『ガレも愛したー清朝皇帝のガラス』展レポート 西洋工芸にも影響を与えた、東洋の造形美

レポート
アート
2018.5.9
藍色鉢 清時代・おそらく雍正年間(1723-35) 中国 サントリー美術館

藍色鉢 清時代・おそらく雍正年間(1723-35) 中国 サントリー美術館

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『ガレも愛したー清朝皇帝のガラス』展(会期:2018年4月25日〜7月1日)が、六本木・サントリー美術館にて開幕した。

中国のガラスの起源は古く、春秋時代末期から戦国時代(紀元前5〜前3世紀)に遡る。当初は主に儀式にまつわる璧や剣装、環などの装飾品が多く、貴石や玉などの代用品の役割を果たしてきた。その長きにわたる歴史の中で、ガラス工芸が飛躍的に発展したのは、清王朝の時代である。

本展は、清朝宮廷で育まれた中国ガラスの類まれなる美の歴史を辿るとともに、フランスのアール・ヌーヴォー期を代表する芸術家、エミール・ガレにも影響を与えた造形美を、ガレの作品とも比較しながら紹介している。

その稀少性ゆえに、清朝ガラスというテーマに真っ向から取り組むのは初の試みだという本展の魅力を探るべく、内覧会レポートより見どころをお届けしていきたい。

悠久の時の流れを彷彿とさせる、中国ガラスの始原

春秋時代末期から戦国時代(紀元前5〜前3世紀)のガラス製品は、主に璧や剣首・印章など、儀式に関連する道具類や装飾品としての珠や環などが多く、その数は千を超えると言われている。そしてそれらは貴石や玉の代用品として、邪気を払い、高貴な人々の身を守るなどの役割を果たしてきた。

左:円形飾 右:七星文装飾盤 ともに戦国ー前漢時代 中国 MIHO MUSEUM

左:円形飾 右:七星文装飾盤 ともに戦国ー前漢時代 中国 MIHO MUSEUM

展覧会のプロローグでは、古代より世界各国で作られてきた装身具の一種で、同心円の文様が特徴的な「トンボ珠」をはじめ、古代中国で祭祀用の玉器として使われてきた「璧」、さらに戦国時代から漢時代(紀元前5〜後3世紀)にかけて作られた男性用のベルトの留め金「帯鉤」など、それぞれ用途も多彩なガラス製品を目にすることができる。

玉琉璃象嵌帯鉤 戦国時代(紀元前4~前3世紀) 中国 MIHO MUSEUM

玉琉璃象嵌帯鉤 戦国時代(紀元前4~前3世紀) 中国 MIHO MUSEUM

小ぶりながらも一つひとつに精緻な細工が施されたガラスの気高き美しさに触れられる、魅惑の空間。貴重なコレクションを通して、中国ガラスの始原に思いを馳せたい。

皇帝のガラスの萌芽が垣間見える、貴重な3作品

中国の長い歴史の中で、ガラス工芸が花開いたのは18世紀。第4代清朝皇帝・康熙帝が、1696年に紫禁城内にガラス工房(玻璃廠)を築き、皇室内で使用するガラス製品を製作しはじめたことが契機となった。

第1章では、中国ガラスの大きな発展基盤を築き上げた康熙帝と、続く第5代清朝皇帝・雍正帝の時代のガラスを紹介している。

康熙帝・雍正帝の時代(1696-1735)を代表するガラスとして、今回特別に出品された3作品 「第1章:皇帝のガラスの萌芽―康熙帝・雍正帝の時代(1696-1735)」(展示風景)

康熙帝・雍正帝の時代(1696-1735)を代表するガラスとして、今回特別に出品された3作品 「第1章:皇帝のガラスの萌芽―康熙帝・雍正帝の時代(1696-1735)」(展示風景)

皇帝のガラスの萌芽期は透明素材の吹きガラスが中心で、簡素ながら力強いフォルムを特徴とする。しかし残念ながら、この時代のガラス器は成分バランスが安定しておらず、ガラスの病気によって劣化し自己破壊してしまったものも多く、現存するものはごく僅かであるという。本章では、この時代を象徴するそんな稀少なガラス3作品を、特別に鑑賞できる。

清朝皇帝のガラスが栄華を極めた、第6代・乾隆帝の時代

康熙帝の治世に政治的な基盤が整備された清王朝。その後、第6代・乾隆帝の時代を迎えると、学術や芸術の分野が大きく花開いた。そしてそれに伴いガラス工芸も表現のバリエーションが飛躍的に広がり、清朝皇帝のガラスは栄華を極めることになった。

また乾隆帝の時代は、二人のフランス人宣教師が中国に渡り、ヨーロッパのガラス工芸の技術や知識をもたらしたことも、ガラス工芸の発展に大きく寄与した。

皇帝あるいは皇后専用の色とされ珍重された、黄色の鉢や壺 「第2章:清王朝の栄華―乾隆帝(1736-95)の偉業」(展示風景)

皇帝あるいは皇后専用の色とされ珍重された、黄色の鉢や壺 「第2章:清王朝の栄華―乾隆帝(1736-95)の偉業」(展示風景)

第6代王朝では、西欧のガラス技法の良きに倣いながらも、あくまで中国の伝統技法を守り、“中国らしさ”を追求したことが清朝ガラスの比類なき美を特徴づける要因となった。そして、その独自の美意識こそが、最盛期にふさわしい幾多の優れた名品を誕生させるに至ったのだ。

雪片地紅被騎馬人物文瓶 乾隆年製銘 清時代・乾隆年間(1736-95) 中国 サントリー美術館

雪片地紅被騎馬人物文瓶 乾隆年製銘 清時代・乾隆年間(1736-95) 中国 サントリー美術館

左:水色鉢 右:黄色鉢 ともに清時代・乾隆年間(1736-95) 中国 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館

左:水色鉢 右:黄色鉢 ともに清時代・乾隆年間(1736-95) 中国 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館

多色燭台 乾隆年製銘 清時代・乾隆年間(1736-95) 東京国立博物館

多色燭台 乾隆年製銘 清時代・乾隆年間(1736-95) 東京国立博物館

清朝ガラスの最大の魅力といえば、重厚なカットと直角的に研ぎ出された彫琢モチーフ。さらに色被ガラスに象徴されるような、独特の造形・色彩感覚である。

青色文字入双耳瓶 乾隆年製銘 清時代・乾隆年間(1736-95) 中国 永青文庫

青色文字入双耳瓶 乾隆年製銘 清時代・乾隆年間(1736-95) 中国 永青文庫

玉や水晶、象芽など中国に由来する素材を重んじ、儚さや壊れやすさを好まない伝統的な匠の技が、他のガラス工芸に類を見ない独自の美を生み出した。第2章では、清朝ガラスの真骨頂ともいえる堂々とした佇まいに、心打たれるだろう。

エミール・ガレを虜にした“東洋の美”

展覧会の後半では、清朝ガラスに魅了されたエミール・ガレの名品約20点が、彼のインスピレーションの源になった重要作とともに紹介されている。

エミール・ガレが東洋美術と出合ったのは、1867年のパリ万国博覧会においてのことであった。そしてそれ以降、ガレは従来の作風を大きく変化させ、オリエンタルな異国のエッセンスを貪欲なまでに注ぎ込んでゆくことになったのである。

左:昼顔形花器「蛾」 エミール・ガレ 1900年 サントリー美術館 右:花器「アイリス」 エミール・ガレ 1900年頃 サントリー美術館(菊地コレクション)

左:昼顔形花器「蛾」 エミール・ガレ 1900年 サントリー美術館 右:花器「アイリス」 エミール・ガレ 1900年頃 サントリー美術館(菊地コレクション)

実際に、万博出品作につけられた自作解説の中には「中国の翡翠や玉を模した」という記述と、自身がコレクションした鼻煙壺のデッザン画も残されているほど。

左:水差「葉」 エミール・ガレ 1890年 サントリー美術館(辻清明コレクション) 右:紅色魚文蓮葉形皿 中国 嘉慶ー光緒年間 19世紀 東京国立博物館

左:水差「葉」 エミール・ガレ 1890年 サントリー美術館(辻清明コレクション) 右:紅色魚文蓮葉形皿 中国 嘉慶ー光緒年間 19世紀 東京国立博物館

左:花器「カトレア」 エミール・ガレ 1900年頃 サントリー美術館 右:白地二色被花鳥文瓶 中国 清時代・乾隆〜嘉慶年間 18世紀 サントリー美術館

左:花器「カトレア」 エミール・ガレ 1900年頃 サントリー美術館 右:白地二色被花鳥文瓶 中国 清時代・乾隆〜嘉慶年間 18世紀 サントリー美術館

本章では、エミール・ガレがいかに東洋の美に魅せられ、自身の表現の中に昇華させようと情熱を傾けていたかが、華麗な作品の中から如実に感じ取れるだろう。

こちらのスペースでは特に、自然の形をそのまま器にし、表面を関連するモチーフで装飾するシリーズとして、ガレの代表的な花器《カトレア》、《おだまき》、《茄子》に注目してみたい。

花器「おだまき」 1898-1900年 エミール・ガレ フランス サントリー美術館(菊地コレクション)

花器「おだまき」 1898-1900年 エミール・ガレ フランス サントリー美術館(菊地コレクション)

このような作品は乾隆帝の時代にすでに製作されており、今回ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館より出品される貴重な《青地赤茶被魚蓮文瓶》と比較しながら、鑑賞してみてほしい。

青地赤茶被魚蓮文瓶 乾隆年製銘 清時代・乾隆年間(1736-95) 中国 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館 (C)Victoria and Albert Museum,London

青地赤茶被魚蓮文瓶 乾隆年製銘 清時代・乾隆年間(1736-95) 中国 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館 (C)Victoria and Albert Museum,London

まるで宝石のような、清朝ガラスの小宇宙

展覧会のエピローグでは、嗅ぎたばこを入れる器として清朝の宮廷内でも大流行したという鼻煙壺が、光り輝くガラスケースの向こうに、煌めくように展示されている。皇帝の専用品や貴族、外国使節への下賜品として製作されていた鼻煙壺であるが、本展のために集められた作品は、ガラスや陶器、玉などの素材に清朝工芸の技と粋とが凝縮された名品揃い。ガレも愛してやまなかったという精緻で瀟酒な手のひらの愛玩品を、ラストシーンでじっくりと堪能したい。

ラストで待ち構える、めくるめくガラスのイリュージョンスペース 「エピローグ:清朝ガラスの小宇宙」(展示風景)すべて町田市立美術館

ラストで待ち構える、めくるめくガラスのイリュージョンスペース 「エピローグ:清朝ガラスの小宇宙」(展示風景)すべて町田市立美術館

クリスタルの儚さや繊細なカットに象徴されるヨーロッパのガラス工芸とは趣が異なり、重厚で逞しい存在感、さらには気高さや威厳をも感じさせる、清朝皇帝のガラスたち。「透明」と「不透明」の狭間をゆらめきながらも、唯一無二の美しさが際立つ東洋ガラス工芸の魅惑の世界に、ぜひ足を踏み入れてみてはいかがだろうか。

イベント情報

ガレも愛したー清朝皇帝のガラス
日時:2018年4月25日(水)〜7月1日(日)
会場:サントリー美術館
開館時間:10:00〜18:00(金・土は10:00~20:00)
※5月26日(土)は六本木アートナイトのため24時まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで
※shop×cafeは会期中無休
休館日:火曜日(ただし6月26日は18:00まで開館)
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2018_2/index.html
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