映画『ダンシング・ベートーヴェン』、作品上演に至る9カ月の人間ドラマ
(c)Fondation Maurice Béjart, 2015 (c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015
2014年11月、NHKホール。東京バレエ団の設立50周年記念公演でモーリス・ベジャール振り付けによる『第九交響曲』が上演された。
まるで曼荼羅を思わせるような円と四角が描かれた舞台で踊る東京バレエ団とモーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)のダンサーたち。その後方にはズービン・メータが指揮するオーケストラと合唱の一団。総勢350人という、とてつもないスケールで演じられたその舞台は、アジアからヨーロッパ、エキストラの黒人たち、などすべてを含めた様々な人種による舞踊が至高の音楽のもとで一つになり、昇華していくような、ひとつの宇宙空間を創り上げたような印象で、実に衝撃的だった。
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このほど公開された『ダンシング・ベートーヴェン』は、その2014年の舞台上演に至るまでの9カ月間を追ったドキュメンタリー映画だ。1964年にブリュッセルで初演され一大センセーションを巻き起こしたこのバレエは2007年のベジャールの死後、再演は不可能と言われていたものである。この東京バレエ団とBBLによる再演はまさに奇跡的な、バレエファン、またクラシックファンにとっても話題となった公演だった。
(c)Fondation Maurice Béjart, 2015 (c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015
「第九」同様、4楽章構成のこの作品はローザンヌの冬、東京の春、ふたたび夏のローザンヌに戻り、上演となる秋の東京でのリハーサル風景を映し出す。雪に埋もれ立ち枯れたローザンヌの1本の木から、満開の東京の桜へと移り変わる映像は、命の循環を思わせられる。
(c)Fondation Maurice Béjart, 2015 (c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015
映画の語り部となるのは映画はベジャール亡き後、BBLを引き継いだ芸術監督ジル・ロマンの娘であり女優のマリヤ・ロマンだ。バレエ団という家族の中で育ったマリヤの視点は、帰郷した地で家族の姿を見守る娘の目で、スタジオの外からリハーサルを見る目は愛情とともに一抹のなつかしさのようなものも感じられる。
(c)Fondation Maurice Béjart, 2015 (c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015
ドキュメンタリーはジル・ロマンやジュリアン・ファヴロー、大貫真幹、オスカー・シャコン、東京バレエ団の吉岡美佳らのコメントを交えながら進むが、しかし当然ながらダンサーも人間。カテリーナ・シャルキナの妊娠による降板というハプニングが起こる。
しかしそれに対するジル、父親のシャコンなど、それぞれの思いが交錯する場面は、ハプニングであるには違いないが、生まれてくる命を慈しむ愛情に溢れている。マリヤとシャコンの「生まれてくる子供がダンサーになるとは限らない」という会話は興味深く、スタジオを外から見つめているマリヤの姿が思い起こされる。
(c)Fondation Maurice Béjart, 2015 (c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015
そうした人間模様の中で軸となっているのは作品のテーマである人類愛、友愛。年末になると鳴り響く、風物詩ともいえる「第九」の、その作品の主題はベジャールの哲学、BBLを引き継ぎ引っ張るジル・ロマンをはじめ出演するダンサーそれぞれの人生模様という糸とともに織り上げられ、一層その色彩を濃くする。
2017年は鬼才・ベジャールが亡くなって10年目。バレエファン、クラシックファン、そして2014年の公演を見た人、そうでない人も様々な視点で見られるに違いない。
文=西原朋未
■振付:モーリス・ベジャール
■監督:アランチャ・アギーレ
■音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲『交響曲第9番 ニ短調 作品125』
■出演:マリヤ・ロマン、モーリス・ベジャール・バレエ団、東京バレエ団、ジル・ロマン、ズービン・メータ
■公開日・映画館:12月23日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開
■公式サイト: http://www.synca.jp/db/