ラッパ屋『父の黒歴史』鈴木聡(脚本・演出)×松村武(主演)「人情話にくるんで何か実験的なことこっそりやっている」(鈴木)「この作品も前衛です」(松村)
ラッパ屋『父の黒歴史』 (撮影:木村洋一)
年が明けたばかりで恐縮だが、来年2019年には旗揚げ35年を迎える劇団ラッパ屋。すごいなあ、と思う。現代的な人情喜劇で多くの観客を楽しませてきた。その新作が1月20日に開幕した『父の黒歴史』(脚本・演出:鈴木聡。1月28日まで紀伊國屋ホールで上演)。このところカムカムミニキーナの松村武が続けて客演し、強烈な個性で、物語を破綻させるような役どころで刺激を振りまいている。そんな松村が『父の黒歴史』では一転、主人公・富坂光文を演じるという。その老人、歳は90歳を超え、二人の妻と四人の愛人のあいだにたくさんの子供を設けているのだとか。そして人生が謎に包まれているーー。鈴木と松村に話を聞いた。
ありえないものをあり得るものにする早稲田風が作品の芯にはある(松村)
ーー松村さん、もうすっかりラッパ屋の劇団員みたいな印象です(笑)。
松村 心地いい空間ですね。今回で連続4回目になるんですけど、非常に楽しくやらせていただいています。ラッパ屋には同世代の役者さんも何人かいて、大先輩も多いけど、遠すぎない先輩劇団という感じです。
ーーそういえば鈴木さんは大学の先輩ですよね?
松村 僕は早稲田の演劇倶楽部、同じ学内の劇団ですから(鈴木は「てあとろ50'」)。
第42回公演 『筋書ナシコ』(2016) (撮影:木村洋一)
第43回公演 『ユー・アー・ミー?』 (撮影:木村洋一)
ーー共通する匂いも感じる?
松村 しますね。2015年の『ポンコツ大学探検部』に初めて出させていただいたときに、もうその場面自体が、早稲田のある場所という感じで懐かしかったです。
鈴木 (演劇人が何かと集う)6号館の屋上みたいな設定。
鈴木聡
ーー鈴木さんは松村さんのことを大好きになった理由は?
鈴木 『ポンコツ~』のときはね、演劇界有数の登山家だとうわさを聞いて、アドバイスもらえるかなと思いつつ、そういう役で出てもらったんですよ。それがすごくよかったんですよ。
ーー市井の人が似合うラッパ屋の役者さんたちに対して、その個性は強烈で、作品へのアクセントにもなります。
鈴木 演技の考え方や演劇観のようなものも面白いです。最近の松村君の(劇作・演出する)作品を見ていると、どこまで自由にできるかとか、演劇はどこまでやっていいものかとか、演劇とはなんだという問いかけが垣間見えるのが面白い。こんなこと言っても信じてもらえないと思うけれど、僕は意外とアヴァンギャルドなんですよ。
一同 ハハハハハ!
松村 いやいや、僕はわかりますよ。このインタビューを読んだラッパ屋のお客さんがびっくりしているかもしれないですけど、アヴァンギャルドだったのかって(笑)。
鈴木 そこは共通点。何か実験的なことをしたいとこっそり思っているんですよ。それをむき出しにするのが恥ずかしいから人情話に包んでいるのかも。
松村 中身は前衛であると。
鈴木 誰も気づかないかもしれないけど(笑)。
松村武
松村 確かに実際にやらせていただくと、今の言葉は非常によくわかります。ラッパ屋さんのベテランの皆さんが持っていらっしゃる安定のリアリティラインの中に僕のような異物を入れること自体がその一つかもしれません。今度の作品もそうですけど、前衛ですよ、芯の部分が。僕は20年くらいラッパ屋さんを見ていますけど、いわゆるウェルメイド系の劇団とはまったく違っていて好きだったんですよね。急に全員が池にハマるところから始まるとか、早稲田の前衛性、演劇性を引き継いている。
鈴木 普通のことというか、上手にまとめるようなことでは先輩たちに怒られそうな気がするんですよ。なんかヘンなことをやらなきゃと。
松村 僕の大学時代はラッパ屋と同じサークルが母体のキャラメルボックスが全盛で。同じ早稲田でも全然違うことをやっている系統の人たちだと思い込んでいたんですよ。けれど観てみると同じような底流を感じるんですよね。劇研も同じで、難しい原理的な人たちかと最初は思っていたんですけど、同じラインの照らし方が違うだけなんです。虚構性を勝負点にするようなところが早稲田っぽいですよね。
鈴木 うん、そうだね。
松村 どれだけ、ありえないものをあり得るものにするか、が早稲田風のような気がしますね。たぶん例えば日芸の人とかそんなことあんまり考えていない気がします。別に日芸の悪口を言っているわけじゃなく、演劇に対する考え方の根幹が違うんですよ。
鈴木 日芸に行ったほうが、僕、すくすくと育ったかもしれない。わかりやすいエンターテインメントを胸張ってやる感じでしょ? 僕もそっちの方向。当時の早稲田では認められにくかった。で、一回演劇をやめて、サラリーマンになったんですから。
松村 しかし僕ら大学別で芝居の話をしている時点ですごく古いですね。
一同 ハハハハ!
主人公はあらゆることが起きた時代“昭和”と共に生きてきた人(鈴木)
ーー松村さんは『父の黒歴史』では主人公です。鈴木さん、3回ご一緒されていく中で、もっと面白くできそうだと思われたのですか?
鈴木 さっきも言ったちょっとした虚構性なんだけど、90歳のお父さんを松村くんなら成立させられると思ったんですよね。
松村 いやいや、だいぶ虚構ですよ。作られた虚構性がすごく強いんですけど、そう見せないように人情話になっているんですよ。
ラッパ屋『父の黒歴史』 (撮影:木村洋一)
ーー松村さんはどのように演じようと思っているんですか?
松村 とても難しいですね。全然90歳じゃないですから。自分より年上の役者さんたちが息子、娘を演じてくださるんですけど、この父親がいると思えないと、全部がダメになってしまう。今までの役は中心になる流れに茶々を入れるみたいな位置づけ。今回はど真ん中にいて四方八方に茶々を入れまくるというような、新鮮な構造になっている。だから今までやったことのないアプローチ、誰々のモノマネをしてみようとか、無責任な瞬間を作ろうとか、いろんなことをやる中でなんとか役をつかもうと思っています。
鈴木 僕としてはこのお父さん、昭和と共に生きたというか。昭和はあらゆることが起きた時代。エノケンの楽しい浅草時代があって、226事件があり、大きな戦争になっちゃって、戦後には闇市の狂想曲みたいなものがあって、高度経済成長から最後はバブルまで。ひとつの色では語れない。そんな昭和の訳のわからなさ、捉えどころのなさと、いろんな矛盾や理不尽に満ちているところを、松村くんの役に重ねているところがあるんです。発する言葉だってどういう意図を持って言っているかもよくわからないけど、そこに存在感があるというふうに表現してほしいなあと。
松村 それが難しい。ダメ出しで言われがちなのは、意図がわかる感じに演じると、もっとメチャメチャにしてくれと修正される。このためにこういう行動をするというふうに普通俳優は作っていくものですけど、それを裏切っていく、でもデタラメではない、というような。まさに昭和がそういう時代なのかもしれないけれど。
鈴木 僕は昭和という時代の真ん中へんで生まれたわけです。皮膚感覚としては戦前のことも想像がつく。そこにはおそらく明治の市井の生活のありようの連続性は確実にあって。一方では、今はパソコンだインターネットだを通り超してAIだIoTだと。そういう意味では、時間軸的な視野を僕の世代はとても広く持てて、いろんなところに目を配ることができる。過去・現在・未来を意識しながら、視点を見つけていく役割があるような気がしますね。『父の黒歴史』でも、そういうことが少しでもできれば。
松村 どうなるかまったくわからないですけど、面白く見られるのはもちろん、後を引く作品になりそうな気がします。昭和や平成の終わりの話も重なっていったときに、この話はなんだったんだろうなと。そして、そういうものにしたいなあと思いますね。
ラッパ屋『父の黒歴史』 (撮影:木村洋一)
《鈴木聡》早稲田大学卒業後、広告会社博報堂に入社。コピーライターとして活躍。1984年サラリーマン新劇喇叭屋(現ラッパ屋)を旗揚げ。現在は、演劇、映画、テレビドラマ、新作落語の脚本執筆など幅広く活躍。主な作品は、ミュージカル『阿 OKUNI 国』(木の実ナナ主演)、松竹『寝坊な豆腐屋』(森光子・中村勘三郎主演)、パルコ『恋と音楽』シリーズ(稲垣吾郎主演)、NHK連続ドラマ小説『あすか』『瞳』。近作に、テレビ東京『三匹のおっさん』スペシャル、わらび座ミュージカル『KINJIRO!』など。ラッパ屋『あしたのニュース』、グループる・ばる『八百屋のお告げ』で第41回紀伊國屋演劇賞個人賞、劇団青年座『をんな善哉』で第15回鶴屋南北戯曲賞を受賞。
《松村武》早稲田大学在学中の1990年、カムカムミニキーナを旗揚げ。自ら役者として出演しつつ、劇団の全作品の作・演出を担当。2003年には史上最年少で明治座の脚本・演出を手がけた。シス・カンパニー『叔母との旅』、敦×杏子PRODUCE『URASUJI』シリーズなど、外部への脚本提供や演出作品も多数。また、自身も俳優として、NODA・MAP、阿佐ヶ谷スパイダース、ラッパ屋などの作品などに出演している。最近は故郷の奈良で一般参加型演劇イベント「ナ・LIVE」のプロデュースも担当。
取材・文=いまいこういち
■脚本・演出:鈴木聡
■出演:
福本伸一 おかやまはじめ 木村靖司 俵木藤汰
岩橋道子 弘中麻紀 大草理乙子 三鴨絵里子
松村武 谷川清美 ともさと衣
青野竜平 林大樹 豊原江理佳 八幡みゆき
岩本淳 浦川拓海 武藤直樹 宇納佑 熊川隆一
■会場:紀伊國屋ホール
■日時:2018年1月20日(土)〜28日(日)
■開演時間:
20日19:00、21日14:00、22日19:00、23日19:00、24日14:00 / 19:00、25日19:00、26日19:00、27日14:00 / 19:00、28日13:00 / 17:00
■料金:全指・税込 一般4,980円
※ただし20日・22日・23日19:00は特別料金として全指4,500円(全席指定・税込)
U-25券(観劇時25歳以下)3,000円(引換券・税込)あり
■についての問合せ:サンライズプロモーション東京 Tel.0570-00-3337(10:00〜18:00)
■公演についての問合せ:ラッパ屋 Tel.080-5419-2144(12:00~19:00)
■ラッパ屋公式サイト http://rappaya.jp/