シルヴィ・ギエム、「最後の舞台」を語る

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シルヴィ・ギエム氏 š© The Japan Art Association/The Sankei Shimbun

シルヴィ・ギエム氏 š© The Japan Art Association/The Sankei Shimbun

世界文化賞受賞者シルヴィ・ギエムの個別懇談会より

先日報告した「第27回高松宮殿下記念世界文化賞合同記者会見」に続いて、同日、各受賞者との個別懇談会が行なわれた。今回は、そのうちシルヴィ・ギエム(演劇・映像部門)個別懇談会の模様をお届けする。

はじめにおことわりを。この懇談会は、冒頭に主催者から挨拶があった後は、最後まで質疑応答形式で行われた。そのため、当然ながら話題は質問者によって変わり、時系列に並べると一見バラバラな内容で懇談が行われたように見えてしまう。よって、ここでは、キャリアを通じて「受け手にわかりやすく伝えられるように」心がけてきたというギエムにならい、一読で概要がおわかりいただけるよう、質問順ではなく質問のテーマ別に、Q&A形式に懇談会全体を再構成する。また、会における質疑は全体に和やかな雰囲気の中で行われたので、語りの雰囲気を出せるよう文体を整えたことも予めお伝えしておく。

 

●シルヴィ・ギエム、キャリアを振り返る

Q:記者会見のスピーチの中で「ずっと好きなこと(ダンス)をしてきた」「愛することで賞をいただけた」と言われたのがとても印象的でした。あなたは長いキャリアの中でダンスが嫌いになったりはしなかったんですか?

ギエム:それはもう何度も!(笑)「もうやめる、明日でやめる!」って何回も思ったわ。トレーニングは厳しいし、身体的にも大変なことは何度もあった、けれど舞台には歓びがある。振付師や共演者、そして観衆との特別な関係があるからそういう思いは超えてくることができた。

Q:長いダンサー生活で、身体を使って表現することで得られたものは?

ギエムこれまでの人生を、ダンサーとして成長してきました。私の大好きなダンスのおかげで、いろいろな人と出会って多くを学べた。一回一回の経験は小さいものだとしても、その中で得てきたものを積み上げて今の自分がいる。ですから質問に直截にお答えするなら、得られたものは自分のすべて、です。

Q:あなたにはかつて”「100年に一人のダンサー」と言われているが?”と問われて、「100年でくくらなくてもいいんじゃない?」と返答した、なんて伝説もありますが、今おなじ質問をされたらどう答えますか?

ギエム:(冗談と受け取った模様で)そんな風に言われることは嬉しいこと、それだけ鍛えてきたと自認もしているし。でも誰かからの評価に対して自分が感じることを言葉にするのは難しいわね、私は舞台で喝采を受けられればそれで幸せよ。

Q.シルヴィ・ギエムにとっての「身体」とは?その認識はキャリアの中で変化しましたか?

ギエム:まず、自分の身体に対しては感謝しています。この身体が創り出せるものから多くの歓びを得てきました。とくに、若いうちに身体に対するケアの必要を理解できたことは幸いでした。充分に鍛え、メンテナンスをしているからこそ舞台上で最大の力が発揮できている、と認識しています。

若い頃には「きっとキャリアを重ねるうちに衰えを感じるのだろうな」と、漠然と考えていました。ですが今の理解では、すべては練習次第だと自信を持って言えます。若い頃でもたとえば、24歳のころにウィリアム・フォーサイスの作品を練習していた時はほんとうに身体的に厳しくて、歩くのがやっとだったのよ(笑)。大事なことはマッサージや食事など、十分なケアをして練習をすること、それをしてきたから今もコンディションは万全です。

授賞式典におけるギエム氏 š© The Japan Art Association/The Sankei Shimbun

授賞式典におけるギエム氏 š© The Japan Art Association/The Sankei Shimbun


●シルヴィ・ギエム、「最後の舞台」へ

Q:最後のツアーへ向かう現在の心境を。「最後の舞台」に対するイメージはありますか?

ギエム:キャリアを終わらせることは、私にとっても辛いものです。自分が決めたことだけれど、引退するのは辛い思いももちろんあります。でも、悲しいことを想像するのが苦手だから考えないのよ(笑)。きっと「最後の舞台」には感情的なものもあると思うけれど、そういうことを考えて気を昂ぶらせて舞台にいるのはどうなのかな、とも思いますし。

Q:引退の理由は?

ギエム:人生すべて、始まりがあれば終りが来る、私はそう考えています。自分は若い頃から恵まれた幸せなキャリアを今に至るまで積んでこられたと思う。だからこそ、その終わりは自分で決めたかった。たとえば大きい怪我をするとか、ある日わけもなく意気阻喪してしまってとか、そういう外的な何かによってキャリアを終わらせられるのは嫌だった。あと、遅すぎる判断よりは早く決断すべき、と考えた。自分が衰えてしまう前に引退を決めることができたのはよかったと思います。

……(笑い含みで)夫には「舞台にいるべきではない(ほど衰えている)のに図々しく引退してなかったら、お願いだから私を殺してね」と言ってあったの。その話をある評論家にしたら「ではあなたの舞台をずっと見ていたかったら、夫君を殺せばいいんですね」ですって(笑)。

Q:最後の舞台に日本を選んだ理由は?

ギエム:これはほんとうに偶然でした(笑)。引退を決めてから会場の手配などをした関係で日本が最後になった、というのが実際のところですね。

でもこれまでの人生、キャリアの中でも多くの偶然(=チャンス)があって、それらにもそれぞれに意味があったように、こうして日本で私の最後の舞台をお届けすることにも意味があるのだろうと考えています。ほら、「エンガアル(縁がある)」と言うでしょう?(ここは日本語で発音されました)

四代目坂田藤十郎・扇千景夫妻と談笑するシルヴィ・ギエム氏 š© The Japan Art Association/The Sankei Shimbun

四代目坂田藤十郎・扇千景夫妻と談笑するシルヴィ・ギエム氏 š© The Japan Art Association/The Sankei Shimbun


●シルヴィ・ギエム、自身を、そして日本との関係を語る

Q:先ほどの合同記者会見では横尾忠則さんが「実年齢とは別の”芸術年齢”がある」(横尾の場合、20年程度実年齢より若く感じている、とのこと)と話していましたが、あなたは年齢についてどうお考えでしょうか?

ギエム:実はある時期まで自分の年齢を意識していなかったの。マダムと呼ばれて「ああ、私も年をとったのね、成長してる!」と思ったくらいで(笑)。小さい頃からずっとそんな感じでやってきました。そんなふうに大人になった自分だけれど、今でも”芸術年齢”は変わっていないのかもしれない。

そうそう、一度スイスの税関で「あなたシルヴィ・ギエム?まだ踊っているの?」と言われた時には年をとったな!と思ったわね(笑)。「まだ生きてるの?」と言われる前に引退できるのはいいことだわ(場内大笑)。

Q:具体的に日本との関係について、そして引退後の予定について話してください。

ギエム:私がはじめて海外に出たのは、まだバレエ学校にいた15歳のとき、それが日本公演だった。初めて見る外国=日本はまるで別の惑星のようで、一緒にきた友達ともども本当に興奮したのを今でも覚えている。日本との出会いはその最初から特別な、刺激的なものになっていくように思えたわ。

それ以降、各地を訪れて知らない日本に触れて、その繊細な美意識にはいつも魅せられてきたの。そんな私にとって特別な「最初の外国」が、ダンサーとしての私の最後の舞台になる、ということね。

引退後のことについては、まだはっきりとしたことは言えない。したいことは色々とある。たとえばアーチェリーとか太極拳とか、陶芸とか、本当に色々と(笑)。でも、まずはダンスから一歩引きたい、そして深呼吸したい。デビューからここまでの35年はいつもダンスとともにあった。だから引退したらまず、私の「ダンスなしの人生」を知って、考える時間が必要だと思う。

その先で、実現どうこうを抜きに言ってしまえば、地球を救いたいと思っている。もちろん一人でできることではないけれど。私がこう考えるきっかけとなっている短い物語がある。

”あるところで森が燃えている、そこに住む動物たちは火を恐れて逃げていく。しかし森のなかで一番小さいハチドリだけは逃げろと言われても「一滴ずつでも」と火を消しに行く。「自分ができることをするだけだ」、と言って。”

私もまた、自分にできることをしたい。環境全体に対して、人類の活動が影響を与えすぎている現状を危機的なものと捉えているので。

Q:あなたの今後のプライオリティを知りたいのでお聞きします、今回の世界文化賞の賞金は何に使う予定ですか?

ギエム:地球環境のために使いたい。自然のため、動物のため。

合同記者会見(左よりドミニク・ペロー氏、シルヴィ・ギエム氏、横尾忠則氏、ヴォルフガング・ライブ氏) š© The Japan Art Association/The Sankei Shimbun

合同記者会見(左よりドミニク・ペロー氏、シルヴィ・ギエム氏、横尾忠則氏、ヴォルフガング・ライブ氏) š© The Japan Art Association/The Sankei Shimbun


<特報>
なお、この懇談会の翌日には、シルヴィ・ギエムと東京バレエ団が毎年大晦日恒例の東急ジルヴェスターコンサートに出演することが発表された。2016年へのカウントダウンに演奏されるモーリス・ベジャール版の「ボレロ」がシルヴィ・ギエム最後の舞台として、放送を通じて日本中の皆さんに見ていただけることになったわけである。12月に各地で行われるツアーとあわせて、ぜひその目に焼き付けていただきたいと思う、美しいままに退くことを決めた最高のダンサーの姿を。

公演情報

【シルヴィ・ギエム Life in Progress】
◆公演期間:12月17日(木)~12月20日(日)
◆会場:東京文化会館
◆プログラム:
『Bye』(ギエム)
アクラム・カーン新作 ソロ
(ギエム)
ラッセル・マリファント新作パ・ド・ドゥ
(ギエム、エマニュエラ・モンタナ―リ)
『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』(東京バレエ団)
『ドリーム・タイム』(東京バレエ団)


【シルヴィ・ギエム ファイナルツアー】
◆日程・会場
[川 口]12月09日(水)会場:川口総合文化センター
[相模原]12月10日(木)会場:相模女子大学グリーンホール
[富 山]12月12日(土)会場:オーバード・ホール
[新 潟]12月13日(日)会場:新潟県民会館
[前 橋]12月14日(月)会場:前橋市民文化会館
[西 宮]12月22日(火)会場:兵庫県立芸術文化センタ
[高 松]12月23日(水)会場:アルファあなぶきホール
[福 岡]12月25日(金)会場:福岡サンパレス ホテル&ホール
[名古屋]12月26日(土)会場:愛知県芸術劇場
[広 島]12月28日(月)会場:広島文化学園HBGホール
[横 浜]12月30日(水)会場:神奈川県民ホール
◆プログラム:
『ボレロ』(ギエム、東京バレエ団)
『TWO』(ギエム)
『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』(東京バレエ団)
『ドリーム・タイム』(東京バレエ団)

■公式サイト:http://www.nbs.or.jp/blog/news/contents/topmenu/post-537.html​

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