ベルナルト・ハイティンク讃(前)

コラム
2015.9.29

グラモフォンアワード、納得の「生涯功績賞」受賞

少し前のニュースになるが、現在ロンドン交響楽団と来日中のマエストロ、ベルナルト・ハイティンクが「2015年グラモフォン・アワードの生涯功績賞を受賞した」と知って、クラシック音楽ファンほとんどが得心したのではないだろうか。活動の中のある時期、ある特定の演奏、その中の印象的な瞬間を取り出してどうこういうよりも、「いつも確実に良い演奏を聴かせてくれる」安心感のあるマエストロを、その活動全体そのもので称えるのは彼の音楽、活動への最も適切な、そして最高の賛辞であろう、と。

併せて発表された彼の受賞を祝う世界の音楽家、オーケストラからのコメントを読みながら、彼の録音を聴き直しつつしみじみと考えたことを、以下二回に分けて書いてみたい。

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ベルナルト・ハイティンクが1961年にアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者に就任した際の日本での反応は、と少し考えて「彼を抜擢したことへの驚き以上に、彼の補佐役的に就任したオイゲン・ヨッフムへの期待が大きかっただろう」という結論に行き当たる。今のように多様な配信があるわけでもない当時、ヴァイオリニストとしてキャリアを開始し、まだ30代前半のオランダ人指揮者の演奏を聴く機会などほぼなかっただろうから、「彼の就任に」というより彼の名前にそう強い反応はなかったのではないだろうか。

「未知数の若手」としてヨッフムとふたり「双頭体制」でコンセルトヘボウ管を率いる事になった彼は、オランダの名門を指揮して今はなきオランダのレーベル「フィリップス」※に数多くの録音を残し、1962年からは来日公演も行われて日本のファンにも知られた存在となる。とはいえ、私が彼を知った前世紀の終わりごろには”とにかく数多くの全集録音を残しているオランダの指揮者”といった軽い扱いも少なくなく見受けられたものだ。

※近年、数多くのレーベルが統合や合併、消滅した動きの中で、家電メーカーと同じフォント、そして臙脂色のロゴで親しまれていた「フィリップス」レーベルはデッカに吸収され、その録音は今も聴かれている。

しかし今の視点で彼のキャリアを捉え直してみよう。もし彼の就いたポストがコンセルトヘボウだけならば、出身地故のローカルな抜擢だと見ることもできただろう。だがコンセルトヘボウ管在任中(1961-1988)の1967年にはロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任、そしてグラインドボーン音楽祭、英国ロイヤル・オペラ・ハウスの音楽監督とオペラのポストも務め、さらに21世紀に入るとシュターツカペレ・ドレスデン、シカゴ交響楽団の首席指揮者も歴任し、前世紀からベルリン、ウィーンの名門オーケストラでは常連の客演指揮者として録音も数多く残し……と、その欧米各地で活躍してきた経歴を見るならば、どこをどう見ても押しも押されもせぬ巨匠だ。今では日本でも「全集魔」なんて揶揄のまじった評価も今では見かけないし、どの団体との来日公演も絶賛されている。

そして9月28日からのロンドン交響楽団との日本ツアー※も好評で迎えられることだろう。なにせ彼得意のブラームス、ブルックナーそしてマーラーを軸に、マレイ・ペライアを招いてのピアノ協奏曲というプログラムで彼らが名演を残さないわけがあるだろうか。東京、神奈川、京都で行われる公演を聴かれる方はぜひ、ハイティンクの60年近い演奏活動の集大成ともなるだろう演奏をお楽しみいただきたい。

※オーケストラのツアーは、以前紹介した「FINAL Symphony」が27日に大阪で始まっている。ツアーの様子については、オーケストラのFacebookTwitterなどで紹介されているのでそちらも併せてお楽しみいただきたい。

次回はマエストロの活動を、キャリア初期から行われてきた録音を軸に捉え直してみよう。キーワードは、徳川家康である(いちおう、嘘ではない予定)。

公演情報
ロンドン交響楽団

会場:サントリーホール 大ホール
日時:2015/9/28(月)
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ピアノ:マレイ・ペライア
ソプラノ:アンナ・ルチア・リヒター
管弦楽:ロンドン交響楽団
曲目:
モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番ハ短調 K.491
マーラー:交響曲第4番ト長調

会場:ミューザ川崎シンフォニーホール (神奈川県)
日時:2015/9/30(水)
指揮:ベルナルト・ハイティンク 
ピアノ:マレイ・ペライア 
管弦楽:ロンドン交響楽団
曲目:
モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番ハ短調 K.491
ブルックナー:交響曲第7番

会場:東京文化会館大ホール (東京都)
日時:2015/10/5(月)
指揮:ベルナルト・ハイティンク 
ピアノ:マレイ・ペライア
管弦楽:ロンドン交響楽団
曲目:
パーセル(スタッキー編):メアリー女王のための葬送音楽 
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 
ブラームス:交響曲第1番

その他の公演など詳細は下記サイトにて
KAJIMOTO:http://www.kajimotomusic.com/jp/concert/k=469/​


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