“見えないものを見る”ことこそがアートを鑑賞する醍醐味 【SPICEコラム連載「アートぐらし」】vol.2 遠山昇司(映画監督)

コラム
アート
2017.10.17

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美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、映画監督の遠山昇司さんが「十勝千年の森」へ行かれた際に感じた、アート作品を鑑賞する醍醐味について語ってくださっています。

少しばかり眠ってしまっていた。

朝7時15分羽田発の飛行機は、北海道のとかち帯広空港へと向かっている。
窓の外を眺めると、まるでパッチワークのような緑と茶色の田園が広がっていた。まっすぐに伸びた白い道は、まるで定規で引いた線のようで、地上が近づくと、それが白樺の並木道だとわかる。
どうしても見たい風景のために旅に出たのは、いつぶりだろうか。
空港に到着した僕は、バスで帯広駅へと向かった。

入り口のお店「フローモーション」

帯広駅に到着すると気になっていたお店へ歩いて向かった。
本当にこっちであっているのだろうか、と不安に思いながら細い路地を進むと「フローモーション」という看板が見えてきた。

店内に入るとアートやデザイン関係の本が沢山並んでおり、コーヒーの香りがほのかに漂う。
陳列されている本から店主の心が垣間見えてきて、素敵なお店だなと感じた。

僕がアートに関心を持ったきっかけは、生まれ育った街の小さな本屋さんで手にした「美術手帖」という美術雑誌だった。
ページをめくった瞬間、新しい世界が広がった。
初めて訪れた帯広という街に、知らない世界の入り口のようなお店が存在していることに嬉しくなった。
僕がこのお店を出た後に、誰かが一冊の本を手に取り、ページをめくる。
そこには絵が描かれているかもしれないし、知らない風景の写真が広がっているかもしれない。
その誰かの存在は、僕と交差することなく続いていくのだろう。

「これから、どちらへ向かわれるのですか?」
「十勝千年の森へ行ってきます。」

手を振って見送ってくれた店主が、この地で僕が初めて会話をした人だった。

FLOWMOTION(フローモーション)代表の高坂さん(右)

FLOWMOTION(フローモーション)代表の高坂さん(右)

千年の森とアート

帯広駅から芽室駅へ移動し、そこからタクシーで「十勝千年の森」へ向かった。

「十勝千年の森」は、文字通り、1000年後の未来へ遺(のこ)すための森を育てている。
東京ドーム85個分に当たる400haもの広大な敷地内には、「フォレストガーデン/森の庭」「ファームガーデン/農の庭」、そして世界的なガーデンデザイナー、ダン・ピアソンによってデザインされた「アースガーデン/大地の庭」「メドウガーデン/野の花の庭」の4つの庭があり、目の前に広がる雄大な自然と共生するように現代アーティストの作品が点在する。

雑木林の中を流れる小川に沿って歩いて行くと、目の前に波打つ芝の丘が広がった。芝の丘の曲線とその先に見える日高山脈の曲線が滑らかに重なり合い、圧倒的なスケールと一体感を生み出している。

ダン・ピアソンによってデザインされた「アースガーデン/大地の庭」

ダン・ピアソンによってデザインされた「アースガーデン/大地の庭」

丘を越えた先には、ディディエ・クールボの「七つのダイヤモンド」という石碑が立っており、その石碑には“七つのダイヤモンドがこの土地の七つの場所に密かに置かれた”と書かれてあった。

僕は、しばらくその文章を眺めて、想像した。

空がある。今は見えていないが、そこには確かに星がある。
夜になる。月明かりに照らされて小さく光る七つのダイヤモンドがある。
見えないものを見るという体験こそが、アート作品を鑑賞する際の醍醐味ではないだろうか。
閉園時間の16時が近づく中で、森の緑が金色へと変わり始めていた。
夕陽が森と庭を包み込み始めていくのを感じた。
僕の旅も終わりを迎えようとしている。

「観光」とは、「光を観る」と書く。十勝の美しい光が、冬の到来直近の草花を照らしていた。

FLOWMOTION(フローモーション)公式サイト:http://www.flowmotion.que.jp/
十勝千年の森公式サイト:http://www.tmf.jp/

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