宮崎発、永山智行率いる〈劇団こふく劇場〉が、代表作で三重・広島・札幌・福島・東京・沖縄・福岡・宮崎など全国ツアー敢行中
劇団こふく劇場『ただいま』 2018年宮崎公演より 撮影:税田輝彦
劇団活動25周年の集大成として3年前に生み出された、宮崎発の傑作『ただいま』の上演ツアーが再び!
劇作家・演出家の永山智行が代表を務め、1990年の結成以来、宮崎県都城市を拠点に活動する〈劇団こふく劇場〉。2006年から10年間に渡って「宮崎県立芸術劇場」の演劇ディレクターも務めた永山は、国内外のカンパニーを招聘したり、九州の俳優を集めてプロデュース公演の企画・演出なども手掛けている。また、2012年からは宮崎県北諸県郡三股町と三股町教育委員会との共催により【みまた演劇フェスティバル『まちドラ!』】を開始するなど、地域演劇の活性化に貢献する一方で劇団の作品を全国で積極的に上演するなど、これまで幅広い活動を行ってきた。
そして2015年、劇団結成25周年を迎え、折しも戦後70年を迎えたこの年に、長年の活動の集大成として、市井の人々のかけがえのない日常を描いた『ただいま』を発表。宮崎・福岡・三重・愛媛・東京で公演を行い、各地で大好評を博した。「この25年の間に、何が失われ、何が生まれたのか、わたしたちは、ほんとうにしあわせになったのか、九州の片隅でそんなことを考えながら生まれた」という本作。今回の再演ツアーは、8月末から来年2月にかけて全国10都市を巡演中で、今週末の9月15日(土)・16日(日)には三重・津の「三重県文化会館」にて上演が予定されている。
劇団こふく劇場『ただいま』チラシ表
東海エリアに於いては、2001年に永山の作品『so bad year』が、愛知県文化振興事業団が主催する《第2回AAF戯曲賞》を受賞。翌年、同事業団プロデュースにより上演され、その後2004年、2005年にも同作は形を変えて上演されたが、劇団公演としては2015年の「津あけぼの座」以外に当地では行われておらず、東海エリアの観客にとってはまだ馴染みの浅い〈劇団こふく劇場〉。その活動の歴史や作品創りについて、本作誕生の経緯や再演への思いなどを伺うべく、永山智行に話を聞いた。
作・演出の永山智行
── 今回上演される『ただいま』は、2015年に初演された作品ですが、当時はどのような思いで創られたのでしょうか。
劇団結成25周年ということで、3年前に「津あけぼの座」さんでも初演させていただいたんですけど、ちょうど戦後70年という時期で、私も出演者も戦争から遠く離れて生まれた世代ではあるんですが、改めて戦争というのものを考えた作品でもありました。それから、私たちにとっての記憶や体験でいうと東日本大震災もありましたので、そういうところを私たちなりに捉えたいと思って創った作品です。一番手掛かりになったのは、「戦争の反対は平和ではなくて日常だ」と仰っていた井上ひさしさんの言葉です。その日常を丁寧に描いて、そこにドラマを見つける。この作品に出てくるのも、お見合いの話や結婚の話だったり、お父さんが亡くなるとか子どもが生まれるとか、普通に暮らす人の何気ない人生の一コマみたいなところをスケッチしていった作品で、普段の暮らしの中にこそかけがえのないものがあるんじゃないかなと。そのことを通して、戦争の対極にある普段の日常みたいなことを描きたい、と思って創った作品です。
── 戯曲を書かれたのも2015年なんですか?
細かく言うと、その前の年に20分の短編で一回、試験的に創ったんですよ。それを2015年に2時間のお芝居に再構築したんです。
── 短編から長編にされた際に、新たに加えたものなどもあるわけですか。
単純に言うと、登場人物が少し増えています。2014年の時は豆腐職人のサトシという男が、彼の妻の妹…義理の妹のアサコにお見合いを勧めるというそれだけのお話で。その時はサトシ君の職業が豆腐職人だということも入っていなかったし、今回は、アサコの友達や、その友達のイトコだったり、2時間の物語にする中でいろいろな立場の登場人物を増やしたというのはあります。
── 初演をご覧になった観客や演劇関係者の方々が絶賛されていますが、ご自身ではどの辺りが評価された点だと思われますか?
受け取られる方のご意見なのでこちらがどうこうというのはないんですけど、しっかり観ていただけたのかな、ということは純粋に嬉しく思っていますね。いろいろなご意見や感想をいただいていますけど、「カーテンコールが良かった」という声が意外に多かったんです。一番最後に、アサコさんと友達が合唱団にいてもうすぐ定期演奏会があるという設定で、「うたがおわる」という歌を歌うんです。私が歌詞を書いて、出演者のかみもと千春がシンガーソングライターでもあるので、彼女が作曲してこの作品のテーマ曲みたいな合唱曲を作って、カーテンコールの時に出演者5人で歌うんですよ。本編もそうなんですけど、そこが良かったと仰っていただけることが多かったですね。
この作品に限らず、これは私の演出の手法も含めてなんですけど、俳優がその役を演じる時に、成りきるわけではなくて、この役をその俳優が抱えて一生懸命演じようとしているのを見せたい。つまり物語の中の役だけを見せたいわけではなくて、その役をやっている俳優も自分の人生を生きているし、3年前と今回ではもちろんその人生も変わってきているわけで、この役を演じているこの俳優が今、皆さんの目の前に生きています、ということを同時に見せたいと思っているんです。カーテンコールは、最後に俳優がその役から解放されて一人の個人として舞台に立つ時間だと思っているんですけど、この2時間という時間をお客さんと一緒に過ごしたんだね、ということが、俳優が歌うことで観客に伝わったんだとすれば、それはすごく嬉しいことだなと思うんですけどね。
── 永山さんの演出方法として、劇中でも俳優自身の背景を見せる工夫をされているということですか。
背景を見せるというよりは、滲み出てくるものであったり。例えばですね、型をすごく重視して創っているのでいろいろな縛りがあるんですよ。今回の作品も俳優はどちらかというと静止画で、ある形を作ってそのままずっと喋る。しかも正面を向いて喋るんです。二人が会話をしていても、二人とも正面を向いて身体は静止したまま。移動も、能でいうところの摺り足みたいな形で。好き勝手自由に動けますということではなくて、様式が決まっていてある種の型を守りながら演じてもらうことで、俳優の身体に非常に負荷をかけているんです。自由に動いて演じてもらうより、むしろ型の中にはめた時に逆に型からはみ出していく個性があると信じているので、そういう形で役を演じながらも、それぞれの俳優の身体を通してその人の人生が滲み出たらいいなぁ、と思ってやっています。
── そういった“型”に行き着いたきっかけというのは?
これはですね、うちは〈みやざき◎まあるい劇場〉という演劇プロジェクトで、障害者の方と一緒にお芝居を創っているんですよ。ワークショップは2001年くらいからですが作品創りは2006年から始めていて、筋ジストロフィーや小児麻痺、知的障害とかいろいろな方がいて、車椅子の方もいるし、身体的には問題のない方もいます。脳性小児麻痺で身体も自由に動かせないし発語もしっかりしないから何を喋っているのか我々も未だに聞き取れないことがあるぐらいの人たちとセリフのやりとりをする。でも設定としては、障害者の方に障害者の役はやらせない、と決めて。障害者の人が障害者の役をやると、「障害を持っているけど頑張ってます」というお話になってしまうから、あくまでも一本の有料公演で演劇作品としてクオリティーの高いものを創る、ということを思ってやっているんです。
それでうちの俳優と障害を持っている俳優が、例えば兄弟の役で普通の会話をすると、お客さんは脳性小児麻痺の俳優をすごい集中力で見ているし、何を喋っているか耳をそば立てて聞くけど、うちの俳優が喋ってもちゃんと聞いてくれていない(笑)。まぁそんなこともないんですけど、彼らと一緒に舞台をやると、とにかく存在感で負けちゃうんですよね。日常の我々の価値がまるっきり180度ひっくり返って、舞台に立つとうちの俳優の方が弱者になるんです。奴らは強ぇなぁ、あいつらを倒すにはどうしたらいいんだと(笑)。〈みやざき◎まあるい劇場〉で芝居をした後に、劇団の本公演でうちの俳優だけで作品を創って、「まあるい劇場の方が面白かったです」と言われると、これはちょっとヤバイぞと。奴らに勝つ存在感を手に入れるにはどうしたらいいか、いろいろ試行錯誤した時に、俳優の身体にちょっと負荷をかける、或いは型を作る、縛りを作ることで逆に身体が輝き出したんです。例えば、100kgの荷物を持っているフリをしている人と、本当に100kgの荷物を抱えている人がいたら、実際に抱えている身体の方が魅力的なんですよ、嘘がないから。だとしたら、身体に負荷をかけることでそこから滲み出てくるものがあるんじゃないか、というようなことを2007年ぐらいから少しずつ試してやり出しています。
── それは2007年以降、全作品その方法で上演されているんですか?
そうですね。形は違えど基本的にはある種の制限というか、型を作ることで“物語る身体”を大事にしているのは変わりません。基本的に本公演は劇団員だけでやりますが、プロデュース公演の時は、まあるい劇場もそうですけど、いろいろな方々と一緒にやります。ただ一貫しているのは、“身体をどう魅力的に見せるか”、“身体を通してそれぞれの俳優の人生がそこに滲み出てくるようにしたい”というのは、アプローチはもちろんいろいろ変わりますけど、どの作品を通しても同じかなと思います。
劇団こふく劇場『ただいま』 2018年宮崎公演より 撮影:税田輝彦
── 今回の再演にあたっては、何か変えられたことはあるんでしょうか。
ちょこちょこと台本を直したりはしていますけど、基本的には変わっていません。それこそ、前回の初演の時にある程度型が出来ていますので、今回の稽古も前回の型をまずなぞるところからスタートしていて、その中で幾つか段取りを変えたりしたところはありますけど、基本は全く変わっていません。変えないことで逆に、俳優一人一人が3年という時間を過ごしているわけで、3年分歳を取って、うちの俳優は基本アラフォーなのでだんだん体力も落ちつつ、親を亡くした者もいますし、それぞれ自分の人生を生きて、その中でいろいろな経験や出会いを抱えているわけですから、それがまた作品に滲み出ればいいかなぁと思っています。
── 3年の流れや経験というのは、永山さんからご覧になってそれぞれの俳優さんに強く反映されているように思われますか?
どうなんですかね。始終一緒にいるので明確に変わったな、ということは無いというか、私も歳を取って変わっているわけなので。ただ、我々だけではなくて社会ももちろん3年の間に変わってきていることがたくさんあるし、災害もたくさん起きている状況の中で、改めて日常というものは簡単に奪われてしまうし、災害に見舞われてしまった時に、ぐっすり寝られる布団があるということだったり、水道をひねれば水が出てくるとか、電気がつくとか、夏でも涼しいところに居られるということが、決してあたり前のことではなくとてもかけがえのないことで、それを支えてくださっているたくさんの方がいらっしゃるということも、3年前より身近に感じるようになっている。それは不幸なことなのかもしれませんけれど、災害の多さみたいなことを改めて考えると、日本という国で暮らす中で、“あたり前にあることの有難さ”みたいなことは、よりリアリティが強くなってきたのかな、とは思いますね。
── 上演形態も前回とほとんど変えずに再演されるということは、初演の時点で確立した作品になっているわけですね。
お話自体が本当に普遍的な人間の営みを描いた作品なので。トピックとして最近こうだったからこうです、みたいなことではなくて、ずっと昔から繰り返されている、結婚して、子どもが出来て、親が死んで…というようなことを描いた作品だから、極端に言うと50年後だろうが200年後だろうが、もしかしたら変わらずにあるものを描いていると思うので、3年という短いスパンの中で内容としてドラスティックに変わることはないですね。時間の経過というか、そういうものに耐え得る作品として元々創りたかったというのはありますし、なので逆にそこは変わらない、ということの方が我々にとっては価値があるのかなと思っています。
── では、今後もこの作品は継続的に再演されていこうと。
そうですね。次の再演はいつとは考えてはいないですけど、行ける時は今回のツアーのようにたくさん上演したいと思っています。とはいえこの先、劇団が未来永劫あるというわけではないし、ふいに終わってしまうことだって十分あり得るので、上演できる時にやっておこうと。あまり普段から先を考えないんですよ。よくこういうインタビューで夢とか目標とか聞かれるんですけど、「何もありません」って(笑)。この作品は、単純にI’m homeの「ただいま」だけじゃなくて、“今という時間に留まることのかけがえなさ”というのかな。どうしても現代人は先を先を見てしまうから、こうやって喋りながらも1時間後の予定とか来週の予定とかを気にしてどこか上の空になったり、今という時間に身を置くことがだいぶ苦手になってきている中で、“今、同じ時間を過ごしている”ということをまず存分に味わいたいな、という気持ちも込めてこのタイトルにしているんです。劇団の活動としても、とにかく一つひとつ目の前のことを丁寧にやっていく。その結果、もしかしたら次の作品とか次のツアーに繋がっていくかもしれないですけど、そこを目標にしてということでは全くなくて、一つひとつの出会いとか時間を大事にして生きて行くという、それだけかなと思っています。
尚、本作が上演される「三重県文化会館」と連携関係にある同市内の劇場「津あけぼの座」では、〈こふく劇場〉と同日程で愛媛の〈世界劇団〉が『さらば、コスモス』を上演予定(こちらの記事を参照)。2日間の公演両日ともハシゴ観劇が可能な上演スケジュールが組まれ、お互いの公演に両主宰がそれぞれアフタートークでゲスト出演する回も設けられている。共に東海エリアではなかなか観る機会のない団体だけに、ぜひ両公演併せてご観劇を。
取材・文=望月勝美
公演情報
劇団こふく劇場 第15回公演『ただいま』
■出演:あべゆう、かみもと千春、濵砂崇浩、大迫紗佑里(以上、劇団こふく劇場)、中村幸(劇団ヒロシ軍)
<三重公演>
■日時:2018年9月15日(土)14:00、16日(日)13:00 ※15日(土)14:00の回終演後には、本坊由華子(世界劇団)をゲストに招き、アフタートークを開催予定
■料金:一般2,500円(当日3,000円) ペア割4,000円(前売のみ) U25割1,000円(前売・当日とも) やさい割2,000円(前売のみ) ※U25は精算時に年齢確認ができる証明書を提示、やさい割は家庭で収穫した野菜を持参すると割引を適用。また、世界劇団の半券を当日受付で提示すると、一般のみ前売・当日とも500円割引きに
■アクセス:近鉄名古屋線・JR紀勢本線・伊勢鉄道「津」駅西口から徒歩約25分または三重交通バスで約5分
■問い合わせ:三重県文化会館カウンター 059-233-1122(10:00~19:00)
■公式サイト:
劇団こふく劇場 http://www.cofuku.com
三重県文化会館 https://www.center-mie.or.jp/bunka/
【今後の巡演スケジュール】
※各地の公演詳細については、こふく劇場HPを参照
■日時:2018年10月13日(土)・14日(日)
■会場:広島市東区民文化センター
■日時:2018年12月1日(土)・2日(日)
■会場:扇谷記念スタジオ・シアターZOO
■日時:2018年12月8日(土)・9日(日)
■会場:いわき芸術文化交流館アリオス
■日時:2018年12月12日(水)~16日(日)
■会場:こまばアゴラ劇場
■日時:2019年1月12日(土)・13日(日)
■会場:アトリエ銘苅ベース
■日時:2019年2月1日(金)・2日(土)
■会場:パピオビールーム
■日時:2019年2月15日(金)~17日(日)
■会場:三股町立文化会館
■公式サイト:劇団こふく劇場 http://www.cofuku.com