スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』が帰ってくる! 再びルフィに扮する市川猿之助にインタビューを敢行!
市川猿之助 (撮影:岩間辰徳)
国民的人気漫画『ONE PIECE』の世界観とキャラクターの魅力を、歌舞伎として表現するという大胆なチャレンジに四代目市川猿之助が取り組み、見事具現化してみせたのが2015年のこと。評判が評判を呼んだ東京での初演を経て、翌年の大阪公演、博多公演では新たな登場人物や見せ場が加わり大幅にブラッシュアップ、そこでまた改めて話題を集めた。そうしてすっかり伝説の舞台となったスーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』が、2年ぶりに待望の再演を果たす。さらに演出に磨きをかけ、今回は若手を抜擢する特別マチネ『麦わらの挑戦』と称した新企画も携えて、新たな航海への船出に目を輝かせる市川猿之助に意気込みを聞いた。
――2年ぶりの再演になるわけですが、まず初演を振り返って一番手応えを感じた部分はどこでしたか。
それはやはり、お客様がたくさん入ってくださったということですね。
――しかも後半になるにつれクチコミで評判が広まって、ものすごい勢いでがなくなっていきました。
そうそう! 最初からパンパンだったわけじゃなくて徐々にうわーっと増えていったから、それが一番うれしかった。これは初演の場合に限りですけど、最初から満席だと「この客席を埋めてやろう!」という闘志が生まれてきませんからね。
――初演では巨大な鯨が浮遊したり、大量の水が流れ落ちる滝が出現したりと、ダイナミックな演出で客席が大盛り上がりでした。再演でもまたそういった演出は楽しめそうでしょうか。
再演に挑む時、気をつけなきゃいけないのは、新たに工夫しようとするあまり、いじり過ぎてしまってダメになることです。だから、鉄板ネタは必ず置いておくことが大事。要するに水、早替わり、宙乗り、は変わらずにやっておいて、そこへ今回ならではのプラスアルファとして何を加えるかですよね。僕が目指すのは、ゆずのライブに行った時に見たコンサート会場でのお客様のあの盛り上がりを、なんとか僕らの劇場でもやりたいということなんです。それでああやって鯨を出してみたり、みんなで立ち上がって拍手してもらったりしてね。でも実を言うと、歌舞伎で手拍子をするというのは本当は好ましくないことなんですよ。だけどスーパー歌舞伎のあの場面に限り、演出としてOKなんです。それでも、みんなで盛り上がるって意外と難しいんですよね。好みが百通りある人たちを同時に盛り上げるというのは、理屈をつけると盛り上がらないので、そこは理屈なしでいかないといけないんです。
――そして初演では東京公演のあと、大阪公演と博多公演と上演回数を重ねるごとにどんどんバージョンアップされていきました。具体的にはどういうところを変えたんですか。そしてそれをさらに今回の再演でどう手を加えたいと思われていますか。
まずは、削ぎ落し。必ずしも無駄だったというわけではありませんが、ここは物語の進行上カットできるなというところを削ぎ落して時間短縮しました。それとともに、たとえば白ひげの海賊団の手下たちにも、各キャラクターの歴史がしっかりあることを意識するようになったことで、それぞれの役に命が吹き込まれたりもしましたし。さらにマルコという新たなキャラクターが活躍するようになって、マルコの宙乗り場面も増やしました。あと、ハンコックが“小林幸子ック”と呼ばれるようになりましたね。「これは紅白歌合戦か?」というくらいにしたいと僕が言ったら、本当にそういう衣裳になったんです(笑)。そうやって、細かいところの積み重ねで徐々に変化していきました。そして今回は、映像を取り入れて何か面白いことをやろうと企んでいます。
――たとえば、LEDを使ったりするということですか?
今のところ、そういう系統で検討中です。LEDは、昨年の『東海道中膝栗毛〈やじきた〉』の時にも使ってみたんですが、あれが思いのほかうまくいったのでね。
――どんどん最新技術を取り入れて。
スーパー歌舞伎じゃなく、“スーパクリ歌舞伎”ですから(笑)。でもまあ、昔から常に新しいものを取り入れていくというのが歌舞伎なので。
――歌舞伎の本質にははずれていないということですね。ルフィを演じてみて、特にお好きだった場面やセリフは。
やっぱり、最後に星を見ながら言うセリフかな。実にいいセリフを言っているんですよ。俺はもっともっと強くなる、それまではみんなとは会わない、というようなね。あそこのセリフは、とってもいいなあって思います。
――それにしても初演の客席には、お子さんがとても多かったですよね。しかも、すごく楽しんでいるさまが伝わってきました。
そうそう、みんな目がキラキラ輝いていましたよね。僕ら大人だと正面切って正義がどうとか言われるとどうしてもちょっと恥ずかしいものだけれど、子供たちは正義の味方は本当にいると信じているから。それで、巳之助くんが出て来れば「わあ~、ボンちゃんだ!」って本気で喜んで。そういう姿が見られたというのは、やっている側も本当にうれしかった。子供には、目の前にスーパーマンが出てくるようなものだから驚きますよね。
――これをきっかけに、歌舞伎の客層が広がるかもしれませんね。
というか、それ以前に最近の子供には演劇自体を観る習慣がなかなかないですからね。やっぱり、ナマの舞台を感じる経験をどんどんしてもらわないとね。だから歌舞伎に限らずですけど、ナマの舞台の雰囲気をぜひとも味わってもらえたらなと思います。まあ、決しては安くはないですけど。
――でも絶対に、子供たちの心に残る体験になっただろうと思います。
そうですね、何かしら心に残ってくれていたらうれしいなあ。
――そして、今回は特別マチネ『麦わらの挑戦』という企画もありますので、若手へ期待することなども聞いておきたいのですが。
この挑戦が成功するか破れるのかは、僕は知らないですけどね(笑)。彼ら次第です。
――尾上右近さんがルフィとハンコックを演じ、猿之助さんはシャンクスを演じることになります。坂東巳之助さんと中村隼人さんの役柄はそのままですか?
僕も考えたんですけどね。ダブルキャストにした理由は、僕が演出家として舞台全体を見る時に代わりに誰か若手にルフィ役をやってもらっていたんです。もともと猿翁さん(先代の市川猿之助)はそうやって才能を見抜いていたので、僕も真似していたんですね。それでひととおり全員にやってもらうと、巳之助くんも隼人くんも同じようにルフィは演じられる。だけど巳之助と隼人のやってきた役は、他に誰ができる?ということなんですよ。これが誰もできない、代わりがいないんです。彼らはそれだけあの役をものにしてしまったということなので、僕は怖ろしいと思いましたね、彼ら二人はもう超えたんだなと思って。だから彼らに言ったんです、君たちには代わりがいないんだと。だけど『麦わらの挑戦』でルフィとして僕がいなくなった時、僕だったらカバーしていたところでも、たぶん若手のルフィではカバーするまではできないから、その分を君たちのほうでカバーしなきゃいけない場面が出てくるよ、と。だから今回は、彼らの新たな挑戦の場でもあると思う。僕が演じるシャンクスが出てくる場面まで、ちゃんとお客様がいてくださるかどうか、楽しみですよ(笑)。
――ちなみに浅野和之さんの役も、やはり誰も代わりができる人はいないと?
僕は浅野さんのことを“ジイジ”と呼んでいるんですけどね(笑)。ジイジも本当に命がけでやっているんですよ、こっちが大丈夫かな?って心配するくらい。もちろん、やれと言えば浅野さんがやっているイワンコフやセンゴクの役を演じることができる人は歌舞伎役者の中にもいますよ。だけどやっぱり、浅野さんじゃないと出せない強烈な魅力がありますからね。あれは他の人には出せません。
――いろいろな意味でのチャレンジがある企画なんですね。
そう、本当に挑戦だと思う。だけどなあ、もし『麦わらの挑戦』ののほうが真っ先に完売したとしたら、それはそれで僕にはショックだろうけどね(笑)。
――『麦わらの挑戦』では、マルコを隼人さんが演じることになっていますが。つまり隼人さんは役が増えるということですか?
そうです。それはなぜかというと、初演の時はみんなバタバタしていてわかってなかったんだけど、宙乗りしている時に自分の滝の場面を終えた隼人が袖からいつも見ていることに気づいたんですよ。なんでそんなヒマがあるのか、よく考えたら彼は三幕目は最後の最後しか出番がなかったんです。みんなが死にもの狂いでやっている時間に、ひとりで一息ついているなんて僕は許さないので(笑)。それで隼人に「マルコ、やる? 早替わりしなきゃいけないけど?」って聞いたら「できます、やらせてください!」って。そういうわけなんです。うちは誰も無駄にはしない、手の空いている人は誰であろうと使うんですよ(笑)。
――でもこういう風にチャンスがもらえると、若手もモチベーションがあがりますよね。
すごいことだと思うよ、このチャンスは。それを、ちゃんとすごいことだと認識して取り組んでほしいなと思いますね。だって、そういう場がなければ育ちもしないから。この機会をぜひ生かしてくださいということです。だから特に巳之助くんと隼人くんと新悟くんは、責任重大だよね。周りも、しっかり彼らを支えてほしいと思います。
――初演の時から「海外公演もあるかも」とおっしゃっていた記憶がありますが、ちょうど『ONE PIECE』実写映画化のニュースが入ってきたりして、ますます世界進出のチャンスが増えるのではとも思いました。
そう、本当にやりたいですよ。ハリウッドも、むしろ僕らのほうにお金を出して呼んでくれればいいのにねえ、なんとかならないかな(笑)。
――今回は、あまり歌舞伎を観慣れない方も前回の大評判を耳にして観てみたいと思っているかもしれませんし、前回が手に入らなかった方も大勢いらっしゃるでしょうし、どうしようかと迷われている方もいるかもしれません。ぜひ猿之助さんからお客様に向けてメッセージをいただけますか。
いや、簡単ですよ。今、ここで申込みのボタンをクリックすればいいだけのことです(笑)。後半になってが手に入らないなんてことになる前にね。開幕するまで様子を見ようなんて思っていると、後の祭りになりますよ。特にイープラスなら先行予約だってあるんですから。気づいたら、今こそ迷わずクリックしてください!(笑)
取材・文=田中里津子 写真撮影=岩間辰徳
■会場:新橋演舞場
■原作:尾田栄一郎
■脚本・演出:横内謙介
■演出:市川猿之助
■スーパーバイザー:市川猿翁
■出演:
・通常公演=ルフィ・ハンコック:市川猿之助/白ひげ:市川右團次/シャンクス:平岳大/サディちゃん・マルコ:尾上右近 ほか
・特別マチネ「麦わらの挑戦」=ルフィ・ハンコック:尾上右近/シャンクス:市川猿之助/サディちゃん:坂東新悟/マルコ:中村隼人 ほか
■公式サイト:http://www.onepiece-kabuki.com/