上海歌舞団「舞劇『朱鷺』-toki-」にて“人間”を演じる王佳俊(ワン・ジヤジュン)にインタビュー
王佳俊(ワン・ジヤジュン)
上海歌舞団「舞劇『朱鷺』-toki-」で、朱潔静(ジュ・ジエジン)演じる朱鷺の精ジエと心を通わせ合うのが、王佳俊(ワン・ジヤジュン)演じる人間ジュン。1幕では古代の村に暮らす若者として、2幕では環境汚染が進んだ近代社会に生きる男性として、2つの時代のジュン役をドラマティックに踊る王に、作品のことを語ってもらった。
美しく凛々しい容姿、伸びやかでダイナミックな踊り。180センチという身長は舞踊団の中では平均的だというが、舞台では誰よりも大きく見える。ダイヴしてくる朱をふわりと受け止め、流れるようにリフトするなど、サポート力も抜群だ。聞けば、王の名前の一部であり役名にもなったジュン(俊)の文字には、明朗活発でカッコいいイメージがあるのだそうで、なるほどと膝を打ちたくなる。
「『朱鷺』で描かれるのは、人と動物の物語。普段は人間同士の恋物語を踊ることが多いので、正直、最初はピンと来なかったんです。朱さんとは9歳のころから一緒に踊っていますが、やはり恋愛物をやることが多かった。でもこの作品には、また違った感情があります。ずっと手を繋いで踊るというより、ジエの背中や肩で見せる場面も多いですし、ジュンのジエに対する感情も、人間のような恋心というより、慎重に惜しむように愛するという感じです」
王佳俊(ワン・ジヤジュン)
村の人々の中で唯一、ジエと出会うジュン。その理由を、彼はこう分析する。
「1幕では5人の若者達が仕事を終えて帰る中、ジュンだけが空を見上げ、朱鷺をみつけます。それを他の人にも教えようとするのだけれど、気がつくと皆はいなくなってしまっている。彼は人一倍、純朴で好奇心旺盛で、自然の美に気づくことができる青年なのだと思います」
繊細な優しさや純粋さをも感じさせる王の踊りは、まさにジュン役にぴったり。ちなみに、そんなジュンと実生活での王は「シンプルな生活をしているところと、人の感情の変化などに敏感なところが共通している」のだとか。
「とはいえ1幕では、ジュンだけでなく誰もが、自分の利益を追求するというより周りに優しく、助け合って生きています。この作品には、そういう時代を振り返ってほしいというメッセージも込められていると思います。一方、2幕では自然環境が変わり、人々は荒んでいる。ジュンも何か疑うような複雑な感情を抱えているんです。ここでのジュンは、社会経験がある中年男性をイメージして演じていますね。ただ単に服を変えて出てきたと思われないよう、違いを表すことに努めています」
1幕と2幕の間には長い歳月が流れており、2幕のジュンが1幕のジュンと同一人物であることは有り得ない。
「同じ人ではなく、魂が続いているというイメージですね。1幕でジエがジュンに残した羽を、2幕のジュンがみつけることで、生まれ変わりを表現しています。2幕のジュンはカメラを持っていますが、私はそれを、美しいものを撮ることだと解釈しています。美しくない環境の中でも、空や花や草木などの美をみつける人。そういう目で、瀕死の朱鷺を発見するんです」
王佳俊(ワン・ジヤジュン)
美をみつける心を受け継ぐ2幕のジュン。彼が老人となり、ありし日の美しい情景の中で、朱鷺達と踊るラストは圧巻だ。
「朱さんとは長い間一緒に踊ってきている分、お互いへの理解も深いですし、リハーサルや稽古も含めて何百回も『朱鷺』を踊る中で、よりスムースにドラマを作ることができるようになっています。でも、この作品が成功したのは私達の功績というより、群舞の努力の賜物。主役は感情が変わったり動きが変わっても許されますが、群舞が変化したりズレたりするとすぐに見つかってしまうので。美しく見えるよう、皆、大変な練習を重ねてきました。ぜひ、素晴らしい群舞も味わっていただきたいのです」
堂々と主役を務めながら、周囲への気遣いを忘れない。名実共に男前な舞踊団きっての貴公子の踊りを、ぜひ目に焼きつけたい。
取材・文=高橋彩子
1984年、上海市生まれ。95年(11歳の時)、上海バレエ学校入学。中国舞踊(中国伝統舞踊・中国民族舞踊ほか)をはじめ、クラシック、モダン・バレエほか様々な舞踊表現を学ぶ。均整のとれた肉体と確かな技術、そして高い演技力をかわれ上海東方青春舞踊団に入団。中国国内の数々の賞を受賞。『朱鷺』では、青年・ジュンを演じ、その高い演技力で観るものを物語の世界に引き込む。
※国家一級演員:中国で、映画・テレビドラマ・舞台・オペラ・演芸などの分野で活躍と貢献が認められ、最高レベルとされる人だけに贈られる称号。
<東京公演>
2017年8月29日(火) - 8月30日(水) Bunkamura オーチャードホール
2017年9月6日(水) - 9月10日(日) 東京国際フォーラム ホールC
2017年9月2日(土) - 9月3日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
2017年9月13日(水) - 9月14日(木) オリックス劇場