『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』が開催に 世界一の春信コレクションが来日
『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』記者発表会
9月6日より千葉市美術館、その後、来年にかけて名古屋、大阪、福岡の全国4会場にて『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』が開催される。鈴木春信は、錦絵創始記の第一人者として知られる浮世絵師で、明和期(1764-72)を中心に活躍した。この展覧会のために、アメリカのボストン美術館が世界に誇る浮世絵コレクションより150点が来日する。注目は、明治期にアメリカに渡って以来、初めて里帰りする作品や、世界で唯一確認されている名品だ。6月28日に開催された記者発表会より見どころをレポートする。
現地でみて、選んだ名品150点
「ボストン美術館展と聞くと『すごいぞ!』と期待される方が多くいらっしゃると思います。しかし、ボストン美術館の作品は必ずしも状態が良いものばかりではありません」
そう切り出したのは、千葉市美術館館長の河合正朝氏だ。河合氏は、1968年から69年にボストン美術館に在勤していた経歴をもつ。
「学芸員の田辺がこの企画を持ってきた時は『大変だからやめておきなさい』と止めたんです。すると田辺が『今回は現地に行って、自分たちで作品を選べるんです』と言うものですから、『それはいい!』と大賛成しました。前館長の小林忠先生(浮世絵研究の大家)と研究し、自分たちで企画する力をもった当館の学芸員が、現地で確認して選んだ作品です。世界に1点の希少な浮世絵や、世界初公開の作品も展示されます。私はあまり浮世絵は好きではないんです。でも春信は大好きです! 本当に素晴らしいです! ここで再び、春信に関心の目が向けられることを期待します」
情熱とユーモアたっぷりに経緯をふり返る河合氏に、記者席からはたびたび笑いと拍手が贈られた。
千葉市美術館 館長 河合正朝氏
春信を日本でみるのは難しい
次に千葉市美術館副館長の田辺昌子氏が、本展覧会を開催する意義と魅力を紹介した。田辺氏によれば、鈴木春信は、作品の8割以上が海外で所蔵されているため、名だたる絵師の中でも、特に日本で展覧会を開きにくい絵師なのだそう。
『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』記者発表会
「なぜ海外に多いのか」という会場からの質問に、次のように答える。
「江戸時代、浮世絵は美術品ではなく当たり前に身近にあるものでした。それが大事なものだと日本人が気づく前に、西洋で注目され、コレクションされたことが(流出の)きっかけのひとつと考えられます。春信に限らず、浮世絵版画を所蔵する量は、欧米の方が日本の3、4倍多いです。歌麿や写楽よりも前の時代に活躍した春信の作品は、もともと数が多くなく、どのくらい大事にされたかというのも(影響が)大きいと考えられます」
千葉市美術館 副館長 田辺昌子氏
世界で唯一確認される、希少作品
春信が活躍したのは、錦絵が誕生したばかりの時代。幕末のような浮世絵の大量生産はされておらず、もともとの数が少なかったため、春信作品は、残存数が限られている。中でも希少なのは『見立玉虫 屋島の合戦』。世界で1点しか確認されていない。
『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』記者発表会
『見立玉虫 屋島の合戦』は、平家物語の玉虫御前を当世風の娘に置き換え描かれたもの。古典物語の名場面を潜ませ、鑑賞者に絵を読み解く楽しみを与える「見立絵(みたてえ)」と呼ばれるもの。春信の作品にはこの見立絵が多い。東京国立博物館に所蔵される、ボストン所蔵の図の右側にくる作品(そちらは那須与一が、若衆に置き換え)とペアになり、男女の恋を感じさせる趣向だ。
当時の色彩を想像させる、美しい保存状態
錦絵には光で退色したり、湿気で色が飛んでしまう植物系の繊細な絵の具が使われていたが、ボストン美術館の浮世絵は長らく展示されずに良い環境で保管されてきた。そのため美しい色を保てている作品が多く残存するという。
『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』記者発表会
世界一の春信コレクション
ボストン美術館は浮世絵を5万点以上、そのうち春信の作品は600点以上を所蔵する。シカゴ美術館でも200点台、日本は東京国立博物館に200点台だというので、その数は断トツだ。
初公開、初里帰りの作品多数
出展作品のうち約8割がアメリカに渡って以来、初めての日本公開となる。作品の良好な状態を守りながら来日を実現させるべく、里帰りの前後5年、合計10年間は、ボストン美術館でも公開展示をしない条件があるのだそう。展覧会は全7章で、春信の作品を系統立てて鑑賞できる構成だ。
第2章 絵暦交換会の流行と錦絵の誕生
第3章 絵を読む楽しみ
第4章 江戸の恋人たち
第5章 日常を愛おしむ
第6章 江戸の今を描く
第7章 春信を慕う
“選りすぐり”というにふさわしい展覧会『ボストン美術館浮世絵名品展 鈴木春信』は、千葉市美術館の後、名古屋ボストン美術館、大阪・あべのハルカス美術館、福岡市博物館を巡回する。
会期:2017年9月6日(水)~10月23日(月)
会場:千葉市美術館(http://www.ccma-net.jp/index.html)
展覧会公式サイト:http://harunobu.exhn.jp/