優雅に繊細に、あくまでロックに ACIDMAN・大木とNAOTO率いる弦楽四重奏の融合は至上の音楽体験だった
大木伸夫(ACIDMAN) / NAOTO STRINGS 撮影=AZUSA TAKADA
『JAL CARD presents ROCKIN’QUARTET』 2017.6.24 ビルボードライブ東京
「大人の上質なロックにしたいと思っています」と、NAOTOは言った。「とても贅沢な時間になると思うし、むしろ僕が見に行きたいくらいです」と、大木伸夫は語った。二人揃ってのインタビューから2か月後、ついにこの日がやってきた。6月24日、ビルボードライブ東京、一夜限りの夢の共演。ロックとクラシックの刺激溢れるコラボレーション、『JAL CARD presents ROCKIN’QUARTET』の開幕だ。
「レディース・アンド・ジェントルメン、プリーズ・ウェルカム、ナオト・カルテット!」
ファースト・ステージの開始は、午後5時。ラジオDJ・大抜卓人が華やかにムードを盛り上げ、NAOTO率いるカルテットを呼び込む。センターマイクを囲み、ヴァイオリンのNAOTOと柳原有弥、ヴィオラの松本有理、そしてひときわ大きな体のチェロ・向井航が位置につく。NAOTOがカウントを出すと、聴き慣れたフレーズが聴こえてきた。オープニングはカルテット演奏による「彩-SAI-(前編)」だ。イントロの特徴あるフレーズも、緩急をつけた展開も、ロックバンドの躍動感をそのまま弦楽四重奏のアレンジに置き換えつつ、演奏はあくまで優雅で繊細な室内楽。ロッキン・カルテットとはこういうものだと、1曲で観客にわからせてしまう堂々たる演奏に、確信する。今日は素晴らしいライブになる。
NAOTO 撮影=AZUSA TAKADA
大きな拍手に迎えられ、大木伸夫が緊張感のある表情で舞台に上った。カルテット+ボーカルで奏でられるこの日最初の曲は、「ある証明」。これには意表を突かれた。ACIDAMNの楽曲の中でもとりわけハードでライブではキラー・チューンとして絶対の力を持つ曲が、弦楽四重奏でこれほどエレガントに生まれ変わるとは。激しく叫ぶのではなく、ウィスパーを加えた歌い方で、それでもエモさを失わない、大木の歌の表現力が素晴らしい。
「今日は初めて尽くしで、こういう場所に来るのも、カルテットと一緒に歌うのも、食べながら飲みながら見てもらうのも、初めてです。遠慮しないで、最後まで楽しんでいってください」(大木)
NAOTO 撮影=AZUSA TAKADA
「赤橙」は、セットリストに入ると予想していたが、やはり入った。静かなアコースティック・バージョンでも切なく美しく輝く曲だが、弦楽四重奏によるアレンジでは、より豊かな音像で幻想的なムードが高まって聴こえる。NAOTOによるアレンジは、弦をはじく手法を多用して、体が動くようなグルーヴを生み出す。メロディをそのまま弾き直すようなBGM的なものとは発想がまるで違う。これはやはりロックだ。さらに「FREE STAR」「リピート」と、原曲の特徴的なリフを生かした軽快でキャッチーな曲が続く。NAOTOがヴァイオリンのボディを叩く音が曲にスピード感を与え、まるでパーカッションがいるかのように絶大な効果を生み出す。
NAOTO 撮影=AZUSA TAKADA
「楽しんでいただけていますか? カルテットにロック・ボーカリストをお迎えするのは、なかなか珍しいことなので。アレンジしていても、正直わからないところもあったんですが、“楽しんでいる”と言ってもらえるのはとてもうれしいです」(NAOTO)
柳原有弥 撮影=AZUSA TAKADA
松本有理 撮影=AZUSA TAKADA
NAOTOのMCに続き、一旦ステージから降りた大木を除く4人で奏でるのは、NAOTOのオリジナル曲「strings shower」。弦楽器のシャワーのごとく、降り注ぐメロディアスなサウンドに心和むひととき。まさに、一服の清涼剤。ここでピアノの呉服隆一を招き入れ、戻ってきた大木と共に6人で奏でたのは、意外なカバー曲だった。NAOTOと大木が大好きだという昭和の歌、小椋佳が作り、美空ひばりが歌った「愛燦燦」だ。優しくまつ毛に憩う過去と、人待ち顔でほほ笑む未来。人生って、不思議なものですね。どこか大木の書く歌詞に通じるような、雄大な世界観。目を閉じ、心を込め、まっすぐに歌い上げる大木の歌が心の奥底に沁みる。
向井航 撮影=AZUSA TAKADA
呉服隆一 撮影=AZUSA TAKADA
ライブも終盤に近づき、ここからはACIDMANのライブにおけるもう一つのキラー・チューンとも言える、壮大なミドル・バラードを立て続けに。「アルケミスト」は、ピアノが生み出す力強いリズムに乗り、カルテットが幾重にも重なる美しいメロディを紡ぎ、その上で大木が渾身の激しいシャウトを聴かせる。「ALMA」はさらにすごい。もはやロックバンドも弦楽四重奏も超えた、最高にエモーショナルな絶唱だが、不思議とラウドには感じない。エレガントなカルテットの演奏と、大木の持つエモーションが絶妙に融合している。言霊の力が、ダイレクトに飛び込んで来る。
「今日は2部公演なので、本当は温存しなきゃいけないんだけど。まったくそんなことを考えずに、思い切り歌ってしまいました」
お茶目に笑う大木に、「そうでなくちゃ」と言わんばかりに、熱い拍手が降り注ぐ。この日の観客はACIDMANのファンが多かったはずだが、「何度も聞いた人はいると思うけど」と前置きしつつ、大木は丁寧に楽曲の解説をし、自らの哲学を語る。人はいつか死ぬ。未来のことはわからない。だから今を精一杯生き切る。そう言って歌った「世界が終わる夜」は、まるでゴスペル・ソングのように重厚で神々しく、これまで聴いた「世界が終わる夜」とは違っていた。通常のロック・バージョンで感じる壮大なカタルシスが、ロッキン・カルテットではもっと内面的な、救いの声のように響く。と言えば、伝わるだろうか。
アンコールは1曲。ここでも丁寧な説明をしてから、歌ったのは「愛を両手に」だった。大木にとって極めてパーソナルな出来事を、幸せとは何か?という概念へと昇華させたエモーショナルなバラード。NAOTOのヴァイオリンを筆頭に、歌と言葉を引き立たせるというより、むしろ引っ張り上げるような力強さを見せるピアノとカルテット。単なる弦楽器+ボーカルではない、これがロッキン・カルテットの醍醐味だ。よほど充実感があったのだろう、アンコールではこんな会話も飛び出した。
「始まる前から言ってたんだけど、一回で終わらせるのはもったいないよね」(NAOTO)
「ツアーでやったほうがいいんじゃない?って。みなさん、どんどん書き込んでください!」(大木)
ライブ中に演奏が、歌が、目に見えて成長してゆくという、めったにない体験。『ROCKIN’QUARTET』という新しい形のライブは、NAOTOの持つクラシックとロックの融合というテーマのもと、大木伸夫という最良のパートナーを得て、無限の可能性を示してくれた。これからの、二人の行く末に注目しよう。そしていつか、再会の時が訪れることを心から願って。
取材・文=宮本英夫 撮影=AZUSA TAKADA
1. 彩-SAI-(前編)
2. ある証明
3. 赤橙
4. FREE STAR
5. リピート
6. strings shower(NAOTO QUARTET)
7. 愛燦燦(美空ひばりカバー)
8. アルケミスト
9. ALMA
10. 世界が終わる夜
[ENCORE]
11. 愛を両手に
放送日時:6月29日(木)20時〜
ライブ音源の一部と楽屋インタビューをオンエア!
▶オフィシャルサイト:http://www.tfm.co.jp/fo/
▶︎radiko.jpで聴く:http://radiko.jp/share/?sid=FMT&t=20170629200000