良知真次×永田崇人インタビュー「BOYSは全員が主役なんです」舞台『宝塚BOYS』
永田崇人、良知真次
2007年に初演され、その秘められた史実と共に大きな感動を呼び話題となった舞台『宝塚BOYS』が2018年夏、5度目の上演となる。“女性だけのレビュー劇団”として、世界でも知られる存在となった宝塚歌劇団の100年を超える華やかな歴史の中で、かつて「男子部」が特設されたという事実に焦点を当てた舞台だ。
東京芸術劇場 プレイハウス他にて上演される今回は、「team SEA」「team SKY」という2チーム制で上演される。「team SEA」から良知真次、「team SKY」から永田崇人を招き、話を聞いた。
良知真次、永田崇人
ーーまずは本作の出演が決まったときのお気持ちから教えてください。永田さんは初参加ですね。
永田:はい。何度も上演されている歴史ある作品なので、プレッシャーも感じていますが、一生懸命挑もうと思っています。過去の舞台は、良知さんが出演されていた時の映像を拝見しました。
良知:うわ、恥ずかしい(笑)。
永田:男たちが泥臭くも夢を追いかける姿が美しいと思いました。
良知:僕は2度目の出演です。前回の出演で楽日を迎えた時、すべてを出し切った気持ちになりました。まさか改めて再出演のお話をいただけるとは思っていなかったですね。前回の出演時から大きく違うのは、僕が昨年、実際に宝塚歌劇団の稽古場に入り、月組の『瑠璃色の刻』のフィナーレの振付をやらせていただいたこと。その時は喜びと共に「僕が『宝塚BOYS』をやる前に何で呼んでいただけなかったんですか? この経験があったらもっとリアルに演じることができたかもしれないのに」って言ってしまいました(笑)。そして今回再出演が決まり……これも運命なのかなと思っています。
ーー実際の宝塚歌劇にスタッフとして入ったことで、どんな経験、体験をされたんでしょうか?
良知真次
良知:男役さんのかっこよさ、娘役さんの美しさがすごく勉強になりました。女性がこんなにかっこよくステージに立っているのを見たら、そりゃあBOYSたちも宝塚を目指すよ、と痛感しましたね。
明日の宝塚のスターを目指して皆が懸命に取り組む姿は、僕自身のこれまでの生き方と重なるんです。ジャニーズJr.に入ったときはそれこそ明日のスターを目指していましたし。実際に宝塚に足を踏み入れたときの体感を踏まえつつ、今回自分の中での「再演」が出来るのを本当に幸せに思っています。
ーー良知さん、前回出演されたときの印象的な出来事を教えてください。
良知:「宝塚の稽古場に入る時の緊張感」というのを、以前出演した時の稽古で(演出の鈴木)裕美さんにすごく言われたんです。この舞台ってほぼ稽古場のシーンなんです。現役の宝塚の生徒さんからすると、毎日使うだけに稽古場を特別なものと思われていないかもしれないですが、それでも初めて宝塚音楽学校に入った時は、皆さんすごく緊張して教室に入ったと思うんです。BOYSも最初は心臓が飛び出るくらい緊張し、中には緊張しすぎて吐き気を催すこともあったのではないでしょうか。僕の場合は、振付師としてあの稽古場に入った時の緊張感、そして『宝塚BOYS』をやったからこそ感じる緊張感を今回芝居に活かせるんじゃないかな。裕美さんの稽古の中でおもしろいな、と思ったことの一つに「稽古場に入ったときに匂いを嗅ぐ」というのがあったんです。そりゃ嗅ぐだろうなぁって今ならわかりますね。
ーー永田さんは、これまでに宝塚の舞台を観た事はありますか?
永田崇人
永田:僕はまだ、宝塚の劇場に入ったことがないんです。映像では拝見していますが、一度生で観てみたいです。昨年末、宝塚OGの紫吹淳さんと『ゆく年く・る年冬の陣 師走明治座時代劇祭』で共演させていただいた時、僕の母親役を演じてくださったんですが、一瞬男役のような芝居を見せるシーンがあったんです。その時の紫吹さんがものすごくかっこよくて! ずーっと見ていたいと思いました。自分も今回そのかっこよさを芝居に取り入れたいと思っていますが、女性が男性を演じるからこそ、あそこまでかっこよくできるのかもしれないですね。
ーーこの物語は宝塚のステージに立つことを夢見て、様々な苦労をしてきたのに、その夢がついに敵わなかったBOYSの姿を描く物語です。お二人はこれまでご自分が携わった様々な舞台で「ステージに立てない悔しさ」など、BOYSのような体験をしたことがありますか?
永田:悔しいことならありますね。過去僕が出た舞台ですが、キャストに選ばれたのは嬉しかったんですが、いちばんかっこいい場面や素敵な場面では僕はステージ上にいない。舞台袖から光り輝くメインキャストを観ているときは悔しかったですね。
良知真次
良知:僕はBOYSと同じく明日のスターを目指していた一人でした。しかももっと倍率の高いところでもがいていた10代でした。20代になってそこじゃない場を目指して、まったく違う世界に入りました。環境が180度変わると、それまで当たり前だったことが当たり前じゃなくなるし、今まではダメだったこともやらないといけなくなる。その道のりの途中では、ダメになる人も、人生を狂わせてしまった人もたくさん見てきました。自分自身がダメだったことはいくらでもあります。だからこそ、いただいた役に全力で取り組みたいと思っています。30代になり、主演の話をいただく機会も増えてきましたが、いつも「これが最後だ」と思いながらやっています。年齢的にも主演を張れる機会が少なくなっていくと思いますしね。だからこそ、仕事のお話がきた時は「これが最後」だと思って全身全霊で取り組もうと思っています。
この作品は誰かが「主役」ではなく、全員が「主役」となる舞台です。そういう点でもチームで力を合わせて取り組んでいきたいですね。
ーーさて、今回の『宝塚BOYS』ですが、お二人がどの役を演じるのか、教えていただけますか?
永田崇人
永田:それが実は、誰が何の役をやるかまだわからないんですよ。チーム分けだけが決定しているだけなんです。
良知:前回の公演のときは裕美さんと一人ずつ面談して「どの役をやりたいか」「この作品をどう思っているか」「自分はどんな人生を歩んできたか」を聞かれたんです。だからすべてを熱く語った上で「この役をやりたいです!」と言ったら……全く違う役になりました(笑)。
永田:え~(笑)。
良知:僕も「え~」って思ったけれど、いざその役をやってみると「ああ、なるほどな」と思うところが多かったです。今回はどんな役になるのか楽しみです。
永田崇人
永田:良知さんが出演されたときの映像を観て、本当にすごいと思ったので、今回同じチームになりたかったなって思っています。でも、何か意味があって別のチームに分けられたと思うので、僕らなりに模索していい作品を作っていかなきゃなと思います。
ーーまだ稽古は先ですが、今の時点でうちのチームはこんな雰囲気になりそう、など、予想していただけますか?
良知:「team SEA」のメンバーは、前回、前々回の上演時に出演していた人が多く、「こういう作品になるだろうな」と事前にイメージを抱いてしまいそうですが、あえてそのイメージを捨ててかからないと、と思っています。裕美さんなら「前回を引きずるような芝居をするなら、今回の舞台に呼ばないよ」ってハッキリとおっしゃると思うんです。……それにしても、「team SEA」は全員個性派ぞろいですよね。初登場のシーンなどきっと強烈だろうなぁ(笑)。
永田:「team SKY」は若さゆえの「パワー」がキーワードになりそうですね。例えば塩田(康平)くんはものすごいパワーを持っている人だから……引っ張られたいです(笑)。
ーー永田さんが引っ張りたいんじゃないんですね(笑)? ところで、今回東京公演の会場は、前回のシアタークリエよりかなり広い東京劇場プレイハウスです。広くなると、芝居への影響が出そうですね。
良知真次
良知:そこは裕美さんもいろいろ考えていらっしゃると思います。この芝居ってワイヤレスマイクではなく、フットマイクを使っていたんです。だからステージ上の音や雰囲気をどう客席まで伝えるか、が鍵になるでしょうね。
ーーでも広い会場だからからこそ、ものすごくゴージャスに作れる場面があるかもしれないですね。さて、この作品、特にどんな人に観ていただきたいですか?
良知:宝塚の現役生の方々にぜひ観ていただきたいです。本当にこの歴史をご存知なくて、知っている人は1割もいないんじゃないかな。男子部の存在は宝塚歌劇の史料にも載ってないんです。僕らの存在が「消された」という言葉が台詞の中にあるくらいなので、僕らが後世に伝えていかないと、と思っています。
永田崇人、良知真次
ーー永田さん、BOYSの先輩、良知さんに今のうちに聴きたいことってありますか?
良知:特にないんじゃない(笑)?
永田:いやいや、いろいろありますよ!
ーー鈴木裕美さんの演出の仕方とか?
永田:それを聴きたいです!
良知:一言で言うと、高層ビルを建てていくような作り方をしていく方。今、この場面(階層)がダメなうちは、次の場面(階層)に進まない作り方です。前回は3行の台詞に4時間かけて稽古した人もいました。ノイローゼになるくらい大変で……(永田の顔を覗き込み)あれ? 顔色悪くなってきた(笑)? でも、必ずそういう日が一度はあると思いますよ。僕も散々言われましたから。自分の初演の時、裕美さんに「お一人様で芝居をなさっている。どうされましたか?」って言われて、その時は「どうされているのか……考えます!」って無理やり返事をしました(笑)。
永田:……強い(笑)!
良知:でも裕美さんは何があっても最後まで付き合ってくださるんです。本当に芝居を愛していらっしゃるので。その場では「2度と顔を見たくない」と思っても、稽古が終わると「明日も裕美さんの顔を見たい」って思える人なんです。カンパニーの舵をしっかり握ってくださる。こんな演出家はなかなかいないんじゃないかな。
僕はその後、何作かご一緒させていただいたんですが、最終的には「良知は宇宙人だ。何を考えているかわからない」って言われました。「予想と違うところにいってしまう」って(笑)。
ちなみに、稽古中の裕美さんは、何か問題があると、必ず「クエスチョンしていいですか?」って仰ると思います。その言葉が出たら「…きたな!」と思ってください(笑)。
永田:うわー!(テーブルに突っ伏す)……不安が募る取材になりましたね(大笑)!
良知:僕は宝塚の舞台裏を直接体験したので、今なら「裕美さんも知らない事を僕は知ってるんだ! 裕美さん、それ違います! そうじゃなかったですよ、宝塚は」って怒られる覚悟でハッキリ言いますよ(笑)。
永田崇人、良知真次
取材・文・撮影=こむらさき
スタイリスト(永田): JOE(JOE TOKYO)
【税抜き表記】
シャツジャケット¥9,800/NOT CONVENTIONAL
その他/スタイリスト私物
シャツジャケット¥10,584/NOT CONVENTIONAL
その他/スタイリスト私物
NOT CONVENTIONAL 03-3405-7414
公演情報
昭和20年秋…第二次世界大戦が終わったばかりの激動の時代。幼い頃から宝塚の舞台に憧れていた若者・上原金蔵。彼は一枚の召集令状で青春を失い、今度は自らの書いた一枚の手紙で、人生を変えようとしていた。手紙の宛先は宝塚歌劇団創始者・小林一三。内容は宝塚歌劇団への男性登用を訴えるものだった。折よく小林一三も、いずれは男子も含めた本格的な“国民劇”を、と考えていたのだ。
そうして集まったメンバーは、上原をはじめ、電気屋の竹内重雄、宝塚のオーケストラメンバーだった太田川剛、旅芸人の息子・長谷川好弥、闇市の愚連隊だった山田浩二、現役のダンサー・星野丈治、と個性豊かな面々だった。宝塚歌劇男子部第一期生として集められた彼らではあるが、劇団内、観客などの大半が男子部に反対。前途多難が予想される彼らの担当者として歌劇団から、池田和也が派遣されていた。
池田は彼らに厳しく言い放つ。
「“清く正しく美しく”の歌劇団内では女子生徒といっさい口をきいてはならない」
「訓練期間は2年。その間、実力を認められるものは2年を待たずに仕事を与える」
男子部のメンバーはいつか大劇場の舞台に立てることを信じ、声楽・バレエ…と慣れないレッスン明け暮れる日々が始まった。報われぬ稽古の日々が一年近く続く中、やっと与えられた役は……馬の足……。そして男子部の存在を否定するかのような事件が起こり、彼らの心中は激しく揺れ動く。
そんな中、新人・竹田幹夫が入って来る。
月日は流れて行く。やり切れない想いをかかえながらも、相変わらず日々のレッスンに励む男子部の面々。しかし、彼らの出番は相変わらずの馬の足と陰コーラス。プログラムに名前すら載らない。それどころか、男子部反対の声はますます高まり、孤立無援の状況。そんな彼らをいつも温かく見守ってくれるのは、寮でまかないの世話をしてくれる君原佳枝だけだ。そんなある日、彼らの元に宝塚男女合同公演の計画が持ち上がった。喜びにわく彼らだったが……。
■日程・会場:
【東京公演】2018年8月4日(土)~19日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
【名古屋公演】2018年8月22日(水) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【久留米公演】2018年8月25日(土)~26日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【大阪公演】2018年8月31日(金)~9月2日(日) サンケイホールブリーゼ
■料金:全席指定 ¥8,800
■脚本:中島淳彦
■演出:鈴木裕美
■協力:宝塚歌劇団
■企画・製作:キューブ
■出演:
☆team SEA
良知真次、藤岡正明、上山竜治、木内健人、百名ヒロキ、石井一彰、東山義久、愛華みれ、山西 惇
☆team SKY
永田崇人、溝口琢矢、塩田康平、富田健太郎、山口大地、川原一馬、中塚皓平、愛華みれ、山西 惇
■公式サイト:http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/takarazukaboys_2018.html