『search/サーチ』SNS社会に深く切り込む!巧みな脚本が光るスリラー #野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第五十八回
TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
日本でも年々普及率が上昇し、もはや日常生活の一部となりつつあるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)。この文章を読んでいるあなたも、TwitterやInstagramなど種類の違いこそあれ、何かしらを利用しているのではないか。匿名で意見を書き込んだり、趣味や思い出の共有をしたり、さらに共感してくれる誰かからの“いいね”をもらったり……プライベート空間として使い勝手の良いものなのかもしれない。今回はそんなSNSを題材としたスリラー作品『search/サーチ』を紹介しよう。
16歳の女子高生・マーゴットが姿を消した。警察は行方不明事件として捜査を開始するが、家出か誘拐かもわからないままいたずらに時間だけが経過してゆく。父親のデビッドは居ても立っても居られず、娘のパソコンにログイン。SNSから手がかりを探そうと試みると、そこには彼の知らない娘の姿があった。
画面に散りばめられた情報を見逃すな
『search/サーチ』は、「全編パソコン画面で完結!」という設定が目を引く作品。この設定、実は“映画史上初”の試みはではなく、2015年公開のホラー映画『アンフレンデッド』でも、用いられている。この2作品には制作会社が同じという共通点があるものの、『search/サーチ』ではその設定がより活きていると感じた。
『アンフレンデッド』はSkypeのグループビデオ通話のみで展開してゆくが、『search/サーチ』はメッセージアプリにYouTubeにと、様々なメディア上を視点が行ったり来たりする。「そろそろ画面から出ないと厳しくない?」と思う場面になってもも、頑なに画面の中から出ない!それでも飽きないどころかどんどん楽しくなるのは、画面上に現れる情報がものすごく多く、「もしかしたらこれが伏線になっているのでは?」と推理させてくれるからだ。しかし、画面上の細かい文字にまで字幕がついているわけではないので、「英語が得意だったらもっと色々発見できたかもしれない」と思い、悔しかった(笑)。注意して観ていれば、もしかしたらデビッドより先に手がかりを見つけられるかも?
そして、オープニングにも注目。家族共用のパソコン画面。“初日記念日”という名前のフォルダには、娘・マーゴットの様々な初日の写真や動画が収められており、それを見るだけで家族の思い出を振り返る仕組みとなっている。セリフはないのだが、これだけで家族の絆やどんなことがあったのかが理解できるのだ。私はちょっと感極まってウルっときてしまったので、冒頭から気が抜けない作品だということを覚えていてほしい。
SNSの光と闇
デビッドは、マーゴットが消えた理由に心当たりがなく、独自に調査を進めようにも、娘の友達の名前すら知らない。そんな状況で彼が手がかりを求めたSNSには、膨大な数の娘の“友達”がいた。ところが、“友達”は皆マーゴットの行方を知らず、「そんなに仲良くなかった」とまで言い放つものも。ネットで繋がっているからといって、仲の良い友達とは限らないのだろう。私は「そんな関係なら別にいらないなぁ」と思ってしまうタイプだが、やはり友達やいいねの数がステータスになる時代なのだろうと感じた。
また、SNSには気軽に繋がれるメリットがある反面、危険な人物と正体がわからないまま知り合い、犯罪に巻き込まれてしまうこともあるという。アップロードした写真の背景やツイートから居場所を特定され、何かしらの被害に遭ったという話も見かけたことがある。本作でもデビッドが、娘への誹謗中傷を書き込んだ人物の居場所を特定し、殴り込みに行く様子が描かれている。被害者だった側が加害者になってしまう瞬間だ。
それでも、本作はただただインターネットの闇のような面ばかりを取り上げるだけではない。デビッドが名探偵のごとき発想力や、警察顔負けの根性と勘で事件の真相に迫っていく姿からは、SNSの“可能性”も感じるはず。藁をもすがる思いのデビッドにとっては、まさに一筋の光だったのだろう。本作の魅力は、“全編パソコン画面”という仕掛け以上に、SNS社会に切り込む鋭さが魅力なのではないか。危うい部分に目を向けつつも、使い方次第だということを教えてくれる。
映画好きな方にはもちろん、SNSに夢中な世代にも推したい一作!芸術の秋。ぜひ劇場へ足を運んでほしい。
『search/サーチ』は公開中。
作品情報
製作:ティムール・ベクマンベトフ (『ウォンテッド』監督・『アンフレンデッド』製作)
脚本:アニーシュ・チャガンティ&&セブ・オハニアン
出演:ジョン・チョー(『スター・トレック』シリーズ)/デブラ・メッシング(「SMASH」「ウィル&グレイス」)/ジョセフ・リー/ミシェル・ラー