演劇集団円・こどもステージ『はだかナおうさま』~劇作家・國吉咲貴、俳優・手塚祐介、制作・桐戸英二に聞く
円こどもステージ『はだかナおうさま』、左から劇作家・國吉咲貴、俳優・手塚祐介。
今年の演劇集団円の〈こどもステージ〉は、くによし組で人気のある劇作家・國吉咲貴さんが『はだかのおうさま』をもとに脚色した『はだかナおうさま』です。原作の『はだかのおうさま』は、洋服屋が作った服は「賢い者にしか見えない」という不思議な服でしたが、國吉さんはそれをもとに、とてもチャーミングな物語を書きました。そこで〈こどもステージ〉の新しい童話あそびシリーズが生まれた背景について、劇作家、俳優、制作のみなさんにお話を聞きました。
初めての子ども向け芝居
──演劇集団円の〈こどもステージ〉には、どんな印象を持っていましたか?
國吉 なんか全力で子供を楽しませているのが、すっげえなあというイメージです。プロフェッショナルが子供のために舞台を作ると、こんなふうになるんだなあって、最初見たときに衝撃でした。
──はじめに『はだかのおうさま』を舞台にしてくださいという提案があったんですか。 それとも、ご自身で『はだかのおうさま』を元に、書こうと思ったんですか。
國吉 円の手塚祐介さんから「書いてみない?」とお声がけいただいたときに、別役実さんの本とか、前に円の〈こどもステージ〉でやったものを見て、童話をモチーフに書きたいなと思って。円でやってなくて、プラスわたしが書きたいことに近いものを探したときに、『はだかのおうさま』があって、これをモチーフに書こうと思いました。
──8歳の子供のソラが、朝起きられなくて、おかあさんに無理やり起こされる。で、次に目が覚めたら、30歳になっていて、22年が経過している。だから、22年後の未来はこんなふうになっちゃうのかと思ったんですが……。
國吉 そうなったら嫌だなというのを書きました。
集団心理の話を書きたいなと思っていて、子どものころ、思っていた意見が、揉みくちゃにされていくうちに、まわりに合わせる術(すべ)を身につけていってしまうのを書きたいなと思って。子どもがいきなりポンと大人の世界に入ったら、ちょっと苦しくて面白いんじゃないかと思って書きました。
円・こどもステージ『はだかナおうさま』(國吉咲貴作、後藤彩乃演出)の稽古風景
くによし組の芝居とのちがい
桐戸 今日、初めて『はだかナおうさま』の通し稽古を見て、どうでしたか?
國吉 もうすごい楽しくて、わたしの作品じゃないようになってました。
──『えんぶ』12月号の表紙になったのと、どちらがびっくりしましたか?
國吉 びっくりは『えんぶ』の方がびっくりしました。取材を受けたときに、表紙になるとは聞いてなかったので。〈こどもステージ〉はいまだに夢みたいな感じがしていて、今日見ても、わたしが書いたもののような感じがしないとか、夢すぎる感じがします。現実感がぜんぜんなくって。
桐戸 ツイッターに「別役実さんや谷川俊太郎さんなど、神様みたいな方たちが脚本を書かれてきた演劇集団円・こどもステージ」という、いい言葉をあげてくださったんですけど……。
國吉 もう本当にそのとおりで、すごい演劇の神様みたいな感じなんで、別役さんとかは……。
桐戸 台本の第一稿を読んだとき、ちょっと別役さんと近い感じを受けました。主宰されている「くによし組」の芝居についても、ちょっと訊いてみたいんですが……。
──12月の同じ時期、くによし組でも、新作『サンタクロース(仮名)の死』を上演するんですよね。
國吉 これはクリスマス時期にやりたくて。クリスマスがなくなっちゃった世界で、嘘つきの男の子がクリスマスを作ろうとするという話なんですけど、ふだんはすごく不謹慎とよく言われる作風です。
前に、手塚さんがわたしの劇団の作品に出演してくれたときは、すごく老け顔の大学生が悩む『アキラ君は老け顔』という話で……。大谷朗さんという60代の俳優さんが、大学生の男の子の役をやってくださって、そういう、あまりストレートに言っちゃいけないことを、設定を奇抜というか突飛にして、コメディにするということを、劇団ではよくやっております。
──タイトルの『サンタクロース(仮名)の死』からは、そんなに不謹慎な感じはしないんですけど……。
國吉 ネタバレになっちゃうんですけど、ブラックすぎて、稽古場ではだいじょうぶかと言われています。
サンタクロースの格好をしたテロ集団が街を襲って、そのせいでサンタクロースの格好をすることが不謹慎になってしまう。そのせいで、髭はサンタをイメージさせるから、世界中で生まれた男の子全員に「髭消し」という永久脱毛をさせる。髭が生えている人は「髭人」と言って差別されちゃう世界で、主人公の男の子は「髭人」と言われている男の子が親友なので、その子を助けるために新党を立ちあげるお話です。
桐戸 かなりシュールなので、すごく計算された笑いなのか、なんなのか、わからない。
──ブラックな部分は、こどもステージの『はだかナおうさま』にはあまりありませんが、どちらの舞台も、想像力をフル回転させている感じですね。
円・こどもステージ『はだかナおうさま』(國吉咲貴作、後藤彩乃演出)の稽古風景
〈こどもステージ〉を書くうえで、心がけたこと
桐戸 〈こどもステージ〉を書くうえで、心がけたことはありますか?
國吉 子どもに合わせないっていう……なんか逆なんですけど、意外と子どもは笑いに厳しかったり、すごく大人の目線を持っていたりするので、媚びるとバレるなと思って。大人が見ても面白いものは、きっと子供も喜んでくれるかなと。
手塚 打ち合わせの最初に、その話をしたんですよね。
國吉 はい。相談に乗ってくださって……。
──展開が速いのも、『はだかナおうさま』の特色ですね。みるみるうちに展開していく。
桐戸 最初からトップギアで……。
──いまの子どもたちは、YouTubeを見て、そういうものに慣れてるから。だから、YouTube世代のこどもステージって、こんなスピード感なのかなと思いました。
桐戸 そういったテンポ感みたいなものは、書くうえで意識されたんですか。
國吉 すごい気にしました。なんかすぐ飽きちゃうだろうなと思って。
で、いつも〈こどもステージ〉には歌があるんですけど、今回は入れなくてもいいと言われたときに、じゃあ、入れないでなんとか面白くしたいなと思って。テンポと展開は速くして、めまぐるしい感じ……『不思議の国のアリス』を見ているときみたいな気持ちに、子どもたちになってもらいたいなと思って、書いてました。
──題名を『はだかのおうさま』のように、所有格の「の」ではなく、『はだかナおうさま』と形容詞にして、しかも「ナ」だけをカタカナにしたのは、なぜですか。
國吉 わたし、たぶん、タイトルをつけるのが本当に苦手で、ずっとボツだったんです。もうちょっと、もうちょっと……っていう直しをいただいて、もう、しょうがないからと思って、『はだかのおうさま』の「の」を「ナ」に変えただけのタイトルをお送りしたら、これでいいとなりました。深い意味はないです。
桐戸 最初は何でしたっけ?
國吉 『はだかのおうさまとうそつきな大人たち』そのまんまのタイトルだったんです。
桐戸 で、こっちから「うそつき」はちょっと……というクレームをつけて、直してもらって……。
國吉 次は『おしゃべり鏡にきいてごらん』。
桐戸 演出家は、鏡の存在は伏せておきたいということで廃案になり、結局、『はだかナおうさま』になりました。
円・こどもステージ『はだかナおうさま』(國吉咲貴作、後藤彩乃演出)のチラシ イラストレーション/スズキコージ
意外なキャスティング
──これは演出家に訊こうと思ってたんですが、高橋理恵子さんも谷川清美さんも、ふだんはやさしいお姉さまがたなのに、今回はどちらも邪悪な仕立屋役。このキャスティングにびっくりしたんですけど……。
桐戸 同期ふたりで……いままでほとんどいっしょにやったことがない。
──言われてみれば、同じ舞台では見ていないような気がします。
國吉 でも、かわいらしかったです、すごく。
──いままで見られなかった一面ですね。それから、チラシにはスズキコージさんのすてきなイラストレーションが描き下されていて、いつもの〈こどもステージ〉がフル稼働して、國吉作品を盛り立てている感じがします。
桐戸 ある意味、王道ですね。
──別役さんの〈こどもステージ〉も、これまでずっとスズキコージさんのイラストレーションでしたし……。
桐戸 だから、国吉さんには許可をとらなかったんですが、別役さんが書いていた「童話あそびシリーズ」の次の世代として、勝手に「新しい童話あそびシリーズ」とチラシの後ろに書いているんです。
國吉 すごい。畏れ多い。
──テンポもそうだし、台詞の口調もそうだし、お洒落でチャーミングという3つの要素が、それを感じさせましたね。
円・こどもステージ『はだかナおうさま』(國吉咲貴作、後藤彩乃演出)の稽古風景
劇作家からのイチオシ
──通し稽古をご覧になって、劇作家としてイチオシなところがあったら、教えてください。
國吉 なんか舞台がコロコロ変わるのがすごい楽しかった。あと、いっぱい移動するんです。視覚的に舞台が移動して変わっていくのが、きっとシアターⅩで見たら楽しいだろうなって思いました。
桐戸 場面があっちへ行き、こっちへ行きとなるから……。
──新しい仕掛けがあるんですか?
桐戸 アナログな仕掛けですけど。
手塚 目新しいことではないです。
桐戸 パネルの位置を変えたりして、スピード感が出るように。美術は乘峯雅寛さんです。役者では、だれが面白かったですか。
國吉 上杉陽一さんが王様で、もうイメージぴったりで……
──王様は上半身はだかになっちゃうんでしょうか。
國吉 なります。王様はすごいかわいくて、すてきで、高橋さんと谷川さんも、姑息な手を使う洋服屋って感じがすてきでした。みんなすてきでした。すてきでない人はいない。
桐戸 稽古場の國吉さんをチラ見していると、けっこう召使1の山崎健二さんの動きに、いい反応をして……。
國吉 そうです。めっちゃ元気。すごいエネルギーが……3名で召使と囚人のどっちもやってもらうんです。手塚さんもすごいパワーで、書いた言葉よりも役者さんがやってくれた方が面白いなと思いました。
手塚 よかった、すこし名前が出て(笑)。お気遣いありがとうございます。
國吉 いえいえ。楽しいです、召使。
──召使と囚人は、ふた役を演じるんですね。
手塚 同じ3人が、召使と囚人をやるんです。
──書きあがってきた台本を、実際に舞台で演じてみて、どうでしたか。
手塚 以前、くによし組で出させていただきましたが、『はだかナおうさま』はやっていて、そのときとは、ぜんぜんちがいます。いま、しゃべるのが大変なぐらいなスピード感になっていますから、それがエネルギーに変わっているのであればいいけど。どう見えているのか、ちょっとわからないところもあるので……。
──活舌をよくして……早口でもちゃんと聞こえるように、しかも、テンポを維持しながら、テンションも維持しつつ……。
手塚 過呼吸になっちゃうこともあって、なんか突拍子もないことが出てきたりすることが、自分のなかでは楽しいです。
──ところで、『はだかのおうさま』の絵本について、小さいときから印象を持っていたんですか? なんかひっかかるものが昔からあったとか……。
國吉 ひっかかるというのは、ずっとありました。なんで王様に言わないんだろうと、ちっちゃいころ、最初読んだときに思って。その理由がわかってきた自分がいて、読み返したときに、あ、わたしだったら言わないなって思っちゃった自分がショックだった。
──でも、気づいていても指摘しない大人が増えたような気がします。だれもが思っているのに、言わないとか……。
桐戸 だから、そういう意味では、しれっといまの世相を盛り込んで……。
──「子どもにとっての真実は、大人になっての嘘になる」とか、大人にはギクッとする言葉がけっこうありました。『はだかナおうさま』を、子どもたちはどんなふうに見てくれるでしょうか。
國吉 子どもは、そこまで気づく子がいてもいいし、気づかない子がいてもいいと思います。ちょっと、ざわってする子がいてもいいし、ただただ鏡に笑ったり、王様に笑ったりする子がいてもいいなと思ってます。
取材・文/野中広樹