声優・福山潤インタビュー これまでにない仕上がりの『ムンク展』音声ガイド、収録を通して感じた人生観とは?

インタビュー
アート
2018.10.4
福山潤

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2018年10月27日(土)~2019年1月20日(日)まで、東京都美術館にて開催される『ムンク展―共鳴する魂の叫び』。本展の音声ガイドを、声優の福山潤が担当する。美術展の音声ガイドは今回が初挑戦だという福山に、展覧会の見どころやアートへの思い入れ、声優業に込める想いなど、たっぷりと語ってもらった。

母の影響で、幼い頃から絵が好きだった

——今回、音声ガイド担当が決まった時の心境を教えてください。

自分は絵が好きで、今まで展覧会に行ったり、その際に音声ガイドを聞くことも何度もありました。そんなわけで、美術展の音声ガイドは大変興味のあるジャンルだったのですが、まさか『ムンク展』でやらせていただけるとは……。緊張もしますけど、やりがいのあるいいフィールドをいただけたなと思っています。

——もともと美術がお好きということですが、特に好きな作家はいますか?

僕はシュルレアリスムが好きなので、ダリやマグリット、ジョルジョ・デ・キリコなどが特に好きです。

福山潤

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——これまでに足を運んで、特に印象に残っている美術展はありますか?

母親が趣味で油絵をやっていたので、小さい頃から美術展にはよく一緒に行っていたんです。一番記憶に残っているのは、モネの《睡蓮》を見た時のことですね。子どもだったし、何がすごいのかも正直わからない状態でしたが、こんなに大きな絵があるんだって感動しました。絵に興味を持ったのも、母の影響が大きかったと思います。

——ご自身で絵を描いたりもしていましたか?

母の真似をして子どもの頃から描いていて、高校では美術部にも入っていました。でも、本格的にというわけではなくて、趣味としてやりたい気持ちでしたね。今はまったく自分では絵を描かないんですけど、ある程度隠居するような年齢になったら、何かしらそういうこともまた始めたいなと思っています。

——小さい頃からアート好きだったことが、声優としての現在につながっていると思いますか?

それはまったく関係ないですね。絵が描けるんだったら描く側にまわりたかったんですけど、残念ながらそこの才能と根気がなかったので(笑)。才能の根本って、最後まで描けるか、やり通せるかだと思うんです。でも、僕は絵を描くことに関しては、途中で心が折れるタイプでした。だから、「形あるモノを作る」っていうことに関しては、向いてないんだろうなって思います。仕事にはできない。でも、自分の体ひとつで表現できるものだったらチャンスはあるのかもなって思って、声優を志すことにつながっていくんです。

中年から壮年期のムンクを演じて “若さ”ではなく“老い”への関心

福山潤

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——ムンクといえばやはり「叫び」のイメージが強いですが、福山さん自身は、これまでムンクにどういったイメージを抱いていましたか?

「叫び」以外に「絶望」「不安」という絵も知っていましたが、ムンクの印象はそれくらいしかありませんでした。モチーフとして、人間の負の部分を多く扱っている人なんだろうな、というぐらいですね。なので、ムンク自身の人生などについては、今回の『ムンク展』をきっかけに知ることになりました。

——音声ガイド収録を通して、ムンクへのイメージに何か変化はありましたか?

ムンクは芸術に対して真摯かつ、自分の感情を表に出すことに貪欲だった人なのかなと思いました。生きることに対して後ろ向きな言葉を語ってはいますけど、それをちゃんと絵にも描いているので。さらに、自分の描いた作品を「子ども」と呼んで、生涯自分で所有し続けていたそうなんです。なので、ものすごく自己愛が強かった人なのかもしれないなと思いました。ネガティブなことばかりを考えているというよりは、根幹で自己愛をしっかり持っているんだろうなという印象でしたね。

——そうしたムンクの性格は、ご自身と似ていると思いますか? それとも、まったく似ていないでしょうか?

もし僕が仮に画家だったとしたら、自分が描いた作品を手元に置いておくことはないと思います。今、僕も声で作品を作らせていただく立場ではありますが、作った後に関しては、実はそんなに自分で振り返らないんです。オンエアを見たり、一度は触れるようにはしていますけど、たとえばデビュー時を振り返ったりだとかはほとんどしません。

アウトプット後に関しては、実は興味があんまりないんですよね。デビューしてから数年の内は振り返ったり、思い出の品を大切に取っていたりもしたんですけど、10年を過ぎたあたりから、それって違う気がするなと思うようになってきました。出した後のものは受け取った人のものだから、僕が後生大事に持つべきものじゃないだろうなと、切り離して考えているんです。なので、もしかしたらムンクとは考え方が逆なのかもしれません。

——あまり過去を振り返らないのは、未来を見据えているからでしょうか?

今の世の中だとカメラもビデオもあって、振り返ろうと思うといくらでも振り返れる。記憶をとどめておく必要がないくらい、情報があふれちゃってるんですよね。ほかの人が覚えてくれていたり、ネット上に僕の20年前の写真だって残っているくらいですから、自分が大事にしなくてもいいのかもな、と思っています。逆に、そうやって外に情報がたくさんあるおかげで、過去の自分に興味がなくなっていってるのかもしれません。

過去ではなく未来という意味では、今回の音声ガイドはとても刺激的でした。というのも、僕はアニメーションだったら10〜20代の少年青年期を主に演じることが多いのですが、今回はこれまで演じることがあまりなかった中年から壮年期のムンクの言葉を読んでいるんです。僕はどちらかというと、若くいたいとかいつまでも昔のままがいいというよりも、老いていきたいという気持ちの方が強いんです。「若々しい方がいい」という価値観は、あんまり好きじゃない。自分がもともと童顔で若く見られやすいからなのかもしれないんですけど、老いることに関しては前向きにとらえています。体が弱っていく代わりに、得るものもたくさんあると思うので。そういう考え方だからこそ、余計に昔のことに興味がなくなるのかもしれません。

普段の仕事とは異なるスタンスで挑んだ音声ガイド

福山潤

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——収録を通して感じたことや、インスピレーションがあれば教えてください。

表現としては、たとえば普段は声のボリュームを張る仕事が多いんです。でも、今回は抑え気味で、演技もあまり力を入れずに楽にやったら、「今の年齢の僕は、自然な状態だとこういう読み方をチョイスするんだな」っていうことがわかった感じがしました。あまり取り繕わない状態だと、言葉の運び方やセンテンスを切るところ切らないところ、ニュアンスを乗せたいところなどが、自分のプレーンなものになってきたんです。それをアウトプットできて大変ありがたかったですし、いい勉強になりました。

——最後に、ムンクが残した言葉を語られているという、今回の音声ガイドの聞きどころを教えてください。

ムンク展が好きで音声ガイドを利用される方には、ムンクの生涯や作品の背景を、情報だけでなく情感も多少入った上で、邪魔にならないようにお届けできるよう心がけました。鑑賞を楽しむひとつの手助けになれば幸いです。

ムンクをよく知らないけれど興味はあって、かつ僕が音声ガイドをやるということで足を運んでくださる方は、おそらくこういう形でナレーション、セリフを読んでいる僕っていうのはあんまり聞いたことがないと思うんですよね。今までやってきた声優の仕事とは全然違う方法でやらせていただいているので、普段とは少し違う雰囲気の僕の声を聞けるかもしれません。

どういうきっかけであれ、展覧会でムンクに触れて、絵の素晴らしさを感じ取って帰っていただけたら幸いです。

福山潤

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取材・文・撮影=まにょ

イベント情報

ムンク展ー共鳴する魂の叫び
会期:2018年10月27日(土)〜2019年1月20日(日)
会場:東京都美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園8-36)
休室日:月曜日(ただし、11月26日、12月10・24日、1月14日は開室)、12月25日(火)、1月15日(火)〔年末年始休館〕12月31日(月)、1月1日(火・祝)
開室時間:午前9時30分〜午後5時30分
※金曜日、11月1日(木)、11月3日(土・祝)は午後8時まで
(入室は閉室時刻の30分前まで)
入館料:一般1600円(1400円)、大学生・専門学校生1300円(1100円)、高校生800円(600円)、65歳以上1000円(800円)()内は前売・団体料金 ※団体割引の対象は20名以上 ※12月は高校生無料 ※11月21日(水)、12月19日(水)、1月16日(水)はシルバーデーにより65歳以上の方は無料(当日は混雑が予想されます)。
公式サイト:https://munch2018.jp
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