《連載》もっと文楽!~文楽技芸員インタビュー~ Vol. 16 豊竹靖太夫(文楽太夫)

インタビュー
舞台
2026.8.13
 豊竹靖太夫(文楽太夫)

豊竹靖太夫(文楽太夫)

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滋味のある声と語り口で、人間をリアルに描写。大学で国語学を学んだことも、テキストの研究や言語への洞察に役立っているのだろうか。今年で芸歴22年。豊竹靖太夫(47)は、義太夫について語る言葉を豊かに持つ中堅の太夫だ。
 

大学院で言葉を研究するはずが……

大阪の芸能、文楽の世界にあって、靖太夫さんは東京出身の太夫だ。夏目漱石生誕の地である早稲田の喜久井町に生まれ育った。

「中学時代は中島みゆきさんの歌にはまって、その歌を『簡単な言葉で難しいことを言う』と誰かが評しているのを読み、言葉というものの面白さを感じていました。古典芸能になんとなく興味を持ち始めたのもその頃から。高校時代は地下鉄で通学していたので、駅に置いてある営団地下鉄のフリーペーパーに毎月、歌舞伎や能などの入門の記事が載っているのをよく読んでいました」

一方で、高校の部活ではオーケストラに勤しんだという。

「小学校の塾で知り合った女の子と高校で再会し、誘われて。その子と同じヴァイオリンになったのですが、それまで楽器を弾いたことがなかったばかりか、楽譜の読み方もおぼつかなくて。四分音符はこの長さ、二分音符はこの長さ、付点がついているとこの半分で〜など、覚え直しました。ヴァイオリンは難しかったですが、楽しかったですね。ヴァイオリンを弾くためだけに高校に行っていたようなものです(笑)」

高校生の頃、ヴァイオリンを弾く靖太夫。 提供:豊竹靖太夫

高校生の頃、ヴァイオリンを弾く靖太夫。 提供:豊竹靖太夫

言葉への興味から、中央大学の文学部国文学科に進学。卒業論文のテーマは「万葉集の係助詞について」。

「広辞苑の編集のトップをされていた山口明穂先生のゼミに入りまして、僕が新聞記事の書き手の気持ちは文章のどこに出るのかを探るという発表をしたところ、山口先生から助詞や助動詞について指導していただいたんです。当時しきりに『は』と『が』、つまり『僕は今日カレーを食べた』なのか『僕が〜』なのかの使い分けができていない人が増えたということがよくニュースなどで語られていたのですが、先生は、『は』と対になるのは本当は『も』だとおっしゃっていて。それで、万葉集の『は』と『も』のどちらが、否定的な言葉に繋がりやすい係助詞なのかを調べて、大学の卒業論文にしたんです」

大学生活では、伝統芸能にもさらに親しんだ。

「当時、学生課で先着10名か20名で、歌舞伎や文楽のを無料で配っていて、2回ぐらい行きましたし、能狂言も好きで、詞章を読んだりNHKの番組を見たりしていました。大学4年の時には、大学のOBであるNHKの元アナウンサー、葛西聖司さんのオープン講座を受講し、『やっぱり古典芸能は面白いなあ』と思いました」

しかし、伝統芸能の道に進むとは夢にも思っていなかった。大学院に進み、留学をするつもりだったのだ。

「英語が得意ではないのでせめて第二外国語のドイツ語はしっかり身につけようと思い、ドイツ文学の大学院の授業に混ぜてもらって、修士の院生1人と博士の院生1人とで僕と先生の4人で、文学を訳して読んでいたんです。その先生に国文学のほうで大学院に進みたいと話したら、比較文学のような形で留学するのはどうかと提案してくれ、書類も用意してくれて。指導教授の推薦状が必要なので、山口先生に書いてもらっていました。ところが、院試の筆記が終わり、次の面接で面接官の先生から『君は大学に行って何を研究したいんだ』と問われた時、自分は卒論の延長で、面白いと思ったことをそのままやるだけだと単純に考えていたことに気づいたんです。このまま進んだらまずいなと思い直し、合格したにもかかわらず、進学を止めてしまいました。山口先生にも、ドイツ文学の先生にも、非常に申し訳ないことをしました」

突如、進学をやめた靖太夫さんは就職の準備もしておらず、1年間、することがなくなる。そこでふと思い出したのが、文楽の研修生募集だった。

「応募要項を取り寄せる時、志望を聞かれました。ヴァイオリンをやっていたため三味線の音色にも惹かれていて迷ったのですが、(八世)豊竹嶋太夫の浄瑠璃が一番好きだったので、太夫と答えて。同期は、最初は3人いましたが、残ったのはのちの希太夫くんと僕の二人で、どちらも太夫志望。指導には、当時の太夫のすごい方々が来てくれました。(七世竹本)住太夫師匠、(九世竹本)源太夫師匠、嶋太夫師匠、今の(豊竹)若太夫師匠……。研修は大変だったけれど、本当に恵まれていましたね」

入門した翌年、2005年9月の国立劇場『女殺油地獄』徳庵堤の段より。 提供:国立劇場

入門した翌年、2005年9月の国立劇場『女殺油地獄』徳庵堤の段より。 提供:国立劇場


≫嶋太夫師匠、そして千歳太夫師匠のもとで

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