特別展『京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ』レポート “慶派スーパースター”の名品が一堂に集結!

レポート
アート
2018.10.12
展示風景より。中央が本尊の「釈迦如来坐像」(行快作、鎌倉時代・13世紀、重要文化財、大報恩寺)

展示風景より。中央が本尊の「釈迦如来坐像」(行快作、鎌倉時代・13世紀、重要文化財、大報恩寺)

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東京・上野の東京国立博物館・平成館で、特別展『京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ』(会期:2018年10月2日〜12月9日)が開幕した。千本釈迦堂の名で知られる大報恩寺は、鎌倉彫刻の宝庫。同寺には、運慶と同時代の快慶をはじめ、行快や定慶ら慶派仏師の仏像が多数残されている。本展では、そんな“慶派のスーパースター”たちが手掛けた名品の数々が惜しみなく公開されている。

戦禍をくぐり抜けた奇跡の寺

大報恩寺は、鎌倉時代のはじめ、1220年(承久2年)に、天台宗の僧侶・義空上人によって開創された古刹。2020年には開創800年を迎える。京都市上京区に位置し、平安京大内裏の北西という、古くから開けた場所にあったにも関わらず、応仁の乱などの戦禍を奇跡的に免れてきた。創建当時の姿を残す本堂は、洛中最古の木造建造物として国宝に指定されている。

長い歴史の中で戦禍をくぐり抜けてきた大報恩寺は、行き場を失った寺宝の“避難所”のような場でもあったようだ。創建前の平安時代前期に造られたとされる「千手観音菩薩立像」や、今はなき、北野経王堂ゆかりの名宝も残っている。展示冒頭では、大報恩寺に伝わるそれらの名品を通して、その歴史を紐解いていく。

「千手観音菩薩立像」(平安時代・10世紀、重要文化財、大報恩寺)

「千手観音菩薩立像」(平安時代・10世紀、重要文化財、大報恩寺)

本尊「釈迦如来坐像」と「十大弟子立像」が“再会”

12世紀末以降、戦乱や災害が立て続いたという不安定な時代背景もあり、仏教の原点である釈迦の教えに立ち返るべく、釈迦信仰が盛んになった。大報恩寺も例外ではなく、義空は「法華経」の教えに基づいて釈迦の聖地をつくるべくして大報恩寺を創建したという。

「誕生釈迦仏立像」(鎌倉時代・13世紀、重要文化財、大報恩寺)

「誕生釈迦仏立像」(鎌倉時代・13世紀、重要文化財、大報恩寺)

創建当初は本堂に、釈迦如来のほか、文殊菩薩、弥勒菩薩、十大弟子の各像が一堂に安置されていたとされる。その後、文殊菩薩と弥勒菩薩は失われ、現在「十大弟子立像」は本尊である「釈迦如来坐像」と別々に安置されているが、本展では再び同じ空間に揃うというのも見どころのひとつだ。

展示風景より。手前が行快作の「釈迦如来坐像」(鎌倉時代・13世紀、重要文化財、大報恩寺)

展示風景より。手前が行快作の「釈迦如来坐像」(鎌倉時代・13世紀、重要文化財、大報恩寺)

「十大弟子」とは、釈迦の弟子のうち特に優れた10人を指す。大報恩寺の「十大弟子立像」は、快慶が制作したものだ。快慶自身の銘は「目犍連」と「優婆離」にあり、「目犍連」は唯一、金泥が施されている。工房単位での制作のため、10体それぞれの表現が少しずつ異なるところに注目したい。

「十大弟子立像」展示風景。中央が「目犍連立像」(快慶作、鎌倉時代・13世紀、大報恩寺)

「十大弟子立像」展示風景。中央が「目犍連立像」(快慶作、鎌倉時代・13世紀、大報恩寺)

一方、本尊「釈迦如来坐像」は快慶の一番弟子である行快(ぎょうかい)の作。「師匠である快慶の作風を踏襲しつつも、りりしい顔立ちには少しずつ行快らしさが現れている」と、同展を担当する皿井舞主任研究員。快慶の死後、行快の個性はより一層強くなっていくが、快慶の作風を大きくはずれることはなかったという。

360度ぐるりと鑑賞できる「六観音菩薩像」

大報恩寺には、運慶の弟子が手掛けた仏像も伝わる。運慶の晩年の弟子、肥後定慶(ひごじょうけい)による「六観音菩薩像」だ。こちらも定慶の指示のもと、複数の仏師が制作にあたったとされる。

「六観音菩薩像」展示風景

「六観音菩薩像」展示風景

彩色などは一切されずに、木肌そのものを露出した像は、香木の一種カヤでできており、「檀像」を目指して作られたと考えられている。檀像とは白檀などの香木を用いた彫像のこと。密教の経典で観音像は白檀で作られるべきとされていたが、日本では白檀が希少であったことから、カヤが代用されるようになったそうだ。

6体すべて、光背も台座も現存しているのは、奇跡の寺だからこそか。6体ともにさまざまな角度から鑑賞できるようになっているので、ぜひじっくりとその細部に目を凝らしてほしい。

肥後定慶作「六観音菩薩像」より「如意輪観音菩薩坐像」(鎌倉時代・貞応3年(1224年)、大報恩寺)

肥後定慶作「六観音菩薩像」より「如意輪観音菩薩坐像」(鎌倉時代・貞応3年(1224年)、大報恩寺)

特に、光明を表現した光背の透かし彫りは、繊細な彫刻が影にまで伝わって美しい。展覧会後期(2018年10月30日~)には光背を取り外して展示し、観音様の背中もしかと拝見できるとのこと。本展の展示空間だからこそ見ることが叶う貴重な仏像の姿を、どうぞお見逃しなく。

イベント情報

特別展『京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ』
会期:2018年10月2日(火)~12月9日(日)
会場:東京国立博物館 平成館 特別第3・4室
開館時間:9:30〜17:00
※金・土曜日、10月31日(水)、11月1日(木)は21:00まで
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般1,400円(1,200円)、大学生1,000円(800円)、高校生800円(600円)
※中学生以下無料 ※カッコ内は団体料金(団体は20名以上)
※障がい者とその介護者1名は無料(入館の際に障がい者手帳などをご提示ください)
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト:https://artexhibition.jp/kaikei-jokei2018/
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