音楽に誘われイマジネーションの世界に遊ぶ~チェロ奏者・ピーティ田代櫻が奏でる情感豊かな世界
ピーティ田代櫻
自分の周りに起こること全てに意味がある "サンデー・ブランチ・クラシック" 2017.7.9 ピーティ田代櫻 ライブレポート
クラシック音楽をもっと身近に、気軽に楽しもう――。そんなコンセプトで行われている『サンデー・ブランチ・クラシック』に、今回初めて登場したのがチェリストのピーティ田代櫻だ。
ピーティ田代櫻
すらりとした長身に真っ赤なドレス姿の田代の登場に、それまで客席で聞こえていたおしゃべりの声が、しんと静まり返った。始まった1曲目はマーク・サマーの「Julie.O(ジュリー・オー)」。マーク・サマーはヴァイオリン2名にヴィオラ、チェロの弦楽四重奏団「タートル・アイランド・ストリングス・カルテット」のチェリスト。クラシックの弦楽四重奏の構成でオリジナル曲をはじめ、様々な音楽を演奏するグループで、ジャズに分類されてはいるようだが、むしろボーダーレス、ノンジャンルと言ってもいいかもしれない。
この「Julie.O(ジュリー・オー)」は弦を指ではじき、ギターのようにかき鳴らし、弓で奏でる民族舞踊のようなテイストの陽気な楽しい曲だ。「チェロで弾くのはクラシック」と思っていたであろう会場のお客様にしてみれば、意表を突かれた感じだが、しかしその楽しい音色は一気に会場との距離を縮めた。
ピーティ田代櫻
1曲目を終えると、田代は自己紹介と共に「みなさん、どうぞスマホで写真をとってSNSで流して宣伝してください」とコメントし、客席からは笑いが起こる。ほっと場の空気が和んだ瞬間だ。
続いて「チェロの音楽といえばコレ」というJ.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 前奏曲(プレリュード)」と「第6番ニ長調 ガヴォット」が演奏される。「前奏曲」のよどみのない流れるような旋律は、ふわっと包み込むような温かさの中に、心の“強さ”、“たくましさ”のようなものも感じられる。続く「ガヴォット」は、宮廷で貴族が列を作り踊っているよう。ドレスの衣擦れの音が聞こえてきそうな品格が漂っていた。
ピーティ田代櫻
無伴奏で3曲を終えたところで、ピアノの新見フェイギン浩子が登場し、サン・サーンス「白鳥」、続いてフォーレの「エレジー」と、伴奏付きの演奏に。湖面をすべるような「白鳥」は、ため息が出るような透明感がある。「エレジー」は、心に重しがかかり、切ない思いが絞り出されるような音色だ。田代の音楽は表情が多彩で情感豊かで、まるで音楽を奏でながら風景を描き出しているようにも思えてくる。
ピーティ田代櫻、新見フェイギン浩子
続いて「うちの白文鳥が大好きな曲で、これを練習していると大興奮するんです」というコメントと共に紹介された曲がポッパー「妖精の踊り」。チェロの超絶技巧曲の一つで、低音から高音の指使い、小刻みな弓使いは実際に目の前で演奏を見ると唖然とさせられる。ポッパーはプラハで生まれ、ドイツやオーストリア、ハンガリーなどで活躍したチェリストであり作曲家。めまぐるしく飛び回る妖精の姿とともに、中東欧のくるくる回る民族舞踊も思い浮かぶエキゾチックな曲だが、昔文鳥を飼っていた筆者は文鳥の「キュルルルル」という鳴き声も思い出し、「なるほど、これは確かに文鳥が興奮するかもしれない」と微笑ましくもなってしまったのである。
ピーティ田代櫻
最後の曲はラフマニノフ「ヴォカリース」。元は「あああ~」だけで歌われる歌曲だが、その旋律の美しさからピアノ、チェロ、フルートなど様々な楽器でアレンジされている名曲だ。しっとりとした音色と共にコンサートは終了。
優しい大人の雰囲気に包み込まれた、優雅な午後のひと時。終演後にお客さんのテーブルを一つひとつ回りながら挨拶をする田代の姿を見ながら、彼女の奏でた音色は柔らかく、人懐こい人柄そのものだと感じる。「また聴きたい」と思わせてくれる、宝物を見つけたような気分であった。そんな田代に終演後、お話を伺うことができた。
インタビュー中の様子
――今回の選曲は田代さんご自身で考えられたのですか?
はい。チェロと言えばやはり「無伴奏チェロ組曲」の1番という印象なのですが、今回はクラシックを気軽に楽しんでいただこうというコンセプトでしたので、マーク・サマーで意表をついてみました(笑)。
――掴みはバッチリだったと思います。あの後のトークでも皆さん和んでいた感じでした。今回のようなカフェでの演奏はいかがでしたか。
東京の真ん中で、こうした形で演奏するのは初めてでした。もっと気軽な感じかと思ったら意外と皆さんシンと聞いてくださって、コンセプトから外れちゃったのではないかと心配しているんですが……
――それは皆さん聴き入ってしまったんだと思います(笑)。 文鳥トークでがっつりお客様の心をつかんだ「妖精の踊り」は、とてもニコニコと笑って演奏されていました。田代さんは音楽もご自身の表情もとても豊かだなぁ、という印象を受けました。
普段からすぐ顔に出ると言われるんです(笑)。 でも演奏するときは曲の背景や雰囲気などを考えながら弾いています。たとえば「エレジー」は失恋の曲ですけど、そういう暗い悲しい気持ちも臆さず隠さずに出していきたいと思っています。「ガヴォット」は、貴族の踊りですから荘厳で秩序正しい感じをイメージしながら。聴く人に秩序や温度、風を感じてもらえれば。
――すごくよく伝わりました。今回は終演後にテーブルを回られていましたね。
一言でも感謝の気持ちを伝えたくて。普段のリサイタルでも、演奏が終わったら楽器を置いてお客様をお見送りするため出口に立っています。なかなか全員の方とお話できないのがもどかしいのですが。自分の周りに起こること全てに意味があると思っています。ご縁があって同じ空間を共有できた方々に、少しでもいい演奏をお聞かせしたいと思っています。
ピーティ田代櫻
取材・文=西原朋未
松田理奈プロデュース
OTOART vol.2『音×色』
13:00~13:50
MUSIC CHARGE: 500円
8月13日
海瀬京子/ピアノ&小島光博/トランペット
13:00~13:50
MUSIC CHARGE: 500円
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