野球を通して「アメリカ」を語る『God Bless Baseball』 イ・ホンイの「ソウルde演劇めぐり」Vol.7

レポート
2015.10.18
国立アジア文化殿堂全景 ©韓劇.com

国立アジア文化殿堂全景 ©韓劇.com

野球を通して「アメリカ」を語る『God Bless Baseball』

9月4日、韓国南西部にある町、光州市に「国立アジア文化殿堂(국립아시아문화전당 Asian Culture Complex)」が開館しました。5つの文化施設で構成されているなか、先行してオープンした「アジア芸術劇場(아시아예술극장)」では、9月20日まで開幕フェスティバルが行われ、世界各国から33の作家や団体が参加しました。日本からは映画監督足立正生の新作『断食芸人』、御年90歳というフランスの演出家クロード・レジと日本の俳優によるメーテルリンク原作の『室内』、作・演出家の岡田利規が初めて日韓共同製作プロジェクトに挑む『God Bless Baseball』などが上演されました。アジア文化殿堂のオープニングにふさわしく、普段はなかなか見られない作品に出会えるフェスティバルになったのです。

ウィ・ソンヒ(左)と野津あおい ©Asian Arts Theatre (Moon So Young)

ウィ・ソンヒ(左)と野津あおい ©Asian Arts Theatre (Moon So Young)

今回は、開幕フェスティバル参加作のなかから、私が翻訳・通訳・ドラマトゥルクとしてかかわった『God Bless Baseball』(以下GBB)をご紹介したいと思います。岡田利規はチェルフィッチュという劇団の主宰であり、作・演出家、そして小説家としてもよく知られていますね。今まで彼の作品は、『3月の五日間』、『ホットペッパー、クーラーそしてお別れの挨拶』、『現在地』、『地面と床』が韓国で上演されたことがあり、4作品すべてがとても好評を得ました。本作品は5番目の韓国上演作となるわけですが、韓国人俳優との作業は今回が初めてです。去年の夏に行われたオーディションを通して、韓国からは劇団「第12言語演劇スタジオ」のイ・ユンジェとダンサーで振付家のウィ・ソンヒ。そして日本からはダンサーの捩子(ねじ)ぴじんと劇団「サンプル」の野津あおいが選ばれました。韓国のみならず、日本人キャストも岡田とは初めての作業になりました。

©Asian Arts Theatre (Moon So Young)

©Asian Arts Theatre (Moon So Young)

そして現代美術作家の高嶺格(たかみねただす)氏が舞台美術として参加し、シンプルながら強烈な印象の舞台を作ってくださいました。特に、彼の美術作品『God Bless America』が、『GBB』の創作にインスピレーションを与えたこともあり、彼の存在はとても大きかったと思います。『God Bless America』は粘土で巨大なオブジェを作るプロセスを撮影し編集した作品でしたが、『GBB』では方式が異なり、パラボラアンテナのような(あるいはスピーカーのような)巨大な造形物が登場します。そして白い線やホームベース、二つの電光掲示板(劇中では日本語、韓国語、英語の字幕掲示版として使われます)など球場のような舞台美術もあります。

©Asian Arts Theatre (Moon So Young)

©Asian Arts Theatre (Moon So Young)

お芝居は、野球のことが全く分からない二人の女の子の話で始まります。彼女たちの前にある「男」が現れ、一生懸命に野球を説明しますが、彼女たちにはどうしても理解できません。そのとき、イチローに似ているもう一人の男が登場します。彼もやはり、野球とは何かを教えようとするのですが、それから物語は意外な方向に展開していきます。
本作は、野球に関する父親との記憶から出発した岡田利規の小さな発想をモチーフにし、その父子関係はアメリカと日本の関係を連想させ、またそれはアメリカと韓国との関係にも繋がります。野球が人生のアレゴリー(比喩)に例えられるように、イチローの背番号51の話は思いもよらないところに至るなど、観客が爆笑したり涙を流したりしている間に、さまざまなエピソードの断片をパズルのようにつなぎ合わせ、まるで元々そこに存在していたかのように物語を完成させます。従来の岡田作品とは異なった、ダイレクトに伝わる作品の世界観も見どころですが、俳優たちの美しい動きによって、一つの美術作品を見ているような錯覚に陥るのも気持ちいい体験になると思います。

長い準備期間の間、不思議なほど順調に一歩一歩進めながら作り上げたこの作品は、今年の11月19日~29日までフェスティバル/トーキョー15(F/T15)参加作として、池袋のあうるすぽっとで上演され、その後、来年の1月から2月にはアメリカで5都市ツアーが予定されています。本作品で描かれている日米韓の関係は、日本やアメリカの観客にはどのように受け止められるでしょうか。ご期待をお願い致します。

●『God Bless Baseball』のドラマトゥルク金山寿甲による舞台裏レポート「ウラGBB!」もお楽しみください。
http://ura-gbb.tumblr.com/


GBBposter
【公演情報】

F/T15 『God Bless Baseball』
2015年11月19日~26日 あうるすぽっと(東京・池袋)
●出演:イ・ユンジェ、捩子ぴじん、ウィ・ソンヒ、野津あおい
●作・演出:岡田利規/翻訳:イ・ホンイ/舞台美術:高峰格 /衣裳:藤谷香子(FAIFAI)/ドラマトゥルク:金山寿甲(東葛スポーツ)、イ・ホンイ

写真提供:Asian Arts Theatre (Moon So Young) ©韓劇.com All rights reserved. 記事・写真の無断使用・転載を禁止します。

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