独房でひたすら死を待つ者が叫ぶ“存在証明” 『極限芸術 ~死刑囚は描く~』展レポート
写真提供=アツコバルーarts drinks talk
東京・渋谷区松濤にあるアートスペース「アツコバルー arts drinks talk」で『極限芸術 ~死刑囚は描く~』展(会期:2017年7月29日~9月3日)が開幕した。
展示のようす
同展は、2016年に広島・福山の鞆の津ミュージアム、クシノテラスで開催された『極限芸術2~死刑囚は描く~』に端を発するもので、「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」が2005年から公募で集めた死刑囚による作品群から選出した作品を展示している。
出展作家に名を連ねるのは、和歌山毒物カレー事件の林眞須美死刑囚、秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚、埼玉愛犬家連続殺人事件の風間博子死刑囚、坂本弁護士一家殺人事件の宮前一明死刑囚らだ。
林眞須美の作品
アツコバルーは、本展開催の経緯について「去年行われたクシノテラスの展示会で衝撃を受け、ぜひうちでもやりたいと思った」とし、作品を選出したポイントについては「一目でドンとくるような、力強い絵を重点的にセレクトした」と語った。
会期中の8月24日には、都築響一と櫛野展正(クシノテラス)によるトークイベントも開催される。世の中で見過ごされているアウトサイドにそれぞれの角度から光を当ててきた両者が何を語るかにも注目したいところである。
極限の状況で生まれた絵がもつ力
色彩、タッチ、モチーフ、スタイル。どれをとっても全体の画風はてんでバラバラであり、恐ろしいほど個性に富んでいる。共通するのは作家が死刑囚だということと、その筆圧の強さである。また驚いたことに、展示作家ほぼ全員が本格的な絵の経験を有していないという。なかには、とても素人が描いたものとは思えないよう作品もある。
松本健次の作品
作品に近づいてみると、何かの裏紙に描かれたものだということに気づく。獄中で所持できるものは限られているため、キャンパスとなる紙は便せんの裏であることが多いらしい。なかには和紙のような質感を出すために2ヵ月手で紙をもみこんだという人もいる。筆記具についても同様で、ほとんどの作品がボールペンや色鉛筆を駆使して描かれている。
松田康敏の作品
「一番大変なことは作品を外に出すことですね。拘置所の検閲はもちろんのこと、弁護士を通したりさまざまな手続きを踏む必要があります。検閲をクリアしなかったときも特にその理由を説明されることはありません」(死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金)
井上孝紘の作品
作家が作品に指示書をつけることも珍しくないそうで、絵の並べ方など作品構成を細かく指示する人もいるらしい。郵送できるサイズに規定があるため、A4程度の紙を複数並べて一つの絵にする大作も少なくない。だが、実際に展示されたときの完成形は作家本人の存ぜぬところである。
写真提供=アツコバルーarts drinks talk
絵を描くことで得られる外とのつながり
小林竜司の作品 写真提供=アツコバルーarts drinks talk
4畳弱の独居房。24時間監視され、起床から食事、就寝まですべてのタイムテーブルが決められている。運動は週2~3回で時間は30分程度。入浴は週2~3回で時間は15分。
独房では座っていることが義務づけられ、受刑者と違って刑務作業はない。人との会話は禁止され、面会できる相手は親族や弁護士を除いて5人までに限定されている。
金川一の作品
死刑執行の日は誰にも告げられることなく、ある朝突然言い渡される。来る日も来る日も死を待つだけの日々。心を平静に保つため、ある者は祈り、ある者は書物にふけり、ある者は手に筆をとる。
死刑囚が「絵を描き、それを世の中に発表する」ということは、外の世界と繋がるチャンスであり、唯一と言っていいくらいの貴重なコミュニケーションなのである。
鈴木勝明の作品
「自分の気持ちを発散させ、表現を通じて人と交流することで生きることの意味を見出し、なにで自分の人生を間違えたのか、本人が事件をとらえ直す機会になっていると考えています」(死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金)
「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」は、連続企業爆破事件の大道寺将司死刑囚の母・大道寺幸子と、冤罪事件の元死刑囚・赤堀政夫による基金だ。「死刑制度の廃止」「死刑囚の人権」といった大道寺幸子の遺志を生かすべく、遺された預金を元に創設され、死刑囚の再審請求等への補助金、『死刑囚の表現展』の開催と優秀作品の表彰のために使われている。『死刑囚の表現展』は2005年に始まり、その活動は今年で12年目となる。
林眞須美の作品
語られることのない死刑というシステム
先進国の中で数少ない死刑存続国であり、国民の8割以上が死刑を支持している国。それがここ日本だ。もはや死刑というシステムは当然のように存在し、そのことについて深く考えることは日常においてほとんどない。
「○○被告の死刑が確定した」とニュースの断片に耳を傾けることはあっても、その人物がその後どういう状況に置かれ、どういう経緯をたどり、そして死刑が執行されるまでに至るのかということをあえて知ろうとすることもない。
「死刑に賛成か反対かということではなく、こういう世界があるということを知り、考えるきっかけになればいい。感じること、考えることがとても重要だ」(アツコバルー)
※本記事掲載の画像は、すべて撮影許可をうけて撮影しています。
会期:2017年7月29 日(土)~9月3日( 日)
会場:アツコバルー arts drinks talk
開館時間:水~土 14:00~21:00、日&月 11:00~18:00
定休日:火曜日
入場料:¥500
お問い合わせ:ab@l-amusee.com / 03-6427-8048
ウェブサイト:www.atsukobarouh.com
協力: 死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金、クシノテラス、松本健次さん再審連絡会