結婚式と友人Fの立場とねこについて

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 拝啓

 誰にでも、生きてさえいれば素晴らしいと思える日があると思います。日々をドブ川に流すがごとく漫然と過ごしている僕でさえ、「今日は素晴らしい日だ」と思うことは間々あります。あなただって、たぶんそうですよね。

 英語で、「いい日、素晴らしい日」は”beautiful day”です。直訳すれば美しい日ですね。つい最近、今日はまさに美しい日だと感じることがありました。

 友達の結婚式があったんです。いやあ、素晴らしいイベントでした。よく晴れた空に綺麗な式場、気の利いた演出、華々しく着飾った新郎新婦……。

 

 結婚したふたりのことはどちらもよく知っていたし、出席者の中には共通の友達も多かったので気兼ねなく楽しい時間を過ごすことができました。その日は一日中素敵な気分でした。美しい日です。

 しかし、結婚式に出席してこんなに素晴らしい気持ちになることはめったにありません。先日は特別だったのです。実を言えば、僕は知り合いの結婚式に出席することが全然好きではありません。

 もしかしたらあなたは僕のことをなんてひどいやつだと思うかもしれませんが、まあちょっと聞いてください。結婚する夫婦を祝福する気持ちはどんな場合でもちゃんと持っているんです。幸せな家庭を築いてほしいなと心から思っています。ただイベントとしての結婚式に出席することが好きではないだけです。

 はっきり言ってしまえば、結婚式って大抵つまらないんですよね。多少の演出の差はあれど、どんな結婚式も内容はほとんど同じです。新郎新婦が指輪交換しているところを見たり、誓いを立てているところを見たり、指輪を交換しているところを見たり。披露宴ではケーキを切るところを見たり、全然知らないおじさんがお祝いのスピーチをしているところを見たり、夫婦の思い出の写真をスライドショーで見たり、その他いろいろ。

 まあ、当たり前と言ったら当たり前なんですけど。登場人物の役者だけが変わってストーリーがおんなじ映画を何回も見ているようで、僕はいろんな夫婦の結婚式に出席しているうちにとうとう飽きてしまいました。

 

 しかし知り合いの結婚式のつまらなさの最大の要因は陳腐さの他にあります。それは、常に当事者でいられないことです。結婚式は究極の内輪ノリイベントなので、その輪の中心から外れている人にとっては実に多くの時間が退屈になってしまうんですよね。

 新郎新婦どちらの知り合いであるにせよ、彼らにとって僕という存在は、人生を彩る脇役のひとりでしかありません。役名は良くて友人A、だいたいは友人Fくらいなもんです。そして当然結婚式は友人Fのために行われているわけではないので、そこで行われるものは友人Fの知らない人物による友人Fが理解できないプログラムがほとんどなわけです。スピーチなんかは新郎の勤め先の社長だかなんだか知らないけど、ふうん、なんか知らないおじさんが一生懸命喋ってるなあという感覚です。これでは家で何度目かもわからない「フォレストガンプ」のDVDを見ていた方がずっとおもしろいですよね。

 まあ、すべての出席者が満足できる結婚式なんてのはなかなか困難でしょうけど。それは出席者全員がある文脈を同程度に共有している結婚式なのかもしれませんが、実現には出席者をよっぽど絞らなくてはいけません。家族だけだとか、本当に仲のいい友達だけとか。そうなると友人Fは呼ばれないでしょうね。それはそれで、さびしい。


 そこでオーソドックスな結婚式のスタイルを尊重しつつ、かつ友人Fを含むあらゆる出席者の満足度を向上させる方法を考えました。


 その方法とは、出席者全員に受付でねこを配ることです。ニャー。


 式や披露宴の間中、出席者はそれぞれ配られたねこをずっと抱いていて、退屈になったら撫でたりおでこのにおいを嗅いだりしていていいわけです。共通の友人がたどたどしい乾杯の挨拶をしている時など自分が理解出来る話題の時はねこを机の上にでも置いておいて話を聞けばいいし、知らないおじさんが喋っている時はねこの肉球を押して爪を出したり引っ込めたりして過ごしていればいいんです。そうすれば常に退屈せずに済みますよね。どうです?なかなか素敵な案だと思うんですがねこアレルギーやねこ嫌いの人には、そうですね、よく回るハンドスピナーでも渡しておくのはどうでしょうか。

 しかしそうなると、こうしちゃいられませんね。僕たちにもいつか必要になるかもしれませんから、人懐っこいねこをたくさん用意しておかなくては。ちょっと近所を散策してきます。あなたの方でもできる限りたくさん捕まえておいてください。僕にとっての友人Fにも退屈せずに楽しんでほしいですからね。

 

 それでは。
 いつかまた宇宙のどこかで。

敬具


チープアーティスト・しおひがりによる連載『メッセージ・イン・ア・ペットボトル』。毎回、この世にいる"だれか"へ向けた恋文のような、そうでないような手紙を綴っていきます。添えられるイラストは、しおひがり本人による描き下ろし作品です。 過去の手紙はこちらからお読みいただけます。 

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