フラメンコ界の女王マリア・パヘスに直撃! 鬼才シディ・ラルビ・シェルカウイと共演する『DUNAS-ドゥナス-』を語る

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2018.1.17
マリア・パヘス (撮影:髙村直希)

マリア・パヘス (撮影:髙村直希)

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フラメンコ界を代表するミューズであるマリア・パヘスとコンテンポラリーダンスの旗手として活躍するシディ・ラルビ・シェルカウイが共演する『DUNAS-ドゥナス-』が2018年3月~4月、東京・Bunkamuraオーチャードホール他で上演される。パヘスはスペインのアンダルシア出身でフラメンコとスペイン舞踊を極め、アイリッシュ・ミュージカル『リバーダンス』の主演ダンサーとしても人気を博すなど著名だ。シェルカウイはベルギーのアントワープ生まれでモロッコ人の父親とベルギー人の母親の間に生まれた国際派。プロモーションのために来日したパヘスに、シェルカウイとのコラボレーションで感じたことや来日公演への思いを聞いた。

ふたりで手を取り合ってきた「旅」

── シェルカウイさんとは2004年にモナコのモンテカルロで出会われ、その後世界各地で「運命的な再会」を繰り返すうちにふたりで何かを創ろうという話になったそうですね。2009年に初演された『DUNAS-ドゥナス-』(スペイン語で「砂丘」の意味)のクリエイションはどのように進めましたか?

明確だったのはゼロからふたりで何かを創りあげていかなければならないということです。一番重要だったのはベースで、それぞれが表現したいことを自由に出せる空間でなければなりません。お互いのアイディアをシェアするなかで共通する動きがありました。ラルビも私も手とか腕を表現のツールとして使うのが似ています。そこからコンセプトが生まれ、舞台の空間をどう創り上げるのか、音楽をどう創るのかが協同作業を通して生まれました。ふたりで手を取り合って歩いてきたひとつの「旅」だと思っています。そこに対立は一切なく、何もない砂漠のようなところからすべての可能性を探って創りあげていきました。

── クリエイションを通してシェルカウイさんから受けた印象はどのようなものでしたか?

初めて会ったときから笑顔が素敵でつながりを感じました。私のユーモアのセンスは変わっていて、普段あまり表には出さないのですが、ラルビは理解してくれます。ふたりでいつも笑っています。2004年の出会いから初日を迎えるまでに5年間の時間がありますが、創作過程の最後の方にジローナ(スペイン・カタルーニャ州)で1か月間集中的に作業したときもふたりでよく笑っていました。ふたりの人間がひとつのものを創るときにまったく対立しないということはあり得ないと思うのですが、我々の場合、一度もないのです。創作のプロセス自体が楽しいものでした。ラルビはベジタリアンなのですが、1か月も一緒にいると、自分もベジタリアンになるのではないかというくらい影響を受けました(笑)。

── 『DUNAS-ドゥナス-』では「対立」を描いた場面もありますが、次第にふたりがひとつになっていきます。作品とクリエイション時のおふたりの心境はシンクロしていたのですね?

ええ。創作の過程もまったく同じです。先ほど申し上げたように一度たりとも対立、喧嘩、意見の相違がなかったです。ラルビと「『DUNAS-ドゥナス-』というフレーズはI agree(同感する、同意する)のことだね!」とジョークを言っています。ラルビと私は英語でコミュニケーションをとっていたので、私たちのなかで『DUNAS-ドゥナス-』=I agreeなのです(笑)。

── シェルカウイさんとのコラボレーションから得たものは何でしょうか?

ラルビと仕事をすることによって、人としてもそうですし、自分の作品にも影響されたのは間違いないと思います。それが具体的には何なのか分からないのですが、呼び起こされた感情や生まれてきたアイディアをどのように実現していくのかということに影響を受けました。『DUNAS-ドゥナス-』は自分が人間として、そして振付家・ダンサーとしてのキャリアにも大きく影響してきたと思います。

創作のインスピレーションは何にでもある

── パヘスさんはご自身の舞踊団を率いて度々来日されています。近年ではブラジル人建築家のオスカー・ニーマイヤーの仕事から想を得た『UTOPÍA ~ユートピア~』、「カルメン」をパヘスさん流に舞台化した『Yo, Carmen 私が、カルメン』を上演し好評を博しました。作品を創るにあたってインスピレーションをどこから得ているのですか?

インスピレーションは何にでもあると思います。ものだったり、状況だったり、人の経験から生まれたり、自然だったり、人間関係だったり何からでも得られると思います。たとえば、この部屋の窓からみえる木だったり、その葉の色だったり、葉が落ちていくはかなさとかだったりでもインスピレーションに成り得ると思います。ただ大事なのは視野を広げて何でも受け入れられる素養を持つことだと思います。そして機会を逃さないことも大切です。

日本に来る4日前に新作『時間へのオマージュ(原題:Una oda al tiempo)』を発表しました。私の夫エル・アルビ・エル・ハルティ(エグセクティブ・ディレクター)とは仕事上のパートナーでもあり、彼と共に「時間」をコンセプトにして創りました。「時間」というのは人間誰にでも関係することですし、人生を刻むものでもあるし、人生のなかの矛盾をも表現していると思います。なぜなら人間は生まれた時から死に向かって歩いているわけですから。それと「時間」は相対的なもので、早く感じるときもあれば遅く感じるときもあります。「時間」というものは多くのアーティストにとってインスピレーションの源だと思います。

── ご主人のお話が出ましたし、『DUNAS-ドゥナス-』というタイトルは息子さんが提案されたものを採用されたとうかがいました。ご家族の存在は大きいのですね?

私の場合、家族が創作活動に直接的に影響します。夫と一緒に仕事をしているので家業みたいなものだからです。夫と出会ったときから仕事上での関係が生まれたのではないのですが感受性が似ていて向かうところが一緒です。夫とふたりのプロジェクトでは、ふたりでシェアする部分も多い。この仕事に人生を賭けているのですから、その旅路に理解してくれるパートナーがいて一緒に歩めるということは安心できます。

好きだし、やらずにはいられない作品

── 『DUNAS-ドゥナス-』に話を戻します。シェルカウイさんと「旅」のように歩んできた作品ですが、再演を続けてこられての思いをお聞かせください。

それぞれの活動の合間を縫って年に1度は踊るようにしています。よくラルビが『DUNAS-ドゥナス-』をやることは自分たちにとって休暇のようなものだと言います。ラルビは忙しいし、私も舞踊団を持っているので自分のことは後回しになります。舞踊団にいる29人は家族だと思っていますが、まずその人たちのことを考えなければいけません。その点『DUNAS-ドゥナス-』のメインは自分とラルビだけなのでお互いのことだけを考えればいい。ホッと息をつける機会でもあり、有難い時間です。日本で公演するのは私とラルビが製作当初からずっとやりたかったからです。好きだし、やらなければいけない、やらずにはいられない作品だと思っています。

── 『DUNAS-ドゥナス-』を日本で上演するにあたって楽しみなこと、期待していることを教えてください。

期待しているのは劇場がお客様でいっぱいになることです(笑)。『DUNAS-ドゥナス-』は日本のお客様に凄く理解していただけると思っています。知的で感受性が強くいらっしゃるし、この作品には東洋的な部分もあるので価値を認めていただきたい。自分を知っているお客様、ラルビを知っているお客様に絶対に見に来ていただけるという確信があるので楽しみです。


取材・文=高橋森彦  撮影=髙村直希

公演情報
マリア・パヘス&シディ・ラルビ・シェルカウイ
DUNAS-ドゥナス-

 
■演出・振付:マリア・パヘス、シディ・ラルビ・シェルカウイ
■出演:マリア・パヘス、シディ・ラルビ・シェルカウイ ミュージシャン7名

 
[東京公演]
■日程:
2018/3/29(木)19:00開演
2018/3/30(金)14:00開演
2018/3/31(土)14:00開演
■会場:Bunkamuraオーチャードホール
■料金:S・¥12,500 A・¥10,000 B・¥7,000(税込)
■問合せ:Bunkamura 03-3477-9999(10:00-17:30)

 
[愛知公演]
■日程・会場:2018/4/5(木) アートピアホール
■問合せ:中京テレビ事業 052-588-4477(平日10:00~17:00)

 
[大阪公演]
■日程・会場:2018/4/6(金) 豊中市立文化芸術センター 大ホール
■問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)

 
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