漫画を食す! 『信長のシェフ』&『本日のバーガー』
「料理」をテーマにしたマンガや小説は、この世で一番、罪深いのかもしれません。何故なら、単純明快。
「お腹が空く」から!
深夜に読んでしまうと、もう大変。今すぐラーメン屋に駆けていきたい!そんな衝動に駆られてしまいます。でも、逆に言えば、食欲を刺激されるほどの表現は素晴らしい作品であると感じます。今回は、「料理」をテーマにしたマンガ『信長のシェフ』と『本日のバーガー』を紹介します。お腹が空いてしまったらごめんなさい!
信長のシェフ
1冊目は『信長のシェフ』。
現代のシェフである・ケンが、戦国時代にタイムスリップし織田信長の料理頭となるお話。歴史好きで美味しいもの好きの私としては、今、一番気になっているマンガです。信長の歩みをベースに、「料理」もしっかりと描かれています。
ところで私は、戦国好きを拗らせたがために、何を思ったのか「1ヶ月戦国創作料理生活」をした事があります。
ルールは、簡単。
• 戦国時代に存在した食材を使うこと
• 料理法は現在のものでも可
• 手に入らないものは代用可※猪の代わりに豚肉など
そんな日々を送ること2週間ほどたったある日、何もかもが味噌の味というのに辛くなり、泣きながら食事をしました(やめればいいのに)。 しかし、この研究結果では、現代人が泣きながら食すほどの美味しくない料理を、戦国の人々は毎日食していた事が分かりました。当時は、生きるために食べ、戦うために食べている。
さて本書では、そんな戦国の世にタイムスリップしたケン。その料理は、戦国ではまさに魔法。そして、その魔法の料理を政治的に利用する信長もアッパレです。ケンの料理は、食材や道具が揃わないという制約を受けながらも、和・洋・中、時にはエスニック料理を織り交ぜた独創的なものです。現代人である私ですら「美味しそう!」「食べてみたい!」と思ってしまいます。
そして……。戦国大好き!食べるの大好き!で、何の目的もなく戦国創作料理生活をしてしまうような私は、作ってみたい!となるわけで……。
『信長のシェフ』の料理を作ってみた!
まずは、全18巻の中でも、特に衝撃的だった「インスタント湯づけ(第1巻)」。
「湯を注ぐだけでどこでも簡単に温かい状態で食べられる」「戦場に持っていけて湯づけより数倍精のつくインスタント」と、ケンは作中で語っています。
戦国時代、戦場に持っていく食事というものは悩みの種でした。それぞれが持参する食事は、干した米、芋のツルを味噌で味付けし乾燥させたもの、また「兵糧丸(ひょうろうがん)」と呼ばれる今で言う栄養補助食品の様なもの。領主が準備する兵糧も、何をどの様に調達し、どうやって運ぶのか?というのは、頭の痛い問題。兵糧が尽きることは敗北に直結します。作中の信長も、ケンの「戦に持っていける」という言葉に引っかかりを持ちます。さて以前、戦国栄養補助食品の「兵糧丸」を作った事がありました。
それがこちら。
これは「甲陽軍鑑」に記された、武田家の兵糧丸。主な材料としては、砂糖。そこにシナモンや長芋など漢方に使われる食材を使用し、海のない武田らしく塩味でないのが特徴です。
食して見ると……甘い!! 脳天を突き抜けるような甘さ!! 味じゃないんだ、戦だもの……と、思いたくても甘すぎる!! 「兵糧ってこんなの食べなきゃいけないの? やだ!」と、現代人らしい感想を持った私は、以後、兵糧という言葉には敏感です。
しかし、作中のインスタント湯づけならどうでしょう? これなら美味しくて栄養価も高そう!と、興味を持ちました。
さて、材料と作り方は以下の通り。※鴨肉の代わりに鶏肉を使用しています。
完成!
湯をかければライスボールが割れ、具が溢れてきます。湯づけでありながら湯づけじゃない。味噌ベースの雑炊より優しく、しかし、しっかりと鶏の脂が味わえる。大根には味が染みているし、キノコの食感もいい。また、使う味噌によって味わいも変わる事でしょう。
そして、二つめは「パオン(第5巻)」。現代のパンのこと。信長との火縄銃の商いに首を縦に振らない堺商人たちを納得させるために、ケンが作ったのがパオン。戦国時代には膨らまし粉など存在しません。その為、パンを膨らませる酵母を作らなくてはならず、酵母になる食材を探すケンは、バナナを見つけ出します。
さて、パン作りが趣味の私。酵母作りからこだわったパンを作りたいと常日頃から思っていて、「バナナでやってみるか」と。材料と作り方は、以下の通り。
完成!
ほんのりバナナの香りのするパオン。外はカリッと硬めなのですが、中はふんわり。バターを使った柔らかなパンも美味しいのですが、植物油で作ったパンもあっさりとしていて、軽くてヘルシーだと感じました。
本日のバーガー
さて、2冊目に紹介したいマンガは、『本日のバーガー』。
食品商社に務めていた神宮寺が、脱サラ後ハンバーガーショップを開き、世界各国のバーガーを通して様々なお客さんとの交流を描くお話です。私は、このマンガを読むと上京したばかりのことを思い出します。地方出身の私は、東京に来るまで大手チェーンのハンバーガーしか食べた事がありませんでした。実は、東京に出てきて初めての給料で食べたのが、専門店のハンバーガー。オシャレなお店に一人で入るのはドキドキして、挙動不審にキョロキョロ。ハンバーガーだけで1000円以上することに驚き、ドリンクやサイドメニューは頼めませんでした。「肉汁が溢れるので気をつけてくださいね」と言われて出されたテリヤキバーガーを一口頬張ると……。
「これがハンバーガー!?」
今まで食べてきたものは何だ?と思うほどに、バンズもハンバーグも柔らかく、全ての味が一体となって口の中に広がります。無我夢中でがっついて完食し、気づけば買ったばかりだった服が肉汁とソースでベッタベタ(忠告されてたのに…!)
そんな少し恥ずかしくなることを懐かしく思い出せるのも、神宮寺のハンバーガーのなせる技。
本書で神宮寺の店を訪れるお客さんは、皆が何かを思って訪ねてきます。悩みを持っていたり、なけなしのバイト代を握りしめてやってきたり……。神宮寺のハンバーガーは、全てを包み込む温かさで、食べた人にパワーを与えます。
また、本書はハンバーガーの勉強になる一冊。世界には様々なバーガーがあって、各国の食文化を知ることができます。マンガを読むだけで、少しだけ異文化を感じることが出来るのはいい体験ですね。私も、神宮寺のハンバーガーを食べて異文化を体感してみたいけれど、実在しないハンバーガーショップ。海外旅行に行くしかないのかと、思った時……「作ってみれば良いじゃん!」と、またもあらぬ好奇心。
『本日のバーガー』を作ってみた!
何を作ろうか?と、マンガのページをめくるも、どれもこれも美味しそう! ならば……。
本書の中で、どうにもこうにも衝撃的だったハンバーガー「ルーサー・バーガー(第2巻)」。これを作ってみようと思いました。というのも「ルーサー・バーガー」は、ドーナツにハンバーグが挟まれているのです! そんなの絶対、不味い! 美味しいと言って食べる登場人物を疑う心で、作ることを決意しました。まず、ドーナツから作るのは少し大変だったので、グレーズドと呼ばれるドーナツを買ってきました(なのでレシピは割愛です。すみません)。
そこに、ごくありきたりな「合い挽き肉」と「玉ねぎ」の家庭的なハンバーグ。因みに、ハンバーグを焼く時には、本書で神宮寺がやっていたようにワインで蒸し焼きにしてみました。ふんわり柔らかなハンバーグに仕上がったので、この技オススメです!
さて、ハンバーグをドーナツに乗せ、ケチャップとマスタードを塗ります。
そして、オン・ザ・ドーナツ!
見た目は想像より良い。むしろ、美味しそう。が、いざ口に運ぶとなると…勇気がいる!(泣) 美味しくなかったら、ドーナツはドーナツ、ハンバーグはハンバーグで食べれば良いと覚悟を決め、恐る恐る……パクリッ!
「ふむ?」
もう一口。
「ん?」
まぁ……もう一口。
「めっちゃ美味しいやんけ!!」
最初は少しよく分からなかったのですが、食べ進めるにつれ、奇跡のようなハーモニー。例えるならば、砂糖を入れ過ぎてしまったテリヤキバーガーのような感じ? 甘じょっぱい。そして、マスタードと砂糖が良い! 甘さと辛さが強烈なバランスで共存しているのです! そして、初めての味を美味しくご馳走様した後……後悔するのです。
カロリー、半端ないやろな……。
本日の信長バーガーの変!?
さて、ハンバーガーは自由であると語る神宮寺。私も私らしい『本日のバーガー』を作ってみたいと思うようになりました。ということで、私のオススメするマンガ2作品『信長のシェフ』と『本日のバーガー』のコラボバーガーを作ってみたい! つまり、戦国時代の食材でハンバーガーを作る! 名付けて「本日の信長バーガー!」。
まず、バンズは上記のバナナ酵母のパオンを使用します。後は、中の具材です。『信長のシェフ』の作中にも、茶々に作ったお子様ランチのハンバーグや、足利義昭に作ったテリヤキなど、参考になる資料が沢山あります。でも、それをそのまま作ったんじゃ芸がない! ということで、以下の様なレシピが生まれました。いつ貴方もタイムスリップするか分からないので、頭の片隅で覚えておいて下さいね!
完成!
胡瓜のピクルスを使ったタルタルをソースにしたバーガーです。しかし、もし戦国時代にタイムスリップしたとしても、優しい味なので信長公には向きません。信長公に食べて頂く際には、味噌も一緒にソースに混ぜて下さい。
最後に
マンガや小説の料理を再現してみるのも、本の読み方の一つかもしれません。そして、この2冊を読んで、「料理」とは、演劇や音楽、絵画とはまた違った表現の方法なのだと知りました。『信長のシェフ』のケンも『本日のバーガー』の神宮寺も、自分の作る料理に、その人への思いやメッセージを乗せて提供しています。だからこそ、作中の料理は人の心を動かす。次の料理に吹き込まれるメッセージはどの様なものなのか? この2作品の最新作が楽しみでなりません。
文=晴野未子