高畑淳子×鶴見辰吾×若村麻由美による濃密な芝居 ブロードウェイやウエストエンドを震撼させた話題作『チルドレン』の魅力とは

インタビュー
舞台
2018.6.8
高畑淳子、鶴見辰吾、若村麻由美(左から)

高畑淳子、鶴見辰吾、若村麻由美(左から)

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米ブロードウェイと英ウエストエンドを震撼させた話題の舞台『チルドレン』が2018年9月より日本初上演される。高畑淳子鶴見辰吾若村麻由美の3人芝居で、栗山民也が演出を手掛ける。

脚本のルーシー・カークウッドは1984年生まれ。イギリス演劇界期待の若手女流作家だ。彼女が執筆した、アメリカ人写真家が1989年に天安門広場で戦車の前に立ちはだかった男の軌跡をたどりながら、現代のアメリカやそこで暮らす外国人が抱える問題をひも解いた意欲作『チャイメリカ』は、2014年ローレンス・オリヴィエ賞最優秀作品賞を受賞している。本作『チルドレン(原題:THE CHILDREN)』は、そんな彼女が英ロイヤル・コート・シアターの招きで書き下ろした作品である。

米ブロードウェイ、英ウエストエンドでの上演成功を受けて、今春シドニー・オペラハウスでも上演された本作が世界の観客に問いかけるのは、普遍にして壮大なテーマ。多くの過ちを繰り返し、染みだらけになったこの地球で、今を生きる私たちは、生まれ来る未来の子供達の為に、何ができるのか――。

今回は本作に出演する高畑、鶴見、若村に話を聞いた。

ーーこれから本読み(※取材時4月下旬)ということですが、現時点での戯曲に対する印象をお聞かせください。

高畑:本番は秋なのに、こんなに早くからお稽古させていただけるのは初めての経験で、今日の本読みがすごく楽しみです。自宅では、読んでも読んでもセリフが入りにくいこともありますので、まずは本読みで感覚をつかみたいと思います。

そんな堅苦しくなく、すごくフラットに見られる場面もあって、中年のずさんな会話というか(笑)、その辺りもこの戯曲の楽しみの一つだと思うんです。そういった部分も出しつつ、いろんな色が出せる芝居になればいいなと思います。

若村:すごく面白い本だと思います。多面的で多層になっている。私たちも稽古をすればするほど、深い層のところが出てくると思いますし、お客様には一度観て面白く、二度観ても何度観ても「このセリフはこんな意味だったのか」という発見が湧いて出てくるような作品だと思います。

鶴見:いろんなテーマがふんだんに盛り込まれている作品です。お客様には、堅苦しくならず、演劇を見る面白さを感じながら、考えていただければなと思います。

(原発事故のあった)福島のことを多分考えて書かれている台本だと思うので、それを世界がどういう風に受け取ったのか、どういう風に感じたのかを逆輸入のような形で、我々が演じるんですね。エネルギーの問題や人生をどう人間らしく生きていくか、子供の教育をどうするかなど、いろんなことが要素として入っているんですけど、お客さんが自分のこととして置き換えながら帰っていただければいいなと思います。

高畑:井上ひさしさんが以前、「むずかしいことをやさしく、やさしいことを深く……」と仰っていましたが、それに似ているものがあると思うんです。「原発の話です」と身構えるような感じにするのではなくて、それを日常会話で表現しているのがいいですよね。

高畑淳子

高畑淳子

−−普通の会話の中にもいろんなメタファーが入っていますよね。

高畑:ねぇ。だって最初に女が出てくるシーン。面白いよね。

若村:お客さまの反応も楽しみです(笑)。

高畑:よくあのシーンからつくったよね。物理学者だからか、登場人物がみんな変わっているよね。

若村:それを言ったら役者も相当変わっていますよね(笑)。やはり専門分野に特化するような人はちょっと個性的な人たちが多いのかもしれないですよね。

この本は物理学者3人の会話ではあるけれど、だからといって難しいということではなく、どこか責任を感じている人たちが残された命をどう使うか、人生が後半に入った時に初めて感じられることを描いていると思うのです。私は3.11を経験して改めて、いつまでもある命ではないことを思い知り、今日を大事にしたいという強い思いを抱きました。

この作品には、今現在、社会のみんなが抱えている未解決の問題がそのまま詰め込まれている。ご覧になった方が自分の中で反芻して「震撼」する作品だと思います。

−−演じる上で、ここだけは大切にしようと思っているところはありますか?

鶴見:僕は3人が青春時代を過ごしたという、その「共にいた感じ」が醸し出せたらいいなと思っています。すでにその準備はポスター撮影の時から始まっていまして……おかげさまでいい撮影になりました。

高畑:うん、匂いや同僚感なんかをね。恐れず探せる3人だと思う。

鶴見:すごい楽しみですね。

高畑:今回のキャストは、すごく探し好きな感じがしています。なんか、分からないからやらないのではなくて、分からないところがあるからやってみたいという匂いがみんなある。「ちょっと言葉を選ばなきゃお芝居作れないぞ、なんだかむずかしい」という人もいたりするんですけど、そういうのを全く感じなかった。稽古場で探すのは何も恥ずかしいことではないと思うんです。分からないんだから。そこを探したがっているというのをポスター撮影の時に感じました。それが同僚感を醸し出せるようになればいいなと。

鶴見:違った言い方をすると、3人だから起こりうる化学変化があればいいよね。

高畑:それぞれお互いが見せる顔と、2人きりになった時に見せる顔が違うのが面白いよね。

若村:そうそう、三人芝居の面白さは、1人が外れた瞬間にパワーバランスが変わっていくことですよね。難しいテーマ以外に三角関係の男と女も描かれていて、まさに人間ドラマだと思います。

若村麻由美

若村麻由美

高畑:うまい具合に一人消えたりするんだよね。それがまた(脚本家の)カークウッドさんがお上手(笑)。

−−3人の濃密なお芝居になりそうです。

高畑:演出が栗山さんで、ちゃんと見る方がいるので安心できる。だから、私たちは大いに探して、大いに試して、大いに探したいです。

若村:私たち3人は全員栗山さんとご一緒させて頂いたことがあるんです。そして、この3人はそれぞれ全員共演したことがあるんです。

鶴見:そうそう。ただ3人一緒というのは、今回が初めてなんです。

高畑:本当に探しがいのある作品だよね。全てがみんな見えないというのはとても魅力的。私の中では「きっとこういうお芝居になるんだろうな」「読み物としても完成されていて、こういう風景になるんだろうな」というのがまだなくて、それが楽しみですね。

−−突き詰めて、探した挙句に描きたい世界はどのような世界ですか?

高畑:妙齢な人たちの日常の話なのかなと思っていたら、とんでもないところに連れて行かれると言う風になったら面白いと思うんですが……どうですか?

鶴見:観たお客様がそれぞれ違う印象を持つようなお芝居にしたいですね。確立的な印象ではなくて、ある人にとっては恋愛ドラマかもしれないし、ある人にとっては非常に科学的な印象を持つかもしれない。角度によって客席によっても幅のあるお芝居にしたいなと思いましたね。

若村:芝居を観た後に、きっとこのことを誰かに話したくなると思います。ですから、ぜひ友達や恋人や親子でご覧いただき、観終わった後に語り合っていただけたら嬉しいです。

鶴見:そうだね。特に若い人だったら、かつてこういう芝居を観たということが、その方の人生の何かの指針のひとつになるような芝居になったら最高ですよね。芝居や演劇は、その人の考え方や物事の捉え方を変えることがある、大きな経験の一つじゃないですか。そういうものになる芝居だと思います。

鶴見辰吾

鶴見辰吾

高畑:いやぁ〜大変だ!(笑)

−−演出家の栗山さんの印象を教えてください。

鶴見:栗山さんは問題意識が高くて、それを大事に考えている人。今回の芝居について俳優の友達に話すと、「栗山さんらしい芝居だね」と言われます。

若村:栗山さんの演出はいつも明快です。だからこそダメ出しがたくさんあって、立ち稽古の時間よりダメ出しの時間の方が長い(笑)。しかも稽古の時間が短いから怖いです。私は不器用なので小返しさせていただきたいのですが、「ダメ」と仰います。それがツライですね(笑)。今回は全員セリフ量が多くテンポも早そうなので尚更……。

高畑:大丈夫、自主稽古しよう。ダメ出しは第三者に言ってもらうとよく分かるよ。自分の芝居は自分では見えていないじゃないですか。見えていないことにダメ出しされてもあんまりよく分からないんですよ。でも誰か第三者に、「ねぇ、今言ったのどういうこと?」と聞くとよく分かる(笑)。私、演出家が自分に対して言っていることがよく分からないことがあるんですが、栗山さんが他の俳優さんに出しているダメ出しがものすごく明快に分かるんですよ。そのダメ出しが面白い。自分の事は置いておいて、栗山さんのダメ出しを聞いている分にはものすごく面白いんですよ。私のダメ出しの通訳は鶴見さんにお願いしたいな(笑)

−−宣伝動画やポスター撮りはどういう雰囲気で臨まれたんですか?(詳しくはこちら)

鶴見:演出はあったよ。「覚悟を決めて~!」とか言われたなぁ(笑)。

高畑:私は鶴見さんと若村さんの顔を見て、意外とフラットな顔をしている方がいろんなことを考えているように見えるのだと思ったから、あんまり作りこまないでぼやーってしていました。

若村:えぇ! 私はその時言われた事に細かく対応しました(笑)

高畑:あら、そうなの? でも、ポスター撮影やチラシ撮影であんなに遠くに行ったのも、ドローンを使ったのも初めてですよ。

−−1発撮影でいけました?

鶴見:そうだね、割といけたかな。

高畑:最初聞いた時は、指示が難しくて。「目はこっちを見ていて、この人が見た時に目線を外して、遠くを見て……え~!!」って思いました(笑)。もちろん計算があったんでしょうけど……みなさん賢いねぇ。

鶴見:でも面白かったですね。

若村:すごくいいお天気でしたもんね。

高畑:確かに、海の匂いを三人で嗅げたことはよかったよね。

若村:そうですね。物理学者として、38年前に一緒に働いていたその3人が共通に感じていた風を共通できたことは、スタートとしてすごく良かったなと思います。

−−舞台楽しみにしています! ありがとうございました。

取材・文・撮影=五月女菜穂

公演情報

PARCOプロデュース2018 『チルドレン』


作:ルーシー・カークウッド
翻訳:小田島恒志
演出:栗山民也

出演:高畑淳子 鶴見辰吾 若村麻由美

■埼玉公演:9月8日(土)・9日(日)
会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
■東京公演:9月12日(水)~26日(水)
会場:世田谷パブリックシアター
■豊橋公演:9月29日(土)・30日(日)
会場:穂の国とよはし芸術劇場プラット主ホール
■大阪公演:10月2日(火)・3日(水)
会場:サンケイホールブリーゼ
■北九州公演:10月13日(土)・14日(日)
会場:北九州芸術劇場 中劇場
■宮城公演:10月30日 (火)
会場:えずこホール(仙南芸術文化センター)
 
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