竹原ピストル「アンダーグラウンドからのし上がるぞ」MOROHAに向けて投げかけられたメッセージ
MOROHA
ステージを見つめる300人の観客を前に、額から汗を流しながら男は言った……。「アンダーグラウンドから狼煙が上がるぞ、アンダーグラウンドからのし上がるぞ」。それは他でもなく、MOROHAに向けて投げかけられたメッセージだった。1月13日、新代田FEVERでMOROHAの自主企画『怒濤』が行われた。相手は竹原ピストル。会場に到着すると、2組のライヴを観るために開場30分前にも関わらず、多くの人が押しかけていた。
最初に登場したのは竹原ピストル。頭に黒いタオルを巻いて現れた姿に、武士のような勇ましさを感じた。1曲目に演奏されたのは「LIVE IN 和歌山」。《「俺、精神病なんですよぉ~。」なんて平気で言ってくるお前》竹原が実際にお客さんから言われた言葉が曲のモチーフとなっている。《来年も再来年もその先もずっと和歌山に歌いにくるからよ。お前も来年も再来年もその先もずっと俺のライブを観に来いよ》そう言って、彼はサビで何度も《薬づけでも生きろ》と叫んだ。何度も何度も。ギターを弾きながら、足踏みをしてリズムを刻む。あまりに力強く踏んでいるため、客席のこちらまで振動が伝わってくる。《生きろ》その言葉が会場中に響き渡る……。続いて歌ったのは「Forever Young」。瞳を閉じながら野太い声で《Forever Young あの頃の君にあって Forever Young今の君にないものなんてないさ》と歌う姿に「あの頃は若かったから、なんでもできたけどさ」なんて言い訳をしている自分が恥ずかしくも力をもらえた気がした。
竹原ピストル
3曲目は去年のNHK紅白歌合戦でも歌った「よー、そこの若いの」。芸能人やらスポーツ選手が特別華々しく見えているだけで、スポットライトを浴びていないお前も含めてみんな必死で生きている。このままじゃいけないって、頭を抱えている自分のままで行けよ。そう歌う竹原の姿を20代前半ほどの男性が口をあんぐり開けて、ただただ呆然と見つめる。暗い客席からでも、瞳からうっすらと光るものが確認できた。
中盤に差し掛かり「次の曲は愛する存在へのお祈りの気持ちを込めて書いたポエムを……。世界的に愛されている曲で大変恐れ多いんですけど“Amazing Grace”のメロディにくっつけさせてもらって完成させた歌です。人生何が起こるか分かりませんが、お互いに元気でいましょうね、元気でいてくださいよ、って気持ちを込めて」。白いスポットライトに照らされながら歌った「Amazing Grace」は、賛美歌ではなくて命の美しさを讃える歌に感じた。できることなら、ミジンコになってあなたの体に入り込み、あなたを病気から救いたい。《たとえ刺し違えようとも たとえ刺し違えようとも あなたを蝕むがん細胞をぶっ殺してやりたい》その歌声に心を震わさずにいられなかった……。昔、僕が付き合っていた恋人は22歳の時、交通事故で命を落とした。一緒に野狐禅のライブを観た帰り道、彼女が「ピストルさんの声、好きだなぁ」と嬉しそうに話していた、あの夜のことが頭の中をよぎった。もしも生きていたら、この日のライヴを観ることができたのに。
竹原ピストル
間髪入れずに歌ったのは「カウント10」。大学時代、ボクサーとしてリングに上がっていた竹原は、今もステージという名のリングの上で戦っている。《ぼくはどんなに打ちのめされようとも、絶対にカウント10は数えない》何度だって立ち上がってきた竹原が歌う。《誰かが言ってた。人生に勝ち負けなんてないんだと。確かにそうなのかもしれない。しかし、人生との戦いにおける勝ち負け、ニアリーイコール、自分との戦いにおける勝ち負けはやっぱりあると思う。》、《ぼくは“人生に勝ち負けなんてないんだ”という人の人生に心を動かされたことは、一度たりとも、無い。》強く吐かれたこの歌詞にMOROHAの「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」を重ねた。いつだってファイティングポーズを示し続けてきた両者だからこそ、今日という日が訪れたのだと思った。
竹原ピストル
終盤に突入して「MOROHAに今日は誘ってくれてありがとう、結成10周年おめでとう、という気持ちと、これからもよろしくなって気持ちと、またどこかで出くわせますようにって気持ちを込めて。そして心から友情の気持ちを込めて」と二人への思いを話した後に歌ったのが、MOROHAのドキュメンタリー映画『其ノ灯、暮ラシ』にも収録されている「俺たちはまた旅に出た」。《俺たちはまた旅に出た このままこうしていたいって思ってしまった明け方に 俺たちはまた旅に出た》「とどまるな、進め」竹原がそう言っているように聴こえた。
竹原ピストル
「こっぱずかしい告白ですけど、韻の踏み方はMOROHAのアフロに習ったんですよね」最後はギターを弾くことなく、突然ラップを始めた。《アンダーグラウンドから狼煙が上がるぞ、アンダーグラウンドから狼煙が上がるぞ、のし上がるぞ。アンダーグラウンドからのし上がるぞ》と。「またお会いできるように精進します」と言って、計16曲、竹原ピストルのステージは鳴り止まない拍手に包まれながら幕を閉じた。
MOROHA
続いてはMOROHAの登場。「MOROHAと申します!よろしくどうぞ」そう発して彼らが1曲目に披露したのは「革命」。《今年こそ?来年こそ?何年生きれるつもりで生きてきたんだ 今日が終わる いや今が終わる そう思えた奴から明日が変わる》。こうして、60分間におよぶMOROHAの「革命起こす幕開けの夜」がスタートした。
アフロが話す「2018年、一発目のライヴでございます。だからなんだ? って思ってるわけですよ。「明けましておめでとう」って何回言いました?<中略>心機一転やるには良い機会だけど、その心機一転は何回目だよって。2017年から2018年。年が変わったからってやることは変わんないっしょ。何も変わんないっすよ」そんなMCの後に歌ったのは「俺のがヤバイ」。どんな奴が相手だろうと、いつだって胸ぐらを掴んで《俺のがヤバイ》と歌ってきた二人。10周年を迎えた今も、MOROHAの音楽がどれだけすごいのか知らしめるために戦っているのだ。3曲目は「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」。《勝てなきゃ皆やめてくじゃないか》《勝てなきゃ皆消えてくじゃないか》。彼らの前には幾つものバンドが現れて、そして消えていった。勝てなきゃ皆消えていく、あまりに辛辣な言葉が耳にこびりつく。「続々と売れていく同世代、先に行かれたNHK紅白、おめでとうはやっぱり言えない。畜生この野郎の自分でいたい」アフロは、今、思っている気持ちを歌に乗せた。《にんげんだもの で割り切れるなら最初から音楽やってねぇから みんなちがって、みんないい それを踏まえてここで1番になりたい》覚悟をもって生きている人は美しい、本気でそう思った。
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「ピストルさんの「Forever Young」って曲の中で、《あの頃の君にあって、今の君にないものなんてないさ》っていう歌詞が温かくて、優しくて、胸が痛くて……今日も泣けました」と穏やかな声でアフロが話した後に、演奏されたのは「tomorrow」。暖かい春の光の中を、清原モデルのバットを背負って走って行った野球少年はいつしか30歳になり、マイクと言うの名のバットを握って今もホームランを打とうとしてる。必死に。懸命に。どこまで飛ばせば1点になるのか分からない、遠くの柵をめがけて一生懸命フルスイングしてる。《俺の叶わなかった夢を 誰かが今叶えてる》あの時、なりたかった自分が、なれなかった自分に尋ねる。《どのツラ下げて どこへ向かうの?》。理想と現実に挟まれながら、前進しろよ。彼らが僕にそう言ってる気がした。
中盤に入り、披露されたのは「拝啓、MCアフロ様」。「この手紙は馬鹿な男を愛した、馬鹿な女が最後に書いた手紙です」アフロの語り出しとともに、UKの優しいギターの音色が響き、夕日に照らされたある街の風景を映し出す。《日当たり悪い部屋ともさよなら 売れないバンドマンともさよなら チラシの裏に書いた置き手紙と合鍵 ポストに入れておくから》。いつかの二人がフラッシュバックする。《あたしの事 歌にしてもいいけど 涙を話のオチにしないで 弱さを責める曲は書かないで 歌の歌詞通り ちゃんと輝いて》健気な彼女の愛が染みてくる。会場には誰かの涙をすする音が聞こえる。《次に選ぶのは 私みたいに口うるさくて 男まさりで そのくせ泣いてばかりで 途中で君のことを投げ出すような根性なしの女ではなくて 強くて賢い女性を見つけて》失って初めて気付く大切な人。UKのギターが鳴り響く中、アフロはいつまでも遠くを見つめ続けた。視線の先にライヴを聴きに来た彼女が見えたのかもしれない。
MOROHA
「長い付き合いなんですけども、ピストルさんの口から俺たちのことを「後輩だ」って言ったりとか、「弟分だ」って言ったりとかそういう言葉を一度も聞いたことがなくて。今日も「友達」とか「友情」みたいな言葉を言ってくれて。その度に竹原ピストルの温かさとちょっとした孤独を感じたような気がして。益々、今日好きになりました」と、竹原ピストルへの愛が語られると会場から歓声が上がった。
ライヴは終盤に突入。次の曲へいく前にアフロが去年、とあるおっさんと出会った話を始めた。その人は一生懸命に仕事をする人なので「なんで、そんなに仕事するんですか?」と聞くと、「俺は仕事をしている時の自分がすごく好き」と話したそう。アフロは「その気持ちすげえ分かるなって思いました。そもそも仕事はそういうもんだよな、って」。そして、その“おっさん”が元となった新曲「うぬぼれ」を歌った。優しくて泣けるギターの音色に合わせて、《「ありがとう」くれてありがとう 「ごめんね」なんて言わせてごめんね あなたと向き合うことで私は私を好きになれたのです》そんな愛に満ちた言葉から始まり《誰も見てないのにカッコつけて馬鹿だね いつだって人よりも少しだけ損して 汚れたその手で涙を拭って 泥のついた顔もみなに貶されて それすらもとっさに冗談に変えて 強がって堪えて 震えて傷ついて 擦り切れた心には何が残ったの 意味はあるの ねえ、、、何で笑えるの?》。きっと、その“おっさん”は不器用な人なんだと思った。だけど、そこまで想われている人は幸せだろうな、とも思った。そして、アフロの口から“おっさん”の正体が明かされる。「メジャーレーベルの人間でして。そのおっさんがどうしてもMOROHAと仕事がしたいと力一杯、全身で表現してくれて。俺たちはその気持ちに応えたいなと思いました」。MOROHAがユニバーサルシグマからメジャーデビューすることが報告された。さらに10周年再録ベストアルバム『MOROHA BEST~十年再録~』が6月6日に発売されること、12月16日にZEPP TOKYOでワンマンを行うことも発表された。思わぬ吉報に会場から大きな歓声と拍手が起こる。
MOROHA
「願うことはフラットに聴いて欲しくて。クソだと思ったらクソだと言ってほしいんすよ。馴れ合いみたいな空気になると、どんどんアーティストは腐っていくと思うので。俺たちがつまらなくなったら容赦なく捨ててください。それでも追いかけるのが俺たちだけど」その言葉の後に演奏されたのは「四文銭」。億千万の溜息を吸い込んで、希望の言葉に変えてきた彼らは《何かが起こるって信じてる》10年間、ずっとそう思ってきたのだ。曲の終盤、UKがギターをかき鳴らす中でアフロは力一杯、叫ぶ。「売れてる音楽が素晴らしいなんて絶対にそんなことない! 売れてる音楽がカッコイイなんて、絶対にそんなはずない! って、確信持って言ったはずが、心のどっかで「お前、逃げてるだけじゃねぇの?」って声が聞こえました。その声が気に入らなくて、その声が後ろめたくて、その声を黙らせたくて。俺はいくぜ! 俺たちはいく!! 俺たちは必ず!!」そうして計10曲を歌いきったMOROHA。彼らが去った後も「おめでとう」と「ありがとう」の言葉がステージに向けられた。
男は言った「アンダーグラウンドから狼煙が上がるぞ、アンダーグラウンドからのし上がるぞ」。それは他でもなく、メジャーというフィールドで戦うことを決意したMOROHAに向けて投げかけられたメッセージだった。
レポート・文=SATOSHI SHINKAI 撮影=MAYUMI-kiss it bitter-
新代田FEVER