『PHOTOGRAPH 51』板谷由夏(主演)サラナ・ラパイン(演出)芦澤いずみ(翻訳・ドラマターグ)にインタビュー
板谷由夏、サラナ・ラパイン
アカデミー賞を受賞した女優、ニコール・キッドマンが2015年にイギリス・ウェストエンドで主演し、大好評を博した『PHOTOGRAPH 51』が、ついに日本初上陸する。ニコール・キッドマンが演じた女性科学者、ロザリンド・フランクリンを演じるのは、本作が舞台初挑戦となる板谷由夏。演出は、今、ブロードウェイで大注目の女性演出家、サラナ・ラパインが務める。公演に先立ち、板谷とサラナ、そして本作の翻訳・ドラマターグを担当した芦澤いずみが本作への思いを語った。
■サスペンスであり回想劇でもある
――サラナさんは演出する上で、どのように本作を解釈していますか?
サラナ・ラパイン(以下、サラナ) この作品は、(世紀の発見に貢献しながらも、男性研究者には理解されなかった女性科学者を描いた作品だが)科学の話だけではありません。史実に基づく物語でもあります。実際にあった物語ではありますが、いわゆる自然主義な戯曲ともちょっと違います。表現も構造も詩的です。そして、とってもユニークなのは、女性が一人しか出てこないことです。実際に、ロザリンドも自分の研究所の中では、紅一点で、5人の男性に囲まれた生活を送っていました。また、この作品では、盗むこと、そして命の秘密というものを探るための競争も描いています。そういう意味では、サスペンス要素も含まれた作品です。それと同時に、回想劇でもあります。私は、この作品の本質は、このように多岐に渡っているというところにあると考えています。
サラナ・ラパイン
――今回、芦澤さんはどのようなプロセスを辿って翻訳をされたのでしょうか?
芦澤 今回の翻訳は、一般的な翻訳と全く違うプロセスをとりました。翻訳に至るまでに、サラナの家に10回ぐらい通って、ミーティングを重ね、このフレーズはどんな意味を含むのか、そしてリズム、演出家の意図を全て話し合いました。その結果、この翻訳ができあがりました。機械的に訳したのではなく、演出と役者のしゃべる言葉のクオリティ、そしてリズム、叙情的な表現に気を使いました。また、この作品では、シェイクスピアの『冬物語』の引用のほかにも、そこここにシェイクスピア作品を連想させる事柄が出てきます。そういった意味で、演劇好きな方にも楽しめる作品になっていると思います。
芦澤いずみ
――板谷さんは、本作について、どのような印象を持っていますか?
板谷 すごく興味深い本だと思います。この作品は、私にとって初めての舞台ということもありますが、サラナに出会えたことも、この本に出会えたことも何かのタイミングと縁と運命だと思っています。なぜ、今、私がロザリンドという役をやるのかという答えを私も知りたいんです。きっとそこには何か意味があると思うんです。ですから、稽古はすごく楽しみです。
――板谷さんは、本作が初舞台ですか、それについてはどう考えていますか?
板谷 初舞台ということを考え出すと、そこに陥ってしまいそうなので(笑)。みんなでどんな作品が作れるだろうということを考えるようにしています。ただただ体に気をつけて、体調と体力を維持して、とにかくいい作品にしたいと思っています。
板谷由夏
■言葉の壁があるからこそプラスアルファに
――演出家のサラナさんとは、言葉の壁がありながらのお稽古になると思いますが、どのようにコミュニケーションをとっていこうと考えていますか?
板谷 言葉の壁というのは、正直あまり感じていません。むしろラッキーだと思っています。日本語で日本人同士でわかったつもりのまま、物事を進むことがあるとするならば、私とサラナさんの場合は、言葉が違うからこそ、それがないと思うんです。言葉が話せないからこそ、わかりあえるまで探ると思います。むしろプラスアルファの何かを得ることができる気がしています。
――サラナさんは、板谷さんにどのような印象を持っていますか?
サラナ 好奇心が強いところが素敵な女性です。そして、由夏さんはすごくオープンで、私を信頼して全てを預けてくれる方だと感じています。
――これまで、板谷さんが舞台作品に出演してこなかったのはどうしてなんでしょうか?
板谷 (理由は)ないんですよ(笑)。避けていたわけではないんです、全く。(今回、出演することになったのは)何もかもがタイミングとしか言いようがないです。
――舞台に出演することで、楽しみにしていることは?
板谷 初体験のことなので、全てが楽しみで、興味深いです。40代なりの入れ物の用意だけをして、いろんなものを入れて、吸収するしかないと思っています。
■リーディングを経て「台本が起き上がる」
――リーディングを行ったとお聞きしました。リーディングを行ったことで、そこからどのような広がりを感じましたか?
芦澤 サラナとキャストの皆さんがオープンな雰囲気を作ったおかげで、みんながフランクにいろんなコメントをしてくださって、「これを変えたらいいな」「言いにくいセリフだったな」ということを、キャストさんたちから学ばせていただきました。ここから、また、どんどん翻訳も変わっていくと思います。
サラナ リーディンを行ってみて、いずみさんとディスカッションしたことが、アーティスティックな意味で翻訳に反映されているんだということを実感しました。
板谷 私は、サラナさんが英語の台本を読みながら、日本語で私たちが芝居をしているのを見て笑っていたことがすごいと思いました。ちゃんと一緒に笑う。同じなんだと。
サラナ この作品は、1幕もので、場が分かれていないので、ドーンと文章があるだけなんです。私は、台本を譜面のようにとらえているので、キャストさんたちのリーディングを聞きながら、譜割りをやっていこうと考えていたんですが、ちゃんと、感情的な意味での拍が日本語でも感じ取とれました。
板谷 1役者としては、家のテーブルの上に置いてあった台本が、みんなでリーディングすることによってガバッと起き上がってきて(笑)、立体化したと感じました。すごく貴重な時間でした。
サラナ・ラパイン、板谷由夏、芦澤いずみ
――最後に、楽しみにしている方たちにメッセージを。
板谷 科学をテーマにした作品ですが、そこをきっかけとした人間ドラマだと思います。人間って面白いなと、感じてもらえると思います。
取材・文・撮影=嶋田真己
■演出:サラナ・ラパイン
■出演:板谷由夏、神尾佑、矢崎広、宮崎秋人、橋本淳、中村亀鶴
<東京公演>
■会場:東京芸術劇場シアターウエスト
■日程:2018/4/6(金)~2018/4/22(日)
■一般発売日:2018/1/27(土)
■料金:全席 8,500円 (全席指定・税込)
■問い合わせ:梅田芸術劇場(東京)0570-077-039
■会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
■日程:2018/4/25(水)~2018/4/26(木)
■一般発売日:2018/1/27(土)
■料金:全席 8,500円 (全席指定・税込)
■問い合わせ:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 06-6377-3888