バレエ・アーティスト緑間玲貴&前田奈美甫が沖縄から放つ“祈り”と再生の舞踊「トコイリヤ」東京公演開催!

インタビュー
クラシック
舞台
2017.9.18
緑間玲貴(左)&前田奈美甫(右)(撮影:仲程長治)

緑間玲貴(左)&前田奈美甫(右)(撮影:仲程長治)


沖縄を拠点とするバレエ・アーティスト緑間玲貴&前田奈美甫が2015年から始めた「トコイリヤ」は、踊りを“祈り”と掲げ、独創的な舞台創りを展開する。2017年10月20日(金)に東京・渋谷で催す「トコイリヤ RYOKI to AI vol.4」を控える緑間・前田に、今までの歩みや公演に賭ける思いを聞いた。

定められた出会い

――それぞれの来歴をお話しください。

緑間玲貴(以下、緑間) 3歳から沖縄で母(緑間貴子)の師匠・南条幸子先生にバレエを学びました。ミュージカル俳優を志していたので中・高校生時代には声楽も習いました。進学が上京の絶対条件だったので大学に進みました。バレエに絞って進むきっかけは上京後に森下洋子さんが踊る『ロミオとジュリエット』を観たことです。自分がやってきたバレエの概念・感覚とは全く別でした。松山バレエ団に少しの間お世話になったあと沖縄に戻り、母が独立してスタジオを始めたので運営を手伝い指導するようになりました。

前田奈美甫(以下、前田) 4歳から大阪で川上恵子先生にバレエを習い、そのあと平瀬有里先生、岡本博雄先生・岡本範子先生に学びました。中学生のときにワガノワ・バレエ・アカデミー留学のお話を故・安積由高先生(日本バレエ協会関西支部支部長を長年務めた)からいただいて3年間学び、2年間は文化庁の新進芸術家海外研修制度に選ばれました。師事したのはイリーナ・シトニコワ先生です。卒業後マリインスキー・バレエに研修生として1年弱いたあと帰国して東京バレエ団に入り、その後大阪に戻って踊っていました。

『ルミエール・ドゥ・レスト』よりDans La nuit 緑間玲貴&前田奈美甫(撮影:仲程長治)

『ルミエール・ドゥ・レスト』よりDans La nuit 緑間玲貴&前田奈美甫(撮影:仲程長治)

――沖縄、大阪と離れているお二人が出会われたのはいつですか?

前田 コンクールで東京バレエ団時代の友人と一緒になり、彼が物凄く上達していたのに驚きました。緑間に習っていると聞いて関心を持ち、緑間が東京で月に1度やっていたマスタークラスを訪ねました。

緑間​ 東京時代に頚椎の疾患により踊りを続けられなくなる宣告を受けたのですが、そこから立ち上がって踊れるようになりました。その経験から友人たちに「ここをこうすると良くなるよ」とアドヴァイスするうちに口コミが広がって、東京で男性だけのクラスを持つようになりました。前田がそこに来たいと連絡してきたので会うことになりました。

前田 六本木で待ち合わせたのですが、会う前に一目見かけただけで「緑間玲貴はこの人だろうな。つながる人になるな」と感じたんです。

緑間 出会ったときに「この人と結婚するな」と感じました。彼女もそうだったみたいで、一緒にやっていくことになるのだろうなと思いました。

『I suz U』 緑間玲貴&前田奈美甫(撮影:仲程長治)

『I suz U』 緑間玲貴&前田奈美甫(撮影:仲程長治)

​「トコイリヤ」誕生秘話

――緑間さんが創作しお二人が踊られるようになったのがご結婚後ですよね?

緑間 2012年、ご縁があって芸能の神様をお祀りしている天河大辨財天社(奈良県)から秋季大祭時に奉納のお話をいただきました。それで『Lumières de l’Est ~ルミエール・ドゥ・レスト 東方からの光~』を上演して奉納し創作活動を始めました。

――2015年5月に東京で第1回公演を行った「トコイリヤ」の原点ですね。自主公演を始めようと思われたのはどうしてですか?

緑間 私のクラスに年下の男性たちが集まると、彼らは個として一人の芸術家として立ち上がっていく覚悟がなく、好きだから何となく踊っている。そこで画家が個展をするように芸術家として世に打って出る機会がもっとあってもいいのではないかと考えました。​また沖縄にはプロのバレエ・ダンサーとして芸術家として活動していく場がありません。子供たちに将来を提示できないと夢がないし、モチベーションがなくなる。そこで自分たちが立ち上がり旗を立てられるのではないかと思いました。天河大辨財天社への奉納がきっかけとなり芸術に対する想いが増えてきたのとクリエイションしていきたいという気持ちが相まって、そういう運びになりました。

『ルミエール・ドゥ・レスト』よりAurore 緑間玲貴(撮影:仲程長治)

『ルミエール・ドゥ・レスト』よりAurore 緑間玲貴(撮影:仲程長治)

――2015年5月に東京で「トコイリヤ」vol.1を行い、2016年1月、6月に沖縄でも公演しました。「トコイリヤ」という公演名は緑間さんの「やりたいこと」から、ためらいの「た」を抜いて逆に読んだものだとナビゲーター役の犬養憲子さんが語るのがおなじみです。

緑間 常世(とこよ)と現世(うつしよ)という言葉があります。私は見えるものと見えないものが共存している世界を舞踊化したい。常世というのが要するに見えない世界、そこに入っていくという意味で「常入夜(トコイリヤ)」と付けました。それを「やりたいこと」にかけて舞台ではお伝えしてきました。いきなり常世と現世というと引かれるかと思って……。

――前田さんにお伺いします。緑間さんの創作に参加し、彼と踊るときに何を感じますか?

前田 こんなに研ぎ澄まされた舞台の創り方があるんだなと間近で体験できて、人間的にも精神的にも成長できました。緑間と踊ると、超絶クリアな父性と母性が一緒にやってくる感じがあって、物理的に見えていなくても踊れるような絶対的な安心感を覚えます。

犬養憲子(左)&平敷勇也(右)(撮影:仲程長治)

犬養憲子(左)&平敷勇也(右)(撮影:仲程長治)

踊りとは“祈り”

――緑間さんの創作のベースはバレエですが、琉球舞踊や観音舞(柳元美香が古代巫女舞から派生させた舞)の方と一緒に舞台を創られています。どのような舞踊観に基づいて創作されているのですか?

緑間 バレエは動的ですが、私は静の世界や東洋的な思想にも触れてみたいんです。アカデミックなクラシック・バレエも凄く大好きですが、静的な部分・動かない存在感をどこまで追求できるかに興味を持っています。古い時代の踊りにアクセスして観音舞に出会ったりしましたが、バレエで培ってきた舞踊観と、それほど変わらないんです。畑は違っても突き詰めたら皆同じところで表現しているので、一緒にやって存在しないものを創り出すことができると思います。

 ――緑間さんの舞台は“祈り”がキーポイントだと思いますが、どう考えていますか?

緑間 “祈り”と踊りは同義語だと思います。“祈り”といっても宗教的な意味ではありません。森羅万象が動いているところに人間が踊る理由がありますし、一つの宣言、思っていることを出していくような作業を“祈り”と人間は言ってきたので、それと芸術は一緒だと思います。見えないものに気持ちをのせて宣言する作業と、アーティストが見えないものを感じ取ってクリエーションをするのは似ています。動作的にも古くから同じように人間がやってきているし、歴史的にも祈りの場には踊りがあります。

『ルミエール・ドゥ・レスト』より Solo con te 緑間玲貴&平敷勇也 (撮影:仲程長治)

『ルミエール・ドゥ・レスト』より Solo con te 緑間玲貴&平敷勇也 (撮影:仲程長治)

 ――沖縄に生まれ育ってきたことが踊りや舞台に反映されていると思われますか?

緑間 沖縄の人って凄く自然なんですよ。在ることを素直にシンプルに受け取るのが沖縄の人の在り方です。私はそういうものを貰い受けているし、創作にも反映されているんじゃないかなと思います。

前田 沖縄の人は純粋ですね。子供たちも純粋に踊りを楽しんでいるし、疑うこともなく信じてくれるので過ごしやすいです。アーティストも純粋です。

芸術の使命は、明るいところに光をあてること

――「トコイリヤ  RYOKI to AI vol.4」 東京公演について伺います。幕開けは先ほど話にのぼった『Lumières de l’Est ~ルミエール・ドゥ・レスト 東方からの光~』です。

緑間 万物の森羅万象を描いている作品で、ビックバンの直前を踊りにしたらどうなるのだろうかというひらめきから生まれました。超新星爆発の直前の究極に静まっている世界って、誰も知らないじゃないですか?

――この作品には緑間さんと琉舞の平敷勇也さん、前田さんが出演します。前田さんは琉装で登場し、琉球王朝の皇女であった百十踏揚(ももとふみあがり)を踊ります。

前田 琉装で踊ることに驚いたのですが、琉球の歴史を勉強して百十踏揚を踊らせていただけることを名誉なことだと感じるようになりました。緑間玲貴とともに成長している作品です。緑間も平敷も人間的に変わっていっているので毎回違った感覚がある作品です。

『ルミエール・ドゥ・レスト』より百十踏揚 前田奈美甫(撮影:仲程長治)

『ルミエール・ドゥ・レスト』より百十踏揚 前田奈美甫(撮影:仲程長治)

 ――続いてロマンティック・バレエの時代の作品『パ・ド・カトル』を披露します。

緑間 バレエがどんどん進化し美しい形に変わっていった時代の勢いが好きです。腕の使い方とかが独特です。今の時代はラインをきれいにし過ぎて人間臭さ、いい意味での舞踊家っぽいバレエを失っていると思います。その辺りを少し研究してお見せしたいなと。

――緑間さんが大阪を中心に活動するダンサー・振付家の上杉真由さんと共作・共演する新作『道』はどのような作品になりそうですか?

緑間 彼女は前田の出身スタジオの先輩で芯が通った踊りをします。そして作品を創るときにダンサーの世界観を上手く切り取る力に長けている。二人で踊るのは初めてです。アイデンティティをテーマに作品を創りたいと考えてオファーしました。人としてのアイデンティティ的なものが出せたらいいなと考えて二人の作品を創ります。

『samsara』上杉真由(撮影:仲程長治)

『samsara』上杉真由(撮影:仲程長治)

 ――続く『I suz U』は緑間さんと前田さんのデュエットで音楽をピアニストの川満睦が生演奏します。

緑間 最後の『RE BORN 再生 −Bolèro−』に出てくる観音舞がインスパイアされた踊りが、もっと古い時代の沖縄の久高島に残されていた舞踊です。それを私たちが学び、神道文化のルーツである古神道の舞踊観を織り込んで創った作品です。

――『RE BORN 再生 −Bolèro−』は昨年(2016年)6月、沖縄ガンガラーの谷ケイブカフェという鍾乳洞のなかで行われた「トコイリヤ  RYOKI to AI vol.3」で初演され話題になりました。

緑間 主催していただいた琉球放送のリクエストでラヴェルの『ボレロ』を用いました。沖縄戦の鎮魂と再生を扱っているのですが、ともすると暗い部分に紐づけられ易くなってしまう。芸術の使命はネガティブな部分に光を当てることではなく、もっと明るいところに光を当てることだと思います。そこで新しいこと、これから生まれることにあえてシフトしていきました。柳元美香さんたちの観音舞と共演し、新しく生まれるときの5大元素という考え方をモチーフにしています。沖縄の人たちもそういうものを感じて生きてきたし、観音舞のルーツも沖縄なので、そういったことを紐づけられてできた作品です。

『RE BORN 再生』(撮影:仲程長治)

『RE BORN 再生』(撮影:仲程長治)

「トコイリヤ」は、生きている

 ――今回の東京公演に向けての意気ごみをお願いします。

緑間 全体を通してのテーマはラ・ルネサンス、原点回帰への誘いです。今回に限りませんが、よりその趣があります。私がそういうものを求めているし、提言していきたいんだと思います。「トコイリヤ」は、とても生きている感じがして、「トコイリヤ」自身が出演者を選び、お客様も選んでいて、舞台と客席とで一つの会話が出来上がっている感じがします。回を重ねてそういう世界観がもっと育まれたらいいなと思います。

前田 いつも舞台に立つと、どういう空気を感じ何が出来上がるのかが楽しみです。緑間がお話ししたように、お客様とか場所とかすべてが「トコイリヤ」という感覚になります。一体感を凄く感じるのですが毎回毎回感覚は違うので今回も楽しみです。

『RE BORN 再生』緑間玲貴(撮影:仲程長治)

『RE BORN 再生』緑間玲貴(撮影:仲程長治)

取材・文=高橋森彦

<緑間 玲貴 RYOKI MIDORIMA プロフィール>
4歳でバレエを始める。2012年から「踊りは祈り」をテーマにバレエ奉納活動を始め2015年、自主公演「トコイリヤ」を始動させる。緑間バレエスタジオ設立後、後進の指導や芸術の啓蒙講演など活動は多岐。トコイリヤvol.2沖縄公演 vol.3沖縄公演が好評を博し、2016年度(第51回)沖縄タイムス芸術選賞 奨励賞 洋舞・邦舞 部門(バレエ)を受賞。

<前田 奈美甫 NAMIHO MAEDA プロフィール>
4歳でバレエを始める。2002年文化庁新進芸術家海外研修員としてワガノワ記念ロシア・バレエ・アカデミーに入学。卒業後、キーロフバレエ団、東京バレエ団で活動。企業広告や雑誌モデルなどの他、現在、緑間バレエスタジオにおいて後進の指導や緑間玲貴と共に、舞踊創作活動や、公演活動をしている他、バレエ公演への客演も多い。 

公演情報
バレエ・アーティスト 緑間 玲貴 東京公演「トコイリヤ RYOKI to AI vol.4」

■日時:2017年10月20日(金)18:30 ​開演
■会場:渋谷区文化総合センター大和田 4F さくらホール
■出演:
緑間玲貴 前田奈美甫
上杉真由 柳元美香
大木彩未 和座英理子 平敷勇也
犬養憲子 川満睦
井田美保子 東泉沙也夏 梅田有希
遠山奈津子 引地史恵  矢向ひとみ
■公式サイト:http://www.ryoki-midorima.com/

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