“一夜限りのラフマニノフ” ピアノ協奏曲第2番 ピアニスト セルジォ・バイエッタにインタビュー
イタリア、ヴェローナを拠点に活躍するピアニスト、セルジォ・バイエッタさん。コンクールでも数多くの受賞歴を持ち、世界的に歴史に残る大御所の歌手たちとの共演など輝かしい経歴の持ち主ですが、ひとたび話し始めると、なんとも気さくで溢れ出るユーモアがとまりません。王道のクラシックはもちろん、スターウォーズを自らアレンジして演奏するなど、スキルとアイディアに溢れたセルジォさん。今秋、「日中国交正常化45周年記念」東京フィルハーモニー交響楽団特別演奏会にソリストとして抜擢され、日本での本格デビューが決まりました。そんなセルジォさんの気になる素顔に迫ります。
――まずは、ピアニストを目指したきっかけを教えてください。
僕の両親は音楽家で、母の親友だったソプラノ歌手のアリダ・フェッラリーニは、公演のない日によく僕の家に来ていました。祖父も熱心な音楽ファンで、幅広いレコードコレクションを持っていたので、クラシック音楽やオペラは僕が毎日自然に聴いている身の回りの音だったんです。幼い頃、僕の好きな遊びの一つはピアノの前に座ってレーシング・カーの運転席に座っている真似をすることでした。ペダルをブレーキとアクセルに見立てて空想のレースを走るんです。きっと両親はそれを見て、僕を音楽学校に入学させようと決めたんだと思います。
5月来日時に東京オペラシティコンサートホール ロビーにて
――ヴェローナではどんな日々をお過ごしなのでしょうか。
僕の毎日はとてもシンプルです。勉強や家の小さな用事などで、夕方になるまでまったく外出しないこともよくあります。その後、普段なら日没の時間にヨガのレッスンに出かけます。この毎日の習慣は、僕が音楽大学で教えている可愛い生徒たちや、僕の嫌いな突然の(!)訪問によって中断される事がありますけれど(笑)。夕方からは友人たちとバールでプライベートな時間を過ごすのが好きですね。
地元ヴェローナの楽団 オーケストラ・マキャヴェッリ
――クラシック音楽の伝統的な曲から、気取らないアレンジまでマエストロのレパートリーはとても変化に富んでいます。ご自分で作曲をすることもありますよね! お仕事をしていく上で、何からインスピレーションを受けていますか。
僕は作曲家ではありません。でも、音楽で遊ぶのが好きで映画の様々な音楽のテーマをクラシック音楽とミックスしたりするのですが、これがとても面白い結果をもたらすのです! 例えば、ジョン・ウィリアムズはショパンととても相性がいいんですよ。今、いくつかの新しいアイディアを練っている所で、早く実際に作ってお聴かせしたいです。僕はピアノの新しい演奏方法を実験して、特に二台以上のピアノを同時に弾いたり、ファンタジーと自分の能力で、どこまで出来るか試してみるのが好きなのです。以前取り組んだもので、ショパンのエチュードをピアノ2台で弾いている動画(多分僕の一番酷い動画)があります。この動画はヨーロッパでとても人気がある英国のクラシック音楽ラジオ、クラシックFMに紹介されたんです。とても驚きました!
僕は自分自身を伝統的な意味でのクラシック音楽家だとは思っておらず、最近は、ヴィジュアル素材をもとに即興演奏をするのも好きです。ただこの分野においてはまだ初心者ですが。
▼気になる動画はこちらから御覧ください
F.Chopin etude n°4 op.10 divided between 2 piano
――お休みの日は何をして過ごしていますか。また、もし日本で1日自由に過ごせるなら何をしたいですか?
僕には色々な趣味があります。ドローンを持っているのですが、そういう飛行物を操縦するのが好きですし、タロット・カードを読むこと、瞑想をすること、それから、心理学と自己分析の本を読むことも。読書だと、評論、自伝、回想録など、僕の人生の個人的なヴィジョンを拡げる助けになるものを好んで読んでいます。
日本では、スカイ・ツリーに昇るのが僕の夢の一つだったのですが、その夢は前回訪れた時に実現しました。次回は、より日本のスピリットに触れられるようなお寺で瞑想をしてみたいです。それからサントリーホールにコンサートを聴きに行ってみたいですね。
スカイツリー 撮影:セルジォ・バイエッタ
――アニメ・ファンだと伺いました。これまでに日本のアニメを見た事はありますか?
もちろんです! 僕は日本のアニメが大好きで、お気に入りは「鋼鉄ジーグ」ですが、他にもたくさん知っています。日本アニメのテーマ音楽がまた素晴らしく、友達に弾いて聴かせて楽しんだりしています。
――11月にはいよいよ日本本格デビューですね! おめでとうございます。曲目がラフマニノフのピアノ協奏曲第2番! もう、本当に大好きな曲なのでとても楽しみです。
どうもありがとう! 作品の背景や作曲者の意図を知るのはいつでも興味深いです。このコンチェルトはラフマニノフが深い芸術的な危機に陥った後に甦ったことを象徴する作品です。この曲は彼に催眠療法をしたセラピストに捧げられているんです。僕は、ピアノが奏でる最初のいくつかの和音が、治療の時の催眠療法士の振り子を表しているのではないかと考えています。そういった視点から見ると、この協奏曲は苦しみの多い内面的な世界において自分自身を探す内省の旅になるのです。
――では最後に、読者にメッセージをお願いします!
皆さんと僕のデビュー・コンサートで会えることを願っています。そうすればもしかしたらコンサートの後に、皆さんにタロット占いをしてあげられるかもしれません(笑)。
東京フィルハーモニー交響楽団特別演奏会
ピアノ:セルジォ・バイエッタ
・チャイコフスキー/交響曲第5番
プロフィール写真 ©maatteo Ierimonte
幼少時から天才と謳われ、数多くのコンクールで賞を受賞。ヨーロッパを中心にリサイタル、室内楽、コンチェルトと、幅広く活動を展開。また、東京フィル首席指揮者アンドレア・バッティストーニと共に“アンドレア・バッティストーニ&Bサイドトリオ”を地元ヴェローナで結成し、若者向けにクラシック音楽の普及活動を積極的に行っている。2015年にオーケストラ・マキャヴェッリを結成し、指揮者としても活躍中。イタリア・ヴェローナ生まれ。
http://www.sergiobaietta.com/
http://ebravo.jp/tpo/archives/664