感動の小説がついに舞台化『向日葵のかっちゃん』 三上真史、酒井敏也、わかぎゑふインタビュー

インタビュー
2017.6.16
向日葵のかっちゃん

向日葵のかっちゃん

画像を全て表示(12件)

小説家・西川 司が自身の小学校時代を振り返った自伝小説『向日葵のかっちゃん』がこの夏、舞台化される。時計も漢字も読めず小学校2~4年生を特別支援学級で過ごした“かっちゃん”が転校を機に、熱血の森田先生と出会って成長していくという物語で、累計5万部を売り上げた人気小説だ。脚本・演出を務めるわかぎゑふ、森田先生役の三上真史、校長先生役の酒井敏也の3人に見どころや自身の印象に残る先生を聞いた。

(左から)わかぎゑふ、酒井敏也、三上真史

(左から)わかぎゑふ、酒井敏也、三上真史

出会った先生で人は変わる

――原作『ひまわりのかっちゃん』(文庫化にあたり『向日葵のかっちゃん』に改題)の印象を教えていただけますか?

三上:涙しました。出会った先生で人は変わる。自分に重なる部分も多々あるんですよね。僕の場合は、かっちゃんと森田先生との出会いのようにプラスに働かず、逆なんですけど。小学校の時、僕の友達が人の物を奪ったことがあって、僕の友達か僕のせいか問われたことがあったんです。職員室に呼び出されて、僕の友達は「三上がやったんです」って言ったんですね。「僕はやっていない」と言ったんですけど、先生は友達だけを信じて、全然僕のこと信じてくれなくて。すごくショックだったんです。何があったのかきちんと聞かずに片方の言い分だけを聞いて信じ込んだんですよ。本当に悔しくて、ショックで、今でも覚えています。

「本当のことって本当じゃなくなるんだ」って、小さいながらも思ってしまって。人生が変わるような体験でした。その時森田先生だったなら違ったのかなって思います。先生・大人の一言や小さい頃の体験って、自分で忘れていても、突然ふと蘇ることがあります。……この作品読んだ時に、ハッとさせられました。これから教える立場になった時に、できる限り子供たちと同じ目線でいたいし、決めつけたくないと感じました。

三上真史

三上真史

わかぎ:私は4回ぐらい泣きました。絶対泣かないだろうと思っていたら、簡単にどこかでポロっと泣いて、この後はないだろうと思っていたら、次々泣いて、ちょっと騙されました(笑)。原作者の西川 司さんは同じぐらいの世代なのかなぁと思いながら読んでました。私は大阪育ちで、原作の舞台となる北海道とは全然違う環境だけれど、状況は同じぐらいの世代観だなぁって思いながら。

一番印象に残ったのは、“忘れられる子供”っているよなぁっていうことですね。兄弟が多いとか、家が忙しいとか、いろんなちょっとしたことで、忘れられちゃう子供っていたなと。私、4人兄弟の従兄弟がいて、その3男坊が親にもあんまり構ってもらえなかったんですよね。私は仲よかったんですけど。なんかそういう子供が多い家にあるちょっとした歪みみたいなものを、かっちゃんっていう子は受けていたんだろうなって思います。

わかぎゑふ

わかぎゑふ

酒井:泣きましたね。それで「ひまわり学級」って言うんだって思いました。小学校の時、僕らの学校では「複式学級」って言われていて。小学校3年生の春休みに友達が複式学級へ行ったんです。かげで「あいつ複式に行くんだ」とか言ってて、複式学級は行っちゃいけないところみたいなイメージがあった。西川司さんとほぼ同世代なんですよ、僕。

酒井敏也

酒井敏也

わかぎ:西川さんは59歳? あぁ、じゃあ私は同学年なのかな。

酒井:僕が小学3年生の時に家庭訪問があって、うちの親と先生が「この子はやればできる」って言う話をしていたんです。複式は逃れたんだけど「やらなきゃダメだ」って思って、漢字テストをすごく頑張って、できたんですよ。でも、1回きりしか頑張らなくて(笑)。勉強に関しては本当にやらなかったですね。製造業だったので、もうやりたいことは決まっていたし。

――ご自身の幼い頃を思い出しながら原作をお読みになったのですね。

酒井:そんなに劇的に変わるんですかね? 先生に出会って。『アルジャーノンに花束を』ぐらいすごくないですか? かっちゃんっていうのは今でいう発達障害ということですよね。

わかぎ:そうですね。発達障害だと思われていたということですね。

酒井:なるほど。そういう時代だったんですね。

メインカット撮影中も仲良しのお三方

メインカット撮影中も仲良しのお三方


 

「ちっちゃなトゲ」を抜く

――プラスの意味で、出会ってよかった先生はいらっしゃいますか?

三上:中学の部活の顧問が鬼顧問で厳しかったんです。2分遅刻したら2時間正座みたいな(笑)。でもすごく愛があって、必ず理由を尋ねてくれるんです。なぜ遅刻した? なぜそうなった? ちゃんと反省しろよって。その先生は生徒指導の先生でもあったのですが、生徒の話を聞いてくれて理解してくれるから、信頼できました。こういう人になりたいなと思いました。厳しいけれど、愛がある。それって伝わりますよね。親身になって聞いてくれて、理解してくれる。自分はかっちゃんの人生に比べたら平凡なものですが、誰しもがそういう経験ってあって、重なるものがある作品なんじゃないかなと思います。

三上真史

三上真史

酒井:中学校の時の科学の先生かなぁ。夏休み終わってから、先生が「夏休みに科学的なことをやったか」って聞いてきたんです。僕は星を見たと答えたんです。そしたら先生は「いいな。科学って実際の生活にはそんなに役には立たないけれど、科学的な考えを持つ勉強をしているんだぞ」って言ったんです。

高校に入った時に、科学の先生が「科学ってなんでやるのか分かるか?」って聞いてきたので、「科学的な考えを勉強するためです」って答えたら、「そうだ」ってすごく褒められて(笑)。その先生は高橋先生って言うんですけど、今でも、田舎に帰るとみんなで遊びに行くんですよ。

僕も友達にとっても高橋先生は森田先生のような存在だったと思います。経済的な理由で高校に行けない友達の家に行って、いろんな方法があるからって親身になって相談に乗ってくれたそうです。そいつはいつも言っています。「高橋先生のことは忘れられない」って。

酒井敏也

酒井敏也

わかぎ:何人もいらっしゃいますが……私たちは世代的に1960~1970年代に至るまでが小学生時代なんですね。そう、ちょうど、小学5年生の春休みから小学校6年生までが万博だった時期で。5、6年生はクラス替えがなくて同じクラスでして、理科系の男の森崎先生という先生が担任だったんですけど、タイプが森田先生と似ているんです。

万博では何を見たらいいかを話したり、学校の近くにコリアンタウンがありましたから在日韓国人と日本の歴史を話したり、冷戦時代でもあったので戦争が起きた時の日本の立ち位置なんかを話したりするような先生でした。月面着陸もみんなで教室で見ました。授業はろくにしないでね。

社会的にも、我々にとって小学校の5、6年生という時代はパッケージで人生の一大イベントだった。職人の子は職人になる、中学校卒業したら就職する子がいるとか社会に密着した子供が多かったのもあるんですが、とにかく森崎先生は印象に残っています。今でも、小学校の同級生で集まったら、みんなで森崎先生に会いに行くぐらいです。

――学生時代という多感期を見てくれていた“先生”という存在は、みなさんにとっても大切な思い出なのですね。

わかぎ:今は発達障害という病名がついていて、どうやって接してあげたらいいのかというのが理解が深まっているし、周囲の文化度が上がっているのはとてもいいことですが、私たちが子供の頃、かっちゃんのように出来ない子を理解できていたかは疑問です。ちっちゃなトゲが心に刺さった子供たちはいっぱいいたと思います。そのトゲを抜かないまま大人になった人もいると思います。森田先生に出会ってトゲを抜いてもらったことはかっちゃんにとって、とても大きかったでしょうね。私たちが小さい頃は、小さいトゲは抜くもんじゃねぇ、そのまま抱えてろ、みたいなのが普通の時代だったので。可能性を育てるというところまで社会がいっていなかったから。今の人の方が、そういう小さなトゲを感じて、抜いてほしいでしょう。そういう意味では、今こそ舞台化する意味があると思います。

わかぎゑふ

わかぎゑふ

――印象的なセリフや場面はありますか?

三上:「分からないことは恥ずかしいことじゃない」というのが印象的ですね。僕自身ハッとさせられました。今の世の中って、知らなきゃダメだみたいな風潮あるじゃないですか。知ったかぶりが嘘を生んでゆく、その場で繕っていく……。そういうことじゃないんだなと、当たり前のことを森田先生は教えてくれます。きちんと教わった子たちは、大人になってからそういう風にならないと思いますよ。分からないことは分からないと言っていいんですよ。誰だって最初は絶対分からないわけですから。それは芝居も同じことだと思います。出来ないことは恥ずかしいことではないし、不器用でも、もがいてやるものなので。

あとは、すべてにおいて一緒にやろうとする姿勢ですね。漢字を教えるシーンでも、書き順を教えるだけじゃなくて、その漢字の成り立ちなどから説明する。少しでも楽しい要素を見つけて結びつけて、子供の心をくすぐる。単なる受験勉強で覚えたことって忘れるじゃないですか。森田先生みたいな授業だったら忘れないんじゃないかなぁって。

(左から)わかぎゑふ、酒井敏也、三上真史

(左から)わかぎゑふ、酒井敏也、三上真史

原作よりも膨らませて

――今回かっちゃん役はWキャストで、掛け合いも多いですね。

三上:しっかりしてましたね!(笑)

わかぎ:そうそう。みんな大人はもがくんだろうけど、子役はもがかないでいい芝居してくれそう(笑)。みんなで負けるんだ(笑)。

三上:あはは。主演ですからね。でも、素直で純粋な感じの子供でした。かっちゃんととても通じるなと思いました。教えることをそのまま吸収してくれそうで。毎公演、実際にそこでリアルな授業があるので、いろいろ変わっていくと思うし、楽しみですね。かっちゃん役の阿由葉朱凌君と、戸塚世那君と絆を深めていけたらなと思います。

――脚本を拝読すると、酒井さんの演じる校長先生は長ゼリフが多いですが……。

酒井:そうなの?(笑)

わかぎ:めっちゃ出てくるで(笑)。脚本上の新キャラなので、校長先生が狂言回し的な存在になっています。今からプレッシャーですね。

酒井:それより、星野真里ちゃんがおかあちゃん役って言うのがビックリ。

わかぎ:おかあちゃん部分は原作よりかなり膨らんでいます。このままだとおかあちゃん可哀想だなと思って。おかあちゃんの人生を膨らませた。原作はかっちゃんの目線からのものだから、どうしても先生との思い出ばかりになっちゃうのでね。この小説だとおかあちゃんの終着点がないので、それは芝居では着地点をどうにかつけたいなと。

酒井:とあるコンサートで、星野さんの一家を見たんです。旦那さんと娘さんと。なんて幸せそうな一家なんだろうと思っていたから、その人がこのおかあちゃん役かぁ……。楽しみですね。

インタビュー中の様子

インタビュー中の様子

――最後に一言ずつお願いします。

三上:わかぎさんも仰っていましたが、『向日葵のかっちゃん』がわかぎさんの脚本・演出で膨らんでいる。小説を読んだ方も、舞台を観ていただくと、「あ、そうだったんだ」と登場人物の思いがつながるのではないかと思います。また、読んでいない方も、必ず自分自身の人生とつながる部分があると思います。わかぎさんが仰ったように、自分でも気がつかない「ちっちゃなトゲ」がスッと抜けるような作品なので、向日葵が咲くような気持ちになって頂けたらなと思います。ぜひ観ていただきたいです。

酒井:まずは、セリフを早く覚えます……(笑)。「分からないことは恥ずかしいことじゃない」ということ、そしてありのままでいいということを気づかせてくれる舞台だと思うので、幅広い年代の方に観ていただけたらと思います。

わかぎ:どちらかというと大人の人に観てほしいです。普通だったら子供に観てほしいというのでしょうけど、これから子供と対峙するような若い大人の方にぜひ観てほしい作品です。今こういう話って、もっと過度なものはたくさんありますけど、ちょっとした傷があるっていうことって忘れ去られがちで、スポットが当たらなくなっている。世の中にいっぱいある小さなトゲを少し抜けたらなと思います。三上君のようなこれからまさに子育てする世代や、これから孫ができるであろう50代60代に観てほしいですね。

――三上さん、ご結婚おめでとうございます!

三上:ありがとうございます。5月30日に正式に発表させていただいて、ホッとしているところです。子供はまだなんですけれど、これから子供が出来た時に、森田先生のように生きたいなと思っています(笑)。

向日葵のかっちゃん

向日葵のかっちゃん


インタビュー・文=五月女菜穂 撮影=髙村直希

公演情報
『向日葵のかっちゃん』

 原作:西川司
 脚本・演出:わかぎゑふ
 出演:三上真史、星野真里、酒井敏也、西ノ園達大、高木稟、梅田悠、二瓶拓也、阿由葉朱凌/戸塚世那(Wキャスト)
 
   日時:2017年8月23日(水)~27日(日)
 会場:銀座 博品館劇場(東京都中央区銀座8-8-11)
   企画・製作:る・ひまわり


 

 

シェア / 保存先を選択