調和したプロダクトが生み出す、心地よい空間 『AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展』をレポート

レポート
2017.7.20

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2017年7月8日(土)から10月1日(日)の期間、パナソニック汐留ミュージアムで『AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展』が開催されている。

深澤直人はパナソニックや無印良品、au/KDDIやマルニ木工など、幅広いジャンルでデザインを手掛けているプロダクトデザイナー。今回の展示は、深澤直人の個展としては国内初であり、かつ約110点もの作品が集結する貴重な機会となっている。

会場であるパナソニック汐留ミュージアムは、ゆるやかに調和したプロダクトに満たされており、心地よい空間が広がる。内覧会の際に行われた深澤直人と本展担当学芸員・岩井美恵子のギャラリートークと共に、以下、見どころを紹介する。

プロダクトに内在する「豊かさ」

本展には、壁に掛けられ紐を引くと音楽が流れる無印良品の「壁掛式CDプレーヤー」や、丸い形にヘソのような小さなくぼみがついて有機的な形をしたプラスマイナスゼロの「加湿器」、au/KDDIの「INFOBAR」シリーズなどが並ぶ。さらに、ニューヨークのMoMAに収蔵されている深澤直人の代表作や、ALESSIの保温ポットなどの最新作など、日本では見られない製品も紹介されている。

まるで展示空間に最初から存在していたかのように調和しているそれらのプロダクトは、一つ一つが余計なものを削ぎ落した美しさを持っている。研ぎ澄まされたかたちでありながら、曲線や地肌の滑らかさに静かな色気のようなものを含んでおり、ストイックさと有機的な魅力が共存する。

一方で、製品の持つ名前やコンセプトはユーモラスだ。最新技術によってピンポン玉か惑星のようにまんまるな形状が可能になった照明「モディファイ スフィア ペンダントライト」シリーズ、工具箱のような実直さがある「キャリーバーの高さを自由に調節できるストッパー付きハードキャリー」シリーズ、万里の長城のように永遠に長い滑り台「バンリ」などである。

(左より)深澤直人、担当学芸員・岩井美恵子

(左より)深澤直人、担当学芸員・岩井美恵子

深澤は「それぞれに隠されたアイディアが埋め込まれている」と語る。プロダクトとして人を惹きつける力がなければ、所有者が愛着を持って使い続けることはできない。深澤作品が愛されているのは、それぞれの道具が背景や物語を持ち、豊かさを備えているからだろう。

あらゆる「境界」がない空間

深澤は日本での活躍のほか、ハウスウェアメーカーのイタリアのALESSIのキッチンウェアや、モダン家具の先駆けとなる製品を生み出したアメリカのHERMAN MILLERの椅子、ドイツの文具メーカー・LAMYのペンなど、業界や国の境界なく活動している。

展示空間には、キッチンの台所用品や家電、リビングの机と椅子、バスルーム周りの家電など、業種もメーカーもさまざまな製品が配置されている。製造元が異なるにも関わらず、プロダクトはそれぞれの役割を明確にしながら違和感なく空間に溶け込み、全てが空間の“雰囲気づくり”に協力しているように感じられた。

「一人のデザイナーが(展示を)コントロールすると、産業界の境界が溶ける」と深澤は言う。本展会場では、深澤によってコントロールされた結果、あらゆる人にフィットするユニバーサルな空間が提供されているのだ。

「AMBIENT」を体感する

深澤は、今後のプロダクトは「『壁側』と『身体側』に別れていくのが必然」という。本展でも、重量や存在感の大きいものは部屋の壁に吸収されていくように空間になじみ、小さいものは多機能化しつつ人の身体の一部に同化するかのように存在していた。

「壁側」のプロダクトといわれているものは、壁に掛けられ紐を引くと音楽が流れるCDプレーヤーや、壁や床に溶け込む透明なベンチなどだ。部屋や廊下等のどこに置かれても周囲と一体化し、かつ空間を増幅するようなものが該当する。機械的な機能を詰め込みながらも手になじむ形の携帯電話、水の滴や人の体の曲線を想起させるなだらかな輪郭のドライヤー等は「身体側」だろう。いずれの製品も、まろやかな形状で、単独で存在を主張せず、空間を仕切る壁、もしくはその中で生活する身体の延長であるかのように日常へ溶け込んでいる。

担当学芸員の岩井美恵子によれば、今回のテーマはもともと「家」だったが、次第に「AMBIENT」へと変わっていったそうだ。深澤は、もの自体のデザインを行うというよりも、プロダクトが発している気、間に流れている空気、その場から物体が抜き取られた後の空間の雰囲気に重点を置いているという。「AMBIENT」の直訳は「環境」であるが、単独のものではなくものの周囲=「AMBIENT」が今回のタイトルとして据えられたのは、その言葉が、深澤のクリエイションにおける姿勢を本質的に物語るからだろう。

深澤のプロダクトは個々に魅力を備えている。その上で、空間の中に配されるとハーモニーを奏で、そこにいる人は自分自身も空間に馴染み、調和の一部になっているかのような安らぎを覚える。会場の作品を楽器に例えれば、深澤は指揮者となって楽器の中に流れている音をまとめ上げているような印象を受けた。

今回は「ジャンルを超えたものが醸し出す『周囲』をどう見せるのか」を重視したという深澤。パナソニック汐留ミュージアムというアットホームな場所で、作家本人が空間をコントロールしている本展は、作品の魅力や特性が最大限に発揮される場といえる。この機会を逃さず、是非ご覧いただきたい。

深澤直人

深澤直人

 

イベント情報
AMBIENT 深澤直人がデザインする生活の周囲展

開催期間:2017年7月8日(土)~10月1日(日)
会場:パナソニック汐留ミュージアム
主催:パナソニック汐留ミュージアム​、毎日新聞社
https://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/17/170708/index.html
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