【動画あり】舞台『黒蜥蜴』製作発表会見レポート 中谷美紀、井上芳雄、相楽樹、朝海ひかる、成河が魅せるデヴィッド・ルヴォー演出の耽美な世界
舞台『黒蜥蜴』
2018年1月に開幕する舞台『黒蜥蜴』の製作発表会見が2017年9月28日、東京都新宿区にある東京モード学園のコクーンホールで行われた。出演者の中谷美紀、井上芳雄、相楽樹、朝海ひかる、成河と、演出家のデヴィッド・ルヴォーの計6人が登壇した。パフォーマンスも含めた会見の様子を写真とともにレポートする。
江戸川乱歩の長編探偵小説で、1961年に三島由紀夫が戯曲化した『黒蜥蜴』。三島が残した戯曲の中でも最高傑作のひとつと称されている。「美」に執着する女盗賊“黒蜥蜴”を中谷美紀が演じ、黒蜥蜴の好敵手であり運命の恋人である“明智小五郎”を井上芳雄が演じる。耽美と闇の世界を、ロンドンやブロードウェイで活躍する世界的な演出家デヴィッド・ルヴォーが魅せる。
舞台『黒蜥蜴』
舞台『黒蜥蜴』
舞台『黒蜥蜴』
会見の冒頭、「三島由紀夫に捧げるオマージュ:舞台『黒蜥蜴』」としておよそ2分にわたるパフォーマンスが上演された。黒革のロングドレスに、人面が張り付いた黒帽子と赤黒い口紅が印象的な“黒蜥蜴”。服の前面が蜘蛛の巣のような細かい模様が施され、腕は肌の一部が見えつつ編み上げられたデザインのドレスを、中谷美紀は艶やかに颯爽と着こなした。中谷の所作もさることながら、茶色地に黒いチェックのスーツで決めた井上芳雄と、黒革のスーツを着た成河のキレがあるのに色気が漂う立ち居振る舞いは『黒蜥蜴』の世界観を体現しているかのよう。黒い着物を着た朝海ひかると白いロングワンピースを着た相楽樹のある種の対比も視覚的に面白かった。
演出家のデヴィッド・ルヴォーが、1988年に初来日してから約30年が経った。「初めて日本に来た時に、三島由紀夫の世界にとても魅力を感じました。当時、自分にとって日本はとても謎めいていた国だったが、三島由紀夫という作家を通じて日本に対するとっかかりができました。今まで出会った作家の中で、三島由紀夫のように夢を見るような作風の作家や劇作家、小説家に出会ったことはなかったのです」と、三島への愛を語る。
舞台『黒蜥蜴』演出家:デヴィッド・ルヴォー
作品を上演することについては「今回の『黒蜥蜴』はとても有名な作品です。“美”という概念と人間の不完全さという相反することが描かれています。エロチシズムと死もテーマとして取り上げられています。こういったテーマは演劇を通して表現する永遠のテーマだと今でも思っています。しかし、現代のお客さんに対して、有名な作品を届けるわけですから、観客と劇の関係性を新たにするという責任があります。今の私たちにわかりやすいように劇の内容を表現することが大事になってきます」と答え、「まるで一本の映画かのようにこの作品に取り組みます。テーマが盛りだくさんの演劇ではありますが、エンターテインメントとして楽しんでいただければと思います。すごく偉大なる劇作家の作品を取り組むにあたって日本で働くことができて嬉しいです」とその意気込みを語った。
舞台『黒蜥蜴』黒蜥蜴 役:中谷美紀
主演の中谷は「素晴らしい作品に恵まれ、演出家、共演者の皆様に恵まれ、豊かなお時間を過ごさせていただいております。励んでおりますのでご支援ください」と挨拶。
一方で黒蜥蜴役が決まった時の心情をこう語る。
「私は常々自分は舞台に向いていないなと思ってきました。今回『黒蜥蜴』の話をいただいた時も、嬉しい反面恐れの方が大きく、尻込みしている自分がいました。でも、実際にルヴォーさんにお目にかかってみると、暖かい眼差しで、自信のなさを懐深く受け入れてくださって。新しい旅に誘っていただけるような気がして、自分の能力も顧みずついイエスと言ってしまいました」。そして「本番が大嫌いで恐ろしくて、毎度毎度お稽古だけして別の女優さんに演じていただきたいと思うんですけど、ルヴォーさんはそれでもいいと仰ったので(笑)。お稽古を存分に楽しみたいと思います。」
舞台『黒蜥蜴』明智小五郎 役:井上芳雄
明智小五郎役の井上は「『黒蜥蜴』という作品をやれることを幸せに思っています。昨日までワークショップをしまして、どんどん期待が高まっている中での今日なので、嬉しいです」と高揚感を語る。
井上はルヴォーと『ルドルフ ザ・ラスト・キス』(2012)以来のタッグ。「(ルヴォーの演出が)鮮烈で忘れられなくて、なんだかルヴォーに魔法にかけられたような稽古期間と本番期間でした。それからずっと魔法にかけられたいと思いながらら、5年ぐらい現実を見せつけられたんですが(笑)やっと魔法にかけられる時が来ました」と話す。
「是が非でもやりたいと思っていました。中谷さんをはじめ、素晴らしいキャストとスタッフとできるのは逃す手はないし、僕はなんとかこの仕事したくて、スケジュール調整などをしてもらって、しがみつくようなこの役をやらせてもらいます」と熱意を語る。「僕は一応ミュージカル界でプリンスと言われているんですが38歳なんですね。ルヴォーさんからも『もうプリンスじゃないだろう』と言われて。『ハードボイルドな明智をやったらいい』と言ってくれたのでとても嬉しく、精一杯頑張りたいと思います」と“脱プリンス”発言をしていた。
舞台『黒蜥蜴』岩瀬早苗 役:相楽樹
一代で財を築いた宝石商・岩瀬庄兵衛の娘である、岩瀬早苗役を演じる相楽は「数日間ワークショップをやっていて、ルヴォーさんや共演者の皆さんと黒蜥蜴の世界観を少しでも共有できて、本番がより一層楽しみになってきました。素晴らしい舞台になると思います」。
美輪明宏の『黒蜥蜴』を見た際に、ルヴォーと話す機会があったという相楽。「私が思っている『黒蜥蜴』とはまた違うものを見せてくれるんじゃないかなと思います。出演したい気持ちが強かったので、決まった時はうれしかったです。素敵なキャストとご一緒して、たくさん刺激を受けて、本番まで精度を高めていけたらなと思います。私にとって挑戦なので、ぜひ見に来ていただけたら嬉しいです」とフレッシュなコメントをした。
舞台『黒蜥蜴』ひな 役:朝海ひかる
岩瀬家に仕える家政婦のひな役を演じるのは朝海ひかる。「『黒蜥蜴』という作品に出演できることが何よりも心動きました。その上演出がデヴィッド・ルヴォーさんということで、『黒蜥蜴』の印象がさらにルヴォーさんのマジックで今までにないものが出来上がるようなワクワクさを感じた。私は家政婦のひなという役で、私が今まで演じたことのないような役でございますので、それも女優人生でこの役をいただいたことを嬉しく思っています。皆様と楽しい舞台にしたいと思います」と挨拶した。
舞台『黒蜥蜴』雨宮潤一 役:成河
黒蜥蜴の部下で美しい青年・雨宮潤一役の成河は「正直に申し上げると、一番お話を頂いた時はお断りさせていただいた。青年雨宮は、年齢が若くてフレッシュな役柄なんです。僕はこう見えて36歳なんですよ(笑)。なけなしの純粋さと美青年を集めてやっていこうと思っています。悩んだ時に、演出家のデヴィッド・ルヴォーさんがお話する機会を設けてくれたんです」と内情を話す。「ルヴォーさんの作品への意気込みみたいなものを丁寧に丁寧にお話ししてくださって胸を打たれました。日本で誰も見たことがない、やったことない『黒蜥蜴』、三島由紀夫の世界が作れるんじゃないかなと思って、その助けになりたいとやりたいと思いまして、引き受けさせていただきました。楽しみにしていてください」と語った。
舞台『黒蜥蜴』
続いて短い質疑応答の時間があった。成河は『人間風車』初日のため中座した。
――ルヴォーさんはキャストの皆様をどう見ていますか?
ルヴォー:私にとって素晴らしい機会です。数日間、ワークショップを通じて幾つかの初期段階の実験を重ねました。役者さんの音楽性やどんな雰囲気を拝見する機会になりました。役者というのは音楽の楽器みたいなものだなと前からっていて、どんな音を奏でてくるか予想がつかない。芳雄さんとは以前ご一緒したことがあります。彼はどんどん新たなチャレンジをしていて、新しい側面を見せてくださっている。中谷さんとはニューヨークでお会いして、素敵な朝食ミーティングをしました。魔法のような力を持っているなと直感的に感じました。すでにプレ稽古としてワークショップを始めていますが、12月から始まる本稽古をとても楽しみにしています。
――『黒蜥蜴』という作品そのものと役柄に対する印象を教えてください。
朝海:黒蜥蜴の印象は、三島由紀夫さんと美輪明宏さんの名前が先に出てきてしまいますが、印象としてはエロティックでグロテスクで、観客としては怖いもの見たさで見てしまいます。役柄は、家政婦ということで、そういう経験をさせてもらったことがなく……なかなか分からず色々と想像はしているが、楽しみにしております。
相楽:黒蜥蜴の印象は、ルヴォーさんもよく仰る“グロテスクビューティー”という言葉がまさにぴったりで。今日の中谷さんの衣装も全部レザーが入っていて、本当に美しいです。黒蜥蜴にしかない世界があると思っています。私は黒蜥蜴に誘拐される早苗役を演じるんですが、ネタバレになってしまうので言えないんですけど、早苗にはちょっと秘密があって、私にとってかなりやりがいのあるところだなと思っています。最後はびっくりするような展開なので皆さんに楽しみにしていただけたらなと思います。
井上:黒蜥蜴の世界は見たことない、味わったことない世界だなと思いました。時代もあるのかなと思いますが、エンターテインメントな作品でもあるんですね。セクシーでグロテスクなところもあったかと思えば、コントみたいなシーン、謎解きのようなところも。謎もまたそんなので騙されるか?と言いたくなるような感じもあって、でもそれがこの世界だけが持って成立しうる雰囲気なんだなと思っています。面白くて素敵だなと思います
僕の役は日本一の探偵という設定で、犯罪に恋しているし犯罪からも愛されている不思議な役。ずっとワークショップやっていて、ラブストーリーでもあるし、見たことないような愛の形がここに生まれるんじゃないかという予感がひしひしとしていて、ちょっと背筋がゾゾッとするぐらい魅力的だなと思っています。
中谷:明智小五郎と共に犯罪にとりつかれた二人で、セリフの中にもありますが、写真の陰画と陽画のような、共に惹かれあいどこかで牽制し合う。ワークショップをしていても相手を追いかけても追われているのか分からない瞬間がありました。犯罪にとりつかれた2人のロマンチックなラブストーリーとでも申しましょうか。美しく残酷な物語です。黒蜥蜴に関しては美に執着し、美に溺れ、美のためならどんな手段も問わないというその執着ぶりがおぞましく感じる方もいるかもしれないけれど、私は読んでいてどこか心地が良かったです。美しいものが大好きなので、黒蜥蜴に共感しつつやっています。
――現状の演出プランを教えてください。
ルヴォー:先ほど触れさせていただいていますが、三島が描いていたヴィジョンをどういう風に表現するかを探っていきたいです。そして言葉に囚われずに、剥ぎ取っていきたいです。映画のような技術も使っていくつもりで、まるで夢であるかのように人物やシチュエーションを浮かび上がるようなことをできたらなと思います。夢は曖昧な夢ではなく、主に必要のない情報・光景をカットしてしまうことがあると思います。順番が不思議な順番になってしまったりしますよね。キャバレーを想像してみてください。不思議な暗闇のキャバレー。それが徐々に狂気へと発展していく。そう言ったタイプの美しさを追求することになるかと思います。
舞台『黒蜥蜴』
取材・文=五月女菜穂 撮影=中田智章
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■原作:江戸川乱歩
■脚本:三島由紀夫
■演出:デヴィッド・ルヴォー
一倉千夏、内堀律子、岡本温子、加藤貴彦、ケイン鈴木、鈴木陽丈、滝沢花野、長尾哲平、萩原悠、松澤匠、真瀬はるか、三永武明、宮菜穂子、村井成仁、安福穀、山田由梨、吉田悟郎(50音順)
■公演日程:
東京公演:2018年1月9日(火)~ 28日(日)日生劇場
大阪公演:2018年2月1日(土)~ 5日(月)梅田芸術劇場メインホール
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■一般発売:2017年9月30日(土)~
■料金:
東京公演 S席 12,500円 A席 9,000円(全席指定)
大阪公演 S席 12,500円 A席 9,000円 B席 5,000円(全席指定)
■企画・制作:梅田芸術劇場
■問い合わせ(10時~18時):梅田芸術劇場 0570-077-039[東京] 06-6377-3800[大阪]
■公式サイト:http://www.umegei.com/schedule/634/