勘九郎、七之助、中車、扇雀が笑顔と決意の『四国こんぴら歌舞伎大芝居』製作発表レポート
『第三十五回記念 四国こんぴら歌舞伎大芝居』制作発表(左から)市川中車、中村七之助、中村勘九郎、中村扇雀
春の恒例『四国こんぴら歌舞伎大芝居』が、2019年4月6日(土)~21日(日)に、香川県琴平町で開催される。20日に、都内ホテルで製作発表記者会見が行われ、歌舞伎俳優の中村勘九郎、中村七之助、市川中車、そして中村扇雀、さらに琴平町長の片岡英樹氏と、松竹株式会社副社長の安孫子正氏が登壇した。
会場となる旧金毘羅大芝居「金丸座」は、日本に現存する最古の芝居小屋だ。建物や客席の造り、電力を使わない採光や舞台装置など、江戸時代にタイムスリップしたような芝居見物ができる。昭和59年7月、中村吉右衛門、澤村藤十郎、そして十八世中村勘三郎がテレビ取材で訪れ、「ここで歌舞伎を」と呼びかけたことをきっかけに、昭和60年『四国こんぴら歌舞伎大芝居』がはじまった。
第一部
一、義経千本桜 すし屋
二、心中月夜星野屋
第二部
一、傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
二、高坏(たかつき)
三、芝浜革財布
4人の意気込み
会見でははじめに、片岡氏が「座頭に勘九郎さんを迎え賑々しく開催できることをうれしく思う」と挨拶をし、昭和60年に始まって以来続いてきた四国こんぴら歌舞伎は、「絆、宝、誇り」だと語った。
勘九郎は、10年ぶり2度目の出演。
「第二十五回の楽日、父は『必ず30周年も来るからね』と言っていました。実現できなかったことが今でも悲しい、悔しい思いです」「父へ、山本のおばちゃん(お練りの花吹雪用に紙を切ってくれていた地元の方)への恩返しのつもりで勤めます。この10年で名前も変わり、結婚もし、子どもも2人できました。1つでも2つでも大きくなった姿をおみせしたい」と意気込む。
また、勘九郎は共演者たちに対し「気心知れた扇雀さん、そして初めての中車さんと一緒に芝居ができることが楽しみです。熱い熱い魂をもった方ばかりです。その魂に引っぱってもらいながら一生懸命勤めます」と、力強くも明るい声で語った。
中村勘九郎 NHK大河ドラマと並行したスケジュールを労う声も上がった。「W主演の阿部(サダヲ)さんがいるので」と余裕の笑顔。
金丸座は、勘三郎、吉右衛門、藤十郎が、初めて訪れた当時、歴史を伝える建造物として保存されていたものの、通常の劇場としては使われていなかった。見学用の「順路」と書かれた文字を見た勘三郎は、「順路じゃだめだよ。魂を吹き込まなくちゃいけないよ」と言ったという。
七之助は、当時の勘三郎が20代後半だったことに言及し、「普通なら無理じゃないかな? と考えるところを突き進んでいった熱量、パワー」を感じるという。
「吉右衛門のおじさま、藤十郎のおじさまと、3人で楽しかったのでしょうね。光景が目に浮かびます。ただその3人も35年続くとは思っていなかったのではないでしょうか」と続け、「3人の情熱、そして35年間続けてこられた琴平町の皆さまの情熱、諸先輩方の努力やアイデアを肝に銘じ、一生懸命につとめ、楽しい1カ月にできるよう努力したいです」
市川中車は3年ぶり2度目の出演。
「この壇上で、扇雀のお兄さま、中村屋さんのご兄弟お二人と並ばせていただき、あらためて、強く勘三郎さんの存在を感じます。僕が初めて歌舞伎の舞台に立った時、何より勇気づけてくださいました」と中車。
この会見では、安孫子氏もまた「中車さんが歌舞伎界に入る時、中村屋さん(十八世勘三郎)は本当に応援してくださった」と語っていた。
そして中車は、「中村屋さんのご兄弟と、扇雀さんとやらせていただく。勘九郎さんとは、はじめてご一緒させていただきます。『義経千本桜 すし屋』では、勘九郎さんの父親役を勤めます。その立ち位置も含め、勘三郎さんが“命がけでやれ”とおっしゃっているような気がします」「勘三郎さんという大きな存在を感じながら、一日一日を大切に一生懸命やらせていただきます」と意気込み、マイクを握る手にも力がこもっていた。
中村扇雀は、3年ぶり6回目の出演。今年は、初めて長男の虎之介も参加する。
「もしお芝居の神さまがいるなら、今、この劇場に降りてきているのでは? と錯覚するような劇場。下手な部分は目立ち、必死でやればお客様はすごくいい反応をしてくれる」「先人たちはこういう感覚で歌舞伎をつくってきたのでは、と、原点を思い出させてくれる劇場」だと評した。
第二部の「傾城反魂香」で、浮世又平を勤める。「おとくしかやったことがない私が」と自ら少し驚いてみせ、「でも近松門左衛門の作品ですから、と不思議な説得をされました」と笑いを誘った。
また世界の主要都市で歌舞伎公演をし、その土地ごとの代表的な劇場で代表的な舞台を観てきた経験から、「伊勢神宮ではありませんが、金丸座は死ぬまでに一度は絶対に行った方が劇場」と熱く語った。
中村扇雀
距離感と自然の効果音
金丸座の魅力として、登壇者たちが口をそろえたのは「近さ」と「音」。
「お客様の熱い視線がダイレクトに伝わる、キャッチボールしやすい小屋。そこには(演じる側の)恐さもありますが」と勘九郎。かつて『鷺娘』を上演した際、仮花道で海老反りをしたところ、髪がお客さんの上にかかる形となり、大いに沸いたと扇雀はいう。
さらに、劇中で静かになるシーンで、外の音が聞こえてくることも、金丸座の魅力として語られた。たとえば今回上演される『すし屋』では、「権太が腹をつく場面。客席もシーンとなりますが、金丸座だと外にいる虫の声が聞こえてくるかもしれない。舞台の外も効果音」と七之助はいう。
そのコメントを受けて中車は、2016年の『あんまと泥棒』を振り返る。
上演時間中ずっと目をつぶっている、あんま役を演じた際、「4月なので、ウグイスの声が聞こえてくる。それが大向こうさんのように良いタイミングで、ホケキョと鳴くので、分かってるなあ、ウグイスもと思いながら演じました」と振り返り、一同を笑いに包んだ。
こんぴら歌舞伎の思い出
こんぴら歌舞伎の思い出を聞かれ、勘九郎は1987年に上演された『沼津』を振り返る。当時5歳だった勘九郎は、出演の予定はなかったにも関わらず、祖父・十七世勘三郎により、「客席を歩くところで引きずり出されて、ご挨拶をしたのを鮮明に覚えています。それが金丸座との出会いでした」と語る。
「ようやく出演できたのが、第二十五回(2009年)の時で、その時、父とやらせていただいたのが『沼津』でした。何か不思議な感覚に陥りました」
一方で七之助は、こんぴらのイメージは「旅」と回答。
「初めて父と二人でホテルに止まったのもここですし、子どもの頃は芝居を観にいったら、回り舞台でキャッキャッ遊んで、花道で遊んで、スッポンを上げてもらって。旅行先というイメージでした。金丸座の近くにある海の科学館(琴平海洋博物館)にも行き、そしてレオマワールド! 何回通ったか!」
兄弟で遊園地(現・ニューレオマワールド)のシューティング・アトラクションに夢中になり、「100回乗ったのでは?」と七之助がシューティングの構える仕草をしてみせると、「そう! 懐かしい!」と勘九郎も身をのり出した。七之助は「楽しい思い出しかありません。子ども心のご恩をお返しすべく、がんばります」と笑顔をみせる。
勘九郎(中央)のコメント中に、「10年ぶり?!」と驚く扇雀(右)。
扇雀は在りし日の勘三郎と新しい舞台を作る時、「ひろ(扇雀の本名は浩太郎)、これ客席で観たいか?」と、しばしば聞かれたという。
「客席から自分も観たいと思えるなら、いい舞台だと思うと言っていました。そして今年は、もう、客席で観たい演目が並んでいます。配役がそろっています。それに応えられるよう勤めます」
扇雀の言葉に、勘九郎、七之助、中車も深く頷いていた。
『第三十五回 四国こんぴら歌舞伎大芝居』は、2019年4月6日(土)~21日(日)。古典の名作、舞踊に落語ベースの新作歌舞伎と、楽しみやすい演目が並んでいる。開幕前日の5日にはお練りが、千穐楽には「三味線餅つき」が開催される予定だ。
公演情報
日程:2019年年4月6日(土)~21日(日)
場所:旧金毘羅大芝居(金丸座)
演目:
■第一部(午前11時開演)
二 心中月夜星野屋
一 傾城反魂香
二 高杯
三 芝浜革財布