女性だからこそ描けた“レトロ可愛い”異形の人魚姫『ゆれる人魚』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第四十六回

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2018.2.13
 (C)2015WFDIF, TELEWIZJA POLSKA S.A, PLATIGE IMAGE

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TVアニメ『デート・ア・ライブ  DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス  怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。

 

ポーランドから、『ゆれる人魚』という恐ろしくセンセーショナルな作品が到着した。映画通でもなければ、ポーランドが製作国の映画をパッと思いつく方も多くないだろう。かくいう私も、恥ずかしながらポーランドとフィンランドの合作『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』(17)くらいしか観たことがない。そんな無知を差し引いても、本作が衝撃的な魅力を持っていることはわかるのだ。

海から上がった人魚の姉妹、姉・ゴールデンと妹・シルバーがたどり着いたのは、ワルシャワのナイトクラブ。美しい姉妹は、歌と踊りで一夜にしてナイトクラブのスターになるが、妹がバックバンドのベーシストに恋をしたことで姉妹の関係はギクシャクしてしまう。やがて、2人を中心に血なまぐさい事件が起きることに…。

レトロ可愛い映像に撃ち抜かれる

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人間の王子に人魚が恋をするアンデルセン童話『人魚姫』は、皆聞いたことがあるだろう。本作はその『人魚姫』をベースに、ダークな匂いのするミュージカルを融合させて、めちゃくちゃオシャレな作品として完成した。ミュージカルシーンはどこを取ってもとにかくオシャレなのだが、中でも冒頭、衣装を買うため、クラブの女性ボーカル・クリシアと姉妹が街に繰り出すシーンは最ッ高にイイ!
ちょいダサ感がありながらも心に刺さり込んでくる、“エモい”レトロミュージックに、めちゃくちゃ楽しそうに踊る街の人々。そしてそこを「私たちのお通りよ!」とばかりに堂々と歩く姉妹とクリシアのカッコいいこと!

クリシア役のキンガ・プレイスという女優は初見だったが、瞳の強さとどこか悲しげな眉毛のバランスに引き込まれた。どことなく、『コンスタンティン』(05)で天使ガブリエルを演じたティルダ・スウィントンのような中性的な雰囲気がたまらない。また、姉妹が楽しそうに歌いながらショッピングを満喫する描写からは、地上に上がった人魚の自由や喜びが伝わってきて、こちらまで笑顔にさせられる。
 

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そのあとに続くナイトクラブでの歌唱シーンも、皆ギラッギラでキッチュな衣装をまとっているのにいやらしさが無く、“レトロ可愛い”に昇華されているのだ。おっぱい丸出しで挑発するような踊りを見せるダンサーも、セクシーというよりはアーティスティックに映る。この辺りは女性監督ならではの手腕か。
前回紹介した『RAW~少女のめざめ~』は女性監督ならではの視点で生々しく“女”を描いているのに対し、『ゆれる人魚』は“女性だからこそ”女性を性的な目線抜きで描いているように思った。

本作のアグニェシュカ・スモンチカ監督は、子どもの頃から身近な存在だったナイトクラブに思い入れがあるという。そういった想いがあるからこそ、ナイトクラブというきらびやかな場所も、姉妹やバンドメンバーのホームのように感じられ、私も親近感を覚えたのだろう。


人魚の姉妹はなぜ魅力的なのか

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ゴールデンとシルバーの姉妹は人魚ではあるが、自由に人間に変態でき、水を浴びると元の姿に戻る……という仕組みを持っている。なので人魚の姿に戻ると、上半身はおっぱい丸出しになるのだが、その姿はやはり、エロいというよりは“美しい”。それはもしかしたら、姉妹がまだ成熟していない蕾のように見えるからなのもしれない。官能小説のような書き方になってきていたら申し訳ない(笑)! だが、この姉妹には、未熟で、誰のものでもないからこその気高さがある。その気高さが、人魚としての説得力を増しているのではないだろうか。

最近では、アニメの世界でもモンスターの体を持つ美少女キャラクターが存在するように、異形のものと少女の組み合わせに魅力を感じる方も増えてきているように思う。私はそんなものに対するフェティシズムは持っていなかったはずなのだが、それでも生臭そうでリアルな魚の尾を持つ美しい姉妹のアンバランスさに神々しさを感じ、、「あのベーシストが惹かれるのもわかるなぁ」と納得してしまった。こうして、観る者はゴールデンとシルバーの姉妹に引き込まれてゆくのだろう。

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西洋の人魚伝説に登場するセイレーン(人魚伝説の一種)は、歌を歌って人々を惑わせたという。本作の姉妹が奏でるメロディーは、人間に破滅をもたらすのか、それとも……。

『ゆれる人魚』は公開中。

作品情報

映画『ゆれる人魚』


(2015年/ポーランド/ポーランド語/カラー/DCP/92分)
監督:アグニェシュカ・スモチンスカ
出演:キンガ・プレイス、ミハリーナ・オルシャンスカ、マルタ・マズレク、ヤーコブ・ジェルシャル、アンジェイ・コノプカ
提供:ハピネット/配給:コピアポア・フィルム
英語タイトル「THE LURE」
【ストーリー】
はじめての舞台、はじめての恋、はじめて吸うタバコ――「はじめて」の先にある、私たちの運命
人魚の姉妹が海からあがってくる。辿りついたのは80年代風のワルシャワのナイトクラブ。ふたりはワイルドな美少女。セクシーで生きるのに貪欲だ。一夜にしてスターになるが、ひとりがハンサムなベース・プレイヤーに恋してしまう。たちまちふたりの関係がぎくしゃくしはじめ、やがて限界に達し、残虐でちなまぐさい行為へとふたりを駆り立てる。
公式サイト:http://www.yureru-ningyo.jp/
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