリオン:堀内將平
6月25日(日)13:00~
ジゼル:浅川紫織/アルブレヒト:宮尾俊太郎/ミルタ:矢内千夏/ヒラリオン:石橋奨也

シェア / 保存先を選択